そうしたなかで2020年秋からガイド活動を始めたきっかけは、“補助金頼み”ともいわれる国内林業の先行きの不透明さがあったそう。ただ「特殊伐採」と山岳ガイドを組み合わせたら、林業の世界でも仕事を続けていける。そんな思いに加え、コロナ禍での心境の変化もあったようです。
「去年、緊急事態宣言下での登山がSNS上で炎上していたので、僕もアルパインクライミングを自粛して里山ばかり巡ってみたらなかなか面白くて。実際、里山はガイドを頼むほどの山ではないと思うんですが、一回ご案内すれば、あとはお客さんご自身で季節を変えたりして何度でも来ることができます。そのきっかけづくりのお手伝いをさせてもらえたらと思っています」
そこに林業の経験を踏まえた森林案内を組み合わせるのが、馬目さんのガイドスタイルです。
「いろいろと森林のことを覚えるレクチャーというよりは、自然観察を気軽に楽しむサポートができたらいいですね」
下山時に子どもをおんぶ?!登山者に合わせた山歩き
もちろん、初めて山登りをする人には歩き方やトレッキングポールの使い方から教えますし、さまざまな要望にも対応しています。例えば、保育園年中組の女の子を含めた親子3世代の家族の里山ガイドをしたときには、帰り道に馬目さんが女の子をおぶって下山したそう。
「登りやすい低山でしたが、女性だけのグループだったので、お子さんが歩けなくなった時のことを考えてご相談を受けました。僕がおんぶするなどのサポートができれば、小さなお子さんがいるご家族でも山登りを楽しんでいただけます」
そんな会話の合間に響き渡るのは、馬目さんの熊鈴。ひときわ大きく高らかです。これはエベレスト街道の奥地で買ったヤクのツノでできた鈴で、ネパールの山間部に行くとあちこちでこの音が鳴り響いているのだとか。そんな鈴の音が、異国情緒もかき立ててくれます。
これが里山?!急勾配の先に広がる絶景に感動
狭いながらも整備された登山道は30分ほどでさらに急峻に。「これから気をつけてください」と馬目さん。
戦国時代に番兵が物見をしていたこの山は、当時、眺望のために木々が伐採された禿山だったのではないかと馬目さんは話します。
「太い広葉樹が全然なくてアカマツが生えているということは、一回伐採された後だと思われます。この辺のアカマツの樹齢は70年あるかないか。マツ林は長野県の原風景ではないんです」
そんな話をしていると視界が開け、眼下に生坂ダムや水鳥公園が見渡せる「おおこば見晴台」へ。その絶景たるや! 独特に蛇行する犀川のうねりや生坂村ののどかな風景、その先に見える残雪の北アルプスの眺めに心が弾みます。
さらにしばらく登るとロープやハシゴのある急坂に。このポリエチレン製のトラロープはクライミングロープとは作りが異なり、強度はあるものの結束強度が弱く、紫外線劣化すると簡単に切れてしまうため「あまり頼りにしないほうがよいですよ」と馬目さん。
この急傾斜を越えるとさらに視界が開け、稜線に出ました。西側に雄大な北アルプスの峰々、東側には聖高原や四阿屋山(あずまやさん)、岩殿山(いわどのさん)といった地域の里山が重なり合い、緑豊かな森が広がります。
稜線をはさんで東西の絶景を一望できる景色に感動です!