長野県は台風がこない!?登山者の中でにわかに噂される”ATフィールド”の謎を大解明!

2021/08/27 更新

せっかくの計画が台風で狂ってしまうのはとても残念ですよね。そんな中、長野県には「台風を寄せつけないバリアが存在する」というウワサが流れているのをご存知ですか?その真相に迫ったところ、そこには人類の力を超越した自然の摂理がありました。

制作者

クリエイター/アウトドアインストラクター

橋爪 勇志

長野県在住のクリエイター・アウトドアインストラクター。幼少期から登山に慣れ親しみ、厳冬期のアルプスやバリエーションルートを登ってきました。最近は親子登山に関心あり。文章と図を交えた“わかりやすい”記事づくりを心がけています。好きな山は八ヶ岳・剱岳・伯耆大山。ホームは南信州にある守屋山。

橋爪 勇志のプロフィール

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アイキャッチ画像制作:ぶん

台風による、登山中止が多発…

制作:ぶん
きたな!
9月~10月頃にやってくる台風シーズン。
「せっかく登山を計画していたのに、台風で予定が崩れてしまった」「毎週末やってくる台風で、全然山に行けない!」という経験がある方は多いのではないでしょうか。

台風は「暴風を伴った強い雨」が特徴。時に車が倒れるほどの強風や増水する河川などの災害をもたらし、時には人的被害も引き起こします。ご存知でしょうが、台風が接近している中での登山は非常に危険な行為です。

出典:PIXTA
そんな台風にまつわる”とある噂”をキャッチ。

それは・・・

 

 

 

 

長野県
作成:YAMA HACK編集部
つまり「周辺地域が警報や注意報だらけなのに長野県だけ何もなし」ということがあるとかないとか・・・

長野を守っているのは”ATフィールド”!?

出典:PIXTA 制作:ぶん
噂によると、長野県はひそかにこう呼ばれているようです。
汎用台風防御県「ナガノケンダヨン」と。

そして、そのナガノケンダヨンが持つ日本アルプスによるバリアこそが、通称ATフィールドと呼ばれています。
つまり我々登山者の心を魅了する日本アルプスの峰々は、時には登山者を暖かく迎え入れ、時には山の厳しさを教え、時には鉄壁のバリアとなっているのです!

日本アルプスが台風を弱らせるってどういうこと?

出典:PIXTA 制作:ぶん
長野県には南北に重なって「北」「中央」「南」の3つのアルプス、通称『日本アルプス』が連なっています。
山好きな方ならおなじみですよね。

しかし、なぜ高さ3,000mの日本アルプスが、上空10,000mを越える高度まで発達すると言われる巨大な台風の進行を許さない壁となるのでしょうか。
ん~、これは難しそうなので強力な助っ人に協力してもらいましょう。

強力な助っ人登場!山岳気象予報士の猪熊さん

猪熊さん
提供:猪熊隆之さん

猪熊隆之さん
山岳気象予報士であり、国内唯一の山岳気象専門会社ヤマテンの代表取締役。山の気象に関する講習会も多く行なうなど、山岳気象のスペシャリスト。

ライター橋爪
早速ですが、台風を弱らせる「ATフィールド」は本当に存在しますか?。

猪熊さん
(ATフィールド・・・?)台風のスピードが遅い場合、台風は急峻な山岳地帯を避ける傾向があります。

また、山岳は台風を構成する渦を弱める効果があるので、台風はアルプスを横断する場合、衰弱する傾向にあります。

ライター橋爪
台風になんらかの影響を与えているのは、間違いなさそうですね!

それでは台風の仕組みを学びながら、詳しくATフィールドの真相に迫っていきましょう。

なんでアルプスにぶつかると台風が弱まるの?

出典:PIXTA
台風は日本に接近する際、上空10,000mを越える高度まで発達。宇宙衛星からでも確認できる程に、大きく成長します。

この巨大すぎるとも言える塊が日本アルプスの力によって衰弱するのには、台風のメカニズムが大きく関わっているのです。

南海生まれ、南海育ち、元気の源は海のチカラ!

