アイキャッチ画像撮影:鷲尾 太輔
低山登山を楽しむコツは「手軽さ」と「+αの魅力」

そもそも「低山」といっても、その解釈はさまざま。ただ、初心者が無理なく歩くことができる山としては、標高1000m未満で、歩行時間が1日4時間以内の山やコースが無難といえるでしょう。
せっかくの休日で手軽に楽しむつもりが、高い山ならではの険しい地形や急な天候変化で危険にさらされたり、長時間の行動でヘトヘトになってしてしまっては元も子もありません。
低山登山をより快適に楽しむためにおさえておきたいのが、以下の2つのポイントです。
「安・近・短」で手軽に行ける!

低山へ行くために、長距離・長時間の運転や、煩雑な公共交通機関の乗り換えでエネルギーを消耗してしまうと、休日の満足感より疲労感が上回ることにもなりかねません。
自宅から短時間でアクセスできる山や、登山口の近くに駐車場や鉄道駅、バス停などの交通インフラが整っている山を選ぶのがおすすめです。
登山以外の「お楽しみポイント」も満喫できる!

その低山がいかに楽しく魅力的であっても、富士山のような大きな山と比べると、「登った」という達成感はやや控えめ。また、天候によって景色が見えなかったり、花の咲き具合や紅葉の色づきなど自然の状況に左右されることもあります。
そこで重要になるのが「山を歩くこと」に加えて楽しめる「+αの魅力」です。温泉やグルメ、パワースポット、近くの観光エリアなどの「お楽しみポイント」と組み合わせれば、充実した休日を過ごすという目的をしっかりと達成できるでしょう。
低山とはいえ、山に入る前には最低限の準備をしておくことが大切です。持ち物や服装など、事前にチェックしておきたいポイントはこちら
首都圏近郊でおすすめの低山登山10選
それでは首都圏近郊で充実した低山登山を楽しむことができる山を紹介します。アクセスが良く、登山以外にも楽しめるポイントがある山を厳選しました。ぜひ気になる低山を見つけてみてください。
山名 | 所在地 | 標高 | 山の特徴と魅力 | お楽しみポイント |
---|---|---|---|---|
筑波山 | 茨城県 | 877m | 関東平野を一望するいわずと知れた日本百名山 | パワースポット・グルメ・温泉 |
両崖山 | 栃木県 | 251m | 縁結びの神社から足利市街を見下ろす絶景へ | パワースポット・史跡 |
神成山 | 群馬県 | 320m | 日本一きれいなハイキングコースで縦走にチャレンジ | 史跡・世界文化遺産・グルメ |
宝登山 | 埼玉県 | 497m | 壮麗な神社を抱く霊山はロープウェイでも登頂可能 | パワースポット・グルメ・アクティビティ |
日和田山 | 埼玉県 | 305m | スリリングな岩場と眼下に広がる巾着田の絶景 | パワースポット・花・アクティビティ |
御岳山 | 東京都 | 929m | 苔むした渓谷に涼を感じる霊山へケーブルカーで | パワースポット・ペットと登山・グルメ |
八王子山 | 山梨県 | 640m | 甲府市街から至近ながら富士山・南アルプスの大パノラマ | パワースポット・グルメ・温泉 |
鋸山 | 千葉県 | 329m | 古代神殿のような石切場跡と東京湾の眺望 | パワースポット・史跡・グルメ |
弘法山 | 神奈川県 | 235m | 山ごはんデビューにもぴったりの“街に近い山” | アウトドアクッキング・パワースポット・温泉 |
大楠山 | 神奈川県 | 241m | 東京湾・相模湾の絶景が広がる三浦半島の展望峰 | 絶景スポット・グルメ |
筑波山|関東平野を一望するいわずと知れた日本百名山

