アイキャッチ画像撮影:ポンチョ
オンが本気を出してきた!トレッキングシューズ界の大型新人あらわる
スポーツブランドの<On(オン)>が、今年本格的なトレッキングシューズを開発しました。
と言うと、多くの人はスポーツブランドだからと、こう思うかもしれません。
「ソールのソフトなトレイルランニングシューズや、タウンユースもできるミッドカットのライトトレッキングシューズ的なモノでしょ!?」
それは、読者に限らずメディアもそう思っているのか、この記事を書いている段階ではWEB上に記事がありません。
しかし今回のOnのトレッキングシューズは、登山シューズブランド同等の機能、履き心地はそれ以上。スポーツブランドが本気を出すと、これほどまでに完成度の高いトレッキングシューズをつくれるのか!!と驚く一足です。
それがこの「クラウドアルパイン ウォータープルーフ」

オン/クラウドアルパイン ウォータープルーフ
価格:\37,180
重量:メンズ590g、ウィメンズ495g
メンズ、ウィメンズともに同じデザイン&カラー。リップストップの格子柄とブルーのアッパーがスマート。これまでOnが手掛けてきたトレイルランニングシューズやハイキングシューズ同様に、キレイなデザインが目を引きます。
しかし製品名に「アルパイン」とあるように、これまでのシューズよりもハードな登山に対応する機能を装備しています。対応する登山は幅広く、3シーズンの日帰り登山からテント泊縦走登山までです。
とはいえ、他ブランドのトレッキングシューズも、日帰りからテント泊縦走までをカバーしているモデルは多くあります。
そこで今回は、このシューズがどういうシーンで機能するのかを、日光白根山の樹林帯から岩稜帯歩きでのテストからわかった、5つのポイントに分けて解説していきましょう。
①あれ、登りがラクだ!ソールがしっかり硬めだからか!!

硬いソールのトレッキングシューズを履いていて、歩き方が普段と違ってぎこちなくなり、なんだか疲れると感じたことはありませんか?
逆に、ソフトなソールで歩きやすきのだけれども、長時間、長距離を歩いて、足裏やふくらはぎ、むこう脛に疲労を感じたことはありませんか?

軽量トレッキングシューズの多くは、ソールがソフトです。それは足裏の動きに合わせて、ぎこちない歩きになるのを防ぐため。低い山やゆるやかなアップダウンのトレイルでは、ソフトなソールの方が疲労を軽減します。
一方で、ある程度の硬さを備えたソールも、凸凹としたトレイルでの足裏への突き上げを抑えて、疲労を軽くする機能を発揮します。

行程が短く装備が軽い日帰り登山や、普段から山をよく登って鍛えている人は、ソールがソフトなシューズが向いています。総じて軽いシューズなので、重いシューズを履くよりも疲労が軽くなるから。
でも、行程が長く装備が重いテント泊縦走登山や、登山をたまにしかせず筋力が不足している人は一定の硬さを装備したトレッキングシューズを選ぶと、足をサポートしてくれます。シューズが重くても、高いサポート力が疲労を軽減してくれるため。
だから、どういう登山をするのか、どれだけ身体を鍛えているかによって、適切なシューズは変わるのです。
では、クラウドアルパインウォータープルーフのソールの硬さはどうか?
歩きやすさ×サポート力のバランス型

登攀等で履くアルパインシューズ以下、軽量なミッドカットのトレッキングシューズ以上の硬さ。つまり、歩きやすさを確保しながら、長い登りや重い荷物の負荷を軽減するバランスのよい硬さのソールです。
これまで歩きやすさ重視でソフトなソールを履いている人も、サポート力を重視して硬めを選んでいる人も、「あれ、ラクだ!」と感じる、しなやかさを装備しています。
②足が前に出ると感じるのは、ランニングシューズ由来の機能!

