グニャグニャ曲がって軽いクランポンの革命児
フランスのアルパインクライミングギアメーカー<ブルーアイス>から、今シーズン新しいクランポン「ハーファング アルパイン」が発表されました。一見すると他メーカーのクランポンと比べても大きな違いはないように見えますが、実はこれ、とんでもなく革新的なクランポンなんです。
イノベーションの秘密はジョイントパーツにあり
一体何が革新的なのか。その秘密は、フロントとリア(後部)ブロックをつなぐジョイントにあります。このパーツ、一般的には金属で作られているのですが、なんとハーファング アルパインでは、高強度でありながら柔軟性がある超高分子量ポリエチレン繊維(いわゆるダイニーマ)で作られているのです。
そのため、ハーファング アルパインは写真のようにグニャリと曲げることが可能。奇妙な見せ物として折り曲げている訳ではなく、この柔軟性は収納サイズに寄与します。
チェーンスパイク並にコンパクト&めちゃくちゃ軽い
ハーファング アルパインをさらに小さく畳むとこのとおり。もはや説明がなければ、ひと目でクランポンだと気づくほうが難しいくらい、非常に小さくまとめられます。
そして収納袋もコンパクト。チェーンスパイクと見間違うほどの大きさなので、バックパックのトップリッドに収めることも可能です。さらに、金属パーツを減らしたことで、重量もペアで約623gという驚きの軽さ。これを革新と呼ばずに何と言えばいいのでしょう。
これらのスペックが評価されて、ハーファング アルパインは2022年にドイツのミュンヘンで行われた世界的なスポーツ用品見本市であるISPOにおいて、優秀な製品に贈られるISPO AWARDを受賞しています。
斬新すぎて実力未知数。でも備える機能は本物
ハーファング アルパインは、良く言えば革新的ですが、悪く言えばこれまでに前例がない実力が不確かなクランポンでもあります。そのため、最先端を行くこのクランポンに対して説明のしようがない一抹の不安を覚えるユーザーも少なくないことでしょう。
しかし、備わっている機能はいずれも本物。まずは冷静に外見から把握できる特徴を見ていきます。
素材は高強度のクロモリ鋼
ハーファング アルパインが簡易クランポンではないということは、使われている素材を見るとわかります。フロントとリアブロックを構成する黒いパーツは、いずれも強度の高いクロムモリブデン鋼(通称クロモリ)製。氷壁や岩場などハードな使用にも耐えられる仕様です。
フロントポイントはご覧のとおり、するどく尖る鋭利な形状。硬い雪面にもしっかりと突き刺さります。
12本の爪を備え、かかと側はクリップで固定
爪は12本あり、各爪はシューズのアウトソールをカバーするように配置されています。青い半透明のプレートは、雪の付着を防ぐアンチスノープレートです。
ヒール側はクリップで固定。締め具合はクリップの上部に見えるネジ式のダイヤルで調整できます。
使って気づいた唯一の弱点。サイズ調整がシビアすぎる……
ハーファング クランポンは、センターストラップが特徴的な、本格的な雪山登山に対応する12本爪クランポンです。では、フィールドでの使い心地はどうでしょう? 実際に使ってみると、サイズ調整の難しさが気になりました。
意外と難儀したストラップのサイズ調整
ハーファング アルパインのサイズは、ストラップの折返しの位置を変えて各自のシューズに合う長さに調整します。まず、これが結構面倒。ストラップは柔らかいとはいえ厚みがあるので、スムーズに伸ばしたり縮めたりできないのです。
それと、ハーファング アルパインはつま先側を装着状態にしたとき、クランポンの末端がシューズの後端より15mm手前に位置するように調整する必要があります。先ほどの扱いにくいストラップのせいもあり、簡単なように思えたサイズ調整に想像以上に苦労する結果となりました。
つま先がグラつくまさかの事態に……

フロントベイルを交換したら先ほどの不満が解決!
こんなにサイズ調整がシビアなクランポンは手を出しにくい。これは、いまでも変わらずにそう思っています。ただしそれは、装着方法がクリップオン(ワンタッチ)である場合の話。
実は、ハーファング アルパインにはセミワンタッチ対応用トゥーバスケットが付属しています。パーツを交換して装着方法をハイブリッド(セミワンタッチ)に変更すると、先ほどまで感じていた扱いにくさを少しでも取り除けることを発見しました。
つま先をトゥーバスケットに変えてフィット感アップ!
