半シュラフ

軽量化の救世主になる?謎の山道具「半シュラ」を徹底解説!

突然ですが、みなさんは「半シュラ」という山道具を知っていますか? 登山メディアでも取り上げられることが少ない、知られざる存在。そもそも「半」って?「シュラ」って?? でも実は使いこなせば軽量化の救世主になる謎なアイテムなのです。今回はそんなツウ好みなアイテム「半シュラ」を紹介します!

目次

アイキャッチ画像撮影:吉澤英晃

「半シュラ」という道具を知ってますか?

半シュラ

撮影:吉澤英晃

世の中にあふれる数多くの山道具のひとつに半シュラという商品があります。登山系メディアでもお目にかかる機会が少ない「半シュラ」という謎の言葉。 ピンとくる方はきっと往年のクライマーか、山道具に見識がある人でしょう。

どんな商品なのかというと、上の写真がいわゆる「半シュラ」になります。半シュラ」とは「半身シュラフ」の略語であり、呼び名の通り下半身だけに中綿が封入されているシュラフ(寝袋)なんです。

なんだか中途半端な感じが否めないですが、一体どうしてこんな寝袋が誕生したのでしょう??

「半シュラ」誕生の舞台裏はアルパインクライミングにあり

アルパインクライミング

半シュラが生み出された背景には、アルパインクライミングという特殊なアクティビティの存在があります。ときに岩壁に張り出した猫の額ほどのスペースに座って夜を明かすこともあるアルパインクライミングでは、パフォーマンスを上げるために1gでも荷物を軽くする必要がありました。

どうしたら装備を軽くできるか。クライマーたちが試行錯誤を積み重ねた結果誕生したのが、一部の中綿を省くことで軽量化を図った半シュラなのです。

でもそれがなぜにいま注目なのか、まずは「一般的なシュラフ」と比べながら解説していきます。

「半シュラ」は普通の寝袋と何が違う?

半シュラとノーマル

撮影:吉澤英晃(左がノーマルタイプの「ダウンハガー800 #3」。右が半シュラの「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」)

ここからは半シュラの特徴をノーマルタイプのシュラフと比較しながら確認していきます。

今回は登山用品の総合メーカー<モンベル>から、半シュラフとしてリリースしている「ダウンハガー800 ハーフレングス #3」と、使われているダウンの質が同等のノーマルタイプ「ダウンハガー800 #3」を借りました。なおダウンハガー800 #3」は3000mの夏山で広く使われているモデルになります。

さっそく左のノーマルタイプと並べて見てみると、右の半シュラの違いは一目瞭然。まずフードがありません。さらに胸元辺りがすっきりしていますね。

あれ? 上半身にダウンがない・・・

半シュラ

撮影:吉澤英晃

ぐーっと近寄って上半身をよく見てみましょう。途中で一本、縫い目が走っているのがわかります。このラインがダウンの封入の境目になっており、ここから首元までは本体と同じ生地が一枚だけ申し訳なさそうに付いているだけなんです。

※薄い生地がついているかどうかはメーカーによって異なります

半シュラ

撮影&加工:吉澤英晃

わかりやすく写真を加工すると、こうなります。点線から上にはダウンが封入されていません。中綿が封入されているラインはメーカーによってまちまちで、腰までのものもあれば、モンベルの商品ようにミゾオチくらいまで入っているものもあります。

「軽い・コンパクト・安い」の三拍子!

半シュラ

撮影:吉澤英晃

次はノーマルタイプと半シュラを収納袋に入れて、半シュラを選ぶ上で最大のメリットとなる重さを比較していきましょう。今回は量りを使って実測してみました。

重量

撮影:吉澤英晃

まずはノーマルタイプの重さから。量りのメモリは602gを示しました。これでも十分軽いといえます。

続いて半シュラはどうでしょうか。

重量

撮影:吉澤英晃

計量結果は443g。159gも軽くなり、なんと500gを下回ってきました!

シュラフが500mlのペットボトル以下というのは、けっこう驚異的な数値です。

収納サイズもコンパクト

半シュラ

撮影:吉澤英晃

もちろん収納サイズも小さくなります。参考までにスマートフォンを横においてそれぞれを比べてみました。左のノーマルモデルと比べて、右の半シュラの方が短くてスリムになっているのがわかります。

収納サイズ

撮影:吉澤英晃

横から見るともっとわかりやすく、半シュラの方が一回り小さいです。ノーマルタイプの直径が約13cmなのに対して、半シュラは約12cmでした。これならパッキング時にかさ張らないので、バックパックのサイズダウンも期待できますね。

中綿が少ないから価格も安い!

