景色が見えないのになぜ登るの? 視覚障害者と一緒に登山をして分かったこと

2018/10/31 更新

障害を持つ方でも、登山を趣味にしている方たちがいらっしゃいます。「危険じゃないの?」「景色が見えないのになぜ?」、一般登山者の多くはそんな疑問を持たれるのではないでしょうか。その疑問を解消すべく、視覚障害者登山に密着しました。


「なぜ山に登るのか」

鹿島槍ヶ岳
出典:PIXTA
みなさんはなぜ山に登りますか? 自然好き、達成感、山ごはん、ひときわ気持ちよい温泉と格段にうまいビールなど……理由は十人十色ですが、山頂や稜線から眺める壮大な景色は外せないですよね。
でもみなさん、目の見えない方たちも登山をしていること、ご存知ですか?
登山者
出典:PIXTA(イメージ)
実は国内には、視覚障害者と一緒に登山を楽しむ会が存在します。視覚障害者(以下、障害者)といえば、平坦な道でも白杖を頼りに歩いているイメージですが、健常者でも気を緩めれば事故になりかねないアップダウンのある山を相手にどうやって登るのでしょう?

疑問① そもそも、前が見えないのに歩くのって危なくない?→盲目で歩いてみた

障害者が登山って、普通に危ないのでは?そもそも、景色も見えないのになぜ登るの??

素朴な疑問を解決するには、障害者の立場になってみることが大切。そう思い、まずは試しに筆者・湯野澤が編集部の青柳に見守られながら、障害物のある公園で目隠しをして歩いてみました。

目隠し
撮影:YAMA HACK編集部(目隠しをするライター・湯野澤)
編集部
青柳
まずはすべり台へ行きましょう。
そのまままっすぐ歩いて大丈夫ですよ

湯野澤
いやいや、怖くて全然歩けません

キョンシー顔負けの垂れ腕

どこかにぶつかって大怪我をしてしまうのではという不安から、とにかく両手をぶらぶら動き回さないと進めない。

目隠し
撮影:YAMA HACK編集部

小鹿よりもひどいガクブル小股

ビビると足って本当にすくんでしまうようです。なにかにつまずいたり、段差で転んでしまうのではないか。歩幅がわからず自分の足でつまずく始末。
小股
撮影:YAMA HACK編集部
怖い。非常に怖いですが、編集部青柳の声がけ誘導のおかげで、すべり台~鉄棒を経て、ブランコにどうにかゴール。

結論:声掛けのサポートがあれば少しは歩ける

時間はかかるものの、声掛けサポートがあればアップダウンのある場所でもどうにか歩けることがわかりました(公園だけど)。ただ、登山となるとやはりかなり難しい印象です。

疑問② 景色が見えないのになぜ登るの?→障害者登山に同行してみた

公園で歩いてみて、声掛けがあれば少しは歩けることは分かりましたが、「目の前のことに集中しすぎて登山どころではない!」というのが率直な感想でした。こんな状況で本当に登山を楽しめるのでしょうか?

答えは現場にあるはずだ。「危なくないの?」の登山バージョン疑問も背負い、「視覚障害者と一緒に山歩きを楽しむ会 六つ星山の会(以下、六つ星)」に、サポーターとして参加してみました。

六つ星山の会 公式サイト9月某日、この日登る山は山梨県大月市にあり、山梨百名山にも選ばれている「高柄山(たかつかやま)」。六つ星が定めているグレードの中では比較的初級者向きで2,3時間ほどのコースとされています。
高柄山
標高所在地最高気温(6月-8月)最低気温(6月-8月)
733.2m山梨県大月市27.9℃12.9℃
参考:ヤマレコ
裏高尾エリアに位置しますが、週末でも人が少ない穴場でもあり、頂上からは陣馬山、生藤山、三頭山に連なる山並みが見渡せます。

サポーターとして持参するように言われたのがこちら。カラビナ3個と6~8mmのロープ3m。
カラビナと細引き 六つ星スタッフさんが、それをヒュルヒュルと手際よくバックパックに取り付けてくださいます。なるほど、障害者の方はサポーターのバックパックについたこのロープを頼りに歩くようです。
ザック この日の障害者は11名、サポーターは27名の計35名パーティ。障害者が単独で登山することはなく、必ずサポーターが同行しています。
準備運動 スタート前、障害者Aさんが健常者数人に黄色のゲイターを渡しています。しかも片足(写真左)。不思議に見ていると、今度は別の障害者Bさんが反射シートを渡しています。バックパックにペタリ(写真右)。
なるほど、おふたりは弱視のようで、障害者Aさんはうっすら見える足元の黄色を頼りに、障害者Bさんは前方の反射シートを頼りに歩けるそうです。2人はロープにつかまらず、ストックで歩けます。
団体登山 ロープを持つのは全盲の方々。健常者→健常者のロープを持つ全盲者→全盲者の主に足元を見守る健常者の、3人1組体制で歩きます。
視覚障碍者との登山 しかし高柄山のアップダウンの本当に険しいこと!
「30cmほど上がるよ。右足からがいいかな」「ちょっと道が細くなるよ」「はい、また広くなったから安心だよ」。

公園盲目歩きで得た結論、“声掛けサポート”により、ゆっくりではありますがパーティは頂上へ向かって進みます。

でもやっぱり気になったので、参加者に色々聞いてみました。

 

あのー、怖くないんですか?

