生理中の登山、やはり何かと不安です
仕事であろうが登山日であろうが、生理は関係なしにやってきます。女性特有ということに加え、一人ひとり症状も違えば周期も違うため、大きな声で話しづらいセンシティブな話題です。
以前、YAMA HACKでも生理にまつわるアンケートを実施し、多くの女性登山者が悩みを抱えていることが明らかとなりました。
しかし不安を抱えたまま登山へ行くのはいかがなものでしょうか。正しい知識を身に付けて安全な登山を楽しむことこそ、女性の登山のたしなみ方かもしれません。
今回は女性とスポーツについて研究する順天堂大学「女性スポーツ研究センター」に取材をし、生理と登山にまつわる疑問を解き明かしてきました。
順天堂大学「女性スポーツ研究センター」って?
2014年に順天堂大学に設立された「女性スポーツ研究センター」は、研究という視点から女性アスリートを支援することを目的とした機関です。女性アスリートのコンディショニングや女性の体力・健康づくりなど、女性とスポーツ全般の研究を行っています。
教えてくれたのは、奈良岡佑南先生
生理中の登山はOK。ただし必要なのは「管理すること」です
──まず多くの女性登山者が抱く根本的な疑問「生理中に体を動かすことは大丈夫?」については、実際どうなのでしょうか。
一方で生理の症状として腹痛や腰痛などがある方は、そんなに無理をしなくてもいいとは思います。
──生理だからといってお休みする必要はないのですね。けれど、先生が仰ったように、生理前〜生理中の諸症状に悩んでいる方も多いと思います。アスリートのみなさんはどうされているんですか?
──おお〜! 「生理とぶつかりませんように……」と神頼みするのは時代遅れなんですね。
「登山中に突然生理が来たんです」は偶然です
──そういえば読者アンケートに「予定外に生理が突然やってきた」「登山中に急に始まって驚いた」という意見が集まったんです。これって何かカラクリがあるんですか?気圧とか、緊張とか……。
登山のときに生理が来たから印象的に覚えているのだと思います。実際はあまり関係ないのではないでしょうか。
予定よりも早く来たのであれば、基本的には排卵自体がいつもより早かったということです。基礎体温を測るなどで自分の生理周期を知っていれば、このような事態は防げたかもしれませんね。
──これが大切なポイントの1つ目「自分の体を知ること」なんですね。
生理周期と体調の関係
自分の体を知る前に、生理(月経)を正しく理解するところから始まります。
月経とは一定期間内で妊娠をしなかった場合に、要らなくなった子宮内膜が剥がれ落ちる現象で、その際に剥がれ落ちた内膜が月経時の出血となります。出血した日から次の出血の前日までを月経周期と呼び、25〜38日が正常月経周期と言われています。
基礎体温を測ることは「自分の体を知ること」
月経周期を正しく知る最大の手がかりが「基礎体温」です。基礎体温は、朝目覚めてすぐの体温のことで、月経から排卵まで(卵胞期)は体温が低く、排卵を境に高くなるのが一般的と言われています。
排卵から月経までの期間を黄体期と呼び、卵胞期との体温差は0.3℃以上あることが理想と言われています。
仮に排卵日を知っていれば、おおよその生理開始日が計算できるので、「準備していないのに、突然やってきちゃった!」という事態を防げます。
──自分を知ることの第一歩は基礎体温の把握なんですね。……と分かっておりながらも、なかなか長続きしないんです。計測途中に二度寝してしまったことも何度もありまして。長続きする方法ってあるんですか?
基礎体温の記入から詳細な諸症状まで記録でき、スポーツをする女性には欠かせない知識もたくさん載っています!
生理痛とPMSも日々のコンディショニングで軽減できます
──自分の生理周期を知ることができたら、次はコンディションの管理ということですが……。私も生理前〜生理中の症状がなかなか重いので、しっかり聞きたいお話です。
生理痛を軽くしたいなら、湯船に毎晩浸かりましょう
──なぜ入浴が効果的だと考えられているんですか?
