生み出される環境によって変わる道具
山道ではなく『山と道』。アウトドア系のブランドとしては珍しく日本語表記の山道具メーカー。ウルトラライトな道具でありながら、ストイックではなく、どこか旅感のある空気を纏った道具は、アルプスから低山まで愛用するハイカーをよく目にします。上り下りの先で想像以上の世界を見させてくれる「山」と、どこまでも歩き続けたくなるように長く伸びる「道」。そのメーカー名には、山に影響を受けて生きる道を進むつくり手がいました。
今回、お話しを伺った『山と道』は、夏目 彰さんと由美子さん夫婦ふたりで2011年に立ち上げた山道具メーカーです。その2011年といえば日本でも装備を軽量化して重量負荷を減らし、できるだけシンプルな方法でハイキングする〝ウルトラライト・ハイキング〟というスタイルが浸透しつつあった時期でした。その前年、ふたりはアメリカを代表するロングトレイルのジョン・ミューア・トレイルをハイキングしました。
環境に応じて変わる最適
「海外の山やフィールドって、日本とはまるで違うことを、その旅で知りました。ジョン・ミューア・トレイルをはじめ北米のハイキングトレイルは総じてなだらか。日本のように岩場、鎖場が少なく、急斜面も多くないんです。だから北米のバックパックメーカーのつくるバックパックは、登ることよりも荷物を背負って歩くことを重視してウエストベルトをしっかりさせたり、ガレージメーカーがつくるウルトラライト・パックは、岩や木にひっかける心配が少ないので、とにかく軽さ重視で薄く耐久性能が低い素材を生地に使ったのだとわかりました」
その土地々々の環境に応じて、最適な道具を生み出す必要があると実感した夏目さん。
「その旅をきっかけに、日本の山、トレイルに合ったバックパックをつくってみようと思ったんです。それが『山と道』のはじまりです」
最初は大きな赤字が出た。だけど…
「それまでグラフィックアートの仕事や商品企画、販売企画を行う会社にいて、新しいモノをつくって、世に問うて、それによって社会をより良いものにできたらということを目指して働いていた影響もあると思います。山道具づくりについては、なにもわからないところからはじめましたが、自分達がつくりたいものをつくるぞという執念というかアツい想いがあったから、最初の年は大きな赤字が出てもやってこられました」
なんとなくは作れる。
でも果たしてそれは”良いもの”なのか?
夏目さんはモノづくりを続ける上で、「執念」という言葉を使いました。その言葉が意味する通り、つくりたいものをカタチにすることは簡単ではなかったようです。