出典表記のない画像はすべて筆者・筆者友人撮影
岩場が得意なアルパインブーツ。気になるのは重く歩きづらいこと

「アルパインブーツ」は、アルプスなどの岩稜の山をはじめとする岩場のルートで安定した登攀(岩をよじ登るような動き)を得意とする登山靴。
硬く重厚なソールは、岩の細かなスタンスを捉えやすく、急峻な岩場でも高いグリップ性を発揮。内側の防水加工により、雨や泥、残雪などにも強い特徴を持っています。
その一方、アルパインブーツは「重く歩きづらい」という欠点があり、長距離の縦走や低山歩き、アプローチの舗装路歩きなど、歩行性は低いとされてきました。
アルパインブーツの新たなカテゴリー「エクイリビウム」シリーズ

そんなアルパインブーツをベースに、高い歩行性を付与したのがスポルティバの『エクイリビウム』シリーズ。日本語で「バランス・均衡」という意味合いがあり、その名のとおり、登山に求められるあらゆる機能が調和された、同社が提唱する新しいカテゴリーの登山靴です。

その機能の秘密を握るのが、エクイリビウムに搭載されている独自のソールデザイン。登山靴のアウトソールをまじまじ見る機会は少ないかと思いますが、一般的な登山靴と比べてかなりインパクトのある形状をしているんです。
今回、エクイリビウムを試す機会ができたので、「何がそんなにいいのか?」実際に山を歩いて確かめてみました。
ライター 橋爪
ちなみに筆者はアルパインブーツの歩きにくさが苦手で、岩稜の山でもアプローチシューズを使うことが多いです。
これまでスポルティバの靴を履く機会も少なかったので、新鮮な気持ちでテストをしてきました。
一言で表すならば「超オールラウンダーな登山靴」

実際に使用して感じたのが、どんな地形でも上手にこなしてくれるということ。
岩場の登り下りはもちろん、なだらかな地形、トラバース(斜面の水平移動)、ザレ場、水たまりや泥の不整地、残雪・雪渓歩きなど、雪山を除く(※1)あらゆるシーンで安定した歩きやすさをみせてくれました。
※1)エクイリビウムシリーズに保温材は封入されていないため、厳冬期の雪山には対応していません

最近では「オールラウンドな登山靴」というのも耳にしますが、エクイリビウムは高い次元でこれらをこなしてしまうのがすごいところ。
従来、岩場での安定性を高めるにはソールを硬くする必要があり、それによって歩行性は損なわれてきましたが、エクイリビウムはこれまで相反していた機能までもうまく両立されているんです。
登山のスタートからゴールまで快適に

こうしたエクイリビウムの利点は、登りはじめから山頂を経て下山するまで、すべての行程を快適に歩けるということ。
例えば、上高地から槍ヶ岳へ登った人はわかるかと思いますが、横尾までは長いアプローチ、そこから本格的な登山道になって、メインの岩場は全体の一部です。だからといって、岩場での安定性は欠かせないですし、登山中に靴を履き替えるというわけにもいきませんよね。
エクイリビウムはこうした山行中の路面変化をそつなくこなせる、アルプスなどの岩稜を伴う山にピッタリな登山靴だと感じました。
洗練された機能美に迫る!試してわかった5つの魅力

エクイリビウムは、機能・デザインともに細かな点まで注意が行き届いているのが印象的でした。ここからは実際に使ってわかったポイントを紹介していきます。
- 推進力を感じる軽やかな歩き心地
- 路面に食いつくようなグリップ力
- きめ細かな足運びで岩場でも安定性を発揮
- 包み込まれるようなフィット感が心地いい
- 濡れやムレを気にせずガンガン使える
推進力を感じる軽やかな歩き心地

まず、歩きはじめてすぐに気づいたのが、足が自然と前へ進む推進力を感じることです。まるで靴にアシスト機能がついているような感覚で、着地するとスッとかかとが浮き、次の動作へと素早く移行してくれる印象がありました。
独自のソールデザインが歩行をアシスト

この推進力を生み出すのが、独自のヒールデザインです。ここで注目したいのが、写真の矢印部分。ソールのかかとが斜めにカットされているのがわかります。

これまでのアルパインブーツは、着地時に靴の末端が地面に接触していましたが、エクイリビウムは接地点がそれよりも爪先寄りになっていることが特徴です。
これにより、着地後の足の回転がスムーズに行われ、さらには素足のかかと直下に着地するため、安定性が向上するメカニズムになっています。
ライター 橋爪
意識せず足がスイスイ動くので、不思議な感覚でした!
林道歩きなど、なだらかな道の歩行で、この機能が役立ちそうです。
路面に食いつくようなグリップ力に感動

