アイキャッチ・記事中画像撮影:筆者
あたたかい黒潮の海と雨が育むエネルギッシュな森のパワー

毎年恒例のことですが、五月は故郷東北の低山からスタートしています。今年のゴールデンウィークもみちのくの大地をフルスロットルで駆け抜けてきました。そしていま、怒涛の連休行事を終えてリラックスした時間を過ごしたい……ところなのですが、そう言ってもいられません。そう、この原稿を仕上げなければならないのです!
今回のテーマは西日本の低山。新緑の山の魅力は、ゴールデンウィーク明けから梅雨入りする前までの期間こそが真骨頂です。たとえば「五月晴れ」という言葉を辞書でひくと、5月の空の晴れわたること、とあります。本来は梅雨の合間の晴天を意味する言葉ですが、いつしか誤用が広がり、長い時間をかけて定着したのだとか。それだけ5月の晴れ間は、人に訴えかける明るいエネルギーに満ちているのでしょう。
さて、連休疲れもなんのその。この記事が新たな山旅にむけた情報収集のひとつとして、みなさんの参考になれば、これ幸い。新緑とはいえ気温の上がる時期ですから、涼を求めて「水辺」をキーワードに選出してみました。
- 王滝渓谷と天下峯(愛知県)
ダイナミックな渓流を抜けると、そこには…… - 青葉山(福井県)
複雑な海岸線を鳥の目で見下ろす、リアスの絶景低山 - 白嶽(熊本県・観海アルプス)
美しい海の風景と、美しいドルメンと - ミラムイ(沖縄県)
沖縄といえば海、ではなく、海の見える低山です
■東日本編はこちら
1.王滝渓谷と天下峯(愛知県)|ダイナミックな渓流を抜けると、そこには……

標高1500mを超える高山が見当たらない愛知県ですが、歴史文化の豊かな里山や霊峰、知る人ぞ知る自然資源に恵まれた、低山好きにはたまらない土地だったりします。ぼくもたびたび足を運んできました。
とくに「水辺」に注目すると、愛知県中で意外な発見があります。たとえば王滝渓谷はそのひとつで、野鳥、巨石、そして水遊びの楽しいハイキングができる絶好のスポット。
はじめて訪れたのは、まさしく梅雨入り前の晴れの日でした。野鳥の撮影に勤しむ人がたくさんいることにまず驚き、親切な地元のみなさんに混じって一緒に観察させてもらった素敵な思い出があります。お目当ての鳥が狙った場所に降臨する“その瞬間”を待つあの感じ、嫌いじゃありません。

駐車場からの歩きはじめは、鬱蒼とした森を縫う沢の音と、野鳥の地鳴き・さえずりに耳を澄ませる時間。次第に巨岩が増え、ダイナミックな渓相に心を躍らせる空間へと変化していきます。ふと気がつくと、上流にはのどかな田園地帯が広がり、渓流は小さなせせらぎへと様変わり。川上には急峻な沢があるものだと思い込んでいましたが、そんな先入観を覆される意外性が、これまたいいんですよね。

ぼくのお気に入りは、宮川散策道(※)。ゴロゴロした巨岩群の間を潜り抜けたり、鉄梯子を乗り越えたりと、思わぬところでアスレチック感が満載なのも◎です。岩には赤いペンキで矢印がつけられているため、複雑な経路で道迷いしないよう工夫されているところもすばらしい。
王滝渓谷の散策路は全体で1.8kmと短い区間ながらも、変化に富んだ低山歩きの醍醐味があって、とにかく飽きません。余力があるなら、さらに奥の天下峯まで歩くのも選択肢のひとつ。別名を弘法山と呼ばれる観音信仰の山で、そこかしこに文化と祈りの痕跡がある楽しい山です。
ちなみに、標高360mの山頂は三河の眺めがとてもよく、徳川家の始祖・松平親氏が天下泰平を祈願した場所なのだとか。なるほど、それで天下峯。いい山名ですね。
※2026年5月現在、宮川散策道は通行止めとなっています。おすすめコースでは宮川散策道を迂回するコースを紹介しています。
おすすめコース

コース概要
王滝渓谷 駐車場(30分)→王滝渓谷(35分)→古美山園地 駐車場(55分)→天下峯(45分)→古美山園地 駐車場(65分)→梟ヶ城展望台(25分)→王滝渓谷 駐車場
2.青葉山(福井県)|複雑な海岸線を鳥の目で見下ろす、リアスの絶景低山

福井の絶景低山といえば、その筆頭にこの山の名を挙げる人は多いでしょう。東西それぞれに山頂をもつ双耳峰であり、若狭富士の別称をもつ美しい山容で知られています。
こどものころ、地図好きが高じて日本列島の形を寸分の狂いなく描くことに熱中した時期がありました。そのときからずっと頭の片隅にあったのが、福井県の入り組んだ海岸線です。何度も地図を眺めては、片面の新聞広告の裏に模写を繰り返し、ついでに地形と地名を覚えたものです。若狭湾は、あのときからの憧れの地でした。だからでしょうか、はじめて青葉山から見下ろしたときの感動たるや、それはもう。

しっかり整備された登山道は、青葉山の人気の高さの裏付けです。とはいえ、修験道の栄えた信仰の山でもあるので、山頂付近は険しい岩場と鎖場にご注意を。ところどころで日本海や周辺の低山の山並みを見渡せる場所があり、絶景に励まされながら歩けるのが嬉しいところ。
一方で、貴重な植物のある山としてもよく知られています。新緑よりやや先の、夏のど真ん中の季節になりますが、青葉山にしか自生しない希少な固有種「オオキンレイカ」を目当てにするのはナイスアイデア。季節の花を探しに低山へ足を運ぶのもいいものです。

それはそうと、個人的に強くおすすめしたいのが下山後の寄り道です。山の東に位置する若宮海水浴場あたりから青葉山を眺めると、それはもう見事な二等辺三角形でして。見る角度によって形の変わる青葉山ですが、ここから眺める山容は若狭富士の名にふさわしい均整の取れた形で、うっとりしてしまいます。
ついさっきまであの尖った山の頂にいたのかと思うと、感慨もひとしお。もちろん登山前の“予習”として、登る前にここから眺めておくのも一興ですよ。
おすすめコース

技術的難易度: ★★★☆☆
・ハシゴ、くさり場、雪渓、渡渉箇所のいずれかがある
・転んだ場合に転落・滑落事故につながる箇所がある
・ハシゴ、くさり場を通過できる身体能力が必要
・地図読み能力が必要
凡例:グレーディング表
コース概要
青葉山ハーバルビレッジ駐車場(5分)→青葉山中山登山口(135分)→青葉山東峰(25分)→青葉山西峰(25分)→青葉山東峰(80分)→青葉山中山登山口(5分)→青葉山ハーバルビレッジ駐車場
