マウントクックへ挑戦!わたしの価値観を変えてくれた登山中の葛藤

2020/06/03 更新

こんにちは、YAMA HACKライターの「ぶん」と言います!いつもは検証系の記事を書いているのですが、今回は思い切って「思い出の山行」を語ってみました。2017年12月に行ったニュージーランドの最高峰マウントクックに挑戦した記憶。ほろ苦くも大きな学びを得た登山でした。


アイキャッチ画像撮影:筆者

写真を見返すと、あの時の記憶が鮮明に蘇る

「Instagramの<#おうちで山談義(※1)>のように、思い出の山行を語ってみませんか?」
編集部より、こんなお題をもらいました。
※1)「山小屋の談話室みたいに楽しく山の話をしたい」という、山好きの一人であるatsushi0130.mtさんの投稿から広まった Instagramのハッシュタグ。
筆者は本格的に登山を始めて7年の間、いろんな山に登ってきました。その中で思い浮かぶのは、2017年12月にニュージーランドの最高峰マウントクックを目指した山行です。

結果的に登頂はならず自身の不甲斐なさを痛感するばかり。しかし、今となっては得るものの大きかった登山でした。

「細かい所まで覚えているかなー」と思いながら写真を久々に見返すと、あの時の記憶が鮮明に蘇ってきました。
ゆっくり、じっくり、ふりかえってみます。

筆者プロフィール

撮影:筆者
1988年長野県生まれ。登山好きな母に連れられ日本アルプスを登る少年時代を過ごしました。

一度は山と疎遠になるも、社会人になってから再熱。山小屋バイト、野外教育インストラクターを経て、現在は南アルプスの西隣に位置する「鹿嶺高原キャンプ場」を運営。その一方で登山普及のための情報発信・活動をおこなっています。

好きな山は「大山(鳥取県)」と「八ヶ岳」。

はじまりは「自分なりの冒険をしたい」という想い

撮影:筆者パートナー(白馬岳主稜にて)
「景色が綺麗だから」「山で食べるご飯が美味しいから」「非日常を楽しめるから」など、登山が好きな理由はひとそれぞれあると思います。

私にとってそれは『冒険感』があることでした。自然と対峙するスリル、自分の力で進んでいる感覚、山が見せるさまざま表情、自分の知らない未知の世界へと突き進んでいくような、そんな感覚をたまらなく魅力に感じていたのです。

冒険がしたいと言いながらも・・・

マウントクックへの挑戦を決める前、いくら山に登っても物足りなさがどこかにあり、私の山への欲求は満たされていませんでした。

その理由は、”快適な範囲で山を楽しんでいた”から。
「冒険がしたい」と言いながらも、結局は誰かの踏み跡を辿っていただけだったのです。

出した答えは”未知の山に挑むこと”

「自分なりの未知の山へ挑戦したい」という想いが湧き上がり、人生初の海外登山を決意。

いくつかの条件と候補の中から、ニュージーランドのマウントクックを選びました。
出典:PIXTA(正面の山がマウントクック)
南西太平洋に位置するニュージーランド。地図で見るとオーストラリアの右下あたりにあります。人口は500万人ほどで、国土の約1/3が国立公園や自然保護区に。

映画「ロード・オブ・ザ・リング」のロケ地となるほどの、世界でも類を見ない雄大な自然が魅力の国です。

概念図
編集:筆者(日本とニュージーランド、なんとなく形が似ていると思いませんか?)
面積は日本の約3/4ほどで、大きく北島と南島に分けられます。この南島を縦断するように走っている山脈が『サザンアルプス』で、長さは日本の北アルプスの5倍にあたる約750kmにも及びます。
撮影:筆者(麓から見るマウントクック)
そのサザンアルプスの王者であり、同国の最高峰がマウントクック(正式名:Aoraki/Mount Cook、標高3,724m)。標高は富士山(3,776m)に近く、富士山と同様に国のシンボルとされています。

マウントクックは険しい岩壁と氷河に覆われており、その頂に立つことは難しく、エベレストに初登頂したニュージーランド出身の登山家「エドモンド・ヒラリー」が登山技術を磨いた山、とも言われています。

