【スピードハイカーに聞いた!】尋常じゃないコースタイムをどうやってたたき出してるの!?

一口に登山と言っても登山スタイルは多岐にわたり、山との向き合い方は人それぞれ。標準のコースタイムよりも速いペースで登山をする『スピードハイク』も山の楽しみ方の1つです。今回は、そんな『スピードハイク』に注目。とんでもない速さのスピードハイカーさんに、速さの秘密や山行で工夫していることを教えてもらいました。あなたの登山に活かせることが、きっと見つかるはず!


アイキャッチ画像提供:ヤマレコ/messiah

登山の楽しみ方の1つ『スピードハイク』

スピードハイク 様々な登山スタイルの中で、あなたはどんな登山が好きですか? ゆっくりと登るのが好きな人、スピードを求める人、長い距離を歩くことを目的とする人など、その楽しみ方は千差万別。

中には、トレイルランニングのように走るわけではないですが、とんでもないスピードで登山を楽しんでいる強者もいるんです。

は、速い… 速すぎる!

ヤマレコのロゴ
登山の記録を共有できるコミュニティサイト「ヤマレコ」の山行記録を見てみると、尋常じゃないスピードで登山をしているスピードハイカーがちらほら。その中でも目を見張る速さのヤマレコユーザーmessiahさんの山行記録を見てみると…

 
 コース 
 タイム 
 標準
 コースタイム 
 標準
 コースタイム比 
白馬岳2:246:1039%
槍ヶ岳3:5510:0039%
 甲武信ヶ岳5:0013:0538%
 荒川三山11:2127:0042%
 南八ヶ岳縦走 5:0613:2538%
なんと標準コースタイムの半分以下、基本的に3割台~4割台で登山をされているんです。

体力と知識を駆使した『スピードハイク』

スピードハイカー
標準コースタイムより格段に速いタイムで登山をする『スピードハイク』。明確な定義はありませんが、装備を軽くし、速く長く歩く「ライト&ファスト」や「ファストパッキング」「ウルトラライトハイク」と通ずるところがあります。

まさに、体力や知識なくしては成し得ない山行。速ければ良いという訳ではないですが、こんなに速く歩くためには何か工夫があるはずです。そこで今回は、スピードハイカーmessiahこと三宅雅也さんに、圧倒的な速さの秘密を聞いてみました。

ただ速いだけじゃない!? 『スピードハイク』の奥義とは?

贅沢な景色
驚異的な速さで山に登る人は、スピードハイクを楽しむ上でどんな工夫をしているのでしょうか。「計画段階」「行動中」「装備面」「体力面」で教えてもらいました。通常の登山でも活かせる工夫が、きっとあるはず!

計画段階での工夫は?

①自身のハイクレベルを正確に把握する
スピードハイク 最も重要なことは“自分の登山レベル、体力を知ること”。無謀なチャレンジは絶対にしてはいけません。

そのためには、山と高原地図に記載されている標準コースタイムと比較し、直近のハイク実績にて、“何割程度で歩けているか”を確認することが良いでしょう。歩行技術は経験により上がりますが、体力は上がることもあれば下がることもあるので、”直近”の実績でみるというのがポイントです。

また、自分が“何時間なら歩き続けられるか”を知り、予期せぬ不調のリスクを加味した立計をすること。山頂での滞在時間や行動食の補給、ウエアの着脱も含めて計算します。

少しずつチャレンジし、徐々にレベルを上げていくことが、安全登山の観点から重要です。

②ポイントごとに目標タイムを記入した地図を用意
登山地図
出典:PIXTA
登山地図はマスター地図の持参に加え、ハイク主要エリア部のみのカラーコピーをとります。マスター地図はザックの中へ、コピー地図には各ポイントごとに目標設定としているタイムを記入し、すぐに取り出せる場所へ。

そうすることで、ハイク中に計画に対しどの程度で歩けているかをすぐに確認することができます。

行動中の工夫は?

①エネルギー摂取&ウォーミングアップ
ウォーミングアップ
出典:PIXTA
通常の登山と同様に朝食をしっかりとり、きちんとウォーミングアップを行います。夜中にスタートするナイトハイクだったとしても、これからエネルギーになる炭水化物をメインに摂取します。

②スタートはゆっくり、徐々にペースアップ
いきなり飛ばすと故障やケガの原因に。また、身体の隅々までエネルギーが行きわたっていないうちにハイペースで歩くと、疲労が早くきてしまいます。

➂トレッキングポールの使用がおすすめ
スピードハイカー
提供:ヤマレコ/messiah
両脚だけへの負担軽減となり、リズムに乗ると“四足歩行”が楽なことを体感できます。

④とにかく疲れないペースで歩くこと
疲労を感じて休憩を取ると、ハイク開始直後は楽ですが、それもほんの束の間、休憩前より脚が重い…なんて経験をしたことはありませんか?

