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【緊急レポート】異例の少雪!山から雪景色が消える前に私たちができること(3ページ目)

世界13万人がサポートする「POW」が日本にも誕生

POW JAPANロゴ

提供:POW JAPAN

「グローバル気候マーチin白馬」を始めとした白馬村のいくつかのアクションには、実は昨冬に立ち上がったばかりのスノーボーダー・スキーヤーを中心とした団体の存在も大きく関わっていました。それが2019年2月に発足した一般社団法人Protect Our Winters Japan(POW JAPAN=パウジャパン)です。

POWは、2007年にアメリカで発足し、「スノーコミュニティの情熱を、気候変動問題を解決するムーブメントに変える」というミッションを掲げて活動を行う非営利の環境団体です。設立したのはプロスノーボーダーのジェレミー・ジョーンズで、彼がいつも楽しんでいたいくつかのスノーリゾートが、雪不足のためにオープンできないという現実に直面したことがきっかけだったといいます。

現在では著名ライダーを含めた150名を超えるプロアスリートが活動に参加し、支部は世界13カ国(日本は13番目)に広がり、13万人を超えるサポーターに支えられています。また、発足国のアメリカではすでにPOW CLIMB、POW TRAILも立ち上がり、クライマーやトレイルランナーを含めたアウトドアスポーツ全体のムーブメントとして広がりをみせています。

POW JAPANの活動に、白馬のスノーリゾートが呼応した

気候変動&地域経済シンポジウム

提供:POW JAPAN(「気候変動&地域経済シンポジウム」の会場にて)

昨年2月に発足したばかりのPOW JAPANでしたが、さっそく5月には白馬で「気候変動&地域経済シンポジウム」を開催しました。これは「地域を豊かにする山岳リゾート」をテーマにしたシンポジウムで、循環する地域経済に取り組む環境ジャーナリストや、アメリカ・ベイルリゾーツで環境サスティナビリティ部門を率いてきた人物をゲストに招き、先進事例からヒントを学ぶというもの。このシンポジウムには長野県知事や白馬村村長を含めた約350人の来場者を迎え、新聞やテレビにも取り上げられました。

持続可能な自然への取り組みは、ビジネスの継続にもつながる

これをきっかけに、HAKUBA VALLEYのスノーリゾートも動き始めます。まずはエイブル白馬五竜スキー場がPOW JAPANのパートナー企業に名乗りを上げ、そして昨年11月には、白馬で3つの大型スノーリゾートを経営する白馬観光開発が同じくPOW JAPANとパートナーシップを締結し、「持続可能な開発目標(SDGs)貢献に向けた取り組み」を発表しました。これは日本のスキー場が気候変動対策に取り組むと表明した最初のケースであり、それが日本を代表するスノーリゾートだったことに大きな意味がありました。

白馬観光開発の和田 寛代表取締役社長。白馬岩岳スノーフィールドのカープール(相乗り)専用パーキングにて。

白馬観光開発の代表取締役社長、和田 寛さんに話を聞きました。

白馬観光開発はHAKUBA VALLEYで白馬八方尾根スキー場、白馬岩岳スノーフィールド、栂池高原スキー場といずれも国内有数の規模を持つスノーリゾートの事業者です。また、白馬の山々を一望する絶景テラス「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」に代表されるようにグリーンシーズンの営業にも積極的に力を入れており、その仕掛け人こそ、和田さんです。

和田:「きっかけとなったのは、やはり、POW JAPANさんが主催した昨年5月のシンポジウムです。そこで登壇したベイルリゾートでサスティナビリティ部門を率いてきた責任者と直接話をさせていただいたことが大きかった。全米のスキーリゾートでは以前から環境への取り組みがスタートしており、それがリゾートのブランドアップにまでつながっていると。考えてみると、日本のスキー場でそうした話は聞いたことがなかったんですね」

白馬マウンテンハーバー

提供:白馬観光開発(2018年10月、岩岳にオープンした「HAKUBA MOUNTAIN HARBOR」は冬季以外の観光客誘致としても成功を収めている)

和田:「もともと当社が属する親会社には、スキー場経営というビジネスを通じて、自然、お客様、地域社会に貢献するという社是が定められています。実際のところ、地域社会のことは常に考えていますし、お客様をどう楽しませるかも日々工夫しているつもり。では、自然に対しては? となったときに、果たしてどうなのかと。

実際、電力ひとつとっても毎年莫大な量を使っているし、しかも年々増えているんですよね。そういうことに気づかされたというか、あらためて思ったのが、そのタイミングでした。そこでシンポジウムから戻って何人かのメンバーと話し合い、この取り組みがスタートしたというわけです」

イデオロギーだけでなくビジネスとして成り立たせるには?

