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誰もが便利に着ているフリースの問題

例えば登山の際、また日常の保温着として誰もが着ているフリース。
1978年にアウトドアブランドの<パタゴニア>が開発したパイルジャケットにはじまるフリースは、1993年に廃棄されたペットボトルから再生する技術が開発され、現在ではパタゴニアに限らず、多くのアウトドアブランドがリサイクル・フリースを販売するようになりました。

洗濯の際にたくさんのフリースの繊維が抜け、それが排水から海へ、マイクロファイバーとなって流れ出しているといいます。近年問題になっている海洋プラスチック問題の原因のひとつが、フリースをはじめとする化繊ウエアなのです。
現在のところ、根本的な解決策は見つからず、洗濯の回数を減らすか、化繊ウエアから抜けた繊維が排水へと流れないようにする洗濯用のバッグに入れて洗うしかないといいます。
フリース以前のミドルレイヤー、ウールを見直す

80年代にフリースが多くのハイカー、クライマーの中間保温着となる以前、ウールのセーターがその役割を担っていました。長くアウトドアウエアの素材としては、時代遅れのものと認識されていましたが、2000年代に入って、よりやわらかく、チクチク感が少なく、自然な調湿性、高い保温性のあるメリノウールがアンダーウエアやソックスに使われるようになり、ウールの価値が再び見直されています。

シェットランドウールのセーターは、スコットランドのシェットランド諸島の羊、シェットランドシープの毛で編まれ、その歴史は500年以上もあるそうです。『エベレストセーター』に使われるのは、そのシェットランドウールのなかでも、20~30%しかとれない「Fine」という最上級グレードのもの。最後に島の軟水で洗うことでやわらかさを増して、仕上げているそうです。

もちろん登頂時にはさらに防寒着を重ねていましたが、中間保温着として愛用されていたことを知れば、それが約70年前のことであっても、なんだかワクワクしてきます。
ウールのセーターを着て、低山ハイクへ

当時、山の中間保温着にはフリースを愛用していましたが、街ではウールやコットンを起毛加工したフランネルシャツに、シェットランドウールやラムズウールのセーターを合わせるのが好きでした。
『エベレストセーター』を手にいれ、これを着てエベレスト登頂をした人がいる。山でこのセーターを着ると、どんな感じなのだろうか? そう思った私は、性能を確かめたくなり、奥多摩の三頭山へ向かいました。
固定観念は、山の楽しみ方の幅を狭くする

当時の私は今よりももっと新しモノ好きで、ウールなんて時代遅れ、山シャツやセーターを着るのはオジサンくさいなどと思い込んでいました。今、振り返ると、反省しかありません……。

新しければよいモノで、古いモノはイマイチという固定観念は、楽しみ方の幅を狭めることを、この『エベレストセーター』に教わりました。
アウトドアウエア特有の派手なカラーとは真逆の自然な色合いは、ゆっくりと山を味わうのにちょうどよいものでした。フリースと比較すれば吸湿速乾性は劣りますが、使用する状況を間違わなければ、ウールのセーターでも問題ない。いやむしろ低山ハイクでは、普段着的な肩の力の抜けた感じが、ぴったりでした。

でも、年齢もまさにオジサンになり、山の楽しみ方が若い頃に比べてさらに多様になったことで、そして地球環境への負荷が少ないウールを見直したいと考えるようになり、この冬、そしてまだ寒い春の山で『エベレストセーター』を再び着ています。
ただのセーターではなく、山に合ったセーター

一本の糸を首元のリブから編みはじめ、肩、袖、胴、裾と縫い目をなくしたフルシームレス仕上げになっています。袖と胴は編む方向を変え、だから動きやすく、身体をやさしく包み込むような着心地と保温性を備えています。

着心地は、フリースよりも格段に上

ストレスがなく、着ているというより、羽織っている感覚。これは、ざっくりと編まれているからこその着心地の軽さなのではないかと、想像しています。
レトロなスタイルが流行っている今、セーターもありです!

その際注意したいのが、合わせるシャツの素材。コットン製ではなく、ウールや吸汗速乾性を持った化繊混紡のシャツを選んで、汗冷えで体調不良にならないようにしてください。
選ぶべきセーターは、もちろん『エベレストセーター』です。久しぶりにこのセーターを着直した私も着心地のよさ、動きやすさに改めて驚きましたが、これまでセーターを着て山歩きをしたことがない人は、きっと新鮮な気分で山を楽しめると思います。
しかし残念ながら、『エベレストセーター』は編み手の高齢化で2016年で生産終了してしまったそうです。残っていた在庫を一部店舗で少しだけ販売している他は、フリマアプリ等で販売されている古着を見つけるしかないようです。旧き良きモノは、買って応援しないと、二度と手に入らないものになってしまうんですね……。稀少な『エベレストセーター』、是非見つけてください!
それでは皆さん、よい山旅を!
Anderson & Co