南アルプス「こもれび山荘」が営業再開!台風、コロナを経た山小屋のいま

2021/06/11 更新

南アルプス北部、北沢峠にある「こもれび山荘」。山奥にあるのに林道沿い沿いでアクセスが良い人気の山小屋ですが、2019年には台風19号による道路の分断、さらに2020年から続くコロナによる影響で長い間休業を余儀なくされてきました。そんなこもれび山荘が今年の4月25日から営業を再開!
休業期間中のこと、コロナ禍の山小屋の利用について、今考えていることを聞いてきました。


出典:PIXTA(南アルプス・北沢峠)
南アルプスの人気エリアで甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳の間、北沢峠にある「こもれび山荘」。
山奥にありながらバス停の目の前という絶好の立地で登山客以外も遊びに来るほどの山小屋ですが、実は今年4月25日の営業開始までさまざまな困難があったのをご存知でしょうか。

遡ること2019年、最初に起きたトラブルが全国に甚大な被害をもたらした台風19号の被害。南アルプスの林道が分断され、山梨県側からのアクセスは数年は無理という絶望的な状況となりました。

出典:気象庁(当時の天気図を見ると台風の中心気圧は950hPa。箱根の降水量は全国史上1位を記録した)
そこにたたみかけるようにやってきたのが2020年、新型コロナウイルス感染拡大防止対策による休業です。まさに「泣きっ面に蜂」ともいえる状況。

山小屋の運営自体、厳しい状態が続きますが、ついに今年4月25日から山小屋の営業が再開されました。
再開に至るまで、どんな苦労があったのでしょうか。
2009年ごろからこもれび山荘の主人を務める竹元直亮さんに、これまでのお話とコロナ禍の小屋の利用についてお話を伺いました。

台風被害と新型コロナウイルス、被害状況は?

お話を聞いたこもれび山荘の竹元さん
ーー台風19号と新型コロナウイルス、とても大変だったかと思いますが、山小屋の被害はどんなものでしたか?

2019年はある程度シーズンの後半だったんですけど、10月の紅葉のお客さんはみんな来れなくなってしまいましたね。
その影響もあって食料だけでも1000人分くらいは廃棄することになりました。

ーー1000人!かなりの人数分ですね……。

しかも、次の年の分も見越して食料を用意していたんですけど、食料庫に水が入ってしまいそちらもダメになってしまいました。
それだけでも結構きついんですが、翌年、コロナで休業が決まった時はさすがにグッと来るものがありましたね。

常連のお客さんからは「すごく残念です」とか「再開したら必ず行くんで」とか、たくさんお客さんからの反響があって嬉しかったんですが、2020年に入ってからは世の中的にも、登山者の間でも、みんなコロナの話題一色。

台風の被害を次第に忘れ去れてるんじゃないかという感じはあって……それが心情的にも苦しかったですね。

休業が決まってからの変化は?

ーー休業が決まってまる一年以上、かなりの時間があったかと思いますが、その間何をされていましたか?

小屋の修繕とか、再開に向けた食料の調達なんかはずっと大変ですが、実はそのなかで新しいことも始めています。

ーーどんなことでしょう?

山小屋って、動けないんですよね。お客さんに会いにいけない。来てもらうしかないんですよね。
でも、今回みたいに閉ざされてしまった時に、どうやってこもれび山荘として皆さんに動いてもらったり来てもらえるかをずっと考えていました。


その中で考えたのがオリジナルグッズの通販です。

山小屋のグッズって、そこで過ごした思い出に浸るような、お土産みたいな感じで通販しているところがいくつかあると思うんですが、私がやろうとしているのはその逆。
こもれび山荘を知ったり来てもらうためのきっかけとしての通販をやろうと思っているんです。

ーーほぉ〜!どんなものを売ろうと思ってるんですか?

まだ山小屋に来たことがない人がそのグッズに触れることによって、「こもれび山荘ってきっとこんな感じのところなんだろうな」と思ってもらえるようなものです。こもれび山荘らしさというか、こもれび山荘を作っているもの、構成している要素をのせていくようなイメージですね。

だから、登山に関係するものじゃなくてもいいんです。デイリーユースでいつも使えるようなもの。

今は測量野帳とか色んなものを作ろうと思ってるんですけど、いろいろ細々やりすぎて結局まだ準備ができてないという(笑)

販売予定の測量野帳とTシャツ
去年は小屋の修繕業務と一緒に、こういったグッズの制作もしていましたね。
あとは業者に頼んで作るのもいいですけど、手作りのものも山小屋っぽくていいかなと思っていて、いろいろ準備をしているところです。

ーーこもれび山荘らしさを感じるグッズって、とても素敵な響きですが、最終的にどんなイメージになりそうかもう少し教えてください。

シンプルにいうと、ヴィレッジヴァンガード(以下、ヴィレヴァン)ですよ!
ヴィレヴァンって、色んなジャンルのものがごちゃごちゃ店内に置いてあると思うんですけど、まとめて見れば不思議と「ヴィレヴァンらしい」ってなりませんか?
山荘もそんな感じで、色んなものをたくさん用意しようと思ってます。

ーーたしかに、ヴィレヴァン独特の雰囲気というか、世界観がありますよね。めちゃめちゃわかります!!

