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泊まるだけで、富士山がもっと面白くなる。「御師の家」で出会う歴史と文化(2ページ目)

アプローチから空気が違う

本町通りから御師住宅へ続く細長い通路「タツミチ」と手前の橋の下に流れる「ヤーナ川」

大鴈丸でまず印象的だったのが「タツミチ」。本町通りから御師の家へ続く細い通路をこう呼びます。
富士登山へ出発する「発ち道」。あるいは龍のように細長く伸びる「龍道」。
由来には諸説あるそうですが、そんな話を聞くだけで歩く時間が少し楽しくなります。

さらに、その脇を流れるのが「ヤナガワ(ヤーナ川)」。かつて富士講の人々は、この水で身を清めてから御師の家へ上がったのだとか。知らなければ通り過ぎてしまうような場所も、背景を知るだけで見え方が変わるから不思議です。

そして驚いたのが玄関。御師の家には玄関が二つあります。一つは富士講の人々を迎えるため。もう一つはそれ以外の来客や家人のため。
多くの人々を受け入れ、富士登拝を支えてきた歴史が、こうした細部にも残されています。

祈りの場所が、今も残っている

御師の家には「御神前(ごしんぜん)」と呼ばれる祈りの場があります。
富士講の人々は宿に到着すると、この場所で富士山の神様へ祈りを捧げました。御師が祝詞をあげ、御神歌を唱和し、登拝への心を整えていったそうです。

富士講の人々を率いて、信仰や登拝を導いたリーダー「先達(せんだつ)」が宿泊したという部屋。

大鴈丸には主に現在の千葉県方面から講者が訪れていたといいます。遠く離れた土地から集まった人々が、同じ場所で祈り、同じ富士山を目指した——。そう思うと、この建物が単なる宿ではなく、信仰を支える拠点だったことが実感できます。

泊まりながら文化に触れられるのも、この宿の魅力

「来た人が興味を持ってくれれば、御師についてもさらっと紹介できるから」、との思いから身近に感じられる展示方法に

玄関を入ってすぐの板の間には、御師の斎服や北口本宮冨士浅間神社の絵図など、富士講や御師文化に関する資料が展示されています。

当時を伝える貴重な資料を間近で見られるのも、この宿ならでは。

博物館の展示のようにガラスケース越しに眺めるのではなく、実際に人が暮らしてきた空間の中で見る展示。その距離感がとても新鮮でした。

富士信仰における富士山の世界観のイメージ図

なかでも印象的だったのが、富士山を「草山」「木山」「焼山」の三つに分けて考えるという話。

人々が暮らす俗世を表す草山。
神の世界へ近づいていく木山。
そして神仏の領域である焼山。

そんな世界観を知ると、いつも見ている富士山が少し違って見えてきます。山頂を目指すことだけが富士登山ではなかった。かつての人々にとって、それは祈りの旅だったのだと気づかされました。

文化財と聞くと、「見る場所」を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、ここでは富士山信仰とともに歩んできた歴史の中に身を置くような体験ができます。

歴史空間でくつろぐという贅沢

由緒ある建物ゆえに少々身構えていましたが、実際に泊まってみると驚くほど居心地がいい。館内にはどこか懐かしく、ゆったりとした時間が流れています。

2階の秘密基地のような部屋は、小窓を開けると大きな富士山の絶景が一望できる工夫も。

2階には、まるで秘密基地のような遊び心をくすぐる客室も。館内は18代目当主が自ら手掛けてリノベーションしたそうで、古い建物の魅力と現代の快適さが自然に同居していました。

宿泊客以外もOK。つい長居したくなるカフェ

宿の一角にはカフェスペースもあります。宿泊者だけでなく地域の人たちも利用できる場所で、この日も穏やかな空気が流れていました。丁寧に淹れられたチャイを片手にゆったり過ごす時間も、ここならではの楽しみです。

温かな人柄の一志さん・奈津子さんご夫妻

滞在中、18代目当主である一志さんと奈津子さんご夫妻からたくさんのお話を伺いました。
「この家と御師の文化を伝えていくというのが私たちの目的の一つ」
そう語るお二人の言葉には、この場所や地域への愛情がにじんでいました。
富士山信仰や御師文化と聞くと少し難しそうですが、お二人の話を聞いていると自然と興味が湧いてきます。
歴史や文化に触れ、人と出会い、少しだけ世界が広がる。大鴈丸は、そんな時間が流れる場所でした。

御師のいえ 大鴈丸(おおがんまる) fugaku × hitsuki
住所:山梨県富士吉田市上吉田7丁目12−16

富士山の文化をもっと知りたくなったら、『ふじさんミュージアム』へ

大鴈丸で御師文化や富士山信仰に触れていると、「もっと知りたい」という気持ちが湧いてきます。そんな時に立ち寄りたいのが、富士吉田市にある『ふじさんミュージアム』です。

館内では、富士山の自然や成り立ちはもちろん、富士講や御師文化、富士山信仰の歴史についても分かりやすく紹介されています。大鴈丸で見た展示や聞いた話が、「なるほど、そういうことだったのか」とつながっていく感覚も面白いところ。

館内には富士塚も。これは富士山へ行けない人々のために造られた人工の富士山。登拝と同じご利益が得られると考えられていた。

かつて富士山は神仏が宿る特別な山でしたが、富士講の広がりによって多くの人々に開かれた存在となり、「一生に一度は登りたい山」へと変化していったことが展示を通して理解できます。

ふじさんミュージアム
住所:山梨県富士吉田市上吉田東七丁目27番1号
開館時間:9時30分~17時00分
休館日:火曜日 (7-8月は無休)

泊まることで見えてくる、もうひとつの富士山

富士山というと、「登る山」というイメージが強いかもしれません。
でも御師の家に泊まってみると、そこには「祈る」という、もうひとつの富士山文化が息づいていました。大鴈丸で過ごした時間は、富士山の奥深い魅力に触れるきっかけに。もっと深く知りたい人は、ぜひ一度この場所を訪れてみてください。
きっと、これまでとは少し違う富士山に出会えるはずです。

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