トレイル整備のきっかけは「感謝」。登山者が通る道を、走る人が守る

英樹さん
イベントが終わったあと、毎年“お礼回り”をしているんです。
H3を無事に開催できた感謝の気持ちを込めて、地元の方々や協力してくれた施設を訪ねて歩くのが恒例となっているそう。2024年の開催後、その「お礼回り」で訪れた金太郎茶屋での何気ない会話から、登山道の整備活動が動き出しました。
「トレイル整備、やってみませんか?」
──ふとした一言が挑戦のきっかけになったのです。

以前から、山頂付近を一人でコツコツ整備する金太郎茶屋のお父さんの姿を見かけていた英樹さん。
英樹さん
ずっと気になっていたんですよ。なにか手伝えることがあるんじゃないかって。
誰かの手で道が守られている。その事実を目の当たりにしてきた彼らだからこそ、「遊ばせてもらってるフィールドに恩返しがしたい」という気持ちが自然と育っていったのです。
整備したのは「登山者が通るエリア」。その理由は……

チキンハートが最初に整備に選んだのは、意外にも自分たちがあまり走らないルート。トレイルランナーよりも登山者の利用が圧倒的に多いコースです。
英樹さん
自分たちのためだけでやっている、と思われたくなかったんです。
「ランナーの快適性」ではなく、「山を共有する誰かのために」が整備の目的。だからこそ、あえて登山者の多い道を選んだそう。歩きやすくなった道は、きっと誰かの笑顔を作っているはずです。
実際に参加!ツラい時こそ笑顔を忘れないチキンハート流・トレイル整備

筆者も実際にトレイル整備に参加。足場の補修や土の掘り起こし、機材の運搬など、思っていた通りの重労働。「こりゃ大変そうだ……」とため息が出そうなその時、過酷なレースを経験してきたチキンハートのチームワークが本領発揮!役割分担して作業に集中できる環境を作ってくれたり、時折ユーモアを交えた声掛けをしてくれたりと、大変ながらも楽しく整備ができました。
さすが、心の強さと仲間とのつながりを大切にするチキンハート。ちょっぴりチームに入れたような、嬉しい1日になりました。
また、今回はチームのメンバーだけでなく、他のチームからも多くの参加者が。
英樹さん
交流を通じて、各チームがマナー啓発や地域貢献の意識を共有して、活動を広げていくことができると考えています。
参加者とSNSでも広がる好意的な反応。「守っている姿」に共感の声

撮影:筆者
登山道の整備活動に参加した人たちからは、「何気なく歩いていた山に感謝するようになった」という声が多く聞かれたそう。
SNSでの発信ではトレイルランナーだけでなく、登山者からもコメントが寄せられました。「整備していることを初めて知った」「参加したい」という声も上がり、“守っている姿”が広く認知されていっています。
英樹さん
この活動を通して、自分たちがただフィールドで遊んでいるだけでなく、地域貢献もしているということが伝わってきているな、と感じています。
整備は道をきれいにするだけでなく、山や人、人と人の距離を縮める架け橋にもなっていました。
マナーを伝えるには── 想いを込めた看板設置プロジェクト
今回のトレイル整備とは別に注目だったのが、H3開催時に行われたチャリティフリマの売上金の寄付。箱根外輪山にトレイルランナー向けの看板を設置するためなのだそう。

英樹さん
マナーを伝えていかなきゃね、と思いつつも、どんなカタチにすればいいか思い浮かばなくて。そんな時、たまたま出たレースで見かけたマウンテンバイク用のルール看板がすごく分かりやすかったんです。「あ、これいいな」って。
登山者もトレイルランナーも通る道に設置されていて、箇条書きで1分かからず読めて。「こんなことを意識して山に入っている」というのが、伝わってきました。
トレイルランナーに広めるのはもちろん、登山者にも、マウンテンバイカーにも、街の人たちにも、お互い認識してもらいたいと語る英樹さん。
山を共有する仲間に、同じように気持ちよく使えるルールを伝える方法としての看板設置。その最初の一歩を踏み出しました。
見る人みんなが気持ちよくなる看板を、まずは箱根から
英樹さん
デザイン性のある看板にして、見た人が写真を撮って「こんなのあったよ〜」とSNSに投稿してくれたら嬉しいですね。より早く広まって相互理解が深まると思うんです。
看板に込めたいのは、“禁止”や“注意”のニュアンスだけではないとのこと。「マナーを知ることで、自分も相手も気持ちよく山を楽しめる」というポジティブなメッセージです。

出典:PIXTA 山でよく見かける看板の一例。かわいいデザインに目が留まり、内容も分かりやすい。
看板は箱根外輪山のトレイルランナーがよく通るコースや、登山者に人気の登山口に設置する予定。
英樹さん
最初は箱根から。いずれは全国の山に広げたいです。
地元だけでなく全国のフィールドで「山を共有する文化」を根づかせることが、チキンハートの次なる目標です。
整備もイベントも“自分ごと”にできる場所をつくる。チキンハートが目指す未来

H3やトレイル整備活動のほかにも、渋谷区と逗子で月1回のゴミ拾い活動も行っているのだとか。
英樹さん
普段走っている街に感謝を込めて行っています。社会貢献にもなっているし、少しづつコミュニティ感も出てきました。もう1歩先へ進めるように模索中です。
チームで増えてきた若い世代や初心者を巻き込み、マナーや自然への感謝を伝える活動に取り組んでいきたいと言う英樹さん。そしてH3のように、皆がチャレンジできる場所を作りたいと考えているそうです。
「走る」以外のことで成長を
撮影:Taukmi Ishiyama
英樹さん
レースに出るだけでなく、イベントの開催側やボランティアとして関わること、トレイル整備なども大切なことですよね。走る以外のことをする機会が増えれば、より自信がついて他の活動に参加しやすくなると思います。
トレイル整備やマナー啓発は、レースのように順位やタイムはつかないけれど、「自分の手で山をよくした」という確かな達成感が生まれるのでは。挑戦の形はひとつじゃない、そしてそれを受け止めてくれる温かさがチキンハートにはある、と感じました。
想いは同じ。みんなで守るこれからの山
山でのスタイルが違う登山者もトレイルランナーも、マウンテンバイカーも、「山が好き」という気持ちは同じ。
英樹さん
居酒屋で飲めば絶対仲良くなれますよ!
笑顔で話す英樹さん。気持ちを直接語り合えたら、誤解も壁もあっという間に溶けてしまいそうです。

撮影:筆者
走る人も、歩く人も、立場やスピードは違っても、山や道をきれいに保つためにできることはたくさんあります。
「何もできないヤツらでも、一歩踏み出せば何かを成すことができる」
チキンハートが教えてくれたこのことを、同じ景色を共有する仲間として「また来たくなる山」を一緒に守る──。
その輪が、これからもっと広がっていくことを願っています。