制作:ぶん
台風ができる仕組みについて、4つの段階にわけて解説します。

①南の暖かい海で、台風の卵(水蒸気)が生まれる
台風の始まりは、日本のはるか南の温かい海水から。強い日差しを受けた海水から水蒸気と共に上昇気流(※1)が生まれ、空高く上がっていきます。

※1)上昇気流:上に向かう気流のこと。雲を作ったり、雨を降らす原因となるもの。
②水蒸気は、上昇気流により積乱雲に
上昇していく過程で空気は冷やされ、水蒸気は水滴へと変化し雲を作ります。この過程で熱が生まれるため、たくさんの水蒸気を含んだ空気は大きな熱を発し更に上昇。真夏に雷を発生させることで知られている積乱雲になります。

③たくさんの積乱雲が渦を作り、台風の子ども(熱帯低気圧)が誕生
こうしてできたたくさんの積乱雲が、地球の自転により渦を作り出します。その渦の中心に吹き込む風により、周囲の水蒸気を取り込んでいき少しずつ成長し、台風の子ども”熱帯低気圧”になります。

④周囲の水蒸気を取り込みパワーアップ!台風へと進化
熱帯低気圧がさらに強まり、中心付近の最大風速が17.2m以上になったものが”台風”と呼ばれます。

日本アルプス越えは、台風にとってもハードな道のり

出典:PIXTA
私たち人間が食事を取らないとすぐにバテてしまうように、台風も勢力を維持するためにはエネルギー補給が重要なようです。
ライター橋爪
台風のエネルギーの元は、やはり水蒸気ですか?

猪熊さん
そうですね。台風のエネルギーは水蒸気です。しかし、エネルギー補給がうまくいかない台風は、たちまち弱っていきます。

ライター橋爪
エネルギーの補給がうまくいかないのは、どんな場合ですか?

猪熊さん
陸地にいる時です。上陸したり、海水温が低い場所に入ると熱と水蒸気が得られにくくなり、台風は弱まっていきます。

特に、上陸する時は弱まる傾向が強いです。

ライター橋爪
上陸した段階で、すでに弱まっているということですね。そこから日本アルプスが追い打ちをかけるんですか?

猪熊さん
日本アルプスにぶつかると台風が弱まるのは、台風の渦の形成にダメージを与えるから。

台風はいくつもの積乱雲群から構成されていて、その積乱雲群を維持するのに重要な役割を果たしているのが台風の渦なんです。

ライター橋爪
渦にダメージを与えられると、台風は自分の体を保てないんですね。でも、上空10,000mを越える高度まで発達すると言われている台風に、半分以下の3,000mくらいの日本アルプスで効果はあるんですか?

猪熊さん
構造上、台風は地上付近がもっとも風が強いです。しかし、地上付近は摩擦が働くので風が弱められます。

そのため、上空1,500m付近が風がもっとも強くなる高度となり、低い所の方が渦の形成に重要な風が強く吹くんです。そのため、3,000m級の山岳でも、この下層の渦を弱めるのに大きな効果が働きます。

ライター橋爪
つまり、山にぶつかることで発生する「摩擦」がATフィールドの正体ということですね!

猪熊さん
ATフィールドにやたらこだわるな・・・。

じゃあ長野に台風は直撃しないってことでOK?!

出典:PIXTA
こう聞くと、ATフィールドを越えられる台風はいなさそうですね。さすが汎用台風防御県「ナガノケンダヨン」。
猪熊さん
油断しないでくださいね。上空の偏西風帯に入るなどして台風がスピードをあげる場合には、山岳を避けずにそのまま突っ切ることがあります。

もちろん勢力は弱まりますが、スピードが速いと台風の進行速度のエネルギーが加わるので、進行方向右側で特に風が強まる傾向にあります。

ライター橋爪
なんと!台風の速度によっては、日本アルプスを越えてしまう場合もあるんですね。

【結論】ATフィールドは、ほとんどの台風を弱らせる

出典:PIXTA
ここまでの内容をまとめると
・ATフィールドの正体は「摩擦」。台風の渦を作る構造にダメージを与える
・日本に上陸するとエネルギー補給ができずにたちまち衰弱
・勢いのよい台風は、時にアルプスを越えてしまうことも
ということがわかりました。
噂の真相は見えてきました。「台風が弱まるなら長野付近の山なら行けそうかも!」って思っていませんか?

