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雪山で一夜越さなければいけない・・・そんなときのために

ツェルトという簡易テントを張って一夜をしのぐ方法が万能ではありますが、風を直接受けますし、外気温よりもそこまで暖かくなるものではありません。
雪山でのビバークの方法としては「雪洞」がよく取り上げられますが、雪のドーム「イグルー」も有効です。雪洞にはない長所もありますので、ぜひこの機会に覚えてみてくださいね。
イグルーってどんなもの?
簡単に言うと、イグルーとは雪の塊を積み上げて作ったシェルターです。
詳しく両者を比べてみましょう。

左がイグルー、右が雪洞。雪の斜面に掘る雪洞に対して、イグルーは雪のブロックを積み上げてドームを作ります。
イグルー | 雪洞 | |
長所 | ・積雪が少なくてもブロックを切り出せれば作れる ・作り方を知っている人が複数いればみんなで分担して作れる | ・風も雪も全く吹き込まない ・限度はあるが雨でも大丈夫 ・イメージさえできていれば誰でも作れる |
短所 | ・吹雪のときに風は防げるが雪は吹き込む ・そこそこ雪に慣れていないと作れない ・気温が高い時、雨の時は屋根が落ちてしまう(水がたれてくる) | ・積雪が1.5~2mはないと作れない ・同時に作業できる人数に限りがある ・換気に気をつける必要がある |
本格派イグルーはちょっと難しいけど、「なんちゃって」はかんたん!

しかし逆に考えれば、天井を雪のブロックで塞ぐのにこだわらなければ一気に難易度が下がり、誰でも作ることができます。これを知っているだけで雪山のビバークはかなり安心です。
そんな「なんちゃってイグルー」をまずは作ってみましょう。
イグルー作りに必要な装備

外側には雨具または冬用のアウターウェアを着て、できるだけ濡れないようにしましょう。特に手はかなり濡れるので、中綿つき、またはインナーを入れたゴム手袋がおすすめ。
足回りはもちろん長靴や冬用の登山靴を履き、雪が入ってこないように裾を絞っておくのも大事です。

① | ツェルト、 タープなど | 屋根の代わりに使います。 どんなときでもビバークに使えますので、登山には欠かせない装備です。 |
② | スコップ | 雪を掘ったりブロックを掘りだすのに使います。雪山ではいざという時のために必ず持っていきたい装備です。 登山用品店で売っているものは軽く折りたたみもでき、持ち運びしやすいのでおすすめ。 |
③ | 鋸 | ブロック状に雪に切れ目を入れるのに使います。スノーソーよりも普通の鋸の方が力が入りやすく、固い雪でも使いやすいです。 刃渡り30cm以上推奨。 |
④ | プローブ | 積雪深を測ってどう掘るかを決めます。 イグルー作りだけを考えればなくてもよい装備ですが、雪山に行く上では欠かせないものです。 |
なんちゃってイグルーの作り方
まずはブロックの切り出し方を覚えよう!
イグルーは雪のブロックを積み上げて作ります。スコップでは積み上げやすいようなきれいな形の雪は切り出せませんので鋸を使います。まずは鋸を使って雪のブロックを切り出す方法を覚えましょう。下の図のような直方体を切り出すつもりでやってみます。底面にも刃を入れますので、刃を入れられる場所(写真で筆者が立っている部分)はあらかじめ掘っておきます。

まずは筆者右側に刃を入れます。

次は向こう側。

今度は左側。

最後に底面。

どの面にも刃が通っていれば、スコップでこじると動きますので、手を入れて運び出します。動かない場合には刃が貫通していない部分があるのでやり直します。また、ブロックは動くのに出せない場合にはどこかが引っかかっていますので、端の方を鋸で少し削ってみてください。

こんなに大きな塊が取れました!

