あの人を山で元気にしたい!インドア女子が1年で剱岳に登るまで〜変化のある山選び&美味しい体験で飽きさせない!編〜

2019/11/13 更新

あなたの周りに「登山に連れて行きたい」と思っている人はいませんか?私は約1年前、山と無縁だったインドア女子を登山に誘い、つい先日ふたりで剱岳への登頂を果たしました。「キツそう」「危なそう」「そもそも登山の何が楽しいの?」などの、誘われる側のハードル。「安全に連れていけるか」などの誘う側のハードル。私たちの1年の登山遍歴を通して、様々な不安や課題をクリアするヒントを見つけて頂ければ幸いです。今回は「飽きさせずに登山を楽しんでもらうためのポイント」を見ていきましょう。


アイキャッチ画像撮影:washio daisuke

初登山は大成功!でも…次はどうする?

撮影:washio daisuke(御岳山・ロックガーデンで渓流のせせらぎに触れる)
登山初心者の知り合いを山に誘う時、あなたならどうしますか。
その人が登山に興味を持ち必要な装備や知識を得てもらうために、そしてその人が安全かつ楽しく登山できるために、「誘う側」がしなければならない工夫や知っておくべきノウハウ。
この連載は私自身の経験を通して、そのヒントを得ていただくために始まりました。

前回の記事で、仕事のストレスから自宅に引きこもってばかりいた根っからのインドア女子・齋藤さんを奥多摩・御岳山に連れ出すことに成功した私。
その様子はこちら

でも、まだまだ慢心してはいけません。同じテイスト、同じフィールドの山にばかり連れて行っても、遅かれ早かれ“新鮮味”が薄れてしまうのは容易に想像できます。

かと言って、彼女を登山に誘ったきっかけは「山で元気にしたい」という一心。むやみに厳しい登山に挑戦させてスキルアップをめざすのは、その人に合わせた選択ではありませんね。
そこで私は、彼女に笑顔で楽しんでもらうために

【1】登山ルートを往復型から縦走型に変えて景色の変化を
【2】岩場や雪山でちょっと違う登山の雰囲気を
【3】歩いた後に味わう食事の美味しさを

体験してもらう山選びと演出を行いました。
今回の記事では、飽きさせずに登山を楽しんでもらうためのポイントを紹介していきます。

【1】登山コースの形式で景色の変化を体験してもらおう!

登山道が1本しかない山ならともかく、大半の山には山頂に向かう道や山頂と山頂をつなぐ複数の登山道が設けられています。これらの登山道を組み合わせることで、景色や地形などに変化を持たせた“飽きない”登山コースを設定することが可能です。

縦走型コースで変化のある景色を体験

撮影:washio daisuke(小仏城山への道のり)
初登山の御岳山が往復型コースであったため、2度目の登山は縦走型コースをセレクト。
とは言え、2度目の登山…。私がセレクトしたのは、日本一ベタ(?)な、高尾山を西側の小仏城山から縦走するコース。同じ場所を通らないので、常に新鮮な景色と出会えます。

ただし縦走型コースはスタート地点とゴール地点が違うため、マイカーではなく公共交通機関の利用がオススメ。私自身も、本数の少ない大弛水峠登山口へのバス時刻を予め調べて出かけました。

また、万が一の疲労・体調不良・天候悪化に備えて、途中で縦走を中断し最寄りの駅やバス停に下山できる“エスケープルート”を確保しておくのも縦走型コースのポイント。高尾山周辺はエスケープルートが多く、ケーブルカーやリフトでも下山できるコースです。

実際はその配慮は杞憂に終わり、彼女は予定コースをしっかり歩き切ってくれました。その後、さらに歩行距離を伸ばして景信山から陣馬山の縦走にもチャレンジ。細かいアップダウンが続くコースですが、後半でご紹介する茶店グルメの食べ歩きを楽しんでくれました。
齋藤さんの証言
御岳山よりも本格的な登りや下りを経験し、息が上がる状態や膝の痛みすらも、登山ならではの心地よい疲労感なのだと実感しました。
登山者とすれ違う際に「こんにちは」と声を掛け合う習慣も新鮮でしたね。

