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インドア女子 1年で剱岳に登るまで

あの人を山で元気にしたい!インドア女子が1年で剱岳に登るまで〜本格登山を経験して日本アルプスをめざそう!編〜

あなたの周りに「登山に連れて行きたい」と思っている人はいませんか?私は約1年前、山と無縁だったインドア女子を登山に誘い、つい先日ふたりで剱岳への登頂を果たしました。「キツそう」「危なそう」「そもそも登山の何が楽しいの?」などの、誘われる側のハードル。「安全に連れていけるか」などの誘う側のハードル。私たちの1年の登山遍歴を通して、様々な不安や課題をクリアするヒントを見つけて頂ければ幸いです。今回は、目標としていた夏の日本アルプス登山に向けての準備と失敗談をご紹介します。

目次

アイキャッチ画像撮影:washio daisuke

夏の日本アルプス登山にはどんな経験が必要!?

槍ヶ岳から望む穂高連峰

撮影:washio daisuke(槍ヶ岳から望む穂高連峰)

登山初心者の知り合いを山に誘う時、あなたならどうしますか。

その人が登山に興味を持ち必要な装備や知識を得てもらうために、そしてその人が安全かつ楽しく登山できるために、「誘う側」がしなければならない工夫や知っておくべきノウハウ。

この連載は私自身の経験を通して、そのヒントを得ていただくために始まりました。

前回の記事で山以外での“ボルダリング”や“山のプロからの学び”、私だけでなく“地元ガイドとの登山による発見”を体験した登山1年生の齋藤さん。


しかしこの時点で彼女が登った最も高い山は、八ヶ岳・北横岳(2472m)。夏山シーズンには標高の高い日本アルプスで“登山の醍醐味”を味わって欲しいと考えていた私は…

【1】標高の高い森林限界上での行動
【2】三点確保(支持)が必要な岩稜での行動
【3】山小屋に宿泊しての2日間連続での行動

の3つを通じて、日本アルプス登山に向けた体験をしてもらう計画を立てました。

【1】森林限界上の初登山は白銀の世界!?

千畳敷カールから木曽駒ヶ岳をめざす登山者

撮影:washio daisuke(千畳敷カールから木曽駒ヶ岳をめざす)

冬の厳しい気象条件や積雪で高い樹木が生育できない“森林限界”の位置は緯度によって異なりますが、日本アルプスや八ヶ岳では標高2500m以上まで登る必要が。

彼女は、山麓や中腹の登山口から森林限界上をめざすほどの標高差を経験していなかったため、ロープウェイで森林限界上まで行ける山をチョイスしました。

本格的な雪山登山装備も準備

ピッケル

撮影:washio daisuke(私たちが用意したピッケル)

私が選んだのは、ロープウェイで標高2612mの千畳敷カールまで行ける木曽駒ヶ岳。夏は遊歩道のような登山道が整備され、多くの登山初心者で賑わう山です。

しかし季節はまだ4月、森林限界上は白銀の世界…。
これまで彼女が経験してきた入笠山・北横岳よりも急傾斜のルートは滑落の危険性も。そこで、「前爪付きの12本爪アイゼン・ピッケル」を新たに揃えてもらいました。

もちろん、これらの装備は使い方を誤ればかえって危険な事態を引き起こすため、以下の4つのことを登山前に教えた上で登山に挑みました。

・アイゼン同士を引っ掛けて転倒しないよう、両足の間に一定のスタンスを設ける歩き方

・斜面を歩く時、アイゼン全体を雪面にしっかり接地させつつ、急斜面ではキックステップを使うこと

・登りと下りで先端のピックの向きが変わるピッケルの握り方と、斜度に応じた雪への刺し方

・ピッケルを使った滑落停止の技術

ちなみに、これらの装備と技術は「残雪期に森林限界上の登山を経験する」ためのものであり、「夏の日本アルプス登山」に必要なものではありません。

しかし結果として、「本格的な雪山」にチャレンジする際に新たに必要なギアの購入費用の分散につながりました。もちろん、この時に習得したアイゼン・ピッケルの使い方もしっかり活かされています。

絶景との出会いと高山病対策

木曽駒ヶ岳をめざす齋藤さん
撮影:washio daisuke(木曽駒ヶ岳をめざす齋藤さん・奥には御嶽山の展望も)

こうして挑んだ木曽駒ヶ岳の稜線からは、御嶽山・北アルプス・南アルプス・八ヶ岳などの大展望が!彼女は、標高の高い山ならではの絶景を堪能したのです。

齋藤さんの証言
稜線に立って、御嶽山を間近に見た時の感動は忘れられません。
堂々とそびえる独立峰の姿は想像を超えるものでした。

森林限界より上では「見える景色が違う」ことを、心の底から実感しました。


一方、こうした標高の高い山では「高山病」のリスクも。

特に交通機関を利用して一気に標高を上げる場合は、身体が酸素の少ない状態に順応しきれず発症の確率が高まります

そこで、

・睡眠中は呼吸が浅くなるためロープウェイ乗り場までのバス車内では眠らない(富士山スバルラインや乗鞍スカイラインなども同様)

・なるべく多くの酸素を身体に取り込むために深く呼吸をする(「吸う」方よりも、お腹がぺたんこになるまで「吐く」方を意識した方が効果的)

というアドバイスも行いました。結果として彼女は、頭痛や吐き気など高山病の症状を起こすことなく登山することができたのです。

常に眼差しを向けて安心感を…

雪山 半袖

撮影:washio daisuke(山頂は半袖になれるほどのポカポカ陽気でした)

好天に恵まれ無事に登頂は成功。しかし、初めての高山チャレンジには過酷な面も。

齋藤さんの証言
何度も転びそうになる私をなかなか振り返ってくれない鷲尾さんに思わず怒りが爆発。

けれども、それまでの私はこうした感情を「抑え込む」ことで病気を悪化させてきたのかも知れません。


これは本当に反省しました…。山での怪我は下山中、特にゴールを間近にした時の「気の緩み」から起こることが多いもの。

敢えて過剰なフォローを避けていたのですが、やはり常に眼差しを向けて「安心感」や「励まし」を送ることの重要性を、身に染みて痛感しました。

ただし「他人に対して自分の感情をぶつける行為」ができたことは、振り返れば彼女にとって良い変化だったとも言えます。

【2】初の本格的な岩稜登山にも涙の雨が…

瑞牆山

撮影:washio daisuke(いくつもの岩塔がそびえる瑞牆山)

日本アルプスなどの高山は傾斜のきつい岩場が多く、鎖やハシゴが設置されている難所も。こうした場所では三点確保(支持)という両手・両足を使った登降技術が必要になります。

そこで私が選んだのは、奥秩父の瑞牆山。鎖やハシゴは山頂直下や登山道の一部にしかありませんが、登山道の随所に巨大な花崗岩が点在しており三点確保の練習にはうってつけです。

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