北アルプスが舞台の小説が、結構ある!?
この夏、北アルプスへ登山へ行こうと計画している人も多いですよね。登山前の気持ちを高めるために北アルプスにまつわる小説を読んでみてはいかがでしょうか?
登山への気持ちが高まる!北アルプスが舞台の名作山岳小説
北アルプスの魅力があふれる山岳小説を集めてみました。読んだことある人はもう一度、読んだことのない人にもぜひ手にとってもらいたい作品ばかりです!
奥穂高岳が舞台の小説『氷壁』
穂高連峰の中心である奥穂高岳は日本第3位の標高3,190m。美しいアルペン的山容の奥穂高を舞台にした小説『氷壁』は、井上靖によって1963年に新潮社より出版されました。著者の井上靖は、芥川賞なども受賞している昭和を代表する文豪です。
『氷壁』は1955年に起きたナイロンザイル切断事件を題材にした小説です。岩と雪と岩壁の迫力ある景観を舞台に、男同士の友情とそこにからむ恋愛がドラマチックに展開。テレビドラマや映画にもなっています。
北鎌尾根が舞台の小説『孤高の人』
槍ヶ岳から北に伸びる北鎌尾根の独標は2,899m。険しいことで非常に名高く、大正9年の初登頂から現在までも度重なる遭難事故が起こり、多くの小説や伝説の舞台となっています。その北鎌尾根を舞台にした小説『孤高の人』は新田次郎によって1969年に新潮社より発刊されました。衝撃の結末を迎える小説とはラストが異なる漫画もあり、読み比べてみるのも面白いでしょう。
『孤高の人』は昭和初期に実在した登山家の加藤文太郎をモデルにした山岳小説。単独行による数々の登攀記録を残した加藤氏の登山に対する精神と劇的な生涯をテーマとした不朽の名作です。
作中には燕岳や大天井岳、黒部五郎岳など数々の北アルプスの名峰が登場。北アルプスへの憧れを誘うと同時に冬山への恐怖心も感じさせます。古い小説ですが、内容は色褪せることなく加藤氏の山への情熱に胸が突き動かされます。
北アルプス心臓部が舞台の小説『黒部の山賊』
舞台は黒部川の源流部であり、水晶岳からアルプスの楽園雲ノ平、これを取り囲む鷲羽岳や三俣蓮華岳、黒部五郎岳などからなる北アルプスの奥地。その中に建つ三俣山荘の旧オーナー・伊藤正一氏の著書『黒部の山賊』は、実業之日本社より刊行され以前は山小屋でしか手に入らなかった幻の名作です。2014年に『定本 黒部の山賊』として山と溪谷社より刊行され、多くの登山ファンから支持を得ています。
昔話に出てくるような山賊や山のバケモノが跳梁跋扈するエピソードをテンポよく綴ったノンフィクション。昭和20年代の貴重な黒部源流域や黒部峡谷の様子を、キャラの濃い登場人物たちが伝えてくれます。森のざわめきや漆黒の闇を感じる山の中に身を置いて読みたい一書です。
黒部峡谷が舞台の小説『高熱隧道』
前項の『黒部の山賊』と同じ黒部峡谷が出てきますが、吉村昭の描いた『高熱隧道』(1967年に新潮社より刊行)では黒部ダムが物語の舞台です。完成までの犠牲者は300余名と壮絶なプロジェクトであった黒部峡谷の仙人ダム建設。そのために難工事に尽力した男たちの姿を描いた記録小説です。
工事は序盤から難航し、暴発事故や猛烈な泡雪崩に見舞われるなどの試練が幾度も現場で働く人々に襲い掛かります。現代では考えられない、ツルハシとダイナマイトの人海戦術で岩盤最高温度165度という高熱地帯に立ち向かう姿に、ただただ凄い…と感嘆させられます。戦時下の日本の執念を今に伝える作品です。
剱岳が舞台の小説『劒岳 点の記』
剱岳は日本海に面した標高2,999mの山で北アルプス屈指の名峰です。峻険な剱岳を舞台とした新田次郎の著書『劒岳 点の記』は1977年に文藝春秋より発刊されました。新田氏は現在の気象庁に勤務した気象測量機の第一人者でもあります。その著者が描く山岳や気象、地形に関するリアルな描写は大迫力。映画にもなっており、険しい剱岳を長期間をかけ丁寧に撮影された内容で見応えがあります。
前人未踏といわれた剱岳に、ただ地図を作るため、そして軍の名誉を守るために登る観測官・柴崎芳太郎の物語。スマホもGPSもない時代の測量という仕事の大変さ、山や自然の険しさがひしひしと伝わります。果たして柴崎の苦労は報われたのか…? 山岳小説の白眉と呼ばれるのに相応しい内容です。
北アルプスを舞台にしたミステリー小説
ここからは、前項とはガラッと変わってフィクションの殺人ミステリーを紹介します。すべての著者である梓林太郎氏は、自身も登山経験を持つ山岳推理小説の第一人者。テレビドラマでも放送された山岳救助隊・紫門一鬼シリーズなど数々の山岳ミステリー小説を生み出しています。
槍ヶ岳が舞台の小説『槍ヶ岳 殺人山行』
北アルプス南部の象徴的存在である槍ヶ岳は標高3,180mと日本第5位の高峰です。『槍ヶ岳 殺人山行』は槍ヶ岳坊主小屋で遺書めいた置き手紙が見つかることから展開していくミステリー小説。事故なのか自殺なのか、事件なのか? 物語のキーパーソンとなる女性登山者がミステリアスで引き込まれます。
爺ヶ岳が舞台の小説『北アルプス 爺ヶ岳の惨劇』
富山県中新川郡立山町と長野県大町市にまたがる標高2,670mの爺ヶ岳。この爺ケ岳で発見された遭難遺体から物語がはじまる『北アルプス爺ヶ岳の惨劇』。事件の臭いを嗅いだ刑事の道原伝吉が、正体不明の女性をたどりながら2つの事件を紐解く山岳ミステリーです。
穂高が舞台の小説『穂高屏風岩殺人事件』
北アルプスの穂高連峰の真ん中で一際存在感を放つ、垂直の岩壁の穂高屏風岩。クライミングのメッカとしても有名で標高約2,300mに位置します。この穂高屏風岩を舞台にした『穂高屏風岩殺人事件』は、槍ヶ岳直下の坊主岩小屋で発見された置き手紙が事件の発端となります。遺体なき事件に山岳救助隊・紫門一鬼の推理が冴えわたる名作推理小説です。
餓鬼岳が舞台の小説『餓鬼岳 殺人山行』
餓鬼岳は山体すべてが長野県に属する標高2,647mの日本二百名山のひとつ。そんな隠れた名峰の餓鬼岳を舞台にした『餓鬼岳 殺人山行』は、北アルプス山岳救助隊員・紫門一鬼の推理シリーズのうちの一冊。大糸線・穂高駅の近くで起こった殺人事件の調査を山岳救助隊員の紫門が依頼されたことから始まる山岳ミステリーの傑作です。
読めば北アルプスに登りたくなる!
北アルプスが舞台の小説には名作が揃っていますね。この山域に行ったことがある人はもちろん、目指している人が読んでも面白い作品ばかりです。読書をして登山への気持ちを高め、今シーズンも北アルプスを楽しみましょう!