登山コースの形式ごとのメリット・デメリットをご紹介

作成:washio daisuke(山とテントのイラストの出典:いらすとや
登山コースの形式には、大きく分けて上の4つのスタイルがあります。ここではそのメリットとデメリットをご紹介、登山計画を立てる際の参考にしてみて下さい。登山コース形式に合わせたオススメの山とコースも紹介しています。
<往復型コース>

〈メリット〉
天候や体調の悪化などのトラブルがあった時に、途中で引き返したり仲間を待機させておくことができる

〈デメリット〉
登りも下りもまったく同じ場所を歩くので、景色や地形が単調に感じてしまう


<往復型コース:北アルプス・西穂高岳独標 日帰り>
出典:PIXTA(山頂に登山者が並んでいるのが独標)
険しい岩峰が多い穂高連峰の中で、初心者でも比較的安全なのが西穂高岳・独標です。新穂高ロープウェイを利用して標高差も少なく登山でき、西穂山荘で休憩することも可能。独標は鋸歯状に12の岩峰が連続する西穂高岳の岩峰のひとつで、頂上からは上高地を見下ろすことができ、焼岳・笠ヶ岳・前穂高岳・ジャンダルムなどの山々も一望できます。

独標から先の縦走コースもありますが、西穂高岳へは険しい岩峰が連続する上級者向け。その先のジャンダルム〜奥穂高岳へはさらに難易度の高い岩稜となります。独標で引き返す往復コースでも、穂高連峰の迫力は十分味わうことができるでしょう。
<周回型コース>

〈メリット〉
往復コースと同じくスタート・ゴールが同じなので登山口へのアプローチの検討が楽な上、同じ場所を歩かないので景色や地形の変化も楽しめる。

〈デメリット〉
天候や体調の悪化などのトラブルがあった時に、現在地やその先のルートを考慮して、引き返すか歩き通すかの慎重な判断が必要。


<周回型コース:鈴鹿山脈・御在所岳 日帰り>
 出典:PIXTA(御在所岳・地蔵岩)
中京圏で屈指の人気を誇る御在所岳は春のツツジ・桜、秋の紅葉、冬の霧氷と季節の移ろいを実感できる山。御在所ロープウェイ・湯の山温泉前を起点に、登りは地蔵岩をはじめとする奇岩が点在する尾根を歩く「中登山道」を歩き山頂を往復、下りはロッククライミングの名所である藤内壁(とうないへき)の迫力ある岩壁を見ながら沢沿いの「裏登山道」を歩くルートがオススメです。

万が一の際には、御在所ロープウェイに乗車して一気に下山してしまうという必殺技もありますよ。
<縦走型コース>

〈メリット〉
通常複数の山をつないで歩くので、常に変化に富んだ景色や地形が楽しめる。

〈デメリット〉
スタートとゴールが違うのでマイカーでは実現しにくく荷物の量も増えがち。天候や体調の悪化などのトラブルに備えた、エスケープルートを考慮しておくことも必要。


<縦走型コース:北八ヶ岳・北横岳〜蓼科山 1泊2日>
出典:PIXTA(北横岳から見る蓼科山)
北八ヶ岳ロープウェイを利用して北横岳山麓の坪庭まで登り、蓼科山7号目から蓼科牧場ゴンドラリフトで下る比較的標高差の少ない縦走路。坪庭の溶岩台地、北横岳や蓼科山からのアルプス・御嶽山・南八ヶ岳・浅間山などの大展望、2つの山の間にある亀甲池・双子池などの神秘的な池、苔むした原生林など様々な山岳風景を楽しむことができます。

双子池ヒュッテ・蓼科山荘をはじめとするコース上の4軒の山小屋は宿泊先としてだけでなく休憩や緊急時の避難場所にも。体調や天候で蓼科山の登頂が難しい場合には、タクシーを呼べる大河原峠やバス停のある竜源橋へのエスケープルートも確保されています。
<ベースキャンプ型コース>

〈メリット〉
ベースキャンプとなる山小屋やテントに余分な荷物を置いて、身軽な装備で複数の山へ登山できる。

〈デメリット〉
ひとつひとつの山に関しては、往復コース同様に景色や地形が単調に感じてしまう。


<ベースキャンプ型コース:奥秩父・瑞牆山&金峰山 1泊2日>
出典:PIXTA(金峰山から見る瑞牆山)
登山口となるみずがき山荘から、50分程の登りでベースキャンプとなる富士見平に到着。富士見平小屋かキャンプ指定地にテントを設営して宿泊し、2つの日本百名山に登頂しましょう。
大ヤスリ岩をはじめとする奇岩が林立する瑞牆山、五丈石という巨岩のそびえる金峰山、いずれの山頂からも八ヶ岳や南アルプスの大展望を楽しむことができます。

