駅から徒歩25分、お茶畑の脇にお店はありました!
登山用品店やアウトドアショップのほとんどは、大きな駅の周辺や地方なら国道などの幹線道路沿いにあります。人気の山域であれば、最寄り駅や登山口という場合もあるでしょう。いずれにせよ、人通りのある場所というのが常識です。
しかし今回紹介する『ATC Store』は、JR身延線・富士宮駅から徒歩25分、タクシー利用でも10分。静岡を感じるお茶畑と住宅地の合間に位置していました。「わかりにくい、通りに面していない、人通りがない」という場所。初めて来店する方は、迷って見つけられないということもあるそうです。
マニアックでおもしろいことをやってみよう!
しかし、なぜそんな辺鄙な場所にお店を開くことにしたのでしょう? 店主の芦川雅哉さんに問うと、
「最初は普通に街なかでと思っていました。でも相談した設計士さんから、『それじゃあおもしろくない。おもしろいところがあるから!』といわれて見に来たのがココ。お茶畑に面した倉庫というかなんにもない物置で、お店にすることも、続けることもまったくイメージできませんでした。でもお世話になっている方の意見でもあるので無碍にもできず・・・。
とはいえ、街なかでやると家賃も高い。上手くいく保証だってある訳ではない。それよりもこんな辺鄙な場所で、当時はまだあまり知られていなかったトレイルランというマニアックなアクティビティを中心にお店をやるのはおもしろいのかもなと思ったのが始まりです」
そうしてオープンしたのが、2010年だったそうです。
最初はお客さんが来ませんでした・・・
’97年~’09年まで静岡県内のアウトドアチェーン店を展開するSWENでスタッフ、バイヤー、販促として働いていた芦川さん。しかし固定のお客様を持っていたわけではなく、開店のお知らせもほんの数人に出しただけ。
「最初の3年くらいはツラかったですね。まったくお客さんが来ませんでした。というか来る訳がないんです、知られていないし、こんな場所ですから。でも2012年の富士山麓を一周するUTMFの開催でこの辺りでもトレイルランの認知度が上がって、さらにSNSの普及もあってお客さんが少しずつ増えていったんです」
山を走るのも歩くのも同じ道具で
フツーの登山用品店やアウトドアショップではなく、トレイルランや軽量アイテムを中心にしたのはなぜか?
「2008年頃、ウルトラライトで知られる土屋智哉さんが『ハイカーズデポ』を、そして長野では『信州トレイルマウンテン』と、いわゆる既存の登山専門店とは趣の異なるお店を、個人ではじめる人たちが出てきて、その影響を受けました。酔狂な人がいるなと思う一方で、自分もやってみたいと思ったんです。
そこで私もターゲットとアイテムを絞って、興味があったトレイルランニングを中心にアイテムを揃えました。加えてウルトラライトなアイテムの普及やOMMなどのレースで20~30ℓパックでもテント泊できるスタイルが浸透してきて、ハイキングもテーマにするようになっていった。ランもハイクも同じような道具で遊べることを、伝えられたらと考えたんです」