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あの人を山で元気にしたい!インドア女子が1年で剱岳に登るまで〜変化のある山選び&美味しい体験で飽きさせない!編〜(2ページ目)

岩場のある山でスリルを体験

岩殿山・稚児落しの断崖を望む

撮影:washio daisuke(岩殿山・稚児落しの断崖を望む)

彼女を連れて行ったのは、山梨県・大月市の岩殿山と埼玉県日高市の日和田山。

それなりの危険もともなう岩場では、両手・両足を使った三点確保(三点支持)で行動する基本を教えた他、滑落の危険がある場所で安全確保をするために、ロープとスリング・カラビナなどのビレイ(確保)器具も持参しました。

彼女は登山の醍醐味のひとつでもある“スリル”を楽しんでくれただけでなく、一度は登りきれなかったロープの張られた滑りやすい斜面に臆せず再チャレンジする「負けず嫌い」な一面も見せてくれたのです。

齋藤さんの証言
この時はまだ岩場での危険性を知らなかった分、恐怖感を抱くことなく純粋に「楽しい」と感じました。
三点確保などの身体の動かし方もぎこちなかったはずなので、怪我をしなかったのは運がよかっただけなのかも知れません。
「登るしかないじゃん」と言うシンプルな気持ちで登山していましたね。

雪のある山で絶景パノラマを堪能

入笠山の山頂をめざして初の雪山登山

撮影:washio daisuke(入笠山の山頂をめざして初の雪山登山)

季節は冬になり、山々は雪に包まれる季節になりました。せっかくなら雪山も体験してもらおうと思い彼女を連れて行ったのが、長野県・富士見町にある入笠山。ゴンドラを利用すれば標高差も少なく登山できる、雪山登山の入門にはオススメの山です。

とは言え、雪山特有の装備やスキルは必要不可欠。フリース・帽子・手袋などの防寒対策や、軽アイゼン・ストック・ゲイターなど雪上歩行に必要な装備を新たに揃えてもらいました。

現地では軽アイゼンの装着方法から始まり、両足のスタンスや靴底の接地など雪上歩行のコツをレクチャー。入門者向けとは言え安全に登山できるよう登り斜面では彼女の後ろを歩き、歩き方を注意深く見守ったのです。
そうしてたどり着いた山頂で彼女を待っていたのは360度の大パノラマでした。

齋藤さんの証言
曇りや雨の日が多く雪も湿っている日本海側の雪国で育った私の中で、大きく変わったのが「雪」に対するイメージ。

ふかふかした雪を踏みしめて歩く感覚、晴れて空気が澄んでいることで見える展望…雪山登山の醍醐味を実感しました。
それまで名前だけしか聞いたことのなかった八ヶ岳・御嶽山・アルプスの山並を自分の眼で見て、いつかはその山々に登ってみたいと言う憧れを抱いたきっかけになったのも、この入笠山です。


入笠山頂からの雪の中央アルプス

撮影:washio daisuke(入笠山頂からの雪の中央アルプス・わずか3ヶ月後に彼女はこの頂に立つことになります)

【3】美味しい!はやっぱり笑顔の源

歩いた分だけ食べ物が美味しく感じるのも登山の醍醐味。これらの登山では“食”の楽しみも取り入れて、彼女の笑顔を引き出すように心がけました。

茶店・山小屋グルメに舌鼓

景信茶屋のきのこ汁とモツ煮

撮影:washio daisuke(景信茶屋のきのこ汁とモツ煮)

小仏城山、景信山、陣馬山などの奥高尾の山々には、山頂に茶店が営業しています。きのこ汁やモツ煮などは注文してから提供されるまでの時間も短く、寒い日でも長時間待せたずに食べてもらうことができます

それぞれの茶店のシンプルかつ工夫を凝らした味覚をつつきながら会話が盛り上がり、すっかり長居をしてしまって下山後のバスを逃したのもよい思い出です。

マナスル山荘本館の唐揚げ定食と名物・ビーフシチュー

撮影:washio daisuke(マナスル山荘本館の唐揚げ定食と名物・ビーフシチュー)