知識・経験・技術、全てが試される

イラスト:筆者(おおよそのルート図)
マウントクックにはいくつかのルートが開拓されていますが、今回は最も一般的なリンダ氷河ルートを選択。一般的とは言っても、整備された登山道はありません。

サザンアルプスは天候が安定することが少なく、ひとたび天気が悪くなれば長引くことも。また、岩場や氷河の通過などもあり、遭難・滑落の危険が常にあることを理解し行動する必要があります。

「無事に帰ること」それが何よりも前提でなければなりません。

未知なる山”マウントクック”への挑戦

日本を出発し、近くの村で待機していた私のもとについに好天が続く情報が。
レンタカーに積んだままだった登山装備を念入りにパッキング。ザックの重さは20〜25kgほどに。

撮影:筆者
スタート・ゴール地点となるタスマン氷河駐車場に到着。
ザックを背負うとパッドが肩に食い込みますが、気分が高揚しているからかそれほど重さを感じません。

「よっしゃ!行くか!」
最初の目的地となるハースト尾根の中腹へ向け、足を進めます。

ハイカーのオーバーリアクションに元気をもらう

撮影:筆者
ここから中継地点となるボールハット(※2)までは、山の裾野を歩いて10kmほど。
遠くに見える白い山々に胸が高鳴ります。
※2)ハット:日本でいう無人の避難小屋。設備がしっかり整っているところも多く、宿泊するには有料で事前予約が必要。ハットを巡りながらのロングトレイルもニュージーランドの山の楽しみ方の一つ。
撮影:筆者(ジリジリと日差しが照り付け始めました。紫外線がとても強いので、日焼け止めは必須)
道は整備されていませんが平坦で歩きやすく、ボールハットまでトレッキングをする人もいるようです。私の大荷物をみてオーバーリアクションをしてくれるハイカーから、謎の元気をもらいました(笑)。

撮影:筆者
右を向けばタスマン氷河と氷河湖の境目が。氷河上には土砂が積もっていて、一見すると砂地のようです。

未知の領域に心躍る

撮影:筆者(左下の赤い小屋がボールハット、右にあるのはトイレ)
2時間ほど歩いたところで、ボールハットに到着。小さくて可愛らしい小屋です。
ここから先は氷河を進み、急斜面のハースト尾根を登っていかなければなりません。未知の世界に、身の引き締まる思いで進みます。

撮影:筆者
氷河の上はたくさんの土砂で埋め尽くされ、凸凹した地形とガラガラした石で歩きにくい。本当にこの下に氷河があるとは信じ難いですが、これほど大きな氷河(※3)に立つのは自身にとっても初めての経験。嬉しさが込み上げてきます。
※3)氷河:自身の重さによる圧力でゆっくりと流動していく氷の塊のこと。日本でも北アルプスの一部で存在が確認されている。

「無事に帰ってこれるのか?」という問いに答えることができなかった

撮影:筆者(写真中央の急傾斜がハースト尾根)
氷河を進むと、これから登るハースト尾根が見えてきました。
立ち止まり、下から舐めるように目で尾根を辿ってみると、尾根は遠くで見るよりもさらに鋭く険しく、そして脆そうです。

・・・本当にここを登れるのか?
自分の中に不安と迷いが生まれていました。

撮影:筆者(画像はハースト尾根ではありません。取り付きのイメージです)
ハースト尾根の末端を回り込むような形で、取り付き(※4)に到着。
脆そうな崖を見上げ、これから登る道筋を頭の中で描いてみました。

・・・・・・

「もしや取り付きはここではないのでは?」と思い地図を確認してみるも、間違いはなさそうです。
草を掴みながら急傾斜を登り出すも、少し歩けば見上げて立ち止まることを繰り返す。気づいた時には、私の足は完全に止まっていました。

「この先の難所を越え、無事に帰ってくることができるだろうか…?」
そう思った瞬間に、自分の心が折れたことがわかりました。
ここで下山を決断。マウントクックへの挑戦は、初日で呆気なく終わったのです。
※4)取り付き:クライミングなどで、目的のルートを登り始める場所を指す。それまでの行程は「アプローチ」と言われる

「このままでは終われない」葛藤の末、たどり着いた答えとは・・・

トボトボとタスマン氷河へと戻り、石の上に腰を下ろす。

「なんて情けないんだろうか…」「もしかしたら行けるんじゃないか?」「いや、不確定要素が多すぎるぞ…」と、自問自答を繰り返し、気づけばかなりの時間が経過していました。落石の危険もあるので、安全な場所に移動しビバーク(※5)することに。

