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山道具のプロに聞く! 雪山装備の“失敗しない”選び方

デビューにあたり、しっかりと整えなければならないのが雪山用の装備。しかし、「何をどう選んだらよいのか分からない…」という人が多いようです。

今回は「冬用登山靴」にまつわる3つの疑問を解決。この冬、雪山に挑戦したい人は必見です!
【疑問➀】雪山って“いつもの”登山靴じゃダメなの?
雪山用の装備を一気に揃えるとなると、大きな出費が悩みのタネ。できるだけ夏山シーズンに使っているものを活用できないかと考えてしまうものです。持っていないギアは用意するとしても、登山靴はいつも使っている3シーズンのものじゃダメなのでしょうか?
夏と兼用できるのは●●だけ!
雪山を想定した時に、山のレベルにもよりますが、夏と同じものが使えるのはヘッドランプのみ! ギリギリあとはザックくらいです。安全のために妥協できない部分を考えると、それ以外は全部別物だと考えてもらうとよいですね。雪山では冬用の登山靴が必要です。3シーズン用と冬用登山靴の違いは?
では、3シーズン用と冬用は何が違うかというと、大きく3つあります。
保温材(ゴアテックス一体型のインシュレーション)こそが冬用登山靴の暖かさのもと。軽さ、暖かさが求められる中で、保温性も持たせるようにメーカーも最大限の努力をして、我々登山者に安全を提供してくれています。それを理解すれば、「冬靴を使う」ということは自然な流れではないでしょうか。

雪山ではアイゼンを締めたり、アイゼンを踏み込むということをします。アイゼンは金属ですから、雪面や氷に刺そうと思っても登山靴が軽かったり柔らかいと刺さらないんです。釘を手でたたいても入らないですよね? 靴もしっかりとソールが硬いもので、なおかつ足首も硬くないと、歯に負けちゃって足首がグネっとなってしまいます。
なので、冬用登山靴を選んだ方がいいんです。冬でもガイドさんやクライミング嗜好の方が軽くて柔らかい靴を使ったりしていますが、それを一般の登山者が真似してしまうのは危険です。
【3】アイゼンの装着に“ふさわしい”か否か
アイゼンの装着に関わるところでは、「甲部分の素材」「ソールの形状」「コバの有無」も3シーズン用と冬用は異なります。

3シーズン用はナイロンを使用しているのがほとんど。フィット感をよくするためにはナイロンを使いたいところなんですが、蹴った雪が乗っかることを考えると、雪山を想定した靴は甲に革を使うものが多いですね。雪が乗ることでの冷えを防ぐのと、アイゼンのバンドを締めたときに甲をしっかりと押さえるため。
体に紐をぎゅーって巻くと痛いけど、段ボールの上からだと痛くないですよね? 登山靴も同じで硬いもので守ってからでないと、アイゼンのバンドの締め付けが強くなってしまうんです。平坦なところを歩いている分には大丈夫だと思いますが、色んな方向に動いたときや体がグッと前に行くときに、靴に対して押し付ける力が働くとバンドの締め付けの不快感や痛みが伝わってくるんです。

■ソールの形状
3シーズン用は歩くことをメインに考え、硬くても歩きやすいようにつま先がそっています。一方、冬用はアイゼンをつけるためにフラットになっているんです。日本は樹林帯の中をもくもくと歩いていくことが多く、アイゼンはいらない…という場面があります。そのためキックステップ(蹴り込んで歩く)を多用する国。そんなときにもフラットなソールはメリットになります。

■コバの有無
冬用登山靴には、ワンタッチアイゼンやセミワンタッチアイゼンを装着するためのコバがあります。「持っている3シーズン用にもコバがあるからこれでもOKでしょ?」と聞かれることもあるんですが、3シーズン用のコバはセミワンタッチアイゼンがつかないこともないですが、でっぱりが少ないんです。あまりに出ていると夏山を歩くときにガツガツあたってしまうから。「コバがある=冬の靴」ではないので注意です。

【疑問➁】雪がそんなになくても、冬用登山靴は必要?
安全で快適に雪山登山を楽しむためにも、「暖かさ」「硬さ」「アイゼン装着に適しているのか」を考慮して、3シーズン用と冬用をしっかりと使い分けるのがベストだと分かりました。しかし、ひとくちに雪山といっても標高や雪の量は様々ですよね。その使い分けはどのようにしたらよいのでしょうか?冬季の足元は、大きく3つのタイプがある!

ナイロン製の登山靴は冬季の靴にはそもそも入ってきません。なぜかというと、ナイロンには“水を吸う→水を含んで重くなる→雪を蹴って雪が乗っかると溶けてびちょびちょになる→中から湿気が抜けたくても抜けない”という特性があるからです。
冬用登山靴は「雪」と「寒さ」から足を守るためのもの!

