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郷に入れば郷に従え。私たちが私たちの山を楽しむための『山と道』モノづくり論(2ページ目)

「バックパックも、なんとなくはできるんです。ウルトラライトの道具って、シンプルだからサクっと簡単につくれる。でも、それがよいものかどうかわからないんです。テストを繰り返してもお客様に提供する自信が出て来ない。そんな時、知人に言われたのが、〝自分だけで完璧を求めないで、一度販売をして、お客様の反応をフィードバックしてもらってみては?〟 ということでした」

他メーカーには類を見ない、アイテムの詳しすぎる解説

山と道 制作ノート

参照:『山と道』ホームページより

『山と道』のホームページの〝PRODUCTS〟のページを是非一度見てみてください。そこに掲載されたそれぞれの商品には、〝概要〟〝制作ノート〟〝デザイン〟〝機能〟〝素材〟〝ご注意〟などの項目別に、かなり詳しい解説がされています。そしてその詳しいテキストこそが、夏目さんと『山と道』がゼロからはじめた山道具づくりへの想いであり、多くのユーザーにフィードバックをもらいながらブラッシュアップさせてきたメーカーとしての、考えなのです。

どういう道具で、どうつくられているのか
それを伝えることも”モノづくり”

山と道 ウェア

撮影:PONCHO

「例えばナイフ、果物用、お肉用、魚用、いくつもの種類があります。バックパックも同様に目的に応じて種類がある訳で、それがどういう道具であるかをお客様に伝えることも、モノづくりの仕事のうちだと思うんです。山と道では、バックパックをネット販売やカスタムオーダーしているので、詳しく説明をして、共有する必要があると思うんです」
さらにこう続けます。

メリノウールに抗菌効果はない!?

「メリノウール製の商品を『山と道』でもつくっていますが、よくいわれるメリノウールの抗菌効果って実はないという説があるんです。また1週間着続けても臭わないといわれる防臭性も、そのメカニズムがわかっていない部分が多くあることを、モノづくりを通して知りました。それ以外にも当たり前とか常識と思われていることのなかには、それ本当なの? ということが多くあるんです。
それらをお客様と共有し、きちんと肌感覚で体験、体感したことを大事にして、モノづくりをし、道具を使ってもらえたらと思うんです。使ってみればわかるだろうというのでは、乱暴だと感じています」

当たり前、常識・・・我々メディアに携わる人間も、気を付けなければなりません。

実際に背負って驚いた。あ~そういうことか!

山と道 ONE MINI2

撮影:PONCHO

今回、『山と道』のバックパックの『ONE』と『MINI 2』を初めて背負わせてもらったのですが、正直驚きました。特に『ONE』のストラップ調節で上半身、または腰に荷重を変えた際の体感は、これまで多くのバックパックを背負ってきたなかで、初めての感覚。

よく”腰を包み込むウエストベルトが荷重を受け止め、重い荷物も軽く感じる“などと定型で表現しがちですが、腰が固定されていると急登では足上げがしにくいという実際からは目を逸らしているのも事実です。なるほど日本のフィールドに最適化させたバックパックのひとつの解は、変化するトレイルに対応できる背負い心地なのか! と知りました。常識を疑う、囚われないとは、こういうことなのかと身をもって教えてもらいました。

山と道 ONE バックパック

撮影:PONCHO

「モノづくりはトライアル&エラーの繰り返しです。『ONE』についてはお客様からフィードバックをもらいながら、修理をしながら、山で何度もテストを重ねては修正を繰り返し、少しづつですが変化しています。とはいえ、最初に出した時点で商品は完成しています。それをいろいろな人が使いやすいように、そして壊れにくいように、道具としてアップデートしています。ですが、良し悪しも含めてやはり一番最初に生産した道具に愛着をもっています。それは例えばミュージシャンのファーストアルバムが、どこか乱暴であっても、キラリと輝いているのと似ていますね」

バックパックを持つ夏目 彰さん

撮影:PONCHO

ちなみに影響受けた道具やデザイナーはいますか? と問うと、
「もっとも影響を受けたのは、山です。山を長く歩くことや山で経験するトラブルの積み重ねから、山で必要な機能や重要なことを得ることができました。山を歩く時間、ミニマムな道具でシンプルに過ごす生活は、普段の僕達の生活が、いかに縛られたものなのかを気が付かせてくれます。それは本質を知るということとも言えます。どんなものが必要なのか?、どんなものが良いもので、無駄なものなのかを知れば、自ずと僕達のライフスタイルにも結びつき、社会もよい方向に変わるのかなと考えています」

笑顔の夏目 彰さん

撮影:PONCHO

これまでも、これからも夏目さんは山で過ごした時間のなかで自分が必要だと感じたモノをつくり、それを山で試して試行錯誤し、生きていく上で大切で、本質に迫ったモノを私達に提供してくれるでしょう。そしてそれを使う私達も夏目さんがつくった道具を通して、自分の中になかった山への目線に気付き、「こんな楽しみ方もあったんだね」と、新たな山と出会うのでしょう。

顔が見えないと言われるネット全盛の世の中で、逆につくり手と使い手のコミュニケーションは、より密になるのかもしれない。そんなことを感じられた夏目さんとの時間でした。

それでは、皆さん、よい山旅を!

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