コマクサには近年面白い発見も。
コマクサは高山の砂礫に点在して生育しています。当然ながら何らかの方法でコマクサの種子が運ばれ、そこで芽を出し大きくなっているわけですが、どのようにしてコマクサの種子が運ばれるか、長い間はっきりとしたことはわからない状態が続いていました。
2013年、北アルプスの乗鞍岳において、高山に生息するクロネタカヤマアリがコマクサの種子を運搬する様子がはじめて観察されました。
コマクサの種子にはエライオソームとよばれる物質が付着しています。エライオソームはアリを誘引する物質としてスミレなど他の植物でも広く知られていました。アリはエライオソームが付着した種子を巣に運び、エライオソームだけを食べて種子を捨てます。つまり、エライオソームでアリを引き寄せ、種子を運んでもらっているわけです。
このことから、コマクサについてもアリとの関係性が考えられてきました。しかし、実際に種子を運ぶ姿はこれまで観察されたことがなく、私たちはようやくコマクサの種子の“運び手”の存在を確認することができたのです。
限られた山々でしか見ることのできないコマクサ
コマクサは氷河期に大陸から日本に渡ってきたと考えられています。氷河期、氷床が発達して海面が下がった結果、日本の一部は大陸と陸続きになりました。このとき日本にやってきたコマクサですが、氷河期が終わって暖かくなっていくとともに生育場所は縮小していき、現在では一部の高山にのみその姿を残します。
日本で分布するのは中部以北~北海道の高山帯の一部と、限られた山々でしか見ることのできないコマクサ。ここでは日本のコマクサの名所をいくつかご紹介します。
北海道大雪山のコマクサ平
コマクサ平はその赤岳(2,078m)に続く登山道の途中にあり、大雪山でも有数のコマクサの名所として知られています。コマクサの開花時期は7月~8月ごろ。標高1,500mまで車でアクセスでき、登山道も整備されているので登りやすく、初級者の方にもおすすめ。
また、大雪山のコマクサを語るうえで外せないのがキイロウスバアゲハ(以前はウスバキチョウといわれていたが、改名)とよばれるチョウ。キイロウスバアゲハは日本では大雪山系にのみ生息しており、幼虫はコマクサだけを食べて大きくなります。キイロウスバアゲハもまた、コマクサとともに氷河期に大陸から日本に渡ってきたと考えられています。
氷河期の生き残りともいえるキイロウスバアゲハとコマクサ、貴重な関係は今も続いています。
岩手山
岩手山は岩手県北西部に位置する標高2,038mの火山。盛岡市内からもその姿を見ることができ、岩手県のシンボルとなっています。
そしてこの岩手山は、日本で最大級のコマクサの群落が広がる山。
全部で7本の登山道がありますが、コマクサを堪能したい方には「焼走りコース」がおすすめ。焼走り登山口から出発し、第一噴火口からツルハシ分れの間に大規模なコマクサの群生地があります。
北アルプス燕岳
長野県にある北アルプス燕岳(2,763m)にも、日本有数のコマクサの名所があります。
コマクサは山頂付近の砂礫地帯に群生しており、花崗岩が風化した白い砂礫にコマクサの花の色がとてもあざやか。登山ルートはいくつかありますが、中房温泉登山口から合戦小屋、燕山荘を経て山頂を目指すルートは、登山道も整備されているので北アルプス初心者の方にもおすすめです。
高山植物の女王はとても弱い存在でもある
コマクサ落葉性の多年生草本。冬には地上部がなくなり、地下にある根の部分が休眠状態となって高山の厳しい冬を越します。そうして春の訪れを待ち、短い夏に一斉に花を咲かせるのです。
高山植物の女王ともよばれるコマクサ。しかし、コマクサは限られた環境下でしか生育することができない、とても弱い存在でもあります。日本でもコマクサを見られる山々はありますが、それは決してあたり前ではなく、きわめて繊細なバランスの上で成り立っているといえます。
コマクサの生きる世界を守っていくには、私たちの関わり方もとても大切。コマクサがその姿を消してしまわないよう、大事にしていきたいですね。