しかし、このまま帰るわけにはいきません。
「マウントクックに行くことはできないけど、それでも自分なりの登山はできるんじゃないか」
私が出した答えは、別ルートへの変更。
地形図を取り出し、事前に頭に入れていた情報を頼りにルートを辿って次なる目標を決めました。
※5)ビバーク:登山において緊急的に野営をすること

すべては自分が納得できる山行のために

イラスト:筆者(おおよそのルート図)
目指すは、マウントクックの肩にある「ボールパス(パス=峠)」を越える「ボールパス・クロッシング」と呼ばれるルート。マウントクック登頂よりも難易度は下がるものの、登山道のない雪と岩の道のりです。

撮影:筆者
明朝、季節は夏といえど氷河の上は冷蔵庫のように寒い中、シュラフに身を包みながら夜が明けるのを待ちました。

美しく朝焼けしていく景色とは裏腹に、私の心は相変わらず曇り空。
「もういいじゃないか」という自分と「行けたんじゃないか」という自分、あいかわらず悶々としています。
しかし、今はボールパス・クロッシングを歩き切ることだけを考え、準備を整えビバーク地を出発。

荘厳な大自然が気持ちを晴らしてくれる

撮影:筆者
空は青く澄み渡っています。
目的地となるボールパスへは、昨日通ったボールハットの西面の尾根が取り付き。岩尾根の急登が続きますが、昨日のハースト尾根を味わっているせいか、とても歩きやすく感じます。

撮影:筆者(左面の奥に見える斜面がハースト尾根、中央奥の山はMt.De La Beche[デ・ラ・ビッシュ山:標高2,950m])
日本とは一味違うダイナミックな山の景色や時々現れるケルンが安心感を与えてくれ、少しずつ気分が高ぶってきました。

撮影:筆者
尾根に沿って進んで行くと次第に雪は増し、アルプスらしい山容が現れはじめました。
そして、見上げると・・・

撮影:筆者
マウントクックが!!
かつて感じたことのない強烈なエネルギー。その威厳と迫力に言葉を失いました。

撮影:筆者(写真中央の鞍部がボールパス)
マウントクックを横目に進むと、ボールパスが見えてきます。

日差しで雪は緩み、膝までズボズボと埋まりますが、あせらず慎重に歩みを進めました。

夕映えに包まれていく世界に息を飲む

撮影:筆者
出発から8時間、目指していたボールパスに到着。
これ以上の行動は危険と判断し、今日はここでビバークすることにしました。

撮影:筆者
悩んだ末にザックに詰め込んだビール。

プシュ!

持ってきてよかった…

撮影:筆者
時刻は20時を回り、西の山に日が沈み始めました。ニュージーランドの夏は日没が21時頃で日出が6時頃。この頃には、ニュージーランドの時間感覚にも慣れてきました。

撮影:筆者(左のピラミッド状のピークはニュージーランドで3番目に高いMt.Malte Brun[モルト・ブラン山:標高3,199m])
東の山脈が淡いアーベントロートに包まれていきます。

撮影:筆者(顕著なピークはMt.Sefton[セフトン山:標高3,151m])
ニュージーランドの夕空は、日本よりもほのかな色合いをしているように感じました。
そして、日没とともに私もシュラフの中へ。

