ひとそれぞれの山道具。編集部の愛用ギアを紹介します!
登山を楽しむために大切な「体力」「知識」「計画」、そして「登山ギア」。ただひと言で「登山ギア」といっても、ひとによって選び方は千差万別。
普段はみなさんが「#私の山道具」とハッシュタグをつけて、SNSに投稿されたアイテムを「ふむふむ」と見ている編集部ですが、今回の企画では5名のYAMA HACK編集部員がそれぞれの「私の山道具」を紹介します。
いつもは最新のギアやウェアの情報をいち早くお届けしている編集部。意外なもの、「なるほど!」なもの、「それ私も持ってる!」なもの、どんなものが出てくることやら。
編集部のメンバーが山のお供にしているギアたちを熱く語ります!
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「半シュラ」とは何かというと……
「半シュラ」とは、長さ半分(ハーフレングス)のシュラフを指します。私がこのアイテムを知ったのは、アーティストのジェリー鵜飼さんの愛用ギアの取材をしたときでした。
シュラフといえば、アタマまですっぽり覆えるフルサイズのフード付きが一般的ですが、携行しているダウンジャケットなど防寒着を着て寝れば、その部分はシュラフがなくてもいいし、軽量化にもつながる。ちょっと目からウロコの話。
でも、本当に「半シュラ」で山で一晩を過ごせるのか……。そのことをライター吉澤英晃さんに検証してもらった記事も担当しました。
なるほど!と気にはなるものの、寒がりの私としてはやはり「半シュラをシュラフに置き換えて使う」という選択肢はなかったのですが……。
パタゴニアで面白い「半シュラ」を発見してしまった!
話はさかのぼりますが、取材の前に冬用ダウンシュラフを手放したところでした。理由は「とにかく重くてかさばる」。
雪山テント泊はしないので、1250gもあるシュラフの出番はほぼ皆無。とはいえ、レギュラー使用の「モンベル ダウンハガー#3」だと、秋のアルプスや冬の低山では寒さに震えるのは経験済み。重さと暖かさのバランス、使用頻度など、冬用シュラフのベストアンサーが見つからないままだったのです。
そんな折、先の取材でジェリーさんから「パタゴニアでも半シュラがあるみたいだよ」と聞いたのは、2020年の春。そんなことをふと思い出し、パタゴニアのサイトで見つけたのが「ライトウェイト・スリーピング・バッグ」でした。
いつものシュラフに「プラスα」という活用法
購入にいたった決め手。それは「化繊/半シュラ/軽い」という3点。
ただ厳密に半シュラかというと、違うかもしれません。フードはないけれど丈が半分なわけではないし、USのMサイズでは身長165cmの私でも引っ張ればアタマまで覆うことができるからです。
いつも使っている「モンベル ダウンハガー#3」とのサイズ感比較とスペック表を見てみましょう。
素材 | シェルと裏地:0.77オンス・10デニール・リップストップ・ナイロン100%。DWR(耐久性撥水)加工済み、インサレーション:40グラム・プリマロフト・エアロジェル |
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重さ | 335g |
まず重さですが、335g(実測は284g)。化繊シュラフはダウンシュラフに比べて重いというのが一般的。しかしながら、素材が違うので単純比較はできませんが、某メーカーの夏用ダウンシュラフが約400gだったのと比べても、化繊シュラフとしては驚くほど軽いのです。そして収納サイズも小さい。また半シュラであれば、フード周りが二重になることもなく快適そうです。
一方、触った感じでは「これ、本当に大丈夫……?」と不安になる薄さ。実はこのシュラフには「プリマロフト・エアロジェル」が使用されています。最近ではインサレーションウェアにも使用されている、断熱性に優れた軽量の素材。新しいもの好きとしても、この素材を使った化繊半シュラというのは試してみたい!
そして、いつも使っているモンベル#3が611g(実測)なので、2枚合わせても約900g。
そう、このシュラフを買った理由は「シュラフ2枚重ね」をするためなのです。ちなみにパタゴニアのサイトにも「別の寝袋の内側で保温性を高めるライナーとしても使用可能」と書いてあるということは、メーカーもそのような保温力アップとしての使用を想定しているということ。
もしこれがうまくいけば、
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……と3つのシーンで使用できるシュラフを一気に手にすることができるのでは!との目論見があったのです。
実際使って「よかった」3つのポイントは?
