身近な危険生物、スズメバチを知る

スズメバチの刺傷による死亡例は、有毒生物によるものでは最も多く、年間約20名が亡くなっています。今回は比較的見かける機会の多い5種を危険度の高さ順にご紹介します。
<第5位 ヒメスズメバチ>

・見た目:全体的に茶色っぽく、お尻の端が黒いので他の種の中でも見分けやすい。
・生息地域:本州、四国、九州(※沖縄には、ヤメヤマヒメスズメバチが分布)
・営巣場所:土の中、屋根裏・物置の中などの閉鎖的な場所。
・特徴:アシナガバチ類のさなぎや幼虫のみを餌にするので、本種の活動時期はアシナガバチの活動時期である6~9月頃(最も攻撃性が増すのは8~9月)に合わせるように短い。スズメバチの中では比較的攻撃性が低い種類。
<第4位 モンスズメバチ>

・見た目:腹部の黒い模様が波打っているのが最大の特徴。
・生息地域:北海道、本州、四国、九州(平地~低山地にかけて生息)
・営巣場所:木の中の空洞、屋根裏、壁の隙間などの閉鎖空間。営巣空間が狭くなると別の場所へ引っ越しする。
・特徴:活動時期は5~11月(最も攻撃性が増すのは8~10月)頃で、セミを好んで狩りの対象とする。多少暗くても活動する傾向があるので、夜に見かけることもある。どちらかというと山地や里山に多い傾向にあり、住宅地や都市部では数が少ない。
<第3位 コガタスズメバチ>

・見た目:全体的にオレンジと黒色が濃い。オオスズメバチより体長が小さめ。
・生息地域:北海道、本州、四国、九州(※沖縄には、リュウキュウコガタスズメバチが分布)
・営巣場所:生い茂った樹木の枝、住宅の軒下などの解放空間
・特徴:活動時期は5~11月(最も攻撃性が増すのは8~10月)頃で、スズメバチの中ではおとなしい方。ただし、庭木や家屋など人間のいる場所の近くに営巣するケースが多いため、住宅地での刺傷被害も起こりやすい。
<第2位 キイロスズメバチ>

・見た目:全体的にオレンジ色が強く、他の種よりも毛が多いのが特徴。
・生息地域:本州、四国、九州(※北海道では、エゾキイロスズメバチが分布)
・営巣場所:木の枝、軒下などの開放的な場所や、木の中の空洞、床下、天井裏などの閉鎖的な場所まで様々。営巣空間が狭くなると別の場所へ引っ越しする。
・特徴:活動時期は5~11月。5~7月は閉鎖空間で営巣するため、巣が発見できないことが多く、8月以降の引っ越し後に巣を目撃することが多い。
オオスズメバチよりも体は小さいが、巣は在来のスズメバチ類では最も大きな巣を作り、時に1500匹規模の大型の巣ができあがる。
飲み残した缶ジュース、生ゴミなどをエサに利用することもでき、人との距離が近く、事故が起こりやすいスズメバチ。
<第1位 オオスズメバチ>

・見た目:スズメバチ界最大種のスズメバチで、非常に大型。特に女王バチや夏以降の働きバチは体サイズが大きく、4cm近くにも及ぶ。
・生息地域:北海道、本州、四国、九州。
・営巣場所:土の中、木の根っこ付近、木の洞などの閉鎖空間、まれに住宅の床下などにも営巣する。
・特徴:活動時期は5~11月頃で、スズメバチ類では攻撃性が最も高く、また体も大きいため毒量も多く、受傷時の被害が大きい。
キイロスズメバチなど、他のスズメバチを襲うこともあり、スズメバチ類の中では最も注意したいスズメバチと言えるが、住宅地では比較的数が少なく、山地里山に多い傾向にある。
なぜ襲ってくるのか?