──言われてみれば納得です。
PMSを軽減するならマグネシウム・たんぱく質や日光浴が効果的
毎月の生理は生活習慣の通信簿
──と、まだまだ実践すべき体のメンテナンスはたくさんありますが、詳しくは『生理で知っておくべきこと』にすべて書かれているので、気になる方は読んでいただくとして。やはりPMSや生理痛の軽減に大切なのは、適切な睡眠・3食しっかり食べる・適度な運動なんですね。
──ただ漫然と「規則正しい生活をしよう」と考えると億劫になりますが、生理が生活の通信簿、そして不調が緩和されると思うと……なんだか頑張れそうな気がします。
──一人ひとり違う症状だからこそ、自分のことは自分で把握しておくことが大切なんですね。
生理中の登山にはこの2つの方法で
そして3つ目のポイント「生理当日の対策」です。実は日本の女性アスリートたちの多くが今まで頭を悩ませてきた問題で、この数年で大きく進化をした分野とも言われています。
タンポンの活用
長時間快適に過ごすのに有効な手段なのですが、学校の保健体育で使用方法を取り上げないこともあり、なかなか普及していないのが事実でした。
──確かに学校では習わなかった気がします。そうなると家庭や友人の影響など、かなり個人差が出てしまいそうですね。
またナプキン派の⽅も、快適にスポーツが実施できるよう、⼥性スポーツ研究センターの研究データも活⽤し、スポーツ⽤ナプキンを開発。2020年4⽉から商品化され、ドラッグストアでも購⼊できるようになりました。
──ここ数年でスポーツをする女性の生理対策の手段が増えたんですね。となると、生理中の登山でもタンポンもしくはスポーツ用ナプキンを使用するのが良さそうですね。
月経調整という手段も
──そんな簡単に周期をずらすことができるんですか?
──“ピル”と聞くと、ポジティブなイメージだけでなく、ネガティブなイメージを持った方も多くいらっしゃるような気がします。実際のところはどうなのですか?
なお、低容量ピルも合う合わないは個人差があるので、まずはお医者さんに相談してみるのも良いでしょう。
──産婦人科と聞くとちょっと緊張しちゃうんです。病気じゃないのに申し訳ないというか、なんと言いますか。
ライトな登山ならタンポンがいいですよ
登山ならではの不安として「衛生面」が挙げられます。登山道には決して衛生的とは言えないトイレばかり。道によってはトイレさえないルートもたくさんあります。その中での生理中の登山となると、においが気になるという方も大勢いらっしゃるようです。
──例えばドラッグストアでも購入できるデリケートゾーン用のシートで拭く、というのも有効な手段なんでしょうか?
──気になるからといって、神経質になりすぎると裏目に出てしまうんですね。
経血が外気に触れることで菌の繁殖が始まるため、体内にある限りにおうことはありません。その点、タンポンは体内に経血を留めておくことができることから、におい対策としても有効な手段と言えるかもしれませんね。
──タンポンはムレやモレ、ズレを防止するだけでなく、においの発生も抑えてくれるんですね。良いことを聞きました。
──となると、きちんとトイレのある行程や、日帰りのトレッキングなど比較的ライトな登山に向いているのかもしれませんね。
テント泊なら「月経調整」を検討してみてくださいね
──テント泊を含む山行や数日がかりの登山となると、ナプキンやタンポンだけだと心許ない気もします。
──そうですね。月経調整をするには産婦人科へ相談ということですが、その前に自分の生理周期を知り、日々コンディションを管理することも、快適な登山に繋がるんじゃないかと思いました。
普段から登山本番を想定して生理周期を含めた体調管理をすることで、快適に安心して山へ出かけられるようになると思いますよ。
危険と隣り合わせの登山だからこそ
取材中に印象的だった言葉があります。それは「登山での体調不良は、重大な事故に繋がる」というものでした。
女性もアクティブに登山を楽しめるいまだからこそ知っておきたい生理と体の関係。あなたの感じる不調や違和感は、体からの大切なメッセージなのかもしれません。
次の山行の前に、自分の体のこと、生理のこと、少しだけ振り返ってみませんか?
【参考文献】
女性スポーツ研究センター(https://www.juntendo.ac.jp/athletes)
細川 モモ(2021)『生理で知っておくべきこと』 日経BP
女性アスリートダイアリー 2022 [ 女性スポーツ研究センター ]
発行所:大修館書店
発行年月:2021年10月
生理で知っておくべきこと 自分の体を守る正しいデータを持てなかった女性たちへ
出版社:日経BP
発行年月:2021年05月
オムロン|婦人用電子体温計(MC-652LC-PK)
測定時間(目安)/予測:約10秒、実測:約5分
サイズ(約):長さ10.3×W3.9×D1.6cm
重量(約):33g