馬返しから先は、空気が変わる

名前の通り、登山路で道が険しくなりかつては馬もここで引き返した場所。深い森が静かに続いていきます。どこか厳かな雰囲気が漂い、自然と気持ちまで整っていく場所です。

特に印象に残ったのは、富士山には猿がいないという話。
富士山は申年(さるどし)生まれと言われており、猿は神の使いとされています。登山者が道に迷うと、どこからともなく現れて案内をしてくれるという不思議な言い伝えもあるのだそう。
実際のところはどうなのか、歴史のロマンに想像が膨らみます。
登山道のところどころには、水はけのための浸透桝(しんとうます)が整備されていたり、ひっそりと石碑が佇んでいたり。
石碑の多くは、富士講の先達(リーダー)が三十三度の登拝を成し遂げたことを記念して建てられたもの。
三十三度の登拝を達成すると、富士山頂に住む神仏に近い存在になるとされ、その功績から人々の尊敬を集め、祈祷や相談を受けるなど地域で頼りにされていたといわれています。なお、登山そのものが修行とされており、一度の登拝でも“生まれ変わり”に通じる体験と考えられていました。

そこに残る細かな痕跡が、ただのトレイルとは違う表情を見せてくれます。歩を進めるほどに、かつての富士講の人々が祈りを込めてこの道を歩いた姿が、自然と重なってくるような感覚がありました。
“頂上を目指さない”富士山の楽しみ方もある
この道は、かつて富士講の人々が祈りのために歩いた道。一歩一歩に意味を込めて、山そのものに向き合うように進んでいった場所です。
今回の旅では、気になるものがあれば写真を撮ったり、立ち止まったり。山頂を目指して一気に登るだけではなく、自分のペースで自然や歴史を味わいながら歩く。そんな富士山の楽しみ方も、いいものです。

一合五勺(1.5合目あたり)にあったのは、昭和初期に建てられたレッキスという山小屋の跡。レッキスとはカルピスのような飲み物で、かつてはここで販売されていたのだとか。
そんな文化や景色を楽しみながら自分たちのペースで進んでいくと、やがて三合目の標識が現れました。
無理をしないのも、この旅の正解

三合目はやや開けた場所で、木々の間から精進湖などを望むことができるスポット。
今回のハイキングは、天候が少し不安定だったこともあり、ここ三合目で折り返し。中ノ茶屋へ戻り、レンタルシューズを返して宿へと向かいました。
体力や天候に合わせて、自由にゴールを決められる。その自由さも、このルートならではの魅力です。

三合目から先も気持ちのいい森の道が続くので、時間や体力に余裕があれば五合目まで進むのもおすすめです。その場合は、富士スバルラインをバスやタクシーで下り、街へ戻るルートも選べます。
「御師の家」に泊まるという体験
宿泊したのは、御師の家をリノベーションした「大鴈丸 fugaku×hitsuki」。
御師(おし)とは、自宅を宿として富士登拝客の世話をする一方で、祈祷によって神との仲立ちをする神職のような役割を果たした人のこと。
その宿のことを「御師の家」と呼び、江戸時代には80軒以上あったものが、時代の進展による信仰マインドの変化や、スバルライン開通に伴う登山スタイルの多様化などにより数を減らし、現在は14軒ほどが残るのみ。

館内には、御師の斎服、太々神楽の奉納札や明治期に描かれた北口本宮冨士浅間神社の絵図など、当時の信仰や暮らしを伝える資料も展示されています。歴史を伝える建物でありながら、空間そのものはとても洗練されていて、木の質感や光の入り方まで心地いい場所でした。
実はこの「大鴈丸 fugaku×hitsuki」は1572年から続く家筋で、登録有形文化財。こんな貴重な家屋に泊まることができるのも、歴史を巡る旅ならでは。
DEEPな世界をチラ見
夕飯がてら、西裏地区にある月江寺商店街へ。このエリアは、かつて織物産業で栄えた富士吉田の“裏の顔”ともいえる場所です。細い路地にはネオンや看板が重なり合い、昔ながらの酒場が今も点在。
気になるお店をのぞきながら、灯りの奥の気配にふと惹かれたりしつつ、夜の時間も静かに楽しみます。
day2|歩いた後だから、街も文化もより面白い
北口本宮冨士浅間神社で、あらためて富士山を感じる
2日目は、北口本宮冨士浅間神社からスタート。樹齢数百年の杉並木が続く参道を歩くと、昨日の登山道と同じ空気が漂ってきます。

本殿には、富士山信仰における富士山の女神として「木花開耶姫命(このはなさくやひめのみこと)」が祀られていて、富士山の噴火を鎮めるための火山鎮護の祈りから始まったとされています。

拝殿の右手奥に進むと、木の鳥居が現れます。「富士北口登山本道」と刻まれた石柱の脇に立つ、吉田口登山道の起点となる「登山門」。昨日歩いた中ノ茶屋へと続く道が、ここから始まっているのです。1日目と2日目がつながった気がしました。
街を歩くと見えてくる、“もうひとつの富士山”
続いて向かったのは「ふじさんミュージアム」。デジタル展示を通じて富士山の成り立ちや自然を体感しながら、御師文化や富士山信仰の世界をより深く理解できます。