一般的にはこまめな休憩をとることとされていますが、休憩後のリカバリに余分な筋力と体力を必要とし、せっかく筋細胞に届けた酸素をまた届けなくてはいけなくなるため、効率が悪い面もあります。これを繰り返しては非効率なため、「休憩を取らなくても良いペース」で歩き続けています。

山頂ビール
提供:ヤマレコ/messiah
ただし、それは”十分な基礎体力”と”自分の体力・筋力を把握し、自身のイーブンペースを理解していること”が大前提。初めのうちは中々つかめないため、「とにかく疲れないペースで歩くこと」を意識すると良いでしょう。

登りの失速、後半の失速は意外に大きいもの。いつもよりゆっくりを意識して歩いたら、いつもより早く山頂に到着した!なんてこともあるんです。

ちなみに、疲労による休憩はしませんが、景勝地や小屋などのポイントに到着した際は、そこでの風景や会話を楽しむための時間はとります。

⑤行動食や水分の摂取は小まめに
ナッツ
出典:PIXTA
行動食と水分は少量ずつ小まめにとります。ただし、都度ザックを下して座っていたら、前述の休憩同様に非効率。飴やチョコ、ナッツ等をすぐに取り出せる場所に入れておき、数秒程度の立ち止まりで口に放り込んだら、また歩き出します。

ナッツなどでエネルギー不足を補えないと感じた場合は、そうなる前におにぎりなどの炭水化物をメインに摂取。パワージェル系は即効性があるので、エネルギー補給におすすめです。

水
出典:PIXTA
登山中は、ナトリウムやマグネシウムの不足が脚のつりを誘発することがあるので、水分はスポーツ飲料をとり、お茶などを飲みたい場合も必ず交互に摂取。塩飴などを積極的に摂取するのもの◎です。足攣り対策・予防には漢方薬の「芍薬甘草湯」も有効とされています。

 

足のこむら返りや、手指の攣(つ)った状態に芍薬甘草湯は短時間で効果を発揮します。なんと効果発現時間で平均6分と言われています。効果持続時間は、4~6時間。ジョギングやハイキングやトレッキングに行かれる方は、是非に1包常備して頂くと宜しいかと思います。無論水分補給や塩分などミネラルの補給をこまめにしておくことは前提条件であることはあたりまえのことですが。

⑥漫然と歩かず、疲れない歩き方を見つけること
登山者の足元

出典:PIXTA
歩き方のコツは、大きく分けて4つあります。

・太もも裏と臀部(おしり)の筋肉を意識
ふくらはぎの様な小さい筋肉を使い過ぎるとすぐに疲弊するためです。また、太ももの前面ばかり使うと、大腿四頭筋の外側広筋や‎内側広筋の痙攣などを引き起こすこともあるので、なるべく、臀部~太もも裏(ハムストリング)を意識し登ります。

・足の置き方
足への衝撃は蓄積疲労となりますので、“ドンドン”ではなく、“ポンポン”と静かに足を置くのがおすすめ。

・細かく刻んで登る
筋力が備わっていないうちは、大きな脚上げは避け、細かく刻んで登るのが◎。筋力が伴ってきたら、徐々に脚上げを大きくしていきます。

・下りではフォアフット
下山時は、つま先から先に置く“フォアフット”という歩き方ができると、膝への負担が少なく、かつ後ろ方向へのスリップが防げるので安定します。

ただし、ハイカットの登山靴では足首が固定されるため、足裏全体を地面につく“フラットフッティング”での着地になりますが、それでもかかと着地より随分と安定します。

続いて、「装備」と「体力面」での工夫をご紹介!


装備の工夫は?

①歩行技術ありきでトレランシューズ
トレランシューズ 厳冬期や積雪期でない限り、どんな大縦走でもトレランシューズです。軽さというメリットの反面、足を守ってくれなくなるため、歩行技術が求められます。そのため、誰にでもおすすめできるものではありませんが、基本的には<La Sportiva>など”山岳ギアメーカー”のシューズがおすすめです。

ランニング系を得意とするメーカーなどは、トレイルを走る設計ですが、実際に履き比べたところ、日本アルプスのような山岳地帯(特に岩場やガレ場)を想定していないという印象。トレイルランに特化した使い方が適していると思われます。