スズメバチの攻撃対象
・幼虫のエサになる昆虫
・餌場を荒らす(と見なした)敵
・巣に危害を加える(と見なした)敵
人間が刺される事故の多くは、(無意識にでも)巣に近づいてしまい、襲われるというケースです。特にオオスズメバチは土の中に巣を作ることが多く、ハイキングなどで気付かない間にスズメバチの攻撃範囲に入ってしまい、事故に遭うケースが多く見られます。
スズメバチの発する危険信号
スズメバチは巣に近づく相手(数m~10m程度の範囲)に対して「威嚇行動」をとります。・相手の周りをしつこく飛び回る
・タックルしてくる
・アゴを噛み合わせて「カチカチ」という音を出す
ハチの接近に驚いて騒いだり、はたき落そうとするなどの大きな行動をとると余計にハチが興奮して危険です。
警戒音を出したり、タックルしてくる威嚇は最後の警告段階なので、ハチが周りを飛ぶようなことがあれば、早めにそこから静かに立ち去る方が無難です。
距離や状況によっては、こうした威嚇をすることなく攻撃してくることもあるほか、人間側がカチカチ音に気が付かない場合もあります。ハチが周囲を飛び回る段階で、静かにゆっくりしゃがむか姿勢を低くして、静かにその場を離れることが重要です。
対策方法は?

・香水、化粧品、整髪料などをつけない(スズメバチはニオイに対して敏感なため)
・黒色、暗色の服を避け、長袖・長ズボンを着用する(黒色に対して敏感に反応する性質があることと、素肌を出さないことで被害を抑える)
・帽子を被る
弁当やスポーツドリンクなどのニオイに反応して、エサ取り目的で寄ってくることもあります。スズメバチに対しては、「ニオイ」、「色」、「動き」の3点に注目しながら対策をとることが大切です。
刺されてしまった際の対処法は?

アナフィラキシーショックの可能性はないか
ハチに刺されると、体質によっては「全身性のアレルギー症状」が出る場合があります。誰もが必ず発症するものではありませんが、こうした全身性の症状として「刺されたところ以外」に腫れや蕁麻疹などの各種症状が現れ、時に呼吸が困難になったり、意識が薄くなったりする重篤な症状を引き起こす場合があります。
これがアナフィラキシーショックです。
傾向として刺されてから1時間以内に発症するケースが多いため、その間は「一人にならない」「一人にさせない」。様子をみて、心配な場合は救急車を呼ぶ必要があります。
二回目が危ないのは本当か?
よくハチ刺され2回目が危ないといいますが、これは半分正解、半分不正解です。アナフィラキシーショックはアレルギー症状なので、体質によって出る出ないはまちまちです。人によっては1回目で出るケースもあれば、何度も刺されるうちに少しずつダメになるケースもあります。一度に刺された数によって注入された毒量も変わるため、一般的には1か所刺されるだけよりも、複数ヶ所刺される方が危険性も高まります。
そのため、「2回目」というキーワードだけで安易に安心したり怖がったりするのではなく、まずは落ち着いて状況に合わせた処置をとることが大切です。
アナフィラキシーショック対策
アナフィラキシーショックが発症した場合に対応する薬として、「エピペン」などの事故注射薬があります。これは自ら太ももの外側に注射するもので、医師の処方によって得られる薬です。ハチ毒に対してアレルギーや、職業など、一人一人の状況に応じて総合的に判断されて処方されるため、欲しいからといって必ず手に入るものではありませんが、過去に刺されたことがあり、心配な方は医師に相談してみてください。
応急処置
1.流水で傷口を絞り洗い2.抗ヒスタミン軟膏の塗布
3.様子見、冷却
スズメバチの毒は水溶性タンパク質のため、流水での絞り洗いを行うことで、希釈や冷却による症状の緩和を期待することができるとされています。
俗に言われる「アンモニアが効く」というのは迷信なので、尿などをかけても意味がありません。
安全にアウトドアを楽しもう!

山にスズメバチはいるものです。これからのアウトドアシーズンをより安全に楽しくするためにも、スズメバチの生態や習性を知って、安全な登山ライフを過ごしましょう。
監修/セルズ環境教育デザイン研究所 西海太介氏