足まわりの選び方のポイントは、“どこの山・どんな山”に行くのかということ。冬山には「雪」と「寒さ」の2つの条件があるので、この2つが重なる場所は冬用登山靴が必要です。

冬の場合は「雪」だけってことはまずないと思いますが、「雪」と「寒さ」の2つが合わさったときに冬用登山靴の出番だとイメージしてもらえるとよいと思います。
「もしも」に対応できるか否かを判断基準に。
冬季の靴は本当に難しいんです。極端な話、凍傷にさえならなければ靴は何でもいいんですよ。重さや値段の葛藤はあると思いますが…。冷えの感覚は個人差があるので、「この靴で行けました!」みたいな情報を鵜呑みにしてしまうのは危険です。
体は上着を重ねたりとか誰かと抱き合うとかできますが、足に関しては着こむことができないし、何もできないんです。低体温症になると血が末端に届かなくなるので、凍傷になりやすい。そういうのを踏まえた上で選んだ方がいいですね。
【疑問➂】冬用登山靴がほしい! 選ぶときのポイントは?

冬用登山靴を選ぶときのポイント3つ
冬用登山靴を選ぶときには、以下の3つのポイントをチェックしてみましょう。
これは3シーズンも冬用も同じです。

各社「こんなことやってます!」というアピールポイントがあるので、それを参考にすることです。
例えば<AKU(アク)>は中綿を使い分けています。冬用のインシュレーションを甲の部分にも入れてしまうと、厚みが出て履きずらくなってしまいます。そのため、甲の部分はインシュレーションではなく、プリマリロフトという化繊の綿を入れているんです。
海外の雪は割とさらっとしているけれど、日本の場合は雪が湿気ぽかったり、その割に寒かったりします。雪が付着するとつま先が冷たくなりやすいんです。つま先が冷えるのを抑えるようにしたいという要望を日本からイタリアに出したのが、<AKU>ではインターナショナルに採用されています。全体をインシュレーテッドにするともこもこになっちゃうので、必要なところだけプリマリフトを入れているということです。
このように各社が力を入れているポイントがあるので、ぜひお店で聞いてみてください。

何を履いても寒い時は寒いですよね? そこで大きく分かれてくるのが、シングルブーツとダブルブーツ。暖かさでシングルブーツ(内側のライニングに綿を入れる)の上に君臨するのが、ダブルブーツ(二重登山靴)なんです。スポルティバのG2などインナーブーツが外せるタイプ。空気層やインナーブーツで暖かさをプラスすることができます。

メリットはすごくあるんですけど、二重靴って“海外の山”というイメージがあるから「ヒマラヤに行くみたいで気恥ずかしい…」みたいなのがあって、みんな履かないですよね。もちろん海外の山を想定しているのもありますけど、当然人によって冷え方は違いますので、あまりそれに捕らわれずにワンランク上の暖かさを選んだ方がよいと思います。
冬用の靴下とインソールも忘れずに!
靴選びはもちろんですが、冬季は靴下も重要です。厚手の靴下を用意することと、汗をいっぱいかく人はインナーソックスもあった方がいいですね。ゴアテックスの靴で透湿性があるとはいっても湿気は抜けにくいんです。外気が冷たいので抜けようとしてもその直前で結露してしまったり。そうすると足が濡れて冷えてしまうので、靴下+インナーソックスが◎。最近話題のドライレイヤーのように、レイヤリングを靴下でもやること。
お店で試着するときには、履こうと思っている靴下を持ってきて、合わせて履いてみてください。厚手の靴下を履いてゆとりのあるサイズを選ぶのが◎。雪山デビューをしてすぐにアイゼンの歯の細かい操作が必要なアイスバーンとか岩登りをするわけではないと思うので、むしろ冷えの方が辛いですよね。
そう考えると、サイズはちょっと大きめの方が空気の層ができて暖かいんです。夏靴以上に迷ったら大きいサイズを選んだ方がいいですね。上級だろうが初級だろうがビバークというリスクは当然誰にでもあるので、冷える靴は危険です!

雪山デビューにおいて「冷え」は大敵!

【疑問➀】雪山って“いつもの”登山靴じゃダメなの?
雪山では冬用登山靴が必要! 3シーズン用と冬用登山靴は「暖かさ」「硬さ」「アイゼン装着に適しているか否か」が異なるので、きちんと使い分けるのがベスト。
【疑問➁】雪がそんなになくても、冬用登山靴は必要?
冬季の足まわりはどんな山に行くかで変わる。「雪」と「寒さ」の条件が重なる山では、冬用登山靴が必要!
【疑問➂】冬用登山靴がほしい! 選ぶときのポイントは?
冬用登山靴を選ぶときは「足に合うか」「メーカーの推しポイント」「自分の冷えの感じ方」をチェック!
(迷ったら大きめサイズ、冬用の靴下とインソールもセットで揃えるのが◎)
どんな足元にするのか、行く予定の山を含めて店員の方に相談してみるのが一番です。金井さんのお話も参考に、自分にぴったりの冬用登山靴をみつけてくださいね!
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