天然素材が見直される今こそ着たい、ウールの『エベレストセータ』|定番道具のモノ語り#8

2021/03/23 更新

質実剛健、丈夫さが必要な機能である山道具。だからこそ発売から10年以上も経つ道具や、10年以上問題なく使い続けられる定番の山道具があります。そんな山道具の中から、ライターPONCHOが愛用してきたモノを紹介。今回は第8回、ウールの価値が再び見直されている今だからこそ山歩きに取り入れたい、アンダーソン&コーの『エベレストセーター』について。

アイキャッチ画像:PONCHO

誰もが便利に着ているフリースの問題

撮影:PONCHO
地球環境に対する負荷をできる限り抑えること。それは山やアウトドアアクティビティを趣味とする人たちだけでなく、特に我々先進国で暮らす人たちの、日々の課題といえます。これまで当たり前だったこと、便利さの恩恵を受けてきたことの裏側で、実は環境にダメージを与えている事実を知り、見直す必要があります。

例えば登山の際、また日常の保温着として誰もが着ているフリース。
1978年にアウトドアブランドの<パタゴニア>が開発したパイルジャケットにはじまるフリースは、1993年に廃棄されたペットボトルから再生する技術が開発され、現在ではパタゴニアに限らず、多くのアウトドアブランドがリサイクル・フリースを販売するようになりました。

撮影:PONCHO
しかし、リサイクル・フリースであっても、環境にダメージを与えていることがわかってきました。

洗濯の際にたくさんのフリースの繊維が抜け、それが排水から海へ、マイクロファイバーとなって流れ出しているといいます。近年問題になっている海洋プラスチック問題の原因のひとつが、フリースをはじめとする化繊ウエアなのです。

現在のところ、根本的な解決策は見つからず、洗濯の回数を減らすか、化繊ウエアから抜けた繊維が排水へと流れないようにする洗濯用のバッグに入れて洗うしかないといいます。

フリース以前のミドルレイヤー、ウールを見直す

撮影:PONCHO
フリース由来の海洋プラスチック問題を知り、久しぶりに山で着てみようかと思ったのが、今回取り上げるイギリスのシェットランドウールで編まれたアンダーソン&コーの『エベレストセーター』です。

80年代にフリースが多くのハイカー、クライマーの中間保温着となる以前、ウールのセーターがその役割を担っていました。長くアウトドアウエアの素材としては、時代遅れのものと認識されていましたが、2000年代に入って、よりやわらかく、チクチク感が少なく、自然な調湿性、高い保温性のあるメリノウールがアンダーウエアやソックスに使われるようになり、ウールの価値が再び見直されています。

提供:グリフィンインターナショナル
『エベレストセーター』に使われるシェットランドウールは、ざっくりとした質感、保温性の高さが特長で、セーターなどに用いられることが多い素材です。メリノウールに比べると少し固めですが、そのぶん耐久性に優れています。

シェットランドウールのセーターは、スコットランドのシェットランド諸島の羊、シェットランドシープの毛で編まれ、その歴史は500年以上もあるそうです。『エベレストセーター』に使われるのは、そのシェットランドウールのなかでも、20~30%しかとれない「Fine」という最上級グレードのもの。最後に島の軟水で洗うことでやわらかさを増して、仕上げているそうです。

提供:グリフィンインターナショナル
このセーターに名付けられた『エベレスト』は、1953年、人類初のエベレスト登頂に成功したエドモンド・ヒラリー卿が注文、初登頂の際に着用していたことに由来しています。

もちろん登頂時にはさらに防寒着を重ねていましたが、中間保温着として愛用されていたことを知れば、それが約70年前のことであっても、なんだかワクワクしてきます。

ウールのセーターを着て、低山ハイクへ

撮影:PONCHO
『エベレストセーター』を私が手に入れたのは、確か2000年頃でした。

当時、山の中間保温着にはフリースを愛用していましたが、街ではウールやコットンを起毛加工したフランネルシャツに、シェットランドウールやラムズウールのセーターを合わせるのが好きでした。

『エベレストセーター』を手にいれ、これを着てエベレスト登頂をした人がいる。山でこのセーターを着ると、どんな感じなのだろうか? そう思った私は、性能を確かめたくなり、奥多摩の三頭山へ向かいました。


固定観念は、山の楽しみ方の幅を狭くする

撮影:PONCHO
フリースの軽量性、保温性の高さを、それまで雑誌などでたくさん書いてきて、天然素材よりも化繊の方がアウトドアでは機能的であるように喧伝していましたが、実はウールのセーターを着てハイキングをしたことがなかったのです。