登りで感じたソールのしなやかさは、緩やかなアップダウンで、足がスッと前に出る感覚によってさらにはっきりと体感できるものになりました。
クラウドアルパインウォータープルーフの重さは、実測値で575g(27.5cm)。最近の軽量ミッドカットシューズは450g以下も多いので、それらと比較するとやや重め。しかしクラウドアルパインウォータープルーフ同様のしっかりとしたつくりのハイカットシューズと比較すると、やや軽い部類。
また、筆者がファストハイク(軽い装備で、時に走るスタイルの登山)で愛用しているローカットのトレイルランニングシューズと比べると、かなり重さがあります。
でも、不思議なくらいに、歩いていると足運びが軽いんです。
内蔵プレートが「長く、ラクに」歩き続けるための推進力に

その理由はソールに内蔵されている、「Speedboard®(スピードボード)」と呼ぶプレートによるものだろうと感じました。
スピードボードは、反発力の高い素材のカーボンを15%配合して射出成形したナイロン製プレート(上のイラストの黄色いプレート)。このプレートの反発力を推進力に変え、足を前へと押し出す機能を有しています。
ランニングシューズでは、走りを加速させます。トレッキングシューズだと、スッっと足が前に出る、歩きの軽さを提供してくれるのです。

アルパインシューズのようにほとんど屈曲しないソールは、歩くことよりも岩場の小さな足場につま先で立ち込む安定感を求めています。
このクラウドアルパインウォータープルーフのしっかり硬めでしなやかなソールは、岩場を登る安定感よりも、長くラクに歩き続けることを重視しているのでしょう。それがスピードボードに由来する、歩きの軽さでわかります。
③シューレースが緩みにくく、小石や木っ葉がシューズ内に入らない!!

クラウドアルパインウォータープルーフは、足首をくるぶしの上までしっかりとホールドするハイカット仕様です。
ミッドカットでもハイカットでも、履き口に高さがあると「足首のホールド力が高い」と説明されますが、実際には、シューレースをしっかり締め込んでも歩いているうちに緩んできて、ほとんどホールドしていないシューズがあります。それは、シューズのせいだけでなく、履いている人の締め込み方のせいもあります。
また緩みを防ぐためにシューレースを締め込み過ぎてしまい、履き口のクッションやカタチが合わず、靴ずれになることもあるでしょう。
フィット感を維持する2つの機能が秀逸

クラウドアルパインウォータープルーフには、シューレースの緩みを防ぐパーツが、足首が曲がる付近に備わっています。シューレースを締めた力によりパーツが上下で重なり、緩みを抑えるストッパーとなる仕様です。

履き口の後ろ側は深く切れ込んでいて、足首の可動域を確保しながら、幅のあるゴム製のカバーがアキレス腱にフィットします。これにより歩いていても履き口が広がることなく、また砂や小石、木っ葉がシューズ内に入らずストレスフリー!
この機能は他のシューズでは見たことがなく、Onも公式HPで特に取り上げてもいません。でも、小さなアイデアながら、大きな効果を発揮していると思います!
撮影:ポンチョ
上のスライド写真は、登山前と約6時間の登山終了後のシューズです。つま先にダメージや汚れがある方(1枚目)が登山後のシューズですが、足首を見てください。登山前にシューレースを結んでからそのままですが、緩みがないことがわかるでしょう。
シューレースは当たり前に結んだだけですが、足首の部分のシューレースのストッパーと履き口のゴム製カバーが機能して、ほぼ緩みなく、最初のフィット感を維持してくれました。
これなら日帰り登山でもテント泊縦走登山でも、快適です!
④そもそも、このシューズはフィット感がサイコー!

長時間歩いても緩まないシューズだとしても、フィット感がイマイチでは、そのよさは実感できません。
その点でクラウドアルパインウォータープルーフは、フィット感も素晴らしいんです。
私の足はやや幅広のため、最初は少し窮屈な印象でした。それは新品のシューズを履いたからということも多分にあります。
でも歩いていくうちに、窮屈さはブレのない履き心地に変化。柔らかな素材の内張りが足をやさしくホールドします。
タンがソックス状にアッパーと一体となっていることで、足がキュッと包み込まれる感覚

アッパーの青い生地部分はリップストップ素材。その周囲が、強度のあるケブラー的な素材のガードで補強されています。
ストレッチ性はありませんが、シューレースを締め込むと、足とシューズが一体に。この一体感は、重めのシューズでも歩いているとブレがないため、軽さを感じさせます。

さらにクッション性の高いインソールも機能しているようで、ブレやズレを抑制するだけでなく、ソフトな履き心地を演出してくれています。
⑤On独自のクッションをヒールにだけ採用。それが安定感を生む!