標高差が少なく歩行時間も短い瑞牆山を1日目に、金峰山を2日目に往復するのがオススメ。

【2】山のテイストを変えて体験のバリエーションを増やそう

同じような雰囲気のなだらかな低山ばかりでは、縦走コースにしても見ることができる景色は限られてきます。
・スリリングな岩場のある山
・銀世界と展望が広がる雪山
という違ったテイストを持つ山で、見える景色や登山中の体験にバリエーションを増やしてみました。

岩場のある山でスリルを体験

撮影:washio daisuke(岩殿山・稚児落しの断崖を望む)
彼女を連れて行ったのは、山梨県・大月市の岩殿山と埼玉県日高市の日和田山。

それなりの危険もともなう岩場では、両手・両足を使った三点確保(三点支持)で行動する基本を教えた他、滑落の危険がある場所で安全確保をするために、ロープとスリング・カラビナなどのビレイ(確保)器具も持参しました。

彼女は登山の醍醐味のひとつでもある“スリル”を楽しんでくれただけでなく、一度は登りきれなかったロープの張られた滑りやすい斜面に臆せず再チャレンジする「負けず嫌い」な一面も見せてくれたのです。
齋藤さんの証言
この時はまだ岩場での危険性を知らなかった分、恐怖感を抱くことなく純粋に「楽しい」と感じました。
三点確保などの身体の動かし方もぎこちなかったはずなので、怪我をしなかったのは運がよかっただけなのかも知れません。
「登るしかないじゃん」と言うシンプルな気持ちで登山していましたね。

雪のある山で絶景パノラマを堪能

撮影:washio daisuke(入笠山の山頂をめざして初の雪山登山)
季節は冬になり、山々は雪に包まれる季節になりました。せっかくなら雪山も体験してもらおうと思い彼女を連れて行ったのが、長野県・富士見町にある入笠山。ゴンドラを利用すれば標高差も少なく登山できる、雪山登山の入門にはオススメの山です。

とは言え、雪山特有の装備やスキルは必要不可欠。フリース・帽子・手袋などの防寒対策や、軽アイゼン・ストック・ゲイターなど雪上歩行に必要な装備を新たに揃えてもらいました。

現地では軽アイゼンの装着方法から始まり、両足のスタンスや靴底の接地など雪上歩行のコツをレクチャー。入門者向けとは言え安全に登山できるよう登り斜面では彼女の後ろを歩き、歩き方を注意深く見守ったのです。
そうしてたどり着いた山頂で彼女を待っていたのは360度の大パノラマでした。
齋藤さんの証言
曇りや雨の日が多く雪も湿っている日本海側の雪国で育った私の中で、大きく変わったのが「雪」に対するイメージ。

ふかふかした雪を踏みしめて歩く感覚、晴れて空気が澄んでいることで見える展望…雪山登山の醍醐味を実感しました。
それまで名前だけしか聞いたことのなかった八ヶ岳・御嶽山・アルプスの山並を自分の眼で見て、いつかはその山々に登ってみたいと言う憧れを抱いたきっかけになったのも、この入笠山です。

撮影:washio daisuke(入笠山頂からの雪の中央アルプス・わずか3ヶ月後に彼女はこの頂に立つことになります)

【3】美味しい!はやっぱり笑顔の源

歩いた分だけ食べ物が美味しく感じるのも登山の醍醐味。これらの登山では“食”の楽しみも取り入れて、彼女の笑顔を引き出すように心がけました。

茶店・山小屋グルメに舌鼓

撮影:washio daisuke(景信茶屋のきのこ汁とモツ煮)
小仏城山、景信山、陣馬山などの奥高尾の山々には、山頂に茶店が営業しています。きのこ汁やモツ煮などは注文してから提供されるまでの時間も短く、寒い日でも長時間待せたずに食べてもらうことができます

