なぜ第2登に33年もの月日を要したのか
高度な技術が必要なだけじゃない。そもそも氷柱自体が”形成”されにくい
シーラカンスは難しさもさることながら、なかなか形成されにくい氷柱です。年によっては影も形もない事がよくあるのです。また氷柱が岩壁基部までつながり、氷の状態がよい事がほとんどないのが「幻の氷柱」と呼ばれる所以で、33年も空白の時が流れたのです。
2017年2月27日、賀門尚士さんと成田賢二さんが1回のトライで成功
今冬は谷川岳の当たり年でした。谷川岳にはシーラカンスの他に、めったに形成されない、一ノ倉沢の烏帽子奥壁大氷柱などが基部までつながりました。新進気鋭の賀門氏とベテランの成田氏が、心技体を整え、恐怖と困難に打ち勝ち、33年ぶりの快挙を成し遂げたのです。クライマーの私にとっても、垂涎物の登攀劇でした。
登攀成功の鍵は、天候を見越した未明出発
彼らは未明に麓を出発し、明るくなるのと同時に登攀を開始しました。日が差して気温が上昇すると、氷の状態が悪く危険になるので、彼らはそれを見越して早朝に登攀を始めたのです。
あまりにもクレイジーすぎる。二度目はきっとない
確保をするためにアイススクリューにぶら下がっていると、スクリューが下を向いてきてしまうくらい悪い氷なのであまりにもクレイジーすぎてきっと二度目はないというのが正直な感想です。今まで挑戦された記録を見ると、昼になってから取りついていますが、陽が当たると途端に氷の状態が悪くなるので、明るくなると同時に取りついたのが良かったと思います。そして今年は氷結状態がとてもよかった。まさに10年に1度あるかないか。初見ではありましたが、そのチャンスを伺っていたのが1回のトライで登れた理由かと思います。コメント:登攀者・賀門尚士さん
まだまだ登り足りない。一回しかない人生だから・・
まだまだ登ってみたい山、岩は沢山あります。1つ1つ経験を積んでいきたいです。そして、なぜ登るのか。これは単純にそれが面白いと思っているからです。1回しかない人生だから人とはちょっと違うこともしてみたいとも思っています。コメント:登攀者・賀門尚士さん
未登の壁を求めて
アルパイン(アイス)クライマーは、ハイエナのように日本や世界の岩壁・氷壁の空白地帯を嗅ぎ回り、貪欲な登攀モチベーションをもって、新しいルートにチャレンジする生き物です。日本には冬季未登の氷柱や岩壁がまだ残っており、時には欧州やヒマラヤの山々より困難な環境であったりします。そこで培われた登攀能力が、今世界の山で日本人が輝かしい登攀を成し遂げている礎になっているのです。
Climbing Coelacanth is crazy!!
シーラカンス登攀はまさにクレイジー!!
本記事・著者紹介
提供:山田祐士
山田 祐士:社団法人日本アルパインガイド協会認定 アスピラントガイド。高校山岳部に入部してから現在まで、20年以上に渡って山登りを続け、マッターホルン登頂。山岳映像制作や遭難救助など山に関わる山岳企画会社”マウンテンワークス”の取締役でもあり、自らも山岳ガイドとして多くの登山者をガイドしている。
取材にご協力頂いた皆様
【シーラカンス第2登】2017年2月27日
【登攀者】賀門尚士・成田賢二
【撮影協力】宮崎秀夫・ハチプロダクション・株式会社マウンテンワークス
【取材協力】山田祐士