Onのシューズを象徴する機能が、水を撒くホースにヒントを得た「CloudTec®(クラウドテック)」というクッションシステム。衝撃を吸収するだけでなく、推進力を生むもので、採用されるシューズではソールの全面に装備されます。
ですが、クラウドアルパインウォータープルーフはヒール部分のみ(上の写真のヒールの空洞)。
その理由は、岩場等での安定感を得るためにしっかり硬めのソールを装備しているのに、体重を掛けるつま先部分や前足部に高いクッション素材があると、そのやわらかさが不安定さをもたらしてしまうからだろうと想像します。

そしてこのヒール部分のクラウドテックは、下りで効果を発揮。重い荷物を背負っていても、高いクッション性で足へのダメージを軽減してくれました。
こうしたこれまでとは異なるシューズのつくり方を見ると、Onがしっかりと「登山」を研究したことがうかがえます。
ただし、シューズに合わせることも大切
完成度の高いクラウドアルパインウォータープルーフですが、気になる点がひとつありました。

アウトソールには、On独自のグリップラバーを採用した「Missiongrip™(ミッショングリップ)」を搭載しています。
上の写真では少し見にくいですが、ヒール部分の突起=ラグの低い部分に、三角形のパターンが配されているのがわかるでしょうか。
このパターンによる高いグリップ力が、ヨコ方向のブレを抑えるのに機能します。
でも前足部にはそのパターンがないため、急な下りでは前後方向に比べて、左右にややブレを感じることがありました。

私が愛用しているOnのトレイルランニングシューズ「クラウドベンチャー」のアウトソールにも、同じミッショングリップを装備しています。しかし、ラグが2重のつくりになっていて、低い部分の多くに三角形のパターンが備わっていることが、上の写真でわかると思います。
この小さく浅いパターンの効果は絶大で、粘りのある素材とともに、前後左右、あらゆる方向で高いグリップ力を発揮してくれるんです。
クラウドアルパインウォータープルーフでも、クラウドベンチャー同様のパターンをもっと採用してほしい!登山中にそう思ったのですが……
どうしたら上手く使えるのか?想像し試してみることで“新たな良さ”が見つかる

クラウドアルパインウォータープルーフのアウトソールが、センターのラグと深めの溝を中心に左右対称に配されているのを見て、私自身の歩き方を少し変えてみることに。
すると、ほぼ左右方向のブレがなくなりました!
私の普段の歩き方は、ヒールから中足部の外側を着いて、つま先へ向けて少しカーブして蹴り出しています。それをヒールから足裏の中心を通して、つまりセンターのラグと溝に合わせて、つま先の第2指(人差し指)から第3指(中指)へと直線的に体重移動をさせると、左右ブレは解消されたのです。

登山の道具全般に言えることですが、自分の使い方、身体の動かし方が合っていなくて、道具の持っている性能を引き出せていないことは、案外多くあります。
だからこそ、自分のクセや、こう使うものだという固定観念を疑い、どうやったらその道具を上手く使えるのかを想像し、それまでと異なるやり方を実践してみることは大事です。
サイズやカタチが自分に合っていないものはどうしようもありません。でも、使い方を変えることで、それまでに気が付かなかったよさを発見することは、案外多いものです。
クラウドアルパインウォータープルーフは、そのことを改めて私に教えてくれました。
ライバルは……スポルティバとスカルパ!

しっかりとしたソール、高いホールド力を備えたクラウドアルパインウォータープルーフ。重い荷物を背負ってテント泊縦走がもっとも機能を発揮するシーンに思えますが、しなやかで軽い歩行感は、日帰り登山でもオーバースペックではありません。
オールラウンダーというと、走ることも可能なシューズがあります。でも、このシューズはしっかり歩くためのオールラウンダー。低山の樹林帯からアルプスのような岩稜帯までを気持ちよく歩けるシューズです。

比較検討するなら、スポルティバ/トラバース X5 GTX、スカルパ/メスカリートトレックGTXです。
どちらもアプローチシューズをベースにして、岩場で機能した性能を、山を歩くことまで広げたオールラウンダーとして評判です。
ソールの硬さ、重量を比べると、スポルティバ<オン<スカルパの順で硬く、重くなります。
オン/クラウドアルパインウォータープルーフは、この2モデルと比較して、機能は同等、履き心地はそれ以上に思えます。
「スポーツブランドのトレッキングシューズでしょ」という固定観念を捨てて、ショップで試し履きしてもらえば、このレビューで書いたことに「なるほど、確かに!」と思ってもらえるでしょう。
それではみなさん、よい山旅を!
オン クラウドアルパインウォータープルーフ
重さ | 590g |
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サイズ | 25.0~31.0cm(0.5cm刻み) |
オン クラウドアルパインウォータープルーフ
重さ | 495g |
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サイズ | 22.0~26.5cm(0.5cm刻み) |