さぁ!作るぞ~!
基本を覚えたところで、いよいよ作ってみましょう。まずはどんな形にするかおおよその印をつけます。

表面の雪は固まっていませんので、スコップでどけて捨ててしまいます。踏めば固まるような雪質であれば、踏んで固めてしまっても構いません。

シェルター内部になる部分の雪をブロックとして掘り出していきます。土台になる部分のブロックはできるだけ大きく切り出すのがポイントです。

一段掘り出すだけで天井の高さは50cm以上にはなります。非常時のシェルターとしては、この上にツェルトを張れば十分でしょう。
広さもここまで広くなくて十分です。ゆっくり作ってここまで15分。
今回は居心地も重視して、もう一段掘り下げます。

2段目を積む際には、1段目の並びから横にずらして積んでいくと崩れにくくなります。

2段目を積み、出入り口も作りました。

この上にツェルトやタープを張って屋根にするわけですが、ただ張っただけだと中がたるんでしまいますので、ストックなどを渡しておきます。枯れ枝などがあれば使うのもよいでしょう。

今回はタープを張りました。完成です。

中の様子です。隙間が多少ありますが、外から雪を詰めて塞げば問題ありません。

広く作ったのでゆったりです。

ブロックで入り口を塞ぐと風を防げます。雪洞と違って閉じ込められる心配はありません。

「なんちゃって」の限界
もうこれでいいじゃん!と思った方もいるかもしれません。たしかに、樹林帯や標高の低いところならばこれで万能なのですが、強い風に吹かれる稜線や平原のような場所でビバークすることを考えると、天井が布では飛ばされる可能性があり、リスクが高すぎます。
そんな場所でもビバークするには、本格的なイグルーが必要です。
本格的なイグルーに挑戦!
雪に対する慣れは比較的必要ですが、屋根付きの本格的なイグルーの作り方もご紹介しておきます。こちらは屋根を積みやすくするために円形または楕円形にブロックを積んでいきます。最初は「なんちゃって」と同じように大きなブロックを積んでいきますが、2段目以降は少しずつ内側に寄せながら、ブロックとブロックの間に橋渡しするように積んでいきます。

2段積んだところですが、内転びになっているのが分かるでしょうか。このようにずらして積む土台を作るために大きなブロックを切り出す必要があるのです

上に行くにしたがって、だんだん薄く軽いブロックを乗せていきます。
長いブロックを切り出し、2つのブロックに橋を渡すように積んでいくのがコツです。隙間は後で小さなブロックを積めて塞ぎます。

屋根も雪のブロックで作るには、ブロックを切り出しながら、どれくらいの太さでどれくらいの強度が出るかという感覚を掴んでいくのがポイントなのですが、それには雪をたくさん扱って慣れている必要があります。
実はこのイグルーは筆者の4作目なのですが、これだけ早くに覚えられたのは、雪国暮らしの経験もあり、ガイドとしても訓練を積んでいたためでしょう。

無事に屋根を積み終わりました。

完成です。
中から見ると隙間はたくさん空いていますが、間に小さいブロックをはめ込んでいけば問題ありません。雪面にクラストができていれば、クラストを切り出して乗せれば簡単です。
荒れている時以外は寝たり座ったりする高さに風が通らないくらい塞げば十分です。隙間から星影や月影が差すのも乙なものです。
積雪がそこそこある場合には小さめに作って雪の中を横に掘り進めて住空間を広げることで、ドームを作る手間を減らすことができます。横を掘り進める時にもブロックを切り出していけば一石二鳥です。
ワンポイントアドバイス

どうしても大きな雪のブロックを切り出せないなどの問題で屋根を作れないときは、ストックや木の枝を渡してそこにブロックを乗せると屋根を作ることができます。
また、雪が融けてしまうような、気温の高い日や雨の日には屋根付きの本格イグルーは作れません。別の方法を考えましょう。
最後に。本格イグルーは作っている間に崩れてしまうこともあります。それもまたトレーニングと思って、気を取り直して途中からまた作ってみましょう。
雪洞だけではない雪のシェルター。ビバークのバリエーションを増やして安心な雪山ライフを

いつでも作れるようになれば、テントを持って行く必要もなくなり、荷物も軽くなりますよ。