なので、こもれび山荘もたくさんグッズを用意しようと思ってるんですが、先ほど言ったように先立つものがまだないという(苦笑)
もうすこしで準備できそうなんだけどな・・・。

あとは、こもれび山荘らしさを表すものとして、色んな本をセレクトして置いてあるんですが、これらの本の販売もやってみたい。
“標高の高い本屋さん”として、毎月数冊セレクトしておこうと思ってます。お楽しみに。

山小屋に来る方に伝えたいこと



ーーこもれび山荘に来てもらうためのきっかけとしてのグッズ販売。とても楽しみですが、いざ来るとなるとコロナ禍の登山、特に山小屋は人が多く集まる場所です。どんなことを意識してもらいたいですか?

全ての安全対策は安心対策でしかない。100%の安全なんてないということを理解いただきたいです。

今の世の中、お店を利用した人が感染した場合、「お店ではどんな感染対策をやっていたか?」といった内容がよくニュースになるじゃないですか。
でも例えばコロナ対策をしていない場合をリスク10とした場合、お店側だけでリスクをゼロにするのは不可能なんです。
本当にゼロにするなら防護服を着てもらったりすることになりますが、利用する方もそこまで求めているわけじゃないじゃないですか。
現実的に考えてどんなに感染対策をしていたとしてもゼロリスクなんて無理で、結局どこまでやればかからないか?なんてわからないんですよ。

もちろん山小屋もできる限りのことはしたいと思っていますが、来ていただくお客さん自身も自らのリスクを意識して気をつけて欲しいです。

仙丈ヶ岳
撮影:筆者(仙丈ヶ岳)
ーー実際、コロナのリスクを回避するというよりはある程度感染リスクを理解した上で来る人が多いような気はしますね。
そうですね。だから自分は絶対うつりたくない!!という人は正直来ない方がいい。
実は感染リスクが高いのってお客さんよりもたくさんの人と接するスタッフの方なんです。そして現実的に、ウイルスを運んでくるのはおそらくお客さんの可能性が高いでしょう。
お互いがリスクを抱えている。だからこそリスクを等分したいです。

ーー山小屋側の対策に委ねるのではなく個人の意識が重要になってくるわけですね。

結局、登山と一緒なんですよ。
登山は常に周りの環境や自分の状態を見ながらリスクを計算して行動しますよね。山小屋としてはできる限りのことをする。
だからこそ来ていただけるお客さん一人一人もご自身の管理をしっかりやっていただきたい。

やってることは自分自身や周りの人がリスクを減らして安心して過ごせるかどうかでしかないんですよね。そこはどうかご理解していただきたいです。

山小屋の感染対策への取り組み

撮影:筆者(2018年のこもれび山荘)
ーー山小屋としてできる限りの対策をするとのことでしたが、具体的にはどんなことをされているのでしょうか?

特別なことではないですが、宿泊人数を従来の半分にして検温やマスクの着用、パーテーションの設置など、当たり前のことを淡々としていくしかないですね。
あとは一昨年までは大皿料理でドーンと出してビュッフェのような形で食事を提供していたんですが、それは一人一人に提供する形に変わる予定です。

ただ、料理のクオリティに関しては心配しないでください。
提供できる人数が減る分、サービスや料理のクオリティは上がり、これまでよりも満足いただけるものになると思います!

こもれび山荘 クラフトビール ーーこもれび山荘といえば料理!という人も多いはず。これは嬉しい情報ですね!他にも楽しみになりそうな情報はありますか?

あ、それと、新しくタンブラーやパイントグラスを用意しようと思ってます。それを持ってきたら伊那のクラフトビールを飲めるようにするとか。

ーーそれ、めちゃくちゃいいですね。飲むためだけでも行きたい。

これがうまいんですよ。最近はクラフトビールも浸透してきているんですが、うちは樽で用意してるんです。
2年前から始めたんですけど、すごく評判が良くて、今年もやろうと思ってますね。

他にも、南アルプスの天然水を使った手作りのハイボールの販売も考えてます。

ーーえ、なにそれ素敵!

まぁ、いつも使ってる水で作るハイボールなんですけど(笑)

ーー確かに(笑)でもとっても美味そうです!楽しみにしてます。

せっかく伊那に来たのなら地元のものを食べたり飲んだりしてもらいたいじゃないですか。もちろん、大声出したりはしゃいだりするのはダメですけどね。

期待はあるけど不安も。こまめに情報をチェックして

仙丈ヶ岳
撮影:筆者(甲斐駒ヶ岳)
感染対策だけでなく、少しでも来た人を楽しませたいとずっと考えていたこもれび山荘。
ワクワクするような取り組みがある一方で、竹元さんが一番気にしていたのはまたいつ山小屋の営業を休止になるかわからないという不安でした。

急遽休業することになればせっかく準備した食料は最悪廃棄する可能性も。本当に今年の営業は大丈夫なのか、林道のバスは動いてくれるのか、色んな不安要素がある中での2021年の営業となりそうです。

登山者の皆さんはこれまで以上に不安定な時期だからこそ、山小屋の発信する情報や交通アクセスの状況をこまめにチェックするようにしましょう。

最後に、苦労や心配を語ってくれた竹元さんから、山荘のファンに一言いただきました。

「悲しいこともあったけど、私は元気です。」

(ん??どこかで聞いたことがあるセリフだな……)

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青柳 喬

2020年1月までYAMA HACKの2代目編集長。福岡県育ちで九州の山から日本アルプスの縦走、雪山登山まで様々な山を登ってきました。特にアルプスの長期縦走が大好きです。読者目線で分かりやすい、ためになる記事制作を心がけています。

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