アイキャッチ撮影:筆者
本物そっくり!とんぼ型虫除け「おにやんま君」参上
みなさまこんにちは。ライターの大城です。
ハイキングや登山には欠かせないアイテムのひとつに虫除けスプレーがあります。近年では有効成分の幅も増え、大人から子どもまで安心して使えるタイプも多く見かけるようになりました。
……が、もし”衣服に付けるだけ“の虫除けがあるとしたらいかがでしょう。オーガニック製品にこだわりたい方や、アレルギー体質の方も安心です。さらにその虫除けが“繰り返し使える”とあれば、地球環境にも優しく素敵ですよね。
そう、今回の主役は
\オニヤンマ/

ではなく、本物ではなくオニヤンマそっくりの模型「おにやんま君」です。
釣り餌における疑似餌ならぬ疑似敵効果で、虫たちを追い払う効果を狙ったアイテム。今回は「おにやんま君」で本当に快適な登山ができるのか、専門家さんに質問。そして、おにやんま君を引き連れて実際に登山をしてみましたよ!

ネットでも話題沸騰中のおにやんま君

実はネット上でも密かな人気を誇るおにやんま君。実際におにやんま君を使用したユーザーからはこんな声が聞こえてきました。
「付けてみての山行は曇りだったせいか、虫も少なかった為効果はまだよくわかりませんが、見た目が可愛いのでアクセサリー感覚で付けても良さそうです!!」sae130さん
「7月に北アルプスの焼岳に登った際、ザックの上部に「おにやんま君」を付けて効果を試してみました。上高地から焼岳に登るコースは前半部分に樹林帯があり、虫もそれなりにいたのですが、服装は半袖シャツだったにもかかわらず一ヶ所も虫に刺されることはありませんでした。先行する登山者(親子)を追い抜いた際、『見て!リュックにトンボが止まってる!』という子供の声が聞こえてきました。振り返って説明しようかと思いましたが、子供の夢を壊さぬよう、そのまま立ち去りました(笑)。」atsu.315さん
「アブの最盛期のちょっと前でしたがアブの接近は無し。羽音を聞く事はありませんでした。しかしブヨ、ハエと少年は友達か!?ってぐらい接近してきました。osyorokomatakamichiさん
ふむふむ、虫除けなのに「見た目がかわいい」ことや、子どもに夢を与えられるなんて夢のようじゃないですか! 話題になる理由も頷けてしまいますね。
オニヤンマとおにやんま君は瓜二つ

オニヤンマと聞いてどんな印象を思い浮かべますか?まずは彼らの生態を簡単に復習してみましょう。
オニヤンマ ─ オニヤンマ科
成虫は6月〜10月に見られる。国内を代表する大型トンボ。生息地は平地から里山の湧き水がある小川や湿地。大きさは100mm前後
参考:蛭川憲男『日本の里山 いきもの図鑑』、メイツ出版、2011年
筆者のオニヤンマの印象は「大きい」でした。子どもの頃に夏場、水路や田んぼで見かけてはその大きさに捕獲をたじろいでいたほどです。同時期によく見かけるトンボにオオシオカラトンボがいますが、彼らの体長は5㎝前後。2倍の体格を持つオニヤンマは確かに大きいですね。
そして何より注目すべきはオニヤンマの食性です。
成虫になるとカやアブ、ハエ、ハチ、チョウなどの昆虫類やクモ類を捕食する。1日に体重の10%の餌を食べるといわれている。
参考:北海道開発局 帯広開発建設部、『オニヤンマ』、国土交通省
オニヤンマの主食は昆虫類やクモ類。……ということは、虫たちがおにやんま君を怖がって逃げていくのでしょうか?