価格や適応身長、適応温度なども確認してみましょう。

モデル名税込
価格
適応
身長
適応温度
【半シュラ】
ダウンハガー800

ハーフレングス #3
¥26,400快眠温度域:
3℃以上
使用可能限界温度:
−2℃
【ノーマルタイプ】
ダウンハガー800

#3
¥33,000183cmまでコンフォート:4℃
リミット:−1℃
エクストリーム:−16℃
※2021年10月現在、上記商品はいずれもメーカー取扱なし。「シームレスダウンハガー800」へと移行しています。

まず注目すべきは価格差です。中綿が少ないだけで半シュラはだいぶお得に感じます。

ただし適応温度の使用可能限界温度は−2℃と高め。ノーマルタイプのエクストリーム温度は−16℃なので、14℃も違いがあります。この差を埋めるのが、半シュラを使いこなすコツになってくるのです。

半分で大丈夫か、実際に寝てみた!

防寒着

撮影:吉澤英晃

半シュラについて詳しくなったところで、実際に使って寝てみましょう! ただし、軽くてコンパクトになることは分かりましたが、上半身に中綿が入っていないので、なんだか寒そうですよね。

実際にスペック上の適応温度はノーマルタイプと比べて14℃も違いがありました。この差を埋めるために、半シュラを使うときは保温着やレインウェアを着込む必要があります。

半シュラフ

撮影:吉澤英晃

実際に保温着を着用して横になったイメージ写真がこちら。この方法で足りない保温性を確保するのです。逆に言うと、寝るときに保温着などを着ているから上半分の中綿はなくてもいい、というのが半シュラ誕生の原点になります。

寝心地は悪くないけどウェアのチョイスが難しい・・・

撮影:吉澤英晃

実際に中に入ってみると<モンベル>の商品は首元まで生地で覆われるので安心感はありました。頭部が覆われていないのが気になるときは、フード付きの保温着を選べば問題ないでしょう。

ただし中綿が入っていない部分は保温着などに頼ることになるのですが、実はこれが難しい……。

というのも、保温着にはシュラフのような対応温度域の表記がないので、何℃まで対応する保温性を有しているのかというスペックを、往々にして私たちは知らないからです。持参した保温着が薄ければ寒くなり、ハイスペック過ぎると今度は暑くなってしまう。これが半シュラの現実です。

実際に外で一晩寝てみたのですが、そのときは着込んだ保温着が薄かったせいで、下半身は暑くて上半身は涼しいというアンバランスな状態になってしまいました。

半シュラは◯◯な山行におすすめ!

八ヶ岳

出典:PIXTA

では半シュラはどんな山行におすすめなのでしょうか。

実際に商品を使ってみての感想は経験値があればどんな山行にもおすすめできるになります。経験値があるというのはもちろん、自前の保温着でどれほどまでの寒さに絶えられるのかを、山行を通して把握している状態を指します。そういった経験値があれば寒さが厳しい冬山でもレイヤリングを工夫して快眠できる人もいるでしょう。

ではそういった経験値がない人はどうすればいいのか。使いこなすにはややハードルが高い商品であることに間違いはないので、寒さの心配が少ない夏のキャンプや低山などで徐々に実践を重ねていくのが理想的といえます。体感温度は人によって違うので、例えば「この半シュラとこの保温着があれば夏の3000mの山でも大丈夫だよ!」とは言えないのです。

使いこなせば、登山がより軽快になるツールです!

半シュラ

撮影:吉澤英晃

「半シュラ」はなかなかニッチな商品ですが、圧倒的な軽さを享受できるアイテムです。ここまでアイテム単体で一気に軽量化をはかるのは、実はけっこう難しいからです。

経験値がない状態ですぐに3000m級の夏山などで使うことはおすすめしませんが、1gでも荷物を軽くしたいという人は、低山から徐々に始めて経験を積んでいくのがいいでしょう。

荷物が軽くなれば消費する体力が少なくてすむので、一日で歩く距離を延ばしてより多くの景色を楽しんだり、夕飯のメニューを豪華にしたり、別の楽しみの割合を増やすことができますよ。

シームレス ダウンハガー800 ハーフレングス #3

シームレス ダウンハガー800 ハーフレングス #3

提供:モンベル

重量: 365g(386g) ※( )内はスタッフバッグを含む重量です。
カラー:バルサム(BASM)
収納サイズ:∅12×24cm(2.4L)
快適睡眠温度域:4℃
使用可能限界温度:-1℃
モンベル|シームレス ダウンハガー800 ハーフレングス #3

関連記事

ジュリー鵜飼さんとシュラフ
YAMA HACKマガジン|日用品としての山道具