入笠山では、マナスル山荘本館でビーフシチューや唐揚げ定食に舌鼓。気温が低い雪山登山の後で食べる、アツアツのグルメは絶品。

八ヶ岳や北アルプスでは、宿泊だけでなく外来食堂でカレーやラーメンを提供している山小屋も数多くあります。疲れた身体に染み渡る「山小屋グルメ」は、誰にとっても受け入れやすい登山の楽しみではないでしょうか。

アウトドアクッキングも楽しもう

岩殿山で披露したトマト鍋・右は同行したガイド仲間お手製のパスタ

撮影:washio daisuke(岩殿山で披露したトマト鍋・右は同行したガイド仲間お手製のパスタ)

茶店や山小屋がない山では、私たちガイドが非常時の野営(ビバーク)に備えて普段から携行しているバーナー(火器)やクッカー(鍋)を活用して、アウトドアクッキングを披露。

岩殿山では、料理好きな私の得意メニュー・トマト鍋を。日和田山では、地元名産の高麗豆腐を登山前に購入してスンドゥブチゲ鍋を作りました。11月から12月の寒い時期だったので、温かい鍋料理は彼女にも大好評。調理しながらの会話も、山で過ごす時間の楽しみだと実感してもらえました。

アウトドアクッキングは時間がかかると思いがちですが、最近はアルファ米やフリーズドライなどの食材を利用して手軽に短時間で調理することも可能です。登山中に食べる「温かいもの」は自然と気持ちも和みます。極端に言えばテルモス(サーモス/保温機能のある水筒)にコーヒーを入れて振る舞うだけでも喜んでもらえるはずですよ。

齋藤さんの証言
登山をした心地よい疲労感のもと山で食べるごはんは、普段とは全くシチュエーションが違います。

身体を動かした後に食べる味が濃い料理の美味しさ、バーナークッキングでの料理ができあがるまでの会話は新鮮でした。
この時期、登山以外の日常では辛いことばかりで正直あまり記憶がないのですが、この時の“味覚”だけは今でも覚えています

山の選び方や楽しみ方に変化を持たせて飽きない登山を!

指をさす登山者

撮影:washio daisuke(誘う側は計画的に方向性を示してあげましょう)

今回、私がお伝えしたかったのは…やみくもに色々な山に誘うのではなく

・登山ルートの形式
・登山する山の特徴
・歩くこと以外の楽しみ

を計画的に意識して変化のある登山を楽しんでもらうことの大切さや、「誘う側」の準備や配慮をする必要性です。
途中で「誘う側」自身が迷走しないように、少し長いスパンで連れて行く山の計画を立ててみてはいかがでしょうか。

私だけでは、登山だけでは、元気になれない…?

ベンチでうなだれる登山者

撮影:washio daisuke(当時の彼女は絶望感と虚無感の中…)

こうして初登山から約4ヶ月を過ごした訳ですが、彼女の職場でのストレスはさらに悪化していた時期でもありました。むしろ登山以外では、心の底からの笑顔は見られなかったと言っても過言ではありません。

齋藤さんの証言
この時期の私のうつ病の症状はどんどん悪化しており、当時の記憶はほとんどありません。
私が生きている意味は何だろうと言う自問自答を毎日繰り返し、絶望感や虚無感に苛まれていました。

自分ひとりでは、登山という限られた時間だけでは、彼女を元気にすることは難しいかも知れない…と感じ始めた私。
次回は、そんな彼女が出会った人達や新たな体験について、ご紹介します。

ボルタリング

撮影:washio daisuke(山に行かなくても楽しめるボルダリングにもチャレンジ!?)

ライタープロフィール:鷲尾 太輔

鷲尾 太輔さん

撮影:washio daisuke
(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド

高尾山の麓・東京都西部出身ながら、花粉症で春の高尾山は苦手。得意分野は読図とコンパスワーク。ツアー登山の企画・引率経験もあり、登山初心者の方に山の楽しさを伝える「山と人を結ぶ架け橋」を目指しています。

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