本物と瓜二つの「おにやんま君」。一見、本物のオニヤンマと見間違ってしまうほどです。
サイズは全長10㎝(安全ピン含む)。

重さは本物より少々重い8gでした。

しかしいくら本物にそっくりとはいえ、まんまと昆虫たちは騙されてくれるのか……。とはいえ、かつて胸を躍らせていた昆虫図鑑を久しぶりに開き、すっかり童心へ回帰。生物好きや昆虫好きにとってはこの時点でかなり楽しいです。
サンライン おにやんま君
サイズ | 11cm |
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おにやんまは飛んでいる様々な小型の虫を捕食します。 アブや蜂にとって天敵の姿をした「おにやんま君」を帽子やウェアに付けることで嫌がって逃げていくことでしょう! キャンプ場などで吊るし、風になびかせての使用にも忌避効果が見られます。
本当に効果はあるの? 専門科に聞いてみたよ
おにやんま君の効果について聞いてみたのは、YAMA HACKでもお馴染みの生物学習指導者である西海太介先生です。
先生、実際のところどうなんでしょうか……!?教えてくださ〜い!

一社)セルズ環境教育デザイン研究所|西海太介氏
神奈川県横浜市生まれ。『危険生物対策』や『アカデミックな自然教育』を専門とする生物学習指導者。現在、危険生物のリスクマネジメントをはじめとした指導者養成、小中学生向けの「生物学研究コース」などの専門講座を開講。
監修書籍に『すごく危険な毒せいぶつ図鑑』(世界文化社)。著書に、『身近にあふれる危険な生き物が3時間でわかる本』(明日香出版社)など。
著書に、『身近にあふれる危険な生き物が3時間でわかる本』(明日香出版社)など。
── オニヤンマは昆虫界でもトップレベルの強さと聞きますが、本当なんですか?
西海先生
オニヤンマは、昆虫界では上位の捕食者として、他の昆虫類を捕食するハンターとしての位置づけがあります。食うもの、食われるものなどの個体数のバランスをピラミッドで表した「生態ピラミッド」においても、オニヤンマは昆虫界の高次消費者として位置づけることができ、個体数自体は他のバッタなどの被食者となる昆虫類と比較して少なくなっています。

── でも他にもスズメバチのなど強そうな昆虫もいますよね?
西海先生
よく「オニヤンマとスズメバチどっちが強いの?」と問いかけられることがありますが、これら2種に限らず、生物には個体差があるため、状況や個体によってお互いに勝つときもあれば負けるときもあります。
── へえ〜!じゃあオニヤンマはスズメバチと肩を並べる天下無敵の昆虫なんですね!
西海先生
う~ん、昆虫界のピラミッドでは最上級でも、実際の生態系ではまだまだ上の捕食者も存在します。トンボは飛行能力が高いので逃げ切りやすいかもしれませんが、鳥や哺乳類は彼らの捕食者になり得るので、”天下無敵の生き物”ではありませんね。また寄生虫によって命を落とすこともあります。
──「天下無敵な生物はいない」……当たり前のことですが、とても大切な摂理ですね。とはいえ、昆虫界では上位のハンターことオニヤンマ。きっとおにやんま君を恐れて虫たちも逃げていってしまうんじゃないか、と思うんですが。先生、実際に効果は期待できるんでしょうか?
西海先生
個人的には「何とも言えない」というのが結論です。
──何とも言えない……。
西海先生
「効果があることを科学的に証明できていないので」というのが理由です。「効果がある」ことを立証できなければ、逆説的に効果がないことになりますからね…。というのも、この模型を置いて、虫が寄りにくくなったことを紹介する実験例はありますが、効果を証明する実験としては不足点があり、これだけでは模型の視覚効果による忌避を科学的に立証できません。
──なるほど、「効果がある」ことを立証できなければ、逆説的に「効果がない」ことになる。これをしっかり証明できていないため、科学的根拠がなく「何とも言えない」んですね。
西海先生
ただ、こういったことを考えさせてくれるアイテムとして自由研究などにもうってつけかもしれません。ただただ「効果がある!」、「効果がない!」という結論だけに縛られず、「どんな時に効果があるのか?」、「どんな虫には効果がないのか?」など、いろいろと試す価値が生まれることを考えると、とても良い発想の模型なのかなと思います。
──ありがとうございました! とっても勉強になった上に、早く山で実験してみたくなりました!わくわく!