中でも印象に残ったのが、「富士講(ふじこう)」の話。
江戸時代に広まった富士山信仰の講中で、人々は仲間とともに富士山を目指し、ときにはお金や体力の事情で登れない人の願いを“託されて”登ることもあったといいます。現在の価値で10~20万円ほどにもなる登拝費用を、誰かに託して願いを届けるような形。富士山が「自分で登る山」であると同時に、「祈りを預ける山」でもあったことがわかると、登頂そのものの意味合いが少し違って見えてきます。
「1合目・2合目」といった呼び方は、穀物が積み上がったような富士山の美しい円錐形に由来し、穀物の量を表す単位『合』を高さの目安にしたことに始まるといわれています。知れば知るほど、富士山は奥深い。
記念撮影を楽しんだり、オリジナルグッズや富士山モチーフのお土産も揃う、学びも楽しみも両方味わえる、ぜひ立ち寄りたい場所です。
御師文化を今に伝える「御師旧外川家住宅」
街中にも、ふじさんミュージアムの附属施設「御師旧外川家住宅」がありました。年代がわかるものとしては最古の御師建築で、1768年に建て直されたとされています。入口が3つあるという御師の家の特徴もそのまま残り、当時の暮らしの面影を静かに伝えています。
昨日泊まった宿で聞いた話が、目の前の建物と重なっていく感覚があり、理解がぐっと深まる瞬間でした。
富士吉田の味とお土産を楽しむ、旅の締めくくり

ランチにその土地の名物をいただくのも旅の醍醐味。富士吉田といえば、やはり「吉田のうどん」。
コシの強い太めの麺に、味噌や醤油を合わせた出汁つゆ。茹でキャベツや甘辛い肉のトッピングも特徴的で、素朴ながらもしっかりとした満足感があります。

時間があれば、少し足を伸ばして富士吉田金精軒「富士茶庵(ふじさあん)」へ。ここの「生信玄餅」は、山梨県内の金精軒直営店や一部の限られた店舗でのみ販売される人気の和菓子です。
富士山駅に戻ったら、最後はお土産選びの時間。富士山駅併設の「Q-STA(キュースタ)」内にはお土産を扱うショップが多数!
パッケージがかわいいクッキーや地元のお酒など、ここならではの人気の品が並びます。

お土産選びに迷う時間さえ楽しくて、最後まで旅の余韻をゆっくりと楽しみました。手の中のお土産と一緒に、この2日間で出会った富士山の景色や空気が、静かに体の中へと満ちていきます。また来たい、そう自然に思える旅でした。
富士みちをサポートするサロモン

アウトドアブランド・サロモンは、富士吉田市とともに「Mt.FUJI Re-Style Project」を通じて、富士山麓エリアの新しい楽しみ方を提案しています。その取り組みのひとつが、中ノ茶屋のリニューアル。
吉田口登山道の歴史ある休憩地点を、ランステーションや休憩スポットとして整備し、富士山麓を歩く人たちをサポートしています。施設内では、軽食やドリンクを楽しめるほか、更衣スペースや荷物預かり、シューズレンタルも利用可能。「本格登山じゃなくても、気軽に富士山を歩いてみたい」そんな人でも立ち寄りやすい場所になっています。

さらに、中ノ茶屋では富士吉田市と共同制作した「富士みちマップ」も配布。吉田口登山道周辺のスポットや、街歩き・ハイキングルート情報がまとまった、“自分らしい富士山旅”のヒントが詰まった一枚。ぜひ活用してみてください。
気軽に富士山麓ハイクを楽しめるレンタルシューズサービス

シューズレンタルにはメンバーシッププログラム「S/PLUS」への会員登録が必要ですが、その場で会員登録(無料)ができ、登録日から特典を受けることができます。なお、当日にサイズを選んで受け取るスタイル。実際に履いてフィット感を確認してからレンタルできるので安心です。
街歩きも森歩きも快適。「AERO GLIDE 4 GRVL W」

今回、街歩きでの足元を支えてくれたのが、「AERO GLIDE 4 GRVL W」。高いクッション性と軽やかな履き心地が特徴で、舗装路からちょっとしたトレイルまでスムーズに対応できる一足です。
そんな今回のようなハイキングと街歩きを合わせた旅スタイルとも相性抜群。
クッションがやわらかくて、一日中歩き回っていても疲れにくかったです。街にも自然になじむデザインもうれしいポイントでした!
新しい楽しみ方で、富士山を歩いてみよう

信仰の歴史や、御師の家で聞く富士講の話。神社の杉並木の空気感に、ミュージアムでの発見。どれも、山頂を目指すだけでは出会えなかった、富士山のもうひとつの魅力でした。
富士山は、文化や歴史、暮らしとつながっている場所です。その背景を知ってから歩くと、景色の見え方も変わってきます。
急いで登らなくてもいい。自分のペースで楽しめる、新しい富士山に会いに行ってみませんか。
▼今回立ち寄ったスポット詳細
編集協力:サロモン


























