出典表記のない画像はすべて筆者撮影
雪山の快眠は「マット」で決まる!?

美しくも厳しい雪山の世界。特にテントで過ごす一夜は、夏山とは一味違った特別な感動を与えてくれるでしょう。
こうした極寒の夜を快適に過ごすためには、万全の装備が欠かせません。優れた保温性のシュラフや防寒着を用意することはもちろんですが、忘れてはいけないのが「マット」です。
地面の冷気を遮断するための必須アイテム

夏山では地面の凸凹を緩和するためのクッションとして活躍するマットですが、雪山では断熱材として重要な役割を担っています。
雪は融ける際に周囲の熱を吸収する性質があり、雪面付近の温度を低下させます。特に、テント泊のように人が横たわる状況では、身体と雪面が直に接触するため、体温は急激に奪われていってしまいます。
そのため、必須になってくるのが断熱性を備えたマット。マットには断熱性の高さを示す『R値』が設定されており、雪山では「R6」以上が推奨とされています。
※R値が高いほど断熱性も高くなります
- R1〜
- 夏山
- R2〜
- 3シーズン
- R4〜
- オールシーズン
- R6〜
- 厳冬期
R値6.7。 “厳冬期対応”マットが2万円以下!?

こうした厳冬期対応マットに一石を投じるのが、2024年冬に登場したエアマット「ASP-R7(レギュラー)」。R値は「6.7」、日本の厳冬期アルプスの山頂付近での使用も想定した、-30℃の環境にも対応する設計になっています。
そして驚愕なのが本製品の価格。なんと税込18,590円で、同等のスペックをもつ他ブランドと比べて半額近く。これはあまりにも破格すぎます……!
手がけるのは、話題の新ブランド

本製品を市場に送り込んだのが、2024年春に登場した新ブランドの「arata」。基本に忠実な製品でありながらも、独創的なアイデアを盛り込んだ新発想のプロダクトが大きな話題を呼んでいます。
そんな同ブランドだからこそ、本製品でもどんな驚きが待っているのか楽しみなところ。その反面、価格が価格だけに「安すぎて大丈夫?」という心配も。
気になるアレコレを解決すべく、厳冬期のフィールドでガチ使用してきました!
極寒を忘れさせる、魔法のマットでした

1月初旬、雲取山荘テント場(標高約1,900m)でテント泊を行なってきました。
当日の最低気温:-12℃
使用したシュラフの対応温度:-10℃
服装:ダウン上下+化繊中綿のフットシューズ
どんな寒い夜になるか……とヒヤヒヤしていましたが、結果は快眠。30代になってから以前よりも寒さに弱くなり、最近は雪山テント泊を好んですることはありませんでしたが、このマットがあれば「もっと楽しめそう!」と感じたのが率直な感想です。
実のところ、私はこれまで雪山テント泊でも、R値3.5のインフレーターマットに銀マットをプラスして使用してきました。
もちろん断熱性の弱さは痛感していましたが、他にも欲しいギアが山ほどある中で、なかなか手が出せなかったことが理由です。
ライター橋爪
雪山テント泊をする方は、すでに夏山のマットを持っている方がほとんどのはず。
そうなると、厳冬期のマットに4万円近くかけるのは躊躇してしまいますよね……。

そんな中で一筋の光を見出してくれたのが、今回のASP-R7。まさに「R値が変わると、雪山テント泊が変わる」を体感したアイテムです。
またシンプルでありながらも、その中に「arata」らしいこだわりが感じられるのもポイント。日本人体型での使いやすさも考えられていて、軽量コンパクトなので、雪山だけでなくオールシーズンで活躍できそうです!
ただし、エアマット特有のメリット・デメリットもあるので、その点はしっかりと理解しておく必要があります。ポイントを詳しくみていきましょう。
冷気をピタッと遮断!

まず断熱性は相当なもの。マット上で横になっても、まるで雪の上にいることを忘れさせるような感覚で、底冷えはまったくありませんでした。
これは私がこれまで使っていたマットとは明らかな違い。R値が高くなることで、これほどまでに体感温度が変化することに驚かされました。
ライター橋爪
寒さで目が覚めることはなく、朝までぐっすりでした!
しっかりした厚みでフワッとした寝心地

断熱性を高めるため、10cmほどのしっかりした厚みになっています。エアマットは文字通り内部が空気なので、触ると弾みのあるソフトな質感です。
例えばマットの上に座るなど、荷重が一点に集中する動作の場合、その部分だけ沈んで底にあたるようなことがありましたが、横になれば荷重は分散され、やや浮遊感のあるフワッとした寝心地がありました。
ライター橋爪
クローズドセルマットのような硬い寝心地に慣れている方は、最初は違和感があるかもしれません。
ただ、この厚みなら、夏山の凸凹した地形もしっかり緩和してくれそうですね!
絶妙な横幅で軽量化を実現

モデル:身長169cm 足を思