山泊の歯みがき、どうしてる?
山を赤く染める朝焼けや、稜線に沈む夕日、包み込まれるような満天の星空。何日もかけて山を歩く泊りがけの登山は、日帰りの山行では体験できない魅力と充実感に満ちています。
しかし日常とは違う限られた条件の中で長い時間生活するのですから、当然のことながらいくらかの制限は避けられません。山には守らなくてはいけないルールやマナーがあります。
普段どおりにはいかない、歯みがきルールの理由とは?
そのひとつが「歯みがき」に関するもの。普段は毎日欠かせない習慣である歯みがきも、山では歯みがき粉の使用や、歯みがき自体が禁止されているところが多くあります。
生活の基本ともいえる歯磨きが、山ではなぜできないのか。まずは改めてその理由を考えてみましょう。
①水の節約
第一の理由としてあげられるのは、水を無駄にしないため。多くの山小屋で使う水は、雨水を貯める、雪解け水をポンプで汲みあげる、ヘリコプターで空輸するなど、確保に手間も費用もかかるとても貴重なものです。
テント泊でも、自分で運び上げた限られた水だけで、食事や飲料をまかなわなくてはならない場合も多く、歯みがきに使う水は、まっ先に節約の対象になるでしょう。
②水による環境への影響
もうひとつの理由は、排水処理の問題。山では本格的な浄水設備がないところがほとんどで、私たちが使った水は、多少のゴミを取り除いた後、そのまま山に流されます。
歯みがき粉の成分の多くは化学物質で、自然界では分解されません。そのまま多量に流せば生態系に影響が出るのはもちろん、下流域にも影響を及ぼすことになります。
有機物でさえ分解に時間がかかる高所では、ひとりひとりの「これくらいは大丈夫だろう」という考えから生まれるほんの少しの汚水が積み重なることで、かけがえのない自然に大きな影響を与えかねません。
「山には何一つ残さない」
自然にもほかの人にも迷惑をかけないために、これが山に登る人に求められる、最も基本的で一番大切なルールです。
自然にやさしいオーラルケアの方法は?
とはいえ、3度の食事以外にも行動食を食べ続ける山では、「まったく歯みがきができない」というのはなかなか辛いもの。食べかすや着色汚れ、ネバつきや口臭、もちろんムシ歯のリスクも気になります。普段の生活で3日間歯みがきをしなかったら、歯医者さんにこっぴどく注意されるのは間違いありません!
さらに、長い時間歯みがきをしないと、口内で発生した歯周病菌が歯ぐきの血管から体内に入り込んで、関節リウマチや脳梗塞、心臓病などを引き起こす可能性まであると指摘する専門家も。
登山で歯をみがけない時間は限られてはいますが、いつもどおりの歯みがきはできなくても、できる限りのオーラルケアをすることは、登山自体を快適に過ごすのはもちろん、その後の日常生活を快適に健康に過ごすためにも大切なことだといえそうです。
では、満足に歯がみがけない状況を補うために、実際にはどんなことができるのでしょうか? いくつかの方法を具体的に考えていきましょう。
①ガムで口の中をすっきり
まさに歯みがきをしたような気分になれる「歯みがきガム」は、かなり噛みごたえのある硬めの食感とボリューム。これが唾液の分泌を促して口内環境を整え、歯ぐきのマッサージ効果を生み出して歯周病の予防にもなるのだそうです。(参考:Kracie)
クラシエフーズから発売されているガムは、実際に噛んでみるとかなり甘さを抑えたすっきり味。長時間噛むことで効果がアップするそうですが、結構硬めなのと味が比較的早めになくなるので、「歯のために噛む」という目的を意識する必要がありそう。でも効果は実感できる「本格派」という印象です(2021年3月末で販売終了)。
ムシ歯予防を意識するなら、キシリトール配合のガムがおすすめ。キシリトールは白樺などの樹木や植物から作られる甘味料で、食後の歯の再石灰化を助けムシ歯予防の効果があると認められた「特保(トクホ)」食品です。小さめの粒状で、普通のガムと変わりない味や噛み心地なので、手軽に取り入れやすいでしょう。
②基本のうがいにさらなる裏技をプラス!
口をさっぱりさせる手っ取り早い方法として「うがい」は効果的。でも「何も残さない」が鉄則の登山では、「クチュクチュ」の後の「ペッ」は基本的にNG。うがいをした水もそのまま飲み込むのが鉄則なのですが、なかには苦手に感じる人いるかもしれません。
そんな人でも違和感なく取り入れられそうなのが、食後に緑茶を口の中をめぐらすように、すすぎ飲みする方法です。緑茶に含まれるカテキンには、細菌やウイルスへの抑制作用があり、口臭や歯周病、虫歯の抑制にも効果的。
ペットボトルでもいいですが、山行のお供には、軽量なパウダータイプが便利です。
これなら適量を水と混ぜるだけで緑茶としておいしく水分補給できるうえに、歯周病対策にも効果があって一石二鳥。かなり濃いめに作るのが、オーラルケア的には有効です。
しかも、あんなに濃い緑色をしていながら、緑茶はコーヒーや紅茶とは違い、歯の黄ばみやくすみの原因となる色素沈着のリスクもほとんどないのだそう。日本人でよかった……と感じる瞬間です。
口内をくまなく洗うようなイメージで、ゆっくり時間をかけて飲みましょう。ただしカフェイン多目なので、山では熟睡できないという方は、飲む時間にご注意ください!