それぞれの茶店のシンプルかつ工夫を凝らした味覚をつつきながら会話が盛り上がり、すっかり長居をしてしまって下山後のバスを逃したのもよい思い出です。

撮影:washio daisuke(マナスル山荘本館の唐揚げ定食と名物・ビーフシチュー)
入笠山では、マナスル山荘本館でビーフシチューや唐揚げ定食に舌鼓。気温が低い雪山登山の後で食べる、アツアツのグルメは絶品。

八ヶ岳や北アルプスでは、宿泊だけでなく外来食堂でカレーやラーメンを提供している山小屋も数多くあります。疲れた身体に染み渡る「山小屋グルメ」は、誰にとっても受け入れやすい登山の楽しみではないでしょうか。

アウトドアクッキングも楽しもう

撮影:washio daisuke(岩殿山で披露したトマト鍋・右は同行したガイド仲間お手製のパスタ)
茶店や山小屋がない山では、私たちガイドが非常時の野営(ビバーク)に備えて普段から携行しているバーナー(火器)やクッカー(鍋)を活用して、アウトドアクッキングを披露。

岩殿山では、料理好きな私の得意メニュー・トマト鍋を。日和田山では、地元名産の高麗豆腐を登山前に購入してスンドゥブチゲ鍋を作りました。11月から12月の寒い時期だったので、温かい鍋料理は彼女にも大好評。調理しながらの会話も、山で過ごす時間の楽しみだと実感してもらえました。

アウトドアクッキングは時間がかかると思いがちですが、最近はアルファ米やフリーズドライなどの食材を利用して手軽に短時間で調理することも可能です。登山中に食べる「温かいもの」は自然と気持ちも和みます。極端に言えばテルモス(サーモス/保温機能のある水筒)にコーヒーを入れて振る舞うだけでも喜んでもらえるはずですよ。
齋藤さんの証言
登山をした心地よい疲労感のもと山で食べるごはんは、普段とは全くシチュエーションが違います。

身体を動かした後に食べる味が濃い料理の美味しさ、バーナークッキングでの料理ができあがるまでの会話は新鮮でした。
この時期、登山以外の日常では辛いことばかりで正直あまり記憶がないのですが、この時の“味覚”だけは今でも覚えています

山の選び方や楽しみ方に変化を持たせて飽きない登山を!

撮影:washio daisuke(誘う側は計画的に方向性を示してあげましょう)
今回、私がお伝えしたかったのは…やみくもに色々な山に誘うのではなく

・登山ルートの形式
・登山する山の特徴
・歩くこと以外の楽しみ

を計画的に意識して変化のある登山を楽しんでもらうことの大切さや、「誘う側」の準備や配慮をする必要性です。
途中で「誘う側」自身が迷走しないように、少し長いスパンで連れて行く山の計画を立ててみてはいかがでしょうか。

私だけでは、登山だけでは、元気になれない…?

撮影:washio daisuke(当時の彼女は絶望感と虚無感の中…)
こうして初登山から約4ヶ月を過ごした訳ですが、彼女の職場でのストレスはさらに悪化していた時期でもありました。むしろ登山以外では、心の底からの笑顔は見られなかったと言っても過言ではありません。
齋藤さんの証言
この時期の私のうつ病の症状はどんどん悪化しており、当時の記憶はほとんどありません。
私が生きている意味は何だろうと言う自問自答を毎日繰り返し、絶望感や虚無感に苛まれていました。

自分ひとりでは、登山という限られた時間だけでは、彼女を元気にすることは難しいかも知れない…と感じ始めた私。
次回は、そんな彼女が出会った人達や新たな体験について、ご紹介します。

撮影:washio daisuke(山に行かなくても楽しめるボルダリングにもチャレンジ!?)

ライタープロフィール:鷲尾 太輔

撮影:washio daisuke
(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド
高尾山の麓・東京都西部出身ながら、花粉症で春の高尾山は苦手。得意分野は読図とコンパスワーク。ツアー登山の企画・引率経験もあり、登山初心者の方に山の楽しさを伝える「山と人を結ぶ架け橋」を目指しています。

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washio daisuke
washio daisuke

*登山の総合プロダクション・Allein Adler代表* 登山ガイド・登山教室講師・山岳ライターなど山の「何でも屋」です。 得意分野は読図(等高線フェチ)、チカラを入れているのは安全啓蒙(事故防止・ファーストエイド)。 山と人をつなぐ架け橋をめざしています。

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