わたしは生まれたときからの全盲なので、見えない道をなにかを頼って歩くことに慣れています。

「なにか」は、日常のよく知っている場所は”白杖”で、初めて行く場所や登山は”サポーター”です。サポーターがいなければそもそも登山ルートも分からないですし、慣れた山でも怪我をして迷惑をかけることは確実だと思います。

サポーターがいてくだされば、無敵。どんな山でも歩けるというか、歩いてみたいですね(笑)

 

(でも……、)景色が見えなくても楽しいですか?

風の感じで「あ、登山口に入ったな」とか、鳥の鳴き声も感じますよ。今回の高柄山のように初めて登る山のほうがわくわくしますし、ここは標高差があって登り甲斐がありますね

 

思い出しました。以前実施されたYAMA HACK読者アンケートのひとつ、「あなたが登山に求めるものは?」に対して、半数以上の人たちが「歩く行為そのもの」にチェックをされていたことを。ゆっくりでもいい、自然の音と空気に触れながら、コンクリートじゃない地面を歩くこと。景色を眺めることだけが登山の魅力ではなく、登山自体を楽しむこと、それは障害のある方も同じようです。

登山道

結論 視覚以外の四感で、自然に囲まれた山歩きそのものを楽しんでいる

視覚障害の人は生まれた時から目が見えない人や目が見えない環境に慣れた人ばかり。むしろ行ったことのない新しい環境の方がワクワクするそう。たとえ目が見えなくても、それ以外の四感を研ぎ澄ますことで全身で楽しんでいることがわかりました。

山で障害者パーティに出会ったときの心得

六つ星スタッフさん
向かって右側が六つ星スタッフの中川さん
景色が見えないということだけで、障害者も頂上を制し、山ごはんを楽しみます。みなさんもこれから山でそんなパーティに出会うかもしれません。そんなときでも動揺しない2つの心得を、六つ星スタッフの中川さんにお聞きしました。

登り優先ルールは変わらない

障害者も一般登山者も登山のマナーは同じです。ただ、障害者は大所帯が多いため、障害者が登りの場合、下りの一般登山者にお譲りすることもあり、またその反対もあります。

声を掛け合う思いやり

出会ったり、道を譲り合ったときの「こんにちは」「ありがとう」は障害者も気持ちの良いものです。「紅葉がきれいですよ」「右側に富士山がくっくり見えてますよ」など風景も伝え、自然をシェアしてあげてください。

障害者と歩く登山にも参加してみよう

今回六つ星に参加して驚いたことは、障害者も慣れているのでサポーター未経験の私でも気負いせず参加でき、平等に和気あいあい登山を楽しめたことでした。全国には障害者登山を支援する会が15団体ありますが、東京を拠点にしている六つ星山の会は創立1982年の老舗団体で、年間25の山行を企画・実施しています。ぜひサポーターとしても参加してみませんか?

こんな方におすすめ

・障害者を通じて、新しい山歩きを楽しみたい方
・参加人数は平均30名。パーティ登山が好きな方
・歩行時間は通常+0.5時間。ゆっくり歩きたい方
・決められた山行なので、登山計画が苦手な方
六つ星山の会 公式サイト

 

写真:湯野澤いづみ


関連する記事

関連する山行記録 byヤマレコ

視覚障がい者登山
この記事が気に入ったら
「いいね!」をしよう
湯野澤いづみ
湯野澤いづみ

父母と何度も歩いた福島の誇り、安達太良山を愛する福島県福島市生まれのフリーライター&ゆび編み講師。両親が使っていた山アイテムを受け継ぎ、現在は関東をベースに山歩きやDIYを愉しんでいます。山のヒトコトモノ情報を丁寧にお届けできるよう頑張ります!

登山専用コミュニティサイト「ヤマレコ」

OFFICIAL SNS

 

LINEでYAMA HACKをもっと手軽に。

登山用品から登山・トレッキングまで山に関する情報を毎日配信!
LINE友達限定の毎月当たるプレゼントキャンペーンも開催中!