エベレストセーター

天然素材が見直される今こそ着たい、ウールの『エベレストセータ』|定番道具のモノ語り#8

質実剛健、丈夫さが必要な機能である山道具。だからこそ発売から10年以上も経つ道具や、10年以上問題なく使い続けられる定番の山道具があります。そんな山道具の中から、ライターPONCHOが愛用してきたモノを紹介。今回は第8回、ウールの価値が再び見直されている今だからこそ山歩きに取り入れたい、アンダーソン&コーの『エベレストセーター』について。

目次

アイキャッチ画像:PONCHO

誰もが便利に着ているフリースの問題

グレーのセーター

撮影:PONCHO

地球環境に対する負荷をできる限り抑えること。それは山やアウトドアアクティビティを趣味とする人たちだけでなく、特に我々先進国で暮らす人たちの、日々の課題といえます。これまで当たり前だったこと、便利さの恩恵を受けてきたことの裏側で、実は環境にダメージを与えている事実を知り、見直す必要があります。

例えば登山の際、また日常の保温着として誰もが着ているフリース。
1978年にアウトドアブランドの<パタゴニア>が開発したパイルジャケットにはじまるフリースは、1993年に廃棄されたペットボトルから再生する技術が開発され、現在ではパタゴニアに限らず、多くのアウトドアブランドがリサイクル・フリースを販売するようになりました。

セーターを着た筆者

撮影:PONCHO

しかし、リサイクル・フリースであっても、環境にダメージを与えていることがわかってきました。

洗濯の際にたくさんのフリースの繊維が抜け、それが排水から海へ、マイクロファイバーとなって流れ出しているといいます。近年問題になっている海洋プラスチック問題の原因のひとつが、フリースをはじめとする化繊ウエアなのです。

現在のところ、根本的な解決策は見つからず、洗濯の回数を減らすか、化繊ウエアから抜けた繊維が排水へと流れないようにする洗濯用のバッグに入れて洗うしかないといいます。

フリース以前のミドルレイヤー、ウールを見直す

イギリスのエベレストセーター

撮影:PONCHO

フリース由来の海洋プラスチック問題を知り、久しぶりに山で着てみようかと思ったのが、今回取り上げるイギリスのシェットランドウールで編まれたアンダーソン&コーの『エベレストセーター』です。

80年代にフリースが多くのハイカー、クライマーの中間保温着となる以前、ウールのセーターがその役割を担っていました。長くアウトドアウエアの素材としては、時代遅れのものと認識されていましたが、2000年代に入って、よりやわらかく、チクチク感が少なく、自然な調湿性、高い保温性のあるメリノウールがアンダーウエアやソックスに使われるようになり、ウールの価値が再び見直されています。

羊たち

提供:グリフィンインターナショナル

『エベレストセーター』に使われるシェットランドウールは、ざっくりとした質感、保温性の高さが特長で、セーターなどに用いられることが多い素材です。メリノウールに比べると少し固めですが、そのぶん耐久性に優れています。

シェットランドウールのセーターは、スコットランドのシェットランド諸島の羊、シェットランドシープの毛で編まれ、その歴史は500年以上もあるそうです。『エベレストセーター』に使われるのは、そのシェットランドウールのなかでも、20~30%しかとれない「Fine」という最上級グレードのもの。最後に島の軟水で洗うことでやわらかさを増して、仕上げているそうです。

名前の由来のエドモンド・ヒラリー卿

提供:グリフィンインターナショナル

このセーターに名付けられた『エベレスト』は、1953年、人類初のエベレスト登頂に成功したエドモンド・ヒラリー卿が注文、初登頂の際に着用していたことに由来しています。

もちろん登頂時にはさらに防寒着を重ねていましたが、中間保温着として愛用されていたことを知れば、それが約70年前のことであっても、なんだかワクワクしてきます。

ウールのセーターを着て、低山ハイクへ

セーターと葉っぱ

撮影:PONCHO

『エベレストセーター』を私が手に入れたのは、確か2000年頃でした。

当時、山の中間保温着にはフリースを愛用していましたが、街ではウールやコットンを起毛加工したフランネルシャツに、シェットランドウールやラムズウールのセーターを合わせるのが好きでした。

『エベレストセーター』を手にいれ、これを着てエベレスト登頂をした人がいる。山でこのセーターを着ると、どんな感じなのだろうか? そう思った私は、性能を確かめたくなり、奥多摩の三頭山へ向かいました。

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