作家・随筆家の深田久弥が著した『日本百名山』には、北海道から九州までの100の山々での思い出が記されており、これらの山を制覇することを目標にしている登山愛好家も多数。しかし、その多くは標高や難易度の高い本格的な山です。
そんな日本百名山の中で最も標高が低いのが、筑波山(877m)。様々な登山コースがありますが、おすすめは、東側中腹のつつじが丘から比較的なだらかな登山道が続く「おたつ石コース」を通り、弁慶七戻り・出船入船などの奇岩・怪石が点在する「白雲橋コース」に合流して山頂を目指すルート。
山頂直下からは筑波山ロープウェイでつつじが丘まで戻ることができ、低山登山にぴったりのルート設定が可能です。

山頂から南方向には、のどかな田園地帯が広がる関東平野を一望でき、空気が澄んでいれば遠くに富士山の姿を望むこともできます。東方向に目を転じれば、茨城県のシンボルであり日本で2番目に大きな湖・霞ヶ浦の水面が広がります。
春にはカタクリやニリンソウなどの山野草、秋には色鮮やかな紅葉など、季節を問わず楽しめるのも筑波山の魅力。南斜面全域が筑波山神社のご神域として保護されてきたことから、豊かな自然を手軽に満喫できます。
お楽しみポイント|パワースポット・グルメ・温泉

前述の白雲橋コースの奇岩・怪石めぐりに加えて、筑波山ならではのお楽しみが「パワースポットめぐり」です。
男体山(871m)・女体山(877m)のそれぞれの山頂には、日本神話の祖である伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冊尊(イザナミノミコト)を祀る筑波山神社御本殿があります。さらに、山中にはその子神である天照大神(アマテラスオオミカミ)を祀る稲村神社や、素箋鳴尊(スサノオノミコト)を祀る屏風岩などが点在しています。
また、山頂周辺の茶屋では「つ(つくね)」「く(ゴボウやシイタケなどの黒い野菜)」「ば(バラ肉)」などの具材に、地産小麦・レンコンパウダーを使った麺を合わせたご当地名物「つくばうどん」が楽しめます。
下山後は、つつじが丘にある筑波山京成ホテルや、山麓の筑波山神社拝殿周辺の旅館で、「筑波山温泉郷」の日帰り入浴を利用するのもおすすめ。さっぱりと汗を流して、気持ちよく帰路に就くことができます。
筑波山のおすすめ登山コース

両崖山|縁結びの神社から足利市街を見下ろす絶景へ

室町幕府を開いた足利氏の発祥の地、栃木県足利市。前九年の役・後三年の役など奥州東征で活躍した平安時代の武士・源義家の孫にあたる足利義康がこの地を治めたのがルーツで、室町幕府初代将軍・足利尊氏は八代目にあたります。
そんな古い歴史を持ち、「東の小京都」とも称される足利市を見下ろすように連なる山々のひとつが、両崖山(りょうがいさん・251m)です。山自体が平安時代から戦国時代まで存在した足利城址であり、山中には堀切などの遺構も残されています。現在は御嶽神社となっている山頂が本丸跡です。

両崖山から西へ足を延ばした天狗山(258m)付近の稜線は岩場になっており、適度なスリルを味わいながら、両崖山や足利市内を眺望することができます。さらに、南の稜線上にはかわら山(202m)・つる山(202m)・須永山(154m)・観音山(122m)が連なり、これらを経て足利市街へ下山する周回コースがおすすめです。
また、この稜線に並行する両崖山や明石山(161m)・鏡山(160m)の西斜面には、西渓園梅林が広がっており、例年2月下旬から3月中旬にかけて、約1200本の紅白梅が山肌を彩ります。
お楽しみポイント|パワースポット・史跡

両崖山の登山口に位置するのが、足利の名産・機織物にゆかりのある神様を祀る織姫(おりひめ)神社。織師・天御鉾命(アメノミホコノミコト)と織女・天八千々姫命(アメノヤチチヒメノミコト)が祀られており、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が織りあって機織物になることから、縁結びのパワースポットとしても人気です。
また市内には、室町時代に3000人の生徒が学び、フランシスコ・ザビエルによって海外にも紹介された足利学校や、足利七福神をはじめとする数多くの寺社仏閣が点在。登山の前後に立ち寄って、足利の歴史と文化をじっくり楽しむのもおすすめです。
両崖山のおすすめ登山コース

