『無事に下山できることって奇跡ですよね』

若村さんはjROでの活動を通して、十数年間、山岳遭難とそこに関わる家族を見てきたのです。今回そんな若村さんに、安全に登山を楽しむために登山者に知ってほしいことを聞いてきました。
山岳遭難対策制度ってなんですか?

編集部 大迫
そもそも、山岳遭難対策制度って保険とは違うんですか?
若村さん
違いますね。ざっくり言うと、こんな感じです。

若村さん
jROの制度ではお金の補填だけでなく、山岳遭難の減少や事故が起きてしまった場合の負担を軽減するための総合的な制度です。
編集部 大迫
事故の補填金は、サービスの一部ということですか?
若村さん
そうなります。それ以外にも、jROでは遭難の定義を「自力で下山できない状況」と定義づけているので、近年増えている心疾患や脳疾患での遭難も対象です。
編集部 大迫
保険ではカバーしにくい部分の対応も可能なんですね。しかも、jROは捜索・救助費用の補填以外にも、遭難しないためやしてしまった時の対策も講習会で学べるんですね。
若村さん
最近は山岳会ではなく、個人や友人と山に登るのが主流です。そのため、安全に登山を楽しむための技術や知識を学ぶ場を提供することも、大事なことだと考えています。
行方不明者の家族の負担は想像以上!

そこには想像を超える「遭難者の家族の負担」とその負担をなくしたいという思いが込められていました。
捜索のコンサルティングって何をするの?
編集部 大迫
遭難捜索の流れを教えてもらえますか?
若村さん
遭難者の捜索の流れを簡単にまとめると、このようになります。

編集部 大迫
えっ!遭難捜索って、家族がいろいろ決めないといけないんですか?
若村さん
はい。警察での捜索が終了した後は民間での捜索になります。
その時に「どの救助隊に依頼するか」「どこを探すか」「どうやって探すか」などを含めて決めるのはご家族です。
その時に「どの救助隊に依頼するか」「どこを探すか」「どうやって探すか」などを含めて決めるのはご家族です。
編集部 大迫
登山やっている人でも難しそうだし、登山をやっていない人だと、何をどうしていいのかわからないですよ!
若村さん
確かに難しいですよね。なので、ご家族が捜索方法などを決定できるように、捜索方法や場所、どの民間に依頼するかや捜索方法の打ち合わせに立ち会ったりします。
編集部 大迫
何をどうしていいのかわからないことだから、専門の人が助けてくれるのは心強いですね。
家族にかかるのは精神的負担だけじゃない?

若村さん
行方不明遭難者の家族の苦痛って、本当に大きいんですよ。
編集部 大迫
大切な人が帰ってこないのはつらいですよね。たとえ亡くなっていたとしても、見つかることがご家族にとっては嬉しいことと、聞いたことがあります。
若村さん
もちろん精神的負担もあります。しかし、その後の経済的負担も家族にとっては馬鹿にならないんです。例えば、民間救助隊の出動では次のような費用が発生します。

若村さん
jROの過去実績では、平均約40万くらいです。しかし、行方不明の場合は隊員数と日数が増えたり、民間のヘリやドローンなどを使用することがあるため、数百万規模に達することもあります。
編集部 大迫
民間のヘリコプターは、1分間で1万円(あくまでも目安)と聞いたこともありますし、数百万単位の負担となると残された家族の経済的負担はそうとうなものですね。

若村さん
捜索自体にも莫大な費用がかかりますが、行方不明の場合はそれだけで終わらないこともあるんです。
編集部 大迫
どういうことですか?
若村さん
例えば、家族のいる中年の会社勤務の人が行方不明になってしまったとしましょう。
会社は数ヶ月は休暇や休職扱いをしてくれますが、やがて自己都合退職扱いとなり、低率の退職金支給となってしまいます。
会社は数ヶ月は休暇や休職扱いをしてくれますが、やがて自己都合退職扱いとなり、低率の退職金支給となってしまいます。
編集部 大迫
定年退職や会社都合退職でないからですね。
若村さん
会社の健康保険からは脱退、その他の社会保険からも対象外。しかも、遭難者が見つからない場合、7年間は死亡とみなされないため、遺族年金の支給や死亡保険を受け取ることもできません。
編集部 大迫
住宅ローンを始めとする各種ローンの支払いや、銀行口座の凍結なども考えられますね。
若村さん
遭難に合わないことはもちろんですが、とにかく行方不明にならないで!ということは講習会などでもつねに伝えています。
絶対に行方不明になってはいけない!登山者がやるべきことって?

家族や近い知り合いに「どこの山に行くか」を伝える

若村さん
登山計画を出すことはもちろんですが、チラシの裏でもLINEやメールでもいいので、あなたがいなくなってことに気づいてくれる人に「どこの山に登るのか?」だけは絶対に伝えてください。
編集部 大迫
「どこの山に登ったか」がわからないと捜索範囲の決めようもないので、口頭だけでなく情報として残る手段がいいですね。
若村さん
その他、登山中も自分の軌跡を残しておくことが大切です。写真を家族や友人に送ったり、SNSに載せる。ジオグラフィカという登山用GPSアプリであれば、自分の位置情報を簡単に送ることもできます。
編集部 大迫
アナログな方法でいうと、登山者や山小屋の人への挨拶も自分を記憶に残してもらうために有効ですね。
やはり「ココヘリ」は有効!

編集部 大迫
最近だとココヘリやドローンなど、捜索の世界にも新しいテクノロジーが入ってきていますが、効果は感じますか?
若村さん
ドローンを使った捜索はこれからですが、ココヘリは素晴らしいですね。このゴールデンウィークにも、遭難者の捜索に役立っていましたよ。
編集部 大迫
ココヘリは発見実績も増えてきていますし、登山者は持っていたいアイテムですね。
若村さん
たとえどんな状況であっても、遭難者の位置がわかればそれは行方不明ではありません。日本の警察や捜索団体の力は極めて優れているので、位置さえわかればヘリや地上部隊の救助が期待できます。
危険があることをしっかりと認識しておく

編集部 大迫
行方不明の原因って、単独行の道迷いが多いと聞いたことがあるのですが?
若村さん
そうですね。団体ではなく、個人で登山に行く人が増えたように感じます。
男性は50代~60代くらい、女性は30代くらいの単独の登山者をよく見かけます。単独の場合、何かあっても気づかれにくいので特に注意が必要ですね。
男性は50代~60代くらい、女性は30代くらいの単独の登山者をよく見かけます。単独の場合、何かあっても気づかれにくいので特に注意が必要ですね。
編集部 大迫
コースを失うと、焦りと自信喪失により頭が真っ白な状態になってしまうそうですね。
若村さん
行くところまで行くと「地図が間違っている」「この道を下ればいつかは、下山できる」などと、自分に都合が良い思い込みをしてしまうようです。
編集部 大迫
そして、気力体力を失い動けなくなってしまうわけですね。
若村さん
登山は誰でも簡単に始めれます。しかし、そのフィールドは素晴らしい一面もありますが、過酷で厳しい自然の中。そんな中に入っていくのですから、自分で自分を救うための知識や技術を普段から学んだりすることが大切だと思います。
編集部 大迫
技術や知識を身につけることも大事ですが、「リスク」があることを知って登るのと登らないのとでは、かなり違いますからね。
遭難者をゼロにすることは難しいが、行方不明をゼロにはできる!

過剰に怯える必要はありませんが、登山に潜むリスクを意識して登山をすることも、山を楽しむために大切なことではないでしょうか?
jROが気になる方は