当時の私は今よりももっと新しモノ好きで、ウールなんて時代遅れ、山シャツやセーターを着るのはオジサンくさいなどと思い込んでいました。今、振り返ると、反省しかありません……。

撮影:PONCHO
果たして、いざウールのセーターを着て山を歩いてみれば、機能的にも充分、気分的に実に心地よいものでした。

新しければよいモノで、古いモノはイマイチという固定観念は、楽しみ方の幅を狭めることを、この『エベレストセーター』に教わりました。

アウトドアウエア特有の派手なカラーとは真逆の自然な色合いは、ゆっくりと山を味わうのにちょうどよいものでした。フリースと比較すれば吸湿速乾性は劣りますが、使用する状況を間違わなければ、ウールのセーターでも問題ない。いやむしろ低山ハイクでは、普段着的な肩の力の抜けた感じが、ぴったりでした。

間もなく、私はトレイルランニングやファストパッキングのような、より運動性の高い山のアクティビティに傾倒していったので、この『エベレストセーター』を着てハイキングすることがなくなりました。

でも、年齢もまさにオジサンになり、山の楽しみ方が若い頃に比べてさらに多様になったことで、そして地球環境への負荷が少ないウールを見直したいと考えるようになり、この冬、そしてまだ寒い春の山で『エベレストセーター』を再び着ています。

ただのセーターではなく、山に合ったセーター

撮影:PONCHO
『エベレストセーター』は、スコットランド北部の厳しい自然環境で着続けられたシェットランドセーターをベースに、エドモンド・ヒラリー卿からの要望を具現化しているので、山仕様のセーターになっています。

一本の糸を首元のリブから編みはじめ、肩、袖、胴、裾と縫い目をなくしたフルシームレス仕上げになっています。袖と胴は編む方向を変え、だから動きやすく、身体をやさしく包み込むような着心地と保温性を備えています。

撮影:PONCHO
脇下のアームホールを見れば、フルシームレス仕上げならではの、編む方向を袖から胴体に流れるように編んでいることがわかります。袖と胴体を別々に編んでいると、この脇下に縫い目ができるのです。でも、『エベレストセーター』は縫い目がありません。

着心地は、フリースよりも格段に上

撮影:PONCHO
丸めると、フリースジャケットよりもコンパクトです。Mサイズ相当のこのセーターの重量は310g。ちなみにパタゴニアのR1プルオーバーが332gです。運動性、吸湿速乾性はR1の方が上です。でも手持ちのR1とこの『エベレストセーター』の着心地を比べると、軽さを感じるのは『エベレストセーター』の方です。

ストレスがなく、着ているというより、羽織っている感覚。これは、ざっくりと編まれているからこその着心地の軽さなのではないかと、想像しています。

レトロなスタイルが流行っている今、セーターもありです!

撮影:PONCHO
90年代的な、ちょっとレトロを感じるアウトドアファッションが流行っている現在、それをさらに飛び越えて、ウールのセーター+チェックの山シャツスタイルで、山歩きをしてみるのもいいかもしれません!

その際注意したいのが、合わせるシャツの素材。コットン製ではなく、ウールや吸汗速乾性を持った化繊混紡のシャツを選んで、汗冷えで体調不良にならないようにしてください。

選ぶべきセーターは、もちろん『エベレストセーター』です。久しぶりにこのセーターを着直した私も着心地のよさ、動きやすさに改めて驚きましたが、これまでセーターを着て山歩きをしたことがない人は、きっと新鮮な気分で山を楽しめると思います。

しかし残念ながら、『エベレストセーター』は編み手の高齢化で2016年で生産終了してしまったそうです。残っていた在庫を一部店舗で少しだけ販売している他は、フリマアプリ等で販売されている古着を見つけるしかないようです。旧き良きモノは、買って応援しないと、二度と手に入らないものになってしまうんですね……。稀少な『エベレストセーター』、是非見つけてください!

それでは皆さん、よい山旅を!

Anderson & Co

\ この記事の感想を教えてください /
GOOD! BAD

関連する記事

関連する山行記録 byヤマレコ

この記事が気に入ったら
「いいね!」をしよう
ポンチョ

低山好き、道具好き、写真好きライター。登山、ランニング、自転車、キャンプ、旅をテーマに雑誌、WEBで企画、執筆。低山ハイクとヨガをMixしたツアー・イベント『ちょい山CLUB』を妻と共に主催する山の案内人。

登山専用コミュニティサイト「ヤマレコ」

アウトドアのすべてを、ひとつのアプリで。

150以上のアウトドアメディアの記事や動画、3万枚以上のみんなの写真も見られる!
アウトドアの「知りたい!」「行きたい!」がきっと見つかる!
お気に入りの記事や写真を集めて、スキマ時間に素早くチェック!