ザックを使用した簡易担架での搬送方法

警視庁警備部災害対策課の公式Xで紹介されているのは、写真のように6名が片手でザックのショルダーハーネスを持つ搬送方法です。搬送に携わることができる人数次第では、この方法でもOKです。
ただし今回は救助・搬送などに慣れていない人が、山の中で実践してもより安定して搬送できるよう、7名が両手でザックのショルダーハーネスを持つ搬送方法を実践します。
6人はショルダーハーネスを、1人はグラブループを持つ

まずは3つのザックのショルダーハーネス左右計6本を、搬送者6名が持ちます。もう1名の搬送者は上のザックのグラブループを持ちます。
人間は頭部や内臓が集中している上半身の方が重いので、腕力がある人が上側・中央のザックを持った方が、あまり腕力がない搬送者の負担が低減されます。
また傷病者が傾かないよう、上・中央・下側のそれぞれのザック左右には身長差が少ない搬送者を配置するとよいでしょう。
両腕・背中を伸ばした状態の片膝立ちから、7人同時に立ち上がる
両腕と背中はしっかり伸ばし、片膝立ちの姿勢になります。両腕や背中が曲がった状態で立ち上がると、搬送者が腰を痛めてしまう原因になるからです。全員がこの姿勢を取ったら「せーの」など号令をかけて同時に立ち上がります。

傷病者の足側を進行方向に、掛け声に合わせて7人同時に踏み出す
立ち上がって簡易担架を持ち上げたら、傷病者の足を先頭に進みます。進行方向正面を向いている上のザックのグラブループを持った搬送者は、前方の状況などを全員に伝えたり、障害物があれば進路を変えるように指示を出したりしてください。
左右6名の搬送者は、歩く際にお互いの足を踏まないよう注意が必要です。全員が前側の足と後側の足を同時に次の一歩を踏み出せるよう「いち・に」 「前・後」のように声を掛け合いながら、なるべく簡易担架を揺らしたり傾けたりしないように進みましょう。
両腕・背中を伸ばした状態で片膝立ちになって降ろす。頭は最後に接地させる

簡易担架を降ろす時も、搬送者は両腕と背中はしっかり伸ばしたまま、ゆっくりと片膝立ちになって腰を落としてください。上のザックのグラブループを持った搬送者は、傷病者の身体がしっかり接地してから最後にゆっくりと頭を接地させます。
撮影:鷲尾 太輔
この動画のように7名であれば、傷病者が大柄であってもかなりスムーズに搬送することが可能です。
「あれ、思っていたより軽い!?」というのが、持ち上げた瞬間の感想です。簡易担架ながら安定感があり、7人いたこともあって、かなり大柄の男性でもスッと持ち上がりました。搬送前にザックに乗せることの方が困難かもしれません。
とはいっても、進むに連れて、ずっしりとした重さを腕に感じるようになってきます。整地されたゆるい傾斜の場所でも歩きにくかったので、不整地で安全に搬送するには、声を掛け合ってうまく連携する必要があるなと感じました。
搬送される側は、ハンモックに寝ているような乗り心地です。
一般登山者が積極的に使うものではないと思いますが、どうしても傷病者を移動させなければならない状況では、有用なのではないでしょうか。
より少人数のときは? ザックを使った背負い搬送方法

撮影:鷲尾 太輔(ザック1つでの搬送方法も)
グループの人数や周囲で協力可能な登山者の有無によっては、ザック3個と搬送者6〜7名を確保できないことも多いものです。こうした場合に実施するのが、ザック1個を使った搬送方法。基本的には1人の搬送者が1人の傷病者を背負う形式で、ザックなしの状態よりは安定して搬送できます。また、搬送をサポートする人があと1〜2名いるとさらに安心です。
中身を抜いたザックを逆さにし、ショルダーハーネスに傷病者の両足を通す
中身を抜いたザックを用意。ザックの容量は先ほどの3個パターンよりさらに大きめの50L以上のタイプを使用すると安定感が増します。

まずは上下逆さまにしたザックに傷病者を座らせて、ショルダーハーネス2本を両足の付け根に通します。ザックを上下逆さまにすることで、傷病者の足に食い込むショルダーハーネスが太くなり、圧迫感が低減されるのです。
傷病者が動けない場合や意識がない場合は、数名で協力しながらショルダーハーネスを両足に通してザックを身体の下に敷き込みましょう。
傷病者の足を通しているショルダーハーネスに、搬送者も両腕を通す

搬送をサポートする人(写真では2名)は傷病者の上体を起こして、搬送者はザックを背負うのと同様にショルダーハーネス2本へ両腕を通します。
ザックを上下逆さまにすることで、搬送者の肩に食い込むショルダーハーネスは細くなります。搬送者の肩への負荷を低減させるために、折り畳んだタオルなどクッションの役割を果たすものをショルダーハーネスの下に挟んでもよいでしょう。
体勢を整えてゆっくりと立ち上がる。サポートできる人がいる場合は、傷病者の上体を支える

搬送をサポートする人は、搬送者がバランスを崩した際などに備えて、傷病者の上体をしっかり支えておきます。そして搬送者が立ち上がります。しかし……今回は搬送者が小柄な女性編集部員だったため、写真の状態から立ち上がることができませんでした。
こうしたことからも、この搬送方法は搬送者と傷病者にそれなりの体格差がないと難しいといえるでしょう。小柄な搬送者が大柄な傷病者を背負うために無理して立ちあがろうとすると、肩や腰を痛めてしまうだけでなく、ひっくり返って傷病者を落としてしまう可能性もあります。

そこでこの方法での搬送経験が長く、先ほどの女性編集部員よりは大柄な筆者が搬送者を務めることに。結果として立ち上がることができました。

こちらがザックによる背負い搬送です。今回はひとりで背負っていますが、登山道の状況や傷病者の状態次第では危険。サポートする人もは搬送中も一緒に行動して傷病者を左右から支えることで、搬送者の転倒などに備えてください。
傷病者の足が通っている状態のショルダーハーネスは想像よりも背負いにくく、バランスを取ることができませんでした。うまく足に力を入れられなくなり、立ち上がることもできず……。力の抜けた状態の傷病者を背負うことの難しさを体感しました。
背負われるときは、ただ負ぶさるよりも、ザックを使って背負われた方が身体がラクでした。簡易担架同様に、時間が経つに連れて、搬送者も傷病者もショルダーハーネスの食い込みによる負担は大きくなっていきます。
二重遭難を誘発する無理な搬送は避けよう

今回紹介したザックを使用した簡易担架での搬送が可能なのは、比較的平坦で安全な登山道に限られます。急傾斜や切り立った登山道で傷病者を落下させてしまうのはもってのほかですが、搬送者も転倒・滑落などで負傷してしまう「二重遭難」は絶対に避けねばなりません。
搬送者の体力的にも長距離・長時間の搬送を続けることは困難です。登山においては短距離かつ安定した区間で、傷病者を搬送することに冒頭のようなメリットがある場合に限って実践してください。また日常生活における事故や災害時などに、むしろこの知識が役立てば幸いです。