登山靴において、グリップ力はもっとも大切な機能のひとつ。滑りやすいと滑落や転倒のリスクが増すことはもちろん、「滑るかも」という不安は行動自体を慎重にさせ、タイムの遅れなどにも影響してきます。
エクイリビウムは急峻な地形でもグッと食いつくようにして止まるグリップ力があり、下りでもサクサクと気持ちよく歩けました。
このグリップ力もヒールの構造が作用しています。写真の矢印が指すラグ(滑り止めの役割があるアウトソールの凹凸)は、その深さから見ただけでも地面に食い込みそうですよね。これがオフロードタイヤで不整地を走るがごとく、スパイクの役目を果たします。
ライター 橋爪
泥や砂地など、やわらかな路面だと、このラグが刺さっている感覚がわかりやすかったです。
また今回は試せませんでしたが、残雪でも有効性が期待できそうです。
安心のビブラム製で、硬い地形もグリップ

アウトソールに採用されているビブラム社の「Vibram® MONT」は、岩などの硬い地形における安定したグリップ力を発揮。低温下でもグリップ力を保持しやすく、アイゼンの装着に対応する硬度があります。
きめ細かな足運びで岩場でも安定性を発揮
アウトソールの前足部分には「クライミングゾーン」が備わっており、前足の岩への引っかかりをしっかり固定し滑りにくくします
岩場の登りでは、時に小さなスタンスにつま足を置き、体重を預けなければなりません。エクイリビウムはそういったシーンも得意で、前足のクライミングゾーンは狙ったところを的確に捉え、きめ細かな足運びができました。

従来のアルパインブーツは、つま先が乗ると靴全体も追従する感覚でしたが、エクイリビウムは指先にやや力を入れスタンスに引っかけて乗っかるような感覚でした。こういった部分の操作性はアプローチシューズに近いように感じます。
そのため、普段からアルパインブーツを履いている方は、慣れるまで違和感があるかもしれません。
クッション性に優れたミッドソールが足裏感覚を伝える

エクイリビウムのソールはしっかり厚みもあって硬いのですが、なぜか歩くとソフトなんです。
これはミッドソールに秘密が隠されています。大きな凹凸のあるアウトソールの裏側は中空になっており、そこにクッション性の高い低密度ポリウレタンを注入。これにより、荷重衝撃を軽減しながら、足の力を硬いアウトソールへと伝達させることも可能にしています。
ライター 橋爪
たしかに岩場を歩いているときは、岩の形状に合わせてラグが変形してグリップしてくれているような感覚が伝わってきました。
包み込まれるようなフィット感が心地いい

歩行性を高めてくれるのは、ソールデザインだけではありません。
歩行中のフィット感も印象的で、足首まわりをキュッと包み、それでいて足全体は靴の中でリラックスしているような不思議な感覚でした。足首が屈折しやすいトラバース歩きでも、足首がブレることなくホールドされていました。

この機能は「3Dフレックスシステム EVO」と呼ばれ、従来のスポルティバ製品に採用されてきた「3Dフレックスシステム」の進化版。足首の可動域を大幅に広げながら、足首のサポート力も維持します。
長時間歩いても重さが気にならない

これまで筆者は、アルパインブーツで長時間歩くと“足の疲れ”を感じたのですが、エクイリビウムはそれがあまりなかったのも気に入った点です。
それはここまで紹介した機能が作用しているのも要因ですが、エクイリビウムの重量にも着目したいところ。「エクイリビウム ST GTX」は片足で約630g。標準的なアルパインブーツと比べ100gほど軽く、見た目の重厚感からは想像の付かない軽量性も、歩きやすさにつながっていました。
ライター 橋爪
アルパインブーツの「ドシドシッ」と歩く感じが苦手だった私にとって、軽やかに歩けるのはかなり嬉しいです。
濡れやムレを気にせずガンガン使える

アッパーの裏側にはゴアテックスのフットウェア素材「GORE-TEX®パフォーマンス コンフォート」が採用されており、雨や泥、残雪による外からの濡れを防ぐのはもちろん、内側からの蒸れも効率的に排除してくれます。

またヒールカウンターにはコバが樹脂形成されており、セミワンタッチアイゼンの装着も可能です。雪上でのテストはできませんでしたが、残雪期や雪渓のあるルートでも活躍してくれそうです。
フィッティングは必須。「足に合っているか」はしっかり確認

機能面で気になる部分はありませんでしたが、エクイリビウムがそもそも自分の足に合っているか、というのは、実際にお店でフィッティングしてみるしかないでしょう。
実は私も、初めて履いたときは足首の前側に痛みがあり「自分の足に合ってないかも?」と感じましたが、2回目の使用では痛みも落ち着きました。
人の足型は千差万別ですので、靴の合う・合わないは必ずあるでしょう。安い買い物ではないので、購入前にはしっかり確認するようにしましょう。
ライター 橋爪
ちなみに私は実寸25cmでEU42(約26.5cm)を履きました。ジャストサイズよりも少し大きめの方が良いと感じます。
ピッタリですと調整は難しいですが、ゆとりがあればソックスの厚みやインソールなどでも調整ができるのも理由です。
シーンに応じたモデルの使い分けも可能