台風が弱まるなら山に行けるんじゃない?

制作:ぶん
今週末は楽しみにしていた山登り♪
と思っていたら、なにやら台風発生のニュースが…。でも、ナガノケンダヨンのATフィールドで守られているから大丈夫!

なんて、油断していませんか?
台風の勢力が弱まったといえ、強風や大雨の危険はそこにあります。台風によってどのような影響があるかを確認しましょう。

台風が上陸する前だったら心配いらない?

気象庁
出典:気象庁(台風に伴う雨の特性)
「台風が上陸するのは明日だから、今日は山へ行ける!」というのは、ちょっと危険。台風がまだ遠くにいても、油断はできません。その理由は、主に2つ。

日本付近に前線(※2)がある場合は注意。台風から流れ込む「暖かく湿った空気」が前線を活性化させ、大雨をもたらします。特に山の斜面では上昇気流が発生しやすいので、雲の発達に警戒が必要

②台風本体の外側に、渦を巻くように点在している雲を「外側降雨帯」と呼びます。本体から200〜600km離れている場所に発生し、断続的に激しい雨が降る可能性があるので、台風が日本付近まで近づいてきている場合は、油断は厳禁

※2)寒・暖の空気が地表面で接触する線を前線と言います

風の動きにも注意!

台風の動き
出典:PIXTA 制作:ぶん
台風は進む方向の右側の風が強く、左側がそれよりも弱くなる特徴があります。右側が強くなるのは、台風の吹き込む風に台風を進めるための風が加わっているからです。

台風の周辺は間違いなく「強風域」や「暴風域」になっているので、慎重な行動を心がけましょう。さえぎるもののない山の上では、想像を絶する暴風が吹くこともあります。

「台風一過」で好天に期待!でもまだまだ油断は禁物

出典:PIXTA
台風が過ぎ去った後の好天を、台風一過と呼びます。澄み渡った青空の下での登山は、最高ですよね。
ただ通過したからといって危険がなくなったわけではありません。台風の後は、以下のことに気をつけましょう。

①沢の増水
大雨のあと、沢の水量が通常の状態に戻るには2日ほどかかります。水の色が濁っている場合は、まだ沢が落ち着いていないサイン。
沢沿いのルートは避けるなど、計画を変更することが大切です。

②土砂崩れや落石の危険
大雨により地盤がゆるみ、土砂崩れや落石が起こる危険があります。土砂崩れは斜面で発生することがほとんどなので、トラバース(斜面を横切るように進む道)は速やかに通過しましょう。

③倒木などによる登山道の荒廃
強風による倒木や増水により、登山道が荒れている可能性も考えられます。通常のコースタイムよりも時間がかかることも想定し、早め早めの行動を心がけましょう。また、ルートが消えていることも考えられるので、道迷いにも注意が必要です。

山は逃げない!必ず安全優先で判断しよう

出典:PIXTA
台風の予測は刻一刻と変わっていきます。スマホの天気予報でも簡単に確認することができるので、こまめに情報をチェックしましょう。

判断基準は安全を最優先に。

また、台風や天気に関して学ぶことは、安全のためだけでなく山の楽しさや魅力を発見するきっかけにもなりますよ。

監修:猪熊隆之さん

「猪熊隆之の観天望気講座」やチーム安全登山会員用ページの「登山講習」で「雲から山の天気を学ぼう」という連載を行い、登山中に見られた雲や登山前に確認すべき天気図のポイントについてわかりやすく解説。
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