真夏に単体でも使用することはありますが、写真のように「シュラフ2枚重ね」で使います。すっぽりとモンベルのダウンシュラフが収まっています。
購入した昨年秋〜今夏にかけて使ってみて、いろいろ気づいた点があったのでここに挙げてみますね。
軽くてコンパクトだけど冬も使える暖かさ
主目的だった「冬用のシュラフ」としての利用。これはまずまずOKでした。
寒さの感じ方は個人差があるのですが、昨年12月に奥多摩「三条の湯」の滝のそばでテント泊をしましたが、ぐっすり睡眠。私の行く冬の低山であれば必要十分でした。重さが300g近くも軽く、2つ合わせてもコンプレッションバッグを使うことで収納サイズを小さくできることを考えると、40Lのザックで冬山テント泊ができるというのは大きなメリットです。
シュラフが濡れない!結露があっても安心
これはあとから気づいたことなのですが、モンベルのダウンシュラフは防水タイプではないので、雨や結露からシュラフを守るカバーが必要。特に連泊をする縦走時にシュラフが濡れると致命的です。
ならば、この化繊半シュラを「シュラフカバー代わり」にするのはどうだろうか……。
この夏に結露でテントに触れていた部分の化繊半シュラが濡れることがありましたが、内側のダウンシュラフは無事。あくまでも防水ではなく撥水ですし、メーカー推奨では「内側のライナーとして使用」となっていますが、外側のカバー代わりとしての効果もあるのでは?と感じました。
最初から狙ったわけではなく、USサイズで大きいから、外側にしたほうが収まりがいいだろうと試してみたことからの、棚からぼた餅なのですけど。
コロナ禍の小屋泊ではシーツ代わりに
そして昨年のコロナ禍で山小屋泊の条件が大きく変わったことがあります。
小屋泊であっても、シュラフやシーツなどの携行が求められるようになりましたが、シーツは新たに購入が必要だし、ダウンシュラフはかさばります。そこでこの化繊半シュラを持参したところ、小屋泊ならば掛布団を使わずとも十分に寝られました。
思いがけず、2枚重ねの暖かさアップ以外にも使い勝手のよさを発見してしまいました。
うーん……ここが気になるマイナス点も
全方位的におすすめできそうなこのシュラフですが、いくつかのマイナス点もあります。これはメリットとの相殺にもなるので、どう捉えるかはユーザー次第ですが、以下挙げてみます。
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急いでトイレに行きたい場合など、ジッパーがないのは焦るかもしれません。特に2枚重ねにしている場合は、内側のシュラフのジッパーを下げて、外側のシュラフからはい出て……と寝ぼけた状態ではなかなか大変。トイレはギリギリまでガマンしない。これが唯一の解決法(?)かもしれません。
値段に関しては、冬用シュラフを別途購入することや、インナーシーツやカバーを買うことを考えると、いずれにしても出費は増えます。単体の夏山用シュラフとして考えると決して安くはないのですが、組み合わせることで雪山を除くオールシーズンの山で使える。そのポテンシャルを考えると、私の山行スタイルでは「メリットあり」となり、購入に踏み切りました。
万人受けではないけど、面白いギアには違いない!
「パタゴニアにシュラフなんてあるの?(ロゴがかわいいでしょ?)」
「シュラフ2枚重ねってw(でも暖かいんだから!)」
「インナーシーツでもよくない?(確かにそのほうが軽い……)」
……と、いろんな反応があり、それに対して「なるほど!」「いやいや〜」と心の声がこぼれることはありましたが、でも私としては総じて満足。
何より単体では真夏以外は必要不十分な「化繊半シュラ」という、周りでも使っている人がいない変わったアイテムは、自分で使い方を考える楽しみがありました。
道具が山行の可能性を広げるのか、山行が広がったから新しい道具が必要なのか、いずれにせよ、寒さやシュラフの重さを考えると億劫だった冬の低山テント泊の回数が増えたのは、このシュラフのおかげかなと思っています。