登山での悩み、圧倒的にこの問題!
いきなりですが、まずは上記 Googleでの検索結果をご覧ください。「登山 悩み」で検索した結果、なんと関連する検索キーワードのすべてがトイレ問題!
生理現象のため、突然襲われることもあるのがツライところ。「山でのトイレ課題はこんなにも深刻」と気付かされ、皆さんが少しでも安心して山に入れるような何かを紹介しなくては!と奮起したのでした。

さらに男性にとっても女性にとっても、便意をもよおしてしまった場合、そのハードルはグンと上がりますよね。
いざという時、どんな対処法があるの?

もっとも手っ取り早いのは、「茂みで用を足す」ということです。古くからの登山隠語で、男性の場合は「雉(キジ)撃ち」、女性の場合は「お花摘み」と、野外排泄を現すものがあります。
生理現象ですので、ある意味致し方なし、とも言えそうですが……
そもそも野外排泄ってOKなの?

行政的なスタンスとしては「いかなる場合でも避けて!」
山岳の環境を保全していくために、野外排泄はいかなる場合でも避けるべきと考えています。
し尿(大小便)による悪臭や水環境の汚染、登山道外への踏み入れによる植生損傷など、自然環境や生態系への深刻な汚染の拡大を危惧しています。
長野県としては、山岳環境保全対策支援事業としての国の補助制度を活用し、積極的な山岳トイレの整備を進めていく予定。
万が一の際は、携帯トイレの持参と適切な処理(持ち帰り)をお願いします。
野外排泄の際は、携帯トイレの使用が前提となります。
でも、できれば野外排泄は避けたいですね!
少しでも対策したい!覚えておこう、基本のイロハ

☑登山前にトイレを済ます!
基本中の基本です。何はともあれ、まずはトイレを済ませましょう。
☑ルート上のトイレをすべてチェック!
お腹が弱く心配な方は、とにかくどこにトイレがあるか事前にチェックしておきましょう。オアシスがどこにあるのか知っておくことで、心のゆとりが生まれます。
☑簡易トイレは必携!
緊急時は簡易トイレを使用しましょう。使用したトイレットペーパーやティッシュは、溶ける溶けないに関わらず、必ず持ち帰りましょう。
☑(万が一に備え)スコップを持参する!
簡易トイレを持参しても、2度3度と襲われるかもしれない便意……非常時に備え、簡易スコップを携行しましょう。
☑繰り返す場合は下山する!
そんなコンディションのときは無理せず下山しましょう。
……とはいえ、なるべくならこんなシチュエーションを迎えたくはないですよね。
何か対策はないの? こんな時はドクターに聞こう!
トイレの心配ばかりして登山を思いきり楽しめないなんて嫌だ!ということで、国際山岳医であり「日本登山医学会 認定山岳医委員会」の委員長である草鹿(くさか)教授に相談してみました。 ライター三宅
早速ですが草鹿教授、山での急な腹下しによる便意、こうなったらどうしたら良いでしょう?
草鹿教授
どうしようもないときは“雉撃ち”や“お花摘み”になるでしょうが、野外排泄は携帯トイレを使用すべきというのが環境保全という観点で重要でしょう。
ライター三宅
確かにそのとおりですね。
その前に一般的に野外排泄そのものに結構なハードルがありますよね。
その前に一般的に野外排泄そのものに結構なハードルがありますよね。
草鹿教授
場所にもよるでしょうね。
「森林の茂みの中」と「森林限界を超えた稜線」では状況がまるで違いますしね。でも、ポンチョを羽織って用を足す華麗な山女子も知っていますよ。
「森林の茂みの中」と「森林限界を超えた稜線」では状況がまるで違いますしね。でも、ポンチョを羽織って用を足す華麗な山女子も知っていますよ。

ライター三宅
稜線では遮るものがないため…想像もできない環境ですね…!(すごい女子もいるものだ……)
万が一の場合、人としての尊厳が……(汗)
えーっと、携帯トイレは大でも使用できるものがあるのですか?
万が一の場合、人としての尊厳が……(汗)
えーっと、携帯トイレは大でも使用できるものがあるのですか?
草鹿教授
凝固剤と消臭剤が入っていて、軽くてコンパクトなものがありますよ。二重のビニール袋でできていて、事後に口をしっかり絞めれば漏れることも臭うこともありません。
ライター三宅
では万が一に備えては、やはり携帯トイレは強い味方になりそうですね。
草鹿教授
しかしできればそういうシチュエーションになりたくないのでしょう?
ライター三宅
はい!まさにそのとおりなんです!
何か医学的に有効な方法はあるのでしょうか?
何か医学的に有効な方法はあるのでしょうか?
ドクターとの会話で光明が!?