ゆっくりと流れる特別な時間

撮影:筆者
深夜3時頃、結露したツェルトからひょっこり顔を出すと、そこには月明かりに照らされたマウントクックが。

撮影:筆者
空は薄明るく輝き出し、ゆっくりと流れるように夜が明けていきます。

撮影:筆者(ここから見るMt.Seftonが”燕岳から見る槍ヶ岳”に似ていて親近感を覚えます)
西の谷は雲海に包まれて

撮影:筆者
マウントクックもモルゲンロートで赤く染まってきました。

撮影:筆者
日の出を満喫したところで、出発の準備を開始。今日も天気は良さそう。

「もしマウントクックに行っていたらどこにいたかな?」と、頭をかすめます。
ボールパスを後にし、入山したタスマン氷河とは反対のフッカー氷河へ下山を開始しました。

自分の技術・感覚を頼りに緊張感の続く下山を開始

撮影:筆者
下山は雪面とガレ場をひたすらトラバース(※6)していく道のりですが、ルートファインディング(※7)がかなり難しい。読図に苦戦し、一度ルートを見誤って別の谷筋を下降。途中で違和感に気づいたから良かったものの、ヒヤッとする場面もありました。
※6)トラバース:山の斜面を登らず、横断すること。足場が安定しないことも多く、滑落のリスクが高い。 ※7)ルートファインディング:自身の知識・経験・感覚と地図やコンパスを頼りに、正しい道のりを導き出す技術。
撮影:筆者
苦労しながら正規ルートを見出し、地形が緩やかになるポイントまでたどり着きました。
振り向けば大迫力のマウントクックが。タスマン氷河からの山容とはまた違った表情をしています。
何度も何度も、後ろを振り返りました。

トレッキングコースに合流!ひとまず安心も・・・

撮影:筆者
あとはトレッキングコースとの合流ポイントを目指してひたすら歩くだけ!と安心していたら・・・・

 

タカに襲われました。
いくら追い払っても襲いかかってくるので、最終的には私が逃げ出すことに。

撮影:筆者
ほどなくしてトレッキングコースと合流。少し休んでいると、ベビーキャリアを背負ったお兄さんが近づいてきて「ボールパス行ってきたの?!」と目をキラキラさせて話しかけてきます。

「そうですよ」と言うと「マジかよ!クレイジーだな!」とお褒めの(?)言葉をいただきました。

あとは15kmほどの舗装路を歩き、レンタカーのある駐車場を目指します。ここが本当に長かった…。

無事に下山、その時心の中にあるものは…?

撮影:筆者
日が沈み始めた頃、寂しそうにしているレンタカーを発見!

自分の力でボールパス・クロッシングを歩き切った体はクタクタながら、達成感もあります。
しかし、
マウントクックに呆気なく敗退した心の引っかかりはまだ消えていません

「もう考えるのはやめよう」
これ以上ここにいても後腐れが悪くなってしまうので、早々に出発することに。

ひとつひとつの積み重ねが大きな達成感に

撮影:筆者
その後、いろんなトラブルに巻き込まれながらも無事に飛行機に搭乗。機内でこの山行のことを考えていました。

今回の登山は“自分にとっての大冒険”にはなりませんでした。ルート変更をした「ボールパス・クロッシング」は、確かに難しいルートではありましたが、自分の全てを出し切った山行とは言えなかったのです。

ただ、気づけばそんなモヤモヤもどうでも良くなっていました。それは、一から自分で計画し目標の山を目指したこと、このニュージーランドの出来事、全てが合わさって大きな達成感となっていたからです。

「この登山はこれで良かったんだ」ようやくそう思うことができました。

やってみないと結果はわからない。ただ、その過程は必ず経験になる

撮影:筆者(帰国後に殴り書きしたマウントクックのポストカード)
あれから2年半が経ち、私の登山に対する価値観は少し変わりました。それまでは「登山は山頂に立たないと意味がない」と考えていましたが、今はいろんな登山の楽しみ方があることを受け入れ、登山はその過程が大切だと感じるように
なりました。
それが年齢的なものなのか、生活環境が変わったからなのか、それともこの山行が影響しているのかはわかりません。
ただ、このマウントクック登山の経験があったからこそ今の自分がいる、それだけは確かなことでしょう。

今回、この記事を執筆しながらニュージーランドの地形図を眺め、「次はどうやって行こうかな」「この山いいな」そんなことばかりを考えていました。

どうやら私の冒険はまだ終わっていないようです。
きっとまたここに行くんだろうな、そんな気がしています。

今回紹介したニュージーランドの登山情報

▼ニュージーランドの地形図が見れます!日本の地形図と少し違うので、見るだけでも面白いですよ
NZ Topo Map(英語)▼ボールパス・クロッシングはガイド付きツアーがおすすめです
100% PURE NEW ZEALAND(日本語)

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ぶん

日本アルプスに囲まれた、長野県の伊那谷生まれ。登山好きな母親に連れられ、山を駆け巡って育つ。アルパインクライミングや沢登り、冬山縦走など、ちょこっとスパイスの効いた登山が大好き。

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