夏目 彰さん

『山と道』デザイナー夏目 彰さんに聞く「都会的なルールから外れる」ための”三種の神器”ギア

クラシックな雰囲気なのにトンガっている独特の気配を纏った道具を生み出すハイキング道具のメーカー『山と道』。オーナーでありデザイナーの夏目 彰さんが、山で過ごす時間から学んだ快適さを体験するための3つの道具を教えてもらいました。

アイキャッチ画像提供:山と道

「安全と快適さ」=「軽さ」である

「安全や快適さは、シーンや目的によって大きく変わってくると思うんです」
ウルトラライト・ハイキングを中心とした山道具を手掛けるメーカー『山と道』のデザイナー・夏目 彰さんはそう語ります。そんな氏が多くの登山&ハイキングの経験から、山でこれは必要、役立ったと思ってた道具は、どんなものなのでしょう。

『山と道』デザイナー夏目 彰さん

撮影:PONCHO

まずは緊急事態から、話は始まりました。

「アメリカのトレイルをハイキングしている時に、誤って川に流されたことがあったんです。季節は未だ残雪期。すぐに岸に這い上がったのですが、天気も悪く身体は冷え切り、このままではマズイという状況に陥ったんです。でもタープをさっと張って、ストーブに火を点けたらすぐに温かくなったんです。それで難を逃れました。ダブルウォールのテントだったらタープやシェルターのように素早く張ることはできないだろうし、身体が冷え切って低体温症に近づいてくると、頭が正常に回らなくなります。そんな状況ではシンプルなシェルターこそが役立つと思います。身体を温めるためにダブルウォールのテントを張る面倒なアクションは、積極的に起こしづらくなると思うのです。」

石の上で休む夏目 彰さん

提供:山と道

テント本体にフライシートを被せ、ポールで自立させるダブルウォールテントは、寝ることだけを考えれば、快適かもしれません。しかしペグダウンしてポールを立てるだけのフロアレスシェルターと比べれば、ダブルウォールテントは組み立てや撤収に時間が掛かります。しかも重い・・・。なにを快適と考えるのか? 道具選びの基準をどこに置くか? によって、選ぶ道具は変わってくることを知る、エピソードです。

デュシュッツCF

撮影:PONCHO

「僕が使っているシェルターはシックスムーンデザインズのデュシュッツCFです。本体重量は195g。通常のダブルウォールテントが1~2kgぐらいですから、荷物として背負った際の体への負担を軽減できます。

フロアがないと心配という方もいると思いますが、僕はフロアが無いテントのほうが好きなんです。フロアがないとシューズを履いたまま出入りができ、地面との隙間から景色を見られるし、動物の気配を感じたら確認もできます。虫が気になる季節にはヘッドネスト(蚊帳)を被れば問題ありません。またアルプスの稜線などでは風があると張れませんが、荷物が軽くて素早く移動できるので、稜線ではないところまで歩いていって、張ればいいだけです」

雪山を歩く夏目 彰さん

提供:山と道

多くのハイカーがダブルウォールテントを使っているからといって、それが正解とは限りません。重い装備だから移動距離を伸ばせず、稜線でテントを張るしかなかった行程だったところを、軽いシェルターを選択すれば稜線でキャンプをせず、その先の森のなかで一夜を明かすことができるかもしれません。シェルターの短所を補う方法、または長所を生かす工夫を実践することで、重い荷物を背負ったハイカーとは異なる山を体験できるのです。

夏目さんが実践し、多くのハイカーが取り組んでいる超軽量装備でのハイキング、つまりウルトラライト・ハイキングの面白さの一面は、そうした点にもあると言えるでしょう。

ザック

撮影:PONCHO

「僕は長く歩き続けることが好きなんです。トレイルランでも長い距離を移動していると身体が自然に溶け込むような、自然の一部なんだという感覚も芽生えてきたことがあります。その感覚はなんとも心地よいものです。そして気持ちよく長く歩き続けることを可能にするのが、装備の軽量化です。これから装備の軽量化を考えたいという人はテントとバックパックの見直しをおすすめします」

装備の軽量化を進める一方で、ハイキングで本当に必要な道具は限られているという夏目さん。ヘッドライトとレインウエアは必須だけれども、防寒着としてのインナーダウンは寝袋で流用することもあるといいます。そう、『流用』が夏目さんの道具選びのポイントです。

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