③汚れを直接ふき取る
もっとダイレクトに、歯の汚れや食べ物のカスを取り除くなら、ウェットシートタイプのオーラルケア用品が便利。普通のウェットティッシュと同じように1枚ずつ引き出して、葉の表面や口の中をふき取ることで、汚れやにおいの原因を取り除くことができます。
また、口臭の原因となる舌苔(ぜったい)は、口内が乾燥することによって、舌の表面が白くコケ状に覆われる症状。これをふき取ることで、口内をさわやかな状態に戻すことができます。息の上がる山の急登では自然と口呼吸をすることも多いので、特に口内の乾燥には気をつけたいところ。山以外の場面でも、お好み焼きや赤ワイン、イカ墨モノのお料理など、活躍するシーンは多そうですね。
ピュオーラ 歯みがきシート 15枚入
歯みがきシート
成分 | 水(基剤)、エリスリトール(清浄剤)、エタノール(溶剤)、ソルビトール(湿潤剤)、PG(湿潤剤)、マルチトール(湿潤剤)、プルラン(湿潤剤)、PEG-40水添ヒマシ油(可溶化剤)、ピロリン酸4Na(洗浄剤)、フィチン酸(光沢剤)、香料(クリーンミントタイプ)、水酸化Na(pH調整剤)、スクラロース(甘味剤)、フェノキシエタノール(防腐剤)、エチルパラベン(防腐剤) |
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無印良品 指型歯磨きシート
成分 | 水(基剤)、PG(湿潤剤)、ベタイン(湿潤剤)、PEG-60水添ヒマシ油(可溶化剤)、グリセリン(湿潤剤)、ヒアルロン酸Na(湿潤剤)、メントール(清涼剤)、キシリトール(甘味剤)、サッカリンNa(甘味剤)、グリチルリチン酸2K(甘味剤)、クエン酸(pH調整剤)、クエン酸Na(pH調整剤)、セチルピリジニウムクロリド(保存剤)、安息香酸Na(保存剤)、メチルパラベン(保存剤)、エチルパラベン(保存剤)、ブチルパラベン(保存剤) |
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④それでもやっぱり歯みがきがしたい! そんな時はジェル状歯磨き剤が◎
1泊2日くらいなら乗り切れても、山行が長くなるほど、歯みがきしたいという欲求が高まります。山に対する集中力が足りない! と言われればそれまでなのですが、楽しい山旅には、いやなことを少しでも減らすのも大切な要素です。そこでおすすめしたいのが「ジェル状の歯みがき」。
そもそも一般的な「歯みがき粉」は、ブラッシングすることで、水分を吸収し泡立って口内を洗浄するものがほとんど。通常の使い方で使用する程度の量を飲み込んでも健康に害がないようにつくられてはいますが、泡や粉っぽさをなくすためには、使用後にたっぷりの水で口をゆすぐ必要があります。
一方で、ムシ歯予防に効果的なフッ素を配合した歯みがき粉は、ブラッシングの後にうがいで成分を流しすぎないのが有効な使い方。つまり、口の中に残すことを前提で作られています。最後に少量の水でゆすぐのが基本ではありますが、水を加えずに使え、泡が立たず研磨剤も含まれていないので、うがいをしなくてもまったく違和感がありません。
甘みのないさわやかな使い心地。ピリピリする刺激もないので、時間をかけて丁寧にブラッシングできます。お試し用少量パックが山にピッタリ!
ウェルテック コンクール ジェルコートf お試し5g
成分 | フッ化ナトリウム950ppmF(薬用成分)、塩酸クロルヘキシジン(薬用成分)、β―グリチルレチン酸(薬用成分)、ポリリン酸ナトリウム(キレート剤)、キシリトール(甘味料) |
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さらに、そもそも水でゆすがないことを前提に作られた商品「オーラルピース」もあります。
おからに住む植物性乳酸菌が作るタンパク質を原料とした自然素材のみで作られたジェルが、虫歯・歯周病・口臭などの原因菌にアプローチ。歯みがき粉のようにブラッシングすることも、指などで口内に塗ることもできます。
もともとは歯みがきができない人の介護やこども用として開発された口腔ケア用品なので、人にも自然にも優しい処方。ミント感もほどよく自然な甘さもあります。
山に便利な小分けパックも販売されています。
ポイントは水の量! ちょっとの工夫で、山でもしっかり歯磨きできる
ところで、歯みがき後のうがいって、どれくらいの水が必要だと思いますか? おそらく普段はあまり気にせず、コップでうがいをし、残った水を捨てている人も多いのではないでしょうか。
先に紹介したフッ素配合ジェルタイプの歯磨き剤を使う場合、うがいに必要な水の量は5~15cc。(参考:LION「クリニカ」)お料理なら小さじ1~大さじ1程度なのですが、もっとわかりやすくいえば、ペットボトルのキャップ1杯(7.5cc)弱。想像よりもかなり少ない量です。
ちょっと疑いながらも実際にこの量でブクブクうがいをしてみると、水が足りないという感覚はまったくなく、充分すっきり感が得られます。水がムダにできない環境でも、これくらいなら許される量ではないでしょうか。
ティッシュ2枚分で持ち帰り可能!
さらに重要なのは、この量ならうがいをした水を吐き出しても、ティッシュ2枚程度で充分受け止められるということ。これならたいした負担なく持ち帰ることができます。歯みがき粉のセレクトと水の量をコントロールすれば、山には何も残さず、山行中も歯磨きをガマンせず、快適なオーラルケアが可能なのです! 同様に使った後の歯ブラシも、ティッシュで汚れを取った後、ペットボトルのフタに入れた水でゆすぎ、水をティッシュに吸わせて持ち帰りましょう。
オーラルケアのコツを掴んで、山での時間を快適に!
大好きな山を楽しむために不可欠なガマン。ちょっとした工夫で、そのストレスも解消できるかもしれません。自然にやさしく清潔で快適なオーラルケア。ぜひ一度お試しください!