登山家は本が好き? この秋は想像力を広げる「山の本」9座に登頂しよう!(2ページ目)

『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』内山 節

撮影:YAMA HACK編集部
『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』内山 節/講談社現代新書

著者の内山節は哲学者であり、NPO法人「森づくりフォーラム」の代表理事を務めています。渓流釣りをきっかけに、1970年代より森を歩き、暮らしています。「ある時を境に我々日本人はキツネにだまされなくなってしまった。我々の自然観が変わったから、だまされなくなったのだと」と本書にはあります。

細井さん
我々の自然観の何がどう変わったのか?……は本を読んでもらうとして、読んだ後にきっとキツネにだまされないであろう自分を自覚し、悲しくなると思います。そうして、無性に山に行きたくなる……はずです

『山頭火句集』種田山頭火(村上 護・編)

撮影:YAMA HACK編集部
『山頭火句集』種田山頭火(村上 護・編)/ちくま文庫
「1940年、松山市の一草庵で泥酔頓死」。そう著者略歴に書かれている種田山頭火とは破天荒な俳人でした。句作をしながら西日本各地を行乞(食べ物の施しを受ける行)をするなど、放浪の半生を送りました。
細井さん
僧職にあるのに酒は飲むし、女は買うわのやり放題。俳句の原則である五七五、季語を無視の自由律俳句。でも、そんな自分にクヨクヨし、煩悩に振り回される。一言で言うなら人間臭いのです。
そんな彼が山や街を彷徨いながら吐き出した俳句は、山やテントの中で眺めていると、とてもしっくりとグッとくるのです

『くう・ねる・のぐそ』伊沢正名

撮影:YAMA HACK編集部
『くう・ねる・のぐそ』伊沢正名/ヤマケイ文庫

「糞土師(ふんどし)」として、1974年よりのべ1万回以上の野糞を行ってきた、著者の伊沢正名。登山ではウンコを自然に放置することはご法度とされていますが、菌類写真家としても活動していた伊沢の主張はいかに?

細井さん
ウンコという視点はエシカルとかサステナブルとかエコロジーといったことを一段深めてくれると思います。

アウトドアスキルとして、防災スキルとして「のぐそ」も注目されているので、それらを学ぶ実用書としても価値があります。一家に一冊の名著です。

杣Booksとお客さん)

提供:杣Books(出店風景とお客さん)

<杣Books>のオープンは事前告知なし。登山口に到着したときにSNSにて搬入開始が告知されます。

杣Books|facebook

蔵書10,000冊以上!「山の本」を楽しむ極意を収集家に訊きました

山の本たち

撮影:YAMA HACK編集部(『山の本』上田茂春・著)

山岳関連書籍は文献として古いものも多く、文体など読むことが難しいと感じる人もいるかもしれません。山好きなら誰もが知っている、深田久弥の『日本百名山』も1964年初版と60年近く前の本なのですから!

そこで山にまつわる本を50年以上に渡り収集している上田茂春さんに「山の本を読む楽しさ」について教えてもらいました。ちなみに上田さんは「日本山書の会」会員であり、自身も『山の本』という書籍を出版しています。

大事に包まれた本

撮影:YAMA HACK編集部(『日本百名山』深田久弥・著、1964年の初版本。上田さん蔵書より)

リビング+2部屋の天井から床まで、収集された本がびっしりと保管されてます。「東日本大震災のときは、本棚が倒れてこの部屋のドアが開かなくなったんですよ。だから外から壊しました」と上田さん。

書庫の本たち

撮影:YAMA HACK編集部

上田さん自身が収集を始めたきっかけは、学生時代に出会った辻村伊助の『スウイス日記』(1922年)と『ハイランド』(1930年)という登山紀行でした。行ったことのないヨーロッパアルプスとイギリス北部の山々を、辻村の文章から想像し、山の本の世界へと誘われたのです。

「山の本」は先人たちが遺し、次の世代につなげるもの

山書好古の見出しページ

撮影:YAMA HACK編集部(『山書好古』日本山書の会・編)

 

どうして上田さんは山を登ることだけではなく、山の本に惹かれたのでしょうか?

上田さん
(装丁や文章など)その時代時代の『雰囲気』を本は伝えてくれます。山の本の楽しみはというと、そこに書かれている風景を想像したり、著者の心象風景を感じることができることでしょうか。

実際に自分が登ったときに、著者が見て書いた風景が実体として広がるんです

そもそも「山の本」というのは、明治時代に近代登山が始まって以来、100年以上にわたって、初登頂や遭難などの登山記録、自然科学分野の記録、随筆などとして先人たちによって書き残されてきたもの。豊かな語彙や難解な文体はいまの若い人たちには取っつきにくいと感じられるかもしれません。

上田さん
もちろん最初から難しい文章の本を読めるわけではないですよ。でも書店に行けば、1冊や2冊は面白そうだと思う本がきっとあるはず。やさしい本から読んでいけばいいと思います。

登山には、登るという行為と考えるという思想、2つの楽しみがあるのです

日本山書の会

山への想像力を広げてくれるのが、山の本

美しい山景色

出典:PIXTA

「たった今」の山の風景をSNSの投稿で見られたり、映像機器やITの発達で稜線を歩くような疑似体験ができたりと、写真や映像の力でエベレストですら、その姿を間近に見ることができます。

でも本を読むことで、想像力を駆使してしか見られない「まだ見ぬ山」「新しい山」「自分だけの山」に出合えるかもしれません。4名が教えてくれた、古くて新しい「山」の本の楽しみ方。この秋はぜひ「本の山」にも登ってみてください。

2 / 2ページ