草鹿教授
ここでは、感染性の下痢症などの特殊な下痢でないことを前提にお話しします。対症療法的には、正露丸糖衣やストッパみたいな即効性のある市販の止瀉薬を摂る、というのもアリですね。
ライター三宅
なるほど、いざ便意に襲われたときの対処ですね。
草鹿教授
しかし、常日頃からお腹が弱ければそんな備えもしているかもしれませんが、それら薬を常時携行している登山者もなかなか少ないと思うのです。
ライター三宅
確かにそうですね。ファーストエイドに入れてても、これ何年前のだっけ?ということも多々……
草鹿教授
薬にも使用期限がありますからね。
下痢し易い人には、入山前からビオフェルミンなどの整腸剤をあらかじめ服用して、腸の調子を整えておくことも有効ですよ。
下痢し易い人には、入山前からビオフェルミンなどの整腸剤をあらかじめ服用して、腸の調子を整えておくことも有効ですよ。
ライター三宅
起こった時の対処ではなく、「予防策」ですね!
下痢の要因の多くは飲食に起因

草鹿教授
胃腸と食事は密接に関係していますから、食べ過ぎを避け、数日前から生ものや刺激物を控えたり、特定のアレルギーのある人は特に直前の食事に注意するなど、一定の効果は期待できるはずです。
ライター三宅
私はお腹が強い方ですが、やはり食べ過ぎ・飲み過ぎの時は調子が悪くなります。
草鹿教授
下痢になる要因の大半は飲食に端を発します。よって、飲食の種類と量に配慮するのは有効になるはずですよ。当然、賞味期限・消費期限にも気をつけましょう。
……若かりし頃、賞味期限切れのおにぎりを現地で半額で仕入れて得した気分になっていたら、山中で大変な事になったことを思い出します。。。
……若かりし頃、賞味期限切れのおにぎりを現地で半額で仕入れて得した気分になっていたら、山中で大変な事になったことを思い出します。。。
ライター三宅
(先生は本当にお医者さんですか!?)
草鹿教授
また、寒さや冷えでお腹をくだす人もいます。そんな人は昔ながらの腹巻とまでは言いませんが、カイロを使うなどの冷やさない工夫と、登山当日の朝に止瀉薬を予防的に服用するというのもアリですね。
消化活動は交感神経と副交感神経のせめぎ合い!

ライター三宅
当日の朝と言えば、登山口トイレで出そうで出ないときってありますよね?
そんな時、不安を抱えながらもハイク開始しちゃうんですが、動き出してしばらくすると便意が収まってくるのをよく経験するのですが…
そんな時、不安を抱えながらもハイク開始しちゃうんですが、動き出してしばらくすると便意が収まってくるのをよく経験するのですが…
草鹿教授
それは、登山という少し激しい運動をすることによって、交感神経が刺激されるからですね。でも、山小屋に到着してリラックスしたりするとまた便意が戻るでしょう?
ライター三宅
ええ、まさにそのとおりです。
草鹿教授
消化管の動きは副交感神経優位です。食べてすぐ横になると牛になるなんて昔はよく言いましたが、本当はリラックスして横になって副交感神経を優位にした方が、食物の消化には有利なはずです。
ライター三宅
では、適正な消化を促すには安静が良さそうですね!
もっと安心が欲しいなら……便トレがオススメ!

草鹿教授
山小屋などに泊まると、多くの人は朝食後にトイレに行くからかなり混雑するでしょ?
そうするとゆっくりトイレの時間も取れず、さぁ出発、なんてこともありますよね。
そうするとゆっくりトイレの時間も取れず、さぁ出発、なんてこともありますよね。
ライター三宅
確かに。人気の山小屋ほど朝のトイレは大行列ですからね。
草鹿教授
だからね、僕のオススメは早朝に起きて、まだみんながトイレに行かない時間に便意をもよおせる様に、普段から便トレをすることです。
ライター三宅
便トレですか??
聞き慣れない言葉ですね!
聞き慣れない言葉ですね!
草鹿教授
ほら、三宅さんも「人としての尊厳が……」って心配してたでしょう?
そんな事にならないように、便意をある程度コントロールできるように、普段の生活からトレーニングしてるんですよ。
そんな事にならないように、便意をある程度コントロールできるように、普段の生活からトレーニングしてるんですよ。
ライター三宅
尊厳は大事です!(笑)
そのトレーニング内容をぜひ教えてください!
そのトレーニング内容をぜひ教えてください!

草鹿教授
簡単です。普段から山時間に合わせて起床し、すぐにトイレで朝一番の「便活」をする。僕の場合、本番を想定して便活後にランニングをしていますが、これが便トレです。週に何回かでも良いので継続することが重要ですね。
ライター三宅
早起きが苦手な人には相当大変ですが、野外排泄を避けるためには確かに有効そうですね!ついでに体力も付きそうですし!
草鹿教授
便トレ開始してすぐは出難い時もあります。そんな時は冷たいものを飲む。これによって、腸蠕動(ぜんどう)が活性化するのでオススメです。
僕はこれでかなりコントロールができてますよ。
僕はこれでかなりコントロールができてますよ。
普段からの便トレと予防でピンチを回避!

便トレとして「寝起きからの朝一活動」。ぜひ安心を得るため、ご自身の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?
それでは皆さま、どうぞ良いハイクを!
対策まとめ
教えてくれた人

日本登山医学会理事
認定山岳医委員会 委員長
自治医科大学附属さいたま医療センター脳神経外科教授
草鹿 元
取材協力:長野県 環境部 自然保護課