②ウエアは基本薄着
スピードハイク服装 暑がりで耐寒が強いこともあり基本は薄着。運動量の多いスピードハイクは発汗量も多く、過度な発汗は体力消耗に繋がります。

下は絶対に短めの短パン+生脚です。脚上げが大きいため、ロングパンツや膝丈の短パンだと、太ももや膝に引っ掛かる事が負荷になるためです。ただし、ケガや傷のリスクになりますので推奨はしません。

自身で良かったと思うことは、最初は岩にぶつけたり、枝に擦れたりと傷を作っていましたが、長年やっていると、歩き方が非常にきれいになり、擦り傷を作ることも岩にぶつけることもなくなりました。これは、歩行技術のレベルアップだと考えています。

➂命を繋ぐギアに特化すること
vivy
荷物は軽い方が当然楽です。でも一般的には「有事の際大丈夫か?」と不安が大きくなります。快適性や利便性など要らない、万が一の時に生き延びられるギアを厳選することが重要です。

つまりは、何を持っていったら、過不足無く命を繋げられるか。ハイクの数をこなし、経験を積んで、徐々に自身のウルトラライトスタイルは完成していくものです。

”あったら便利”のようなザックの肥やしになっているものから見直し、ハイク実績と経験を通して、不要なギアの見極めを行い徐々に軽量化しましょう。

 
 日帰りスピードハイク時の装備(三宅さん)
【マストギア】
 ファーストエイドキット
 ツェルト(ストックシェルター)
 SOL Escape Lite Vivi
 レインウエア上下
 薄手ダウンジャケット
 ヘッドライト(2個+予備電池)
 モバイルバッテリー
 エピペン(アナフィラキシーショック用)
 ポイズンリムーバー
【都度変わる内容】
 行動食
 昼食
 飲料水(スポーツ飲料+塩分補給系+水)1.5L 
 ピッケル+チェーンスパイク(残雪期アルプス)
 

バックパック ザックは時期や山の大きさによって変え、日帰りでは、15L(夏山アルプス)か25L(残雪期アルプス)のものを使用。いずれもトレラン向けのフレームレスの軽量なものです。

上記のほかに、同行者や周りのハイカーの有事に助けられる様、救助に活用できる”簡易ハーネス”と”シュリンゲ”を持参しています。

体力面での工夫は?

①下山後はクールダウン
スポーツ整体
出典:PIXTA
通常の登山同様に、下山後はストレッチなどのクールダウン及び、早めの炭水化物摂取を心がけています。また、早めに入浴しマッサージを行っています。それでも蓄積疲労が残ったり、腸脛靭帯炎が発生したりするため、時々スポーツ整体にてケアを行います。

②日々のトレーニング
トレッドミル
出典:PIXTA
週末だけのハイクでは、とても体力向上などできません。日々のトレーニングが非常に重要で、ほぼこの内容がハイクの成果として現れます。

取り組み易くてものすごく効果があるトレーニングとしては、トレッドミルにて15%の傾斜で時速5kmで歩き続けること。特に膝を痛めている方は、登りは膝に優しく痛みが出ないうえ、体力もものすごくつきますのでおすすめです。最初は30分でもキツく、汗だくになりますよ!

平日の頑張りによって、週末ハイク時に「楽々~♪」となれば、“地獄の登り”におさらば、本当の意味で楽しいハイクが待っています!

『スピードハイク』の最大の魅力は?

モルゲンロート 『スピードハイク』の最大の楽しさやメリットは、通常、何泊も掛けなければ踏み込めない山・山域に、日帰りで行けてしまうことです。「日帰りなんてもったいない」という考えも当然ありますが、3連休で全日晴れという好機もなかなかないため、日帰りも選択肢に入れられれば、自由度は格段にアップします。

また、人とタイムや速さを競うのではなく、「自分にとっての山旅を楽しむこと」が何より重要なテーマだと思っています。

『スピードハイク』には、登山でも役立つ緻密な工夫があった!

スピードハイク とんでもない速さのコースタイムをたたき出している影には、これまでの経験や知識、日々のトレーニングの積み重ねがありました。計画の立て方や、装備の選び方、登山中の行動の仕方など、どれをとってもリスクをきちんと考えた上での細やかな工夫が張り巡らされていました。それは通常の登山でも重要なことばかり。自分の登山スタイルに取り入れられる部分は、ぜひ参考にしてみてください。

教えてくれた人

三宅さん
三宅 雅也 (長野県自然保護レンジャー、山岳ライター)

ヤマレコ|messiah


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スピードハイク
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YAMA HACK編集部
YAMA HACK編集部

YAMA HACK運営&記事編集担当。登山をきっかけに自然の力に魅了される。山で飲むコーヒーが大好き。何かあれば必ず山に行き、心身共に整える。山について新しい視点を与えられるような記事作りを心がけて日々執筆活動を行う。

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