取材後、気を失い倒れてしまう。学校は無期限停学処分に

今回、認識の甘さから引き起こした道迷い遭難。学生にも関わらず、学校へ登山計画を未届だったと言います。当時、jyunntarouさんの通っていた学校には山岳部がなく、遭難した4人をはじめ署名活動をつづけ“山岳部発足”の条件を満たし顧問を探していたタイミング。登山計画が未届だったため、当然学校にも多くの心配と迷惑をかけ、jyunntarouさん達を待っていたのは、無期限停学処分という厳しいものでした。
「助からない方が良かった。死にたい」何度も“自殺”がよぎる。捜索費用は400万円超に・・・

マスコミからの追求や周りの目、そして無期限停学による自宅を一歩も出られない日々。jyunntarouさんは精神的に追い詰められ、沢山の人が必死に命を救ってくれたにも関わらず何度も、自らの命を絶つことを考えます。
今回捜索に関わってくれた人は、約200人。後日、家族の元に届いた請求は、捜索に関わる細かい雑費や交通費、食事代や旅館代なども含めると、軽く外車が1台変えてしまうような金額にまで膨れ上がっていたのです。
とにかく辛かった。お世話になった人へ頭を下げ続けてくれたのは、親だった

遭難から少し治まって日を置いてから、お世話になった方々への菓子折りをもってのお礼参り……。無期限停学を受けていた自分は動くことが許されず、母親をはじめ家族が動き回ってくれていました。
しかも通っていた高校は、この事故をきっかけにすべての部活を対象に、夏の対外試合を全て自粛させ、それまで必死に練習してきた部員のみんなに謝っても謝りきれない状況になってしまった。また、無期停学を喰らいますと、なかなか進路も難しくなります。申し訳なくて、本当に辛かった。
by jyunntarouさん
これが遭難の実態。2016年9月、当時の救助隊長は、それを知らずに駐車場まで送ってくれることに

あれから数十年。当時、助けてもらったにも関わらず挨拶も出来ず、そして大人になっても自ら動くことが出来ずに月日がたってしまったjyunntarouさん。この奇跡と偶然は、きっと何か意味がある。住民の皆さんは気遣って「口に出しちゃいけないよ」と言ってくれたけれども、jyunntarouさんは言わずにはいられなかったのです。
「あの時の高校生の遭難事故のリーダーだったんです」車の中は、空気が張り詰めた・・・

しばらく間が開きました。車の中は空気が張りつめました。そして彼は話し始めました。「あの高校生4人の遭難事故……天気毎日悪かった。雷雨が激しくて皆、胸まで川に浸かって探しておりました。私は、下の神童子から探していました。その他の捜索隊の班は、小笹の右尾根から、上から攻めて、……確か、第2班が帰り際に発見し、私の所へ連絡が入ったのを覚えています。小笹の一の滝と二の谷の間に挟まれて、出られなかったのでしょう……」
by jyunntarouさん
「前の尾根をごらんなさい」当時の隊長は、激怒するどころか、秘密の・・・素敵なルートを教えてくれた

僕の話を聞いて、激怒するどころか……満月に照らされた山を指さして「前の尾根をごらんなさい。あれが稲村に直接登る尾根です。カンスケ尾です。」と秘密のルートを教えてくださいました。元猟師さんでもありますので、大峰のこの辺りは何でも知っていらっしゃいます。小笹の谷の二ノ滝以上のゴルジュの様子も教えていただきましたし、小笹は右の尾根が使えることも丁寧に教えてくださいました。
by jyunntarouさん
「神橋と申します。沢に行くなら、時間を考えて登りなさい」

4人を救ってくれた救助隊長の“神橋さん”。数十年ぶりに、お礼と謝罪が出来、事故の後も山を続け人生を続けてきてもずっと心の中にあった苦しい感情が、奇跡と偶然の出会いで救われたといいます。
車を置いている所に到着すると、笑顔を見せてくださいました。「神橋と申します。一つだけ言っておきますね……。」「沢に行くなら、時間を考えて登りなさい。」「はいっ!」私は、直立不動の姿勢で返事をしました。神橋さんの目が許してくれていました。そして、Uターンして洞川の村まで帰る車のテールランプが消えるまで見送りました。
by jyunntarouさん
子供たちに伝えよう。今、jyunntarouさんは、教師として自身の体験を伝えている

月日が流れ、今、jyunntarouさんは教師をしているそうです。今回奇跡の出会いがあった温かい洞川の住民の皆さんや神橋さんのエピソードをはじめ山での様々な経験を、自分だけの記憶に留めず、子供たちにも語っています。
卒業した教え子には、手作りの卒業証書と、“先生の登山姿の写真入り(!)”のお守りカードもプレゼントしたとか。きっと子供はいつか、jyunntarouさんに聞いた話を理解し実感する日が来るのかもしれません。

お守りカードの役割は、彼の教え子でなければ知らない”秘密のカード”。とても辛い体験だったにも関わらず「自分のミスが起こした経験が少しでもみなさんの役ににたつのなら……」と快く取材にご協力してくださったjyunntarouさん、今回は本当に貴重なお話をありがとうございました。是非、これからも安全にはくれぐれも気を付けて山を愛し山や人の温かさ、厳しさを子供たちに語り続けてくださいね。
道迷い対策・遭難の際に対応にあたって
今回ご紹介した内容及び連載は、実話に基づく情報であり対応方法など推奨するものではありません。必ず、経験や体力にあったルートの作成、装備の準備など、事前準備を行いましょう。また、是非お近くの山岳連盟や登山用品店が開催している地図読み講座や安全登山対策講座に参加し知識と経験を積んで、万が一の時に対応できるように備えましょう。
書籍や記事で山岳遭難を知って、安全登山の心構えを持とう
エイ出版社 山岳遭難エマージェンシーBOOK
新潮社 「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から
幻冬舎新書 山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難
ヤマケイ文庫 ドキュメント生還-山岳遭難からの救出
ヤマケイ文庫 ドキュメント 道迷い遭難