白馬観光開発では、毎年の売り上げの1%相当をSDGs関連の費用に充て、今後5年間で排出するCO2を6%削減という目標を定めています。そのためにさまざまな取り組みを開始していますが、わかりやすいのは、スキー場で使用する電力を再生可能エネルギーかグリーン電力証書付きのもの、つまりCO2フリー電力への転換を進めるというものです。

実際、この冬は白馬岩岳スノーフィールドで試験的に3日間限定で転換し、すでに白馬八方尾根スキー場のアルペンクワッドリフトは通年(夏の登山用リフトとしても)でCO2フリー電力に切り替えられています。

八方尾根のアルペンクワッドリフト

提供:白馬観光開発(アルペンクワッドリフトは八方池へのトレッキングや唐松岳への登山など登山者にも馴染み深い)

和田:「電力を自然エネルギーなどCO2フリーのものに切り替えるといっても、実はそれだけでコストは10から20%アップします。3スキー場すべての使用電力を切り替えるとなると、経営的にはけっこうなインパクトなんですね。したがって、そのマイナス分をカバーするような工夫、たとえば、圧雪車や降雪機の効率的な運用などを含めて、環境への負荷が低く、かつ経営的にバランスが取れる取り組みが必要なんです。

やはり気候変動だけをテーマにした投資は、企業としては難しいところがあるんです。地域社会やお客様への責任を果たすためにも、イデオロギーだけでなくビジネスとして成り立つことが重要で、それがうまくいけば、ほかのスキー場も取り組みを始めるかもしれない。そうした相乗効果が期待できると思うのです。ビジネスは世の中を悪くもしますが、良くすることもできるわけですから」

私たち登山者やアウトドア好きができることとは?

出典:PIXTA

山やアウトドアがお好きな方なら、記録的な暖冬となった今年の冬の気候に対して、多少なりとも危機意識を抱かれたことと思います。しかし、現在では新型コロナウイルスの猛威によって、それどころではなくなってしまいました。世界に甚大な被害をもたらせた感染拡大は未だ収束の気配を見せず、今現在、そして今後の経済活動に及ぼすであろう打撃は、私たちの生活基盤そのものを逼迫させています。

けれども、気候変動の問題もまた、私たちに迫り来る大きな危機であることにかわりはないと考えます。それに対して私たち山好き、アウトドア好きになにができるのか。そのヒントとなるべく、今年の記録的な暖冬の状況と、今、白馬でスタートしているいくつかの取り組みを紹介してきました。山や自然のなかで遊ぶことが好きな人なら、スキーやスノーボードをするしないに関わらず、けっして見過すことのできない問題だということがご理解いただけたのではないでしょうか。

小さなことから考え、行動をはじめよう

日本ではいまだ環境保護活動へのアレルギーにも似た感情があることを理解しています。気候変動問題の解決には経済活動の根本的な転換が必要で、政財界という巨大なシステムに対して私たちに何ができるのだろうか。そんな無力感も根底にあることでしょう。

それでも私たちは、山好きアウトドア好きとしてこの問題と向き合い、ときには声を上げることが必要と考えます。

自分ができる小さなことからスタートしてはいかがでしょうか? まずは少しだけ時間を割いて、気になることを調べてみましょう。なぜペットボトルを買わないほうがいいのか。ストローはなにがどう問題なのか。1台のクルマをシェアして複数人で山に向かうことの意味。家庭でも再生可能エネルギーが選べるのかどうか。などなど……。

岩岳スノーフィールドのカープール施策

提供:白馬観光開発(白馬岩岳スノーフィールドでは自家用車に3名以上乗り合いで来場すれば、リフトに近い場所に優先駐車できる「カープール」施策を採用)

私たちが山に向かうのは、世間のしがらみや仕事の悩みを忘れさせてくれるような、爽快で気持ちのいい時間に浸れるからではないでしょうか。だからこそ、あまり難しいことを考えたくないんだよね、という気持ちもよくわかります。けれども、ずっと心の底にあるしこりのようなものと、そろそろ向き合ってみるタイミングではないでしょうか。そのほうが、はるかにすっきり、気持ちよく山で遊べるというものです。

実は、私たちアウトドアスポーツのコミュニティは小さなものではなく、そこにも希望が見いだせます。

現在、世界での参加人口は6000万人を超え、760万人以上の生活を支え、90兆円近い経済を動かすマーケットを抱えています。社会もこれほどの経済インパクトを持つコミュニティを無視することはできません

POW JAPANウェブサイトからの抜粋)

最後に、POW JAPAN代表でプロスノーボーダーの小松吾郎さんの言葉を紹介しましょう。「冬」「雪「スノーボーダーやスキーヤー」というキーワードは、「四季折々の豊かな自然」「山好きやアウトドア好き」に置き換えて読むこともできます。

POW JAPAN小松吾郎さん

提供:POW JAPAN(代表の小松吾郎さん)

小松「日頃から気になっていることを友人と話したくても、環境の話というだけで、なかなか耳を傾けてもらえないという現実がありますよね。けれども、私たちスノーボーダーやスキーヤーは違います。雪がなくなると困るんだよね、と言うだけで、『それはたいへんだよね、滑れなくなるものね』と誰もが素直に耳を傾けてくれます。そんな小さな声からスタートし、仲間に伝えていく。それはやがては気候変動を解決に導くパワーに変わるはずです。だから皆さん、どうか力をお貸しください。私たちの、そして地球の冬を守るために」

アクションを起こそう

提供:白馬観光開発

 

POW JAPAN

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