ドローン操作の難しさが普及を妨げている
小関さん
1つは人材の問題。ドローンを上に飛ばすくらいならそんなに難しくないんですが・・・。直接ドローンが見えない状態で木などにぶつけないように操縦するのって、けっこう難しいんですよ。
編集部 大迫
山では風の向きや強さが変わることもあると思うんですけど、見えていないのに操縦者はどうやって水平飛行を維持するんですか?
小関さん
機体によっては、ドローンに積んでいるコンピューターが傾きなどから計算して制御します。でも、もちろん風の影響などで進み具合も変わるので、そういったところは操縦する人の経験や技術ですね。
編集部 大迫
習得するだけでも大変ですね。
小関さん
それにドローンを撮影する現場近くまで、持っていかないといけないんです。私たちは山のプロではないので、捜索隊員の人のように山を登れるわけではないですし。
編集部 大迫
確かに。普段山に登らないのに数千mの山に登ってください!というのも、酷な話ですね。
中村さん
私たちが持っていっても、うまくドローンを飛ばせないんです。練習はしているものの、やはり難しい問題ですね。
簡単に使えないと、広がっていかない!
小関さん
私は、ドローンが自動で飛んで撮影できる仕組みを作ることが大切だと思っています。
編集部 大迫
山が登れる人にドローンの操縦を教えるのでは、ダメなんですか?
小関さん
ダメではないです。ですがそれだと、その人じゃないとドローンを使うことができません。それに習得に時間がかかってしまうんです。そんな難しいことだと、普及しにくいんですよね。
編集部 大迫
おっしゃる通りです。
小関さん
なので私は、テクノロジーの力を使うほうが良いと考えているんです。つまり、我々のような登山をしない人が行ける所からでも飛行して撮影できるドローンの機能を作ることが、重要だと思います。
試行錯誤して、1つ1つ問題を解決していく
小関さん
中村さんに協力してもらって実際にドローンで捜索をする機会もいただいていますが、正直まだ私たちも試行錯誤している状態なんです。
編集部 大迫
ドローンが一般的に知られてきたのも5年前くらいですし、さらに山岳遭難の現場での活用となると実働は多くないですよね。
小関さん
撮影の後も「もう少し低く飛ばせばよかったな」とか「どうやったら映像データが取りやすいかな?」とか、毎回試行錯誤しながらやってます。最近ようやくコツが掴めてきました。
編集部 大迫
まだまだ、山でのドローン活用は始まったばかりということですね。
小関さん
実は長い時間飛行できるドローンはあるんです。でも、それはスペック上の話で。実際、山の中で使うとなると電波の問題など、まだまだ解決すべき問題があります。こればっかりは、実験して経験を蓄積していくしかないですね。
ドローンを使った捜索活動の可能性って?

まだまだ試行錯誤を重ねていかなくてはいけない、山岳ドローン。改善していくことで、どんな活用ができるのでしょうか?
小関さん
まずは誰でも使えるものにすること。そしてそれは、捜索隊員の人が山に持っていけるくらいの小型な機体であること。ボタンを押すだけで離陸して、自動で特定の範囲を撮影できるようなものを作ろうと思っているんです。
広範囲を撮影できれば操作範囲を絞り込めるし、危険なところに入るリスクも減るので捜索隊員の安全も確保しやすくなります。僕たちが、遠隔で操作しているくらいが理想ですね。
編集部 大迫
人だと数時間かかるところでも、空からであれば数分で行くこともできますもんね。
中村さん
地上班は持ち運びしやすいコンパクトなドローンを持って遭難者のトレースをたどり、道迷いや滑落しそうなポイントで必要に応じてドローンを使って捜索を行っています。
岩棚や枝沢の捜索には、地上班が現場でドローンを飛ばして捜索するほうが有効なんです。
編集部 大迫
地上と空で、捜索の視点が増えるということですね。
中村さん
また、ドローンで人を見つけるだけでなく、待っている家族の人たちにドローンで撮影した場所を見せて、遭難者がどういう場所にいたかというこも見せることもできるんです。
いろいろな可能性があるので、今までの捜索方法だけでなく、違った視点でアプローチできるようになると思いますよ。
登山×テクノロジーには、可能性しかない!
今回お話を聞いて感じたのは、テクノロジーを活用することで登山はもっと安全で楽しくできるということ。今回は遭難捜索に関わるドローンでしたが、よくよく考えてみると登山用GPSアプリやスマートフォン、ココヘリなど、いろんなデジタル技術を使ったアイテムが広がっています。
そういったテクノロジーを上手に使うことで、より「山を登る」「景色を楽しむ」ことに集中しやすくなるのではないでしょうか?もちろんそれに頼り切ってしまうことは危険です。しかし、さまざまなレベルの人が登山を楽しむ現代において、便利なものを使って安全性を確保することは立派なリスク管理の1つだと思います。
ちなみに小関さんはこの取材の後も、ドローンの実験のために出張に行かれました。遭難捜索の現場の進化に期待しています!