厳しい環境下で美しく咲く高山植物の女王「コマクサ」。キレイなだけじゃないユニークなその実態とは?

2022/01/07 更新

「高山植物の女王」として多くの登山者を魅了するコマクサ。厳しい環境に生きる孤高の高山植物、コマクサはとてもユニークな植物です。今回は、そんなコマクサの知られざる生態と、コマクサの名所をご紹介します。

制作者

ライター・フォトグラファー

なかさく

大学時代にタイの山を駆け回って熱帯林を研究し、その後理科(生物)の教員に。現在はライター・フォトグラファーとして活動中。生きものが好きで、ゆるいものからかたいものまで、書いたり撮ったりしています。アウトドアはまだまだ初心者。勉強中です。

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アイキャッチ画像出典:PIXTA

コマクサってどんな植物?

高山の砂礫に花を咲かせるコマクサ
出典:PIXTA(高山の砂礫に花を咲かせるコマクサ)
コマクサはケシ科コマクサ属に分類される植物で、高山帯の砂礫に生息します。コマクサ属は世界におよそ20種が知られていますが、日本で自生するコマクサは1種のみ。厳しい環境下で美しい花を咲かせるコマクサは「高山植物の女王」ともよばれ、多くの登山者の憧れでもあります。

コマクサの草丈は5cm~10cmほど。地面にこんもりとかたまり状になって葉を広げています。葉は細かく切れ込んでいてモサモサとしており、パセリのようなイメージが近いかもしれません。
コマクサの葉には水をはじく性質もあり、独特の形状をした葉の部分で空気中の水分を集めて水滴をつくり、根元を潤すようになっています。

出典:PIXTA(水滴がついたコマクサ)
漢字で「駒草」と書くコマクサ。これは、コマクサの花が馬(駒)の顔に形がよく似ていることに由来します。地域によって違いがありますが、コマクサの花期はおおむね7月~8月ごろ。葉っぱのかたまりからすっとのびた花茎は最大で15cmほどになり、その先端に長さ2cmほどの花が1個~数個咲きます。
花弁は4枚、色は赤色~ピンク色で先端部分が白色。4枚の花弁のうち外側の2枚は先の方が反り返り、内側の2枚は中央に長くのびています。

コマクサの花
出典:PIXTA(コマクサの花)
地上に出ている部分は5cm~10cmほどのコマクサですが、風雪の影響を受けて常に不安定、かつ栄養分も乏しい砂礫地に生育するため、地中にはった根は2m~3mにもなるそうです。

コマクサが生育する高山帯の砂礫地は、他の高山植物にとっても生育が困難な環境。コマクサがこのような場所を自らの生育地に選んでいるのは、他の植物との競争を避けるためといわれています。
言い換えると、コマクサはそういった“競争”にとても弱い存在である、ということでもあります。

一部の地域では絶滅したコマクサ

ケシ科の植物であることから気がついた方もいるかもしれませんが、コマクサは実は有毒植物でもあります。成分としてプロトピンなどのアルカノイド(窒素を含んだ天然の有機塩基類)を含んでいて、多量に摂取すると呼吸不全などに陥ることも。

上手に使えば麻酔や鎮痛などに効果があるため、かつては薬草としても利用されてきました。しかし、「薬草」として明治~大正にかけて乱獲され、中央アルプスや南アルプスにおいては昭和初期にコマクサが絶滅。これらの地域で現在みられるコマクサは、絶滅後に人の手によって他地域から持ち込まれたものです。

大雪山国立公園のコマクサ平
出典:PIXTA(大雪山国立公園のコマクサ平)
薬草として乱獲されることはなくなったコマクサですが、コマクサを取り巻く環境は残念ながら今も安心できるものではありません。
美しい花を咲かせる孤高の高山植物として人気の高いコマクサ。コマクサが自生するエリアには保護のために柵が設けられていたりロープが張られていたりすることも多いですが、柵やロープを越えて侵入し、踏みつけてダメージを与えてしまう“踏み荒らし”などが度々問題となっています。

コマクサが暮らすのは、気温が低く栄養分も非常に乏しい高山の砂礫。そのためコマクサの生育スピードは非常に遅く、芽が出てから花が咲くまでに数年かかるといわれています。
ただでさえ厳しい環境下で暮らしているわけですから、踏みつけなどによるダメージは極めて大きく、回復できない場合もあります。

新発見!コマクサとアリの関係



コマクサには近年面白い発見も。
コマクサは高山の砂礫に点在して生育しています。当然ながら何らかの方法でコマクサの種子が運ばれ、そこで芽を出し大きくなっているわけですが、どのようにしてコマクサの種子が運ばれるか、長い間はっきりとしたことはわからない状態が続いていました。