コース概要
織姫神社前(10分)→織姫神社(25分)→鏡山(45分)→両崖山(35分)→天狗山(60分)→常念寺登山口(10分)→織姫神社前
神成山|日本一きれいなハイキングコースで縦走にチャレンジ

様々な登山スタイルの中でも、複数の山々をつないで稜線を踏破する「縦走」は、高い達成感を得られることから人気があります。そんな縦走を低山で体験できるのが、群馬県富岡市南部に位置する神成山(かんなりやま・320m)をはじめとする山々。これらを総称して、富岡アルプスとも呼ばれています。
東から順に、第1ピーク(神成城物見台・280m)、第2ピーク(神成山=別名・竜王山・320m)、第3〜第8ピーク、第9ピーク(吾妻山・320)と、計9つの山々が連なっています。
かつてこの一帯には戦国時代の山城・神成城が築かれており、神成城物見台や神成山は文字通り、周囲を監視する見張り場所でした。

早春のオキナグサに始まり、春のツツジやスミレ、新緑、そして秋の紅葉まで、四季折々の自然を楽しめる神成山。しかし、最大の魅力は、「日本一きれいなハイキングコース」を目指したゴミ拾いや登山道整備、案内板設置など、地元の人に愛される山であるという点でしょう。
山中には、神成山周辺の動植物の標本を展示した小さな博物館や、四季の写真集を収めた小さな図書館が。さらに、見晴らしの良い場所には山カフェ ドロームと名付けられた東屋とベンチ・テーブルがあり、「おいしい空気¥0 ・いい景色¥0 ・のみもの持込¥0」の粋な看板も設置されています。
お楽しみポイント|史跡・世界文化遺産・グルメ

富岡市を代表する文化財といえば、2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された富岡製糸場。貿易港・横浜に近く、養蚕が盛んだったこの地に建設された壮麗な建築は、明治時代の日本の近代化の象徴ともいえます。
また、神成山のすぐ南に隣接しているのが群馬県下仁田町。「道の駅しもにた」をはじめ、町内では名産の下仁田ねぎやこんにゃくの土産物やグルメを楽しめ、五感で群馬の魅力を堪能できます。
神成山のおすすめ登山コース

コース概要
上信電鉄・神農原駅(20分)→宮崎公園(10分)→神成山入口(20分)→神成城物見台分岐(3分)→神成城物見台(2分)→神成城物見台分岐(5分)→宇芸神社分岐(10分)→神成山(50分)→吾妻山(15分)→神成山 西登山口(15分)→下仁田4号橋梁(10分)→上信電鉄・南蛇井駅
宝登山|壮麗な神社を抱く霊山はロープウェイでも登頂可能

寶登山神社の奥宮が鎮座する、宝登山(ほどさん・497m)。東斜面をジグザグに登るハイキングコースは、歩きやすく整備された林道となっており、はじめての低山登山にぴったり。並行して宝登山ロープウェイも架けられているので、登り・下りのどちらか(あるいは往復)で利用してもよいでしょう。
山頂からは、秩父地方のシンボル・武甲山や、ギザギザとした稜線が印象的な日本百名山・両神山の姿を一望。また、山頂直下には梅園があり、特に1月下旬〜2月下旬には、関東有数の約3,000本ものロウバイが咲き誇る風景を楽しめます。
お楽しみポイント|パワースポット・グルメ・アクティビティ

宝登山山麓にある寶登山神社は、三峯神社、秩父神社と並び、秩父三社にのひとつに数えられています。
日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が山中で火事に遭った際に現れて火を消し止め、山頂へ導いたのが山犬たち。この山犬を使者とする山の神様・大山祇神(オオヤマヅミノカミ)と、神日本磐余彦尊(カンヤマトイワレヒコノミコト・神武天皇)、火の神・火産霊神(ホムスビノカミ)を祀る由緒ある神社です。
こうした伝承から、火難除けをはじめとする諸難除けの祈願に訪れる参拝客は年間100万人以上。吉祥寳守(きっしょうたからもり)という真っ黒なお守りや、お犬様の姿を描いたお守りが人気です。秩父周辺の神社に鎮座する狛犬にもこの伝承が息づいており、山犬(狼)を模した尖った耳と鼻の姿が多く見られます。