今回紹介した「エクイリビウム ST GTX」のほか、「エクイリビウム LT GTX」 「エクイリビウム TOP」 「エクイリビウム SPPED」の4モデルが展開されています。
これまでに紹介したエクイリビウムの機能をそのままに、山域やスタイルに応じた使い分けが可能です。アッパー部分に着目したそれぞれの違いを見てみましょう。
エクイリビウム ST GTX|バランス性に優れた定番モデル

本記事でも登場した「エクイリビウム ST GTX」です。

摩擦の影響を受けやすいアッパーには、蜂の巣状の模様が特徴の「ハニカム・ガード」という生地が使われています。スポルティバの定番ブーツ「トランゴタワー」などにも採用されており、高い対摩擦性と軽量性に優れた特徴を持ちます。
ライター 橋爪
人工繊維の「ST」は、メンテナンスがしやすく形状が崩れにくいのが特徴。
シーンを問わずガシガシ使っていける一足ですね。
スポルティバ エクイリビウム ST GTX
重量 | 約630g(片足) |
---|---|
サイズ | EU38~48 |
カラー | ブラック×イエロー、カーボン×ライムパンチ |
スポルティバ エクイリビウム ST GTX ウーマン
重量 | 約515g(片足) |
---|---|
サイズ | EU36~42 |
カラー | ブラック×ハイビスカス |
エクイリビウム LT GTX|レザー素材の落ち着いた風合いが魅力

「エクイリビウム LT GTX」は、「ST」のアッパー部分がレザー素材になったモデル。重量はSTに比べて10gだけ重くなっています。

スポルティバの赤・黄カラーとレザーの質感が絶妙にマッチしています。もちろん内側にはGORE-TEX® パフォーマンス コンフォートが採用されているので、内部のムレ防止や雨や雪による水の侵入も安心です。
ライター 橋爪
基本的な機能は「ST」と変わらないので、アッパー素材の好みで選んで良いでしょう。
レザーの質感や落ち着いた風合いが好きな人におすすめです。
スポルティバ エクイリビウム LT GTX
重量 | 約640g(片足) |
---|---|
サイズ | EU38~48 |
カラー | ブラック×イエロー、カーボン×ライムパンチ |
スポルティバ エクイリビウム LT GTX ウーマン
重量 | 約525g(片足) |
---|---|
サイズ | EU36~42 |
カラー | ブラック×ハイビスカス |
エクイリビウム TOP |ゲイター一体型のフラッグシップモデル

エクイリビウムの機能をそのままにゲイターが一体化されたモデルです。雨の日や残雪でもゲイターを着用する手間が省けるので、荷物の軽量化や時間短縮にもつながります。
内部には、靴後方のダイヤルを回すことでフィッティングの調整ができる「BOAフィットシステム」を採用。靴紐を結び直す必要がないため、締めたりゆるめたりの微調整がとても簡単。「登りはキツく、下りはゆるく」というような場面でも、迅速な対応が可能です。
ライター 橋爪
残雪の山ではこのモデルが間違いないでしょう。BOAフィットは厚めのグローブを付けていても操作しやすいのも特徴です。
スポルティバ エクイリビウム TOP
重量 | 約650g |
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サイズ | EU38~48 |
カラー | ブラック×イエロー |
メンズ・ウィメンズ共通モデルです。
エクイリビウム SPEED |軽くて歩行性の高いローカットブーツ

より歩行性を高めたゲイター一体型のローカットモデルです。重量は片足で530gと「ST」よりも100g軽く、名前の通りスピードが重視された設計になっています。
ゲイターにより、ローカットながらも雨や水たまり、残雪でもガシガシ使えるのがポイント。靴紐はクイックレースタイプになっており、ギュッと引っ張ってストッパーを締め付ければOK。微調整も簡単です。
ライター 橋爪
エクイリビウムの機能をアプローチシューズ感覚で使えます。私の中で一番グッときたのはこのモデルでした。
岩稜を伴う山域でのULハイクやファストハイクで活躍するでしょう。セミワンタッチアイゼンに対応しているので、残雪期・雪渓での使用も◎
スポルティバ エクイリビウム SPEED
重量 | 約530g(片足) |
---|---|
サイズ | EU38~48 |
カラー | イエロー×ブラック |
スポルティバ エクイリビウム SPPED ウーマン
重量 | 約415g |
---|---|
サイズ | EU36~42 |
カラー | ホワイト×ハイビスカス |
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あらゆる地形をエクイリビウムと歩こう

従来のアルパインブーツにはなかった登攀性と歩行性を両立し、山のあらゆるシーンを上手にこなすエクイリビウムシリーズ。モデルによって細かな使い分けもできるので、自分のスタイルに応じた選択も可能です。
これからアルプスなどの山に挑戦する方、これまでアルパインブーツを履いてきた方にとっても、新たな刺激をくれる登山靴になるはずです。
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