乗鞍岳とコマクサ
出典:PIXTA(乗鞍岳のコマクサ)
2013年、北アルプスの乗鞍岳において、高山に生息するクロネタカヤマアリがコマクサの種子を運搬する様子がはじめて観察されました。
コマクサの種子にはエライオソームとよばれる物質が付着しています。エライオソームはアリを誘引する物質としてスミレなど他の植物でも広く知られていました。アリはエライオソームが付着した種子を巣に運び、エライオソームだけを食べて種子を捨てます。つまり、エライオソームでアリを引き寄せ、種子を運んでもらっているわけです。

このことから、コマクサについてもアリとの関係性が考えられてきました。しかし、実際に種子を運ぶ姿はこれまで観察されたことがなく、私たちはようやくコマクサの種子の“運び手”の存在を確認することができたのです。

限られた山々でしか見ることのできないコマクサ

コマクサは氷河期に大陸から日本に渡ってきたと考えられています。氷河期、氷床が発達して海面が下がった結果、日本の一部は大陸と陸続きになりました。このとき日本にやってきたコマクサですが、氷河期が終わって暖かくなっていくとともに生育場所は縮小していき、現在では一部の高山にのみその姿を残します。
日本で分布するのは中部以北~北海道の高山帯の一部と、限られた山々でしか見ることのできないコマクサ。ここでは日本のコマクサの名所をいくつかご紹介します。

北海道大雪山のコマクサ平

赤岳第三雪渓上から見たコマクサ平
出典:PIXTA(赤岳第三雪渓上から見たコマクサ平)
北海道中央部に位置する山塊で、主峰の旭岳はじめ、黒岳、赤岳など20以上の山々からなる大雪山。 コマクサ平はその赤岳(2,078m)に続く登山道の途中にあり、大雪山でも有数のコマクサの名所として知られています。コマクサの開花時期は7月~8月ごろ。標高1,500mまで車でアクセスでき、登山道も整備されているので登りやすく、初級者の方にもおすすめ。
コマクサ平のコマクサ
出典:PIXTA(コマクサ平のコマクサ)
また、大雪山のコマクサを語るうえで外せないのがキイロウスバアゲハ(以前はウスバキチョウといわれていたが、改名)とよばれるチョウ。キイロウスバアゲハは日本では大雪山系にのみ生息しており、幼虫はコマクサだけを食べて大きくなります。キイロウスバアゲハもまた、コマクサとともに氷河期に大陸から日本に渡ってきたと考えられています。
氷河期の生き残りともいえるキイロウスバアゲハとコマクサ、貴重な関係は今も続いています。

出典:PIXTA(大雪山のキイロウスバアゲハ)

岩手山

岩手県の名峰岩手山と焼走り
出典:PIXTA(岩手山と焼走り)
岩手山は岩手県北西部に位置する標高2,038mの火山。盛岡市内からもその姿を見ることができ、岩手県のシンボルとなっています。
そしてこの岩手山は、日本で最大級のコマクサの群落が広がる山。
全部で7本の登山道がありますが、コマクサを堪能したい方には「焼走りコース」がおすすめ。焼走り登山口から出発し、第一噴火口からツルハシ分れの間に大規模なコマクサの群生地があります。

岩手山のコマクサ
出典:PIXTA(岩手山のコマクサ)

北アルプス燕岳

燕岳とコマクサ群落
出典PIXTA(燕岳とコマクサ群落)
長野県にある北アルプス燕岳(2,763m)にも、日本有数のコマクサの名所があります。
コマクサは山頂付近の砂礫地帯に群生しており、花崗岩が風化した白い砂礫にコマクサの花の色がとてもあざやか。登山ルートはいくつかありますが、中房温泉登山口から合戦小屋、燕山荘を経て山頂を目指すルートは、登山道も整備されているので北アルプス初心者の方にもおすすめです。




高山植物の女王はとても弱い存在でもある

出典:PIXTA(乗鞍岳の砂礫に生きるコマクサ)
コマクサ落葉性の多年生草本。冬には地上部がなくなり、地下にある根の部分が休眠状態となって高山の厳しい冬を越します。そうして春の訪れを待ち、短い夏に一斉に花を咲かせるのです。

高山植物の女王ともよばれるコマクサ。しかし、コマクサは限られた環境下でしか生育することができない、とても弱い存在でもあります。日本でもコマクサを見られる山々はありますが、それは決してあたり前ではなく、きわめて繊細なバランスの上で成り立っているといえます。
コマクサの生きる世界を守っていくには、私たちの関わり方もとても大切。コマクサがその姿を消してしまわないよう、大事にしていきたいですね。


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