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生み出される環境によって変わる道具
山道ではなく『山と道』。アウトドア系のブランドとしては珍しく日本語表記の山道具メーカー。ウルトラライトな道具でありながら、ストイックではなく、どこか旅感のある空気を纏った道具は、アルプスから低山まで愛用するハイカーをよく目にします。上り下りの先で想像以上の世界を見させてくれる「山」と、どこまでも歩き続けたくなるように長く伸びる「道」。そのメーカー名には、山に影響を受けて生きる道を進むつくり手がいました。
環境に応じて変わる最適


「その旅をきっかけに、日本の山、トレイルに合ったバックパックをつくってみようと思ったんです。それが『山と道』のはじまりです」
最初は大きな赤字が出た。だけど…
「それまでグラフィックアートの仕事や商品企画、販売企画を行う会社にいて、新しいモノをつくって、世に問うて、それによって社会をより良いものにできたらということを目指して働いていた影響もあると思います。山道具づくりについては、なにもわからないところからはじめましたが、自分達がつくりたいものをつくるぞという執念というかアツい想いがあったから、最初の年は大きな赤字が出てもやってこられました」なんとなくは作れる。
でも果たしてそれは”良いもの”なのか?

「バックパックも、なんとなくはできるんです。ウルトラライトの道具って、シンプルだからサクっと簡単につくれる。でも、それがよいものかどうかわからないんです。テストを繰り返してもお客様に提供する自信が出て来ない。そんな時、知人に言われたのが、〝自分だけで完璧を求めないで、一度販売をして、お客様の反応をフィードバックしてもらってみては?〟 ということでした」
他メーカーには類を見ない、アイテムの詳しすぎる解説

どういう道具で、どうつくられているのか
それを伝えることも”モノづくり”

さらにこう続けます。
メリノウールに抗菌効果はない!?
「メリノウール製の商品を『山と道』でもつくっていますが、よくいわれるメリノウールの抗菌効果って実はないという説があるんです。また1週間着続けても臭わないといわれる防臭性も、そのメカニズムがわかっていない部分が多くあることを、モノづくりを通して知りました。それ以外にも当たり前とか常識と思われていることのなかには、それ本当なの? ということが多くあるんです。それらをお客様と共有し、きちんと肌感覚で体験、体感したことを大事にして、モノづくりをし、道具を使ってもらえたらと思うんです。使ってみればわかるだろうというのでは、乱暴だと感じています」
当たり前、常識・・・我々メディアに携わる人間も、気を付けなければなりません。
実際に背負って驚いた。あ~そういうことか!

よく”腰を包み込むウエストベルトが荷重を受け止め、重い荷物も軽く感じる“などと定型で表現しがちですが、腰が固定されていると急登では足上げがしにくいという実際からは目を逸らしているのも事実です。なるほど日本のフィールドに最適化させたバックパックのひとつの解は、変化するトレイルに対応できる背負い心地なのか! と知りました。常識を疑う、囚われないとは、こういうことなのかと身をもって教えてもらいました。


「もっとも影響を受けたのは、山です。山を長く歩くことや山で経験するトラブルの積み重ねから、山で必要な機能や重要なことを得ることができました。山を歩く時間、ミニマムな道具でシンプルに過ごす生活は、普段の僕達の生活が、いかに縛られたものなのかを気が付かせてくれます。それは本質を知るということとも言えます。どんなものが必要なのか?、どんなものが良いもので、無駄なものなのかを知れば、自ずと僕達のライフスタイルにも結びつき、社会もよい方向に変わるのかなと考えています」

顔が見えないと言われるネット全盛の世の中で、逆につくり手と使い手のコミュニケーションは、より密になるのかもしれない。そんなことを感じられた夏目さんとの時間でした。
それでは、皆さん、よい山旅を!