宝登山を訪れたら、ぜひ立ち寄りたいのが、天然氷のかき氷で知られる「阿佐美冷蔵」です。秩父の清らかな伏流水を凍らせた氷を使用し、氷のプロならではのふわりとした口あたりと自家製シロップが調和する逸品。本店や寶登山道店には、その味を求めて長い行列ができるほどの人気ぶりです。
また、長瀞駅の東を流れる荒川では、江戸時代に材木を運んだ「いかだ流し」をルーツとする「長瀞ライン下り」や、アウトドアブランド・モンベルが運営する「モンベル・アウトドア・チャレンジ」のラフティングなど、多彩なアクティビティも楽しめます。
宝登山のおすすめ登山コース

コース概要
宝登山神社(70分)→宝登山頂レストハウス(5分)→宝登山山頂駅(10分)→宝登山(5分)→宝登山山頂駅(5分)→宝登山頂レストハウス(45分)→宝登山神社
日和田山|スリリングな岩場と眼下に広がる巾着田の絶景

池袋駅から西武池袋線特急で約40〜45分とアクセスのよい埼玉県飯能市周辺は、低山登山にぴったりの魅力的な山が盛りだくさん。
その中で今回紹介するのは、お隣りの日高市に位置し、飯能駅から西武秩父線で2駅の高麗(こま)駅から徒歩20分ほどで登山口にアクセスできる日和田山(ひわださん)です。
一の鳥居から山頂直下の金刀比羅神社までは、男坂・女坂の2つのコースがありますが、登りは男坂にチャレンジしてみましょう。鎖やハシゴこそありませんが、手で岩を掴みながら進む必要もあるやや急な岩場の登山道となっており、適度なスリルを味わいながら登ることが可能です。

男坂と女坂が合流する場所には二の鳥居と金刀比羅神社の社殿があり、眼下には高麗川が蛇行して流れることによってできた巾着田を望むことができます。さらに、飯能・奥多摩の山々、条件が良ければ富士山までを見渡せる絶景スポットです。
金刀比羅神社前と、宝篋院塔が安置された日和田山の山頂は東側が開けているため、毎年元旦には初日の出を鑑賞する登山者で賑わいます。下山時は岩場がなく傾斜もゆるやかな女坂を通行するようにしましょう。
お楽しみポイント|パワースポット・花・アクティビティ

日和田山から見下ろす巾着田を囲む森は、約500万本もの曼珠沙華(彼岸花)の群生する関東屈指の名所。例年9月中旬~10月上旬には見頃を迎え、「曼殊沙華まつり」が開催されます。巾着田も春は菜の花、秋はコスモスが日和田山を背景に咲き誇り、四季折々の花々が訪れる人を楽しませてくれます。
また、周囲の高麗川の河原ではバーベキュー(直火禁止・有料期間あり)や川遊びを楽しめる、アウトドアアクティビティーにぴったりのスポットです。
日和田山登山口近くの高麗神社は、創建1300年を誇るパワースポットで、とりわけ春の枝垂桜が見事。参拝した政治家のうち6人が総理大臣になったという、仕事運向上や事業繁栄にご利益がある神社です。
日和田山のおすすめ登山コース

技術的難易度:★★★☆☆
・ハシゴ、くさり場、雪渓、渡渉箇所のいずれかがある
・転んだ場合に転落・滑落事故につながる箇所がある
・ハシゴ、くさり場を通過できる身体能力が必要
・地図読み能力が必要
凡例:グレーディング表
コース概要
日和田山登山口(15分)→男坂・女坂分岐→(男坂・25分)→金刀比羅神社(10分)→日和田山(5分)→刀比羅神社(女坂・15分)→男坂・女坂分岐(10分)→日和田山登山口