フロントベイルをセミワンタッチ対応用トゥーバスケットに交換すると、素材がストラップなので遊びがあり、ヒールクリップのストラップを通してきくつ締めることができます。それにより、先ほどよりもギュッとつま先にフィットしたのです。
装着方法がクリップオンであってもハイブリッドであっても、適正なサイズ調整は必要です。しかし、装着方法がクリップオンの場合は誤差を許さない極めてシビアな調整が必要であるのに対して、トゥーバスケットに交換して装着方法をハイブリッドに変更すると、サイズ調整に許容範囲が生まれるため、先ほどまでのシビアな感覚は減少しました。
ただ、トゥーバスケットの交換には力がすごく必要。筆者も相当苦労しました。交換作業に不安がある方は店頭などでスタッフに相談するといいかもしれません。
装着方法をハイブリッドに変えてからというもの、ハーファング アルパインは使用中にグラつく心配が大幅に減少。そのおかげで、コンパクトに持ち運べて、非常に軽い魅力的なクランポンに様変わりしました。
それでも気になる点をいくつか紹介
ハーファング アルパインは、その新しさゆえ、従来のクランポンにはなかった癖のある製品でもあります。また、リリースされて間もないため、国内での使用を通じて、これからさまざまな見解が示されることでしょう。そのひとつとして、いまのところ筆者が気になっている点を3つ記載しておきます。
①サイズ調整について
センターストラップの長さ調整をフィールドで行動中に行うのはほぼ不可能です。そして、事前にフィット感を調整しても緩む場合があるので、装着状態にしたまま一晩放置→改めてサイズが適正かチェック、を何度か繰り返す必要があるでしょう。さらに、センターストラップは取扱説明書に記載の長さより若干短めに調整して、フィット感をキツめにするのをおすすめします。
②制動力について
自前のクランポンと比べたとき、フロントとリアブロックの面積が狭いことに気づきました。これは雪面での制動力に影響するかもしれません。爪のサイズは長いとは言えず、どちらかというと短い部類に入ると思います。クランポンは爪が長いほうが制動力が増すので、この点も考慮して扱う必要があるでしょう。
③細いストラップの扱いについて
足首に巻く、もしくはトゥーバスケットを固定するためのストラップがかなり細いため、手袋をした状態での扱いにくさは否めません(写真を撮った日は気温が高かったので素手で行うことができました)。
また、つい先日、泊まりがけの山行で一晩外に出しておいたら、翌朝になってこのストラップが凍っていて、まったく操作できなくなるというトラブルに(この日も気温が高かったので指で擦ったら解けました)。
ストラップの凍結はどのクランポンにも共通して起こる現象ですが、ハーファング アルパインのストラップを固定するパーツは、一般的な2つのリングに通して固定する方法より凍ったときにリリースしづらいと感じています。
また、固定用パーツ側の末端が縫製されていないため、勢いよくリリースすると、パーツがストラップから抜けてしまいます。条件が厳しい環境では致命的なトラブルになるので、重々注意して扱う必要があります。
ハーファング アルパインは圧巻の軽さが魅力的すぎ!
ブルーアイスのハーファング アルパインは、最初は興味が優先していて、途中で扱いにくさを感じたものの、構造上の癖を理解した上で使用すると、今となっては手放したくないほど、かなり評価が高くなる結果となりました。
現状では氷化した雪壁や緩んだ雪面でも制動力に対して不満はなく、フロントベイルをトゥーバスケットに変えたことでフィット感が高まり、さらに装着のしやすさもアップ。そして、小さな収納サイズもさることながら、ペアで約623gという軽さが魅力的。自前のクランポンと持って比べてみても、その差は歴然です。
使用サンプルは返さないといけないのですが、正直ずっと手元に置いておきたい、そう思わせてくれる魅力をハーファング アルパインは秘めていました。
※購入に当たっての注意※
クランポンには靴との相性があります。必ず店頭などで合う合わないを確認してから購入しましょう。
ブルーアイス ハーファングアルパイン
重量 | 623g |
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カラー | ブラック |
素材 | センターストラップ/、爪/クロモリ鋼 |
対応サイズ | 22.5cm〜30cm(コバ付きの冬季用堅底靴に限る) |
注意事項 | ※本製品は、コバが付いている堅底の冬季用靴向け12本爪アイゼンです。柔らかい底の靴には使用しないでください。 ※ご使用前に、必ず使用予定のご自身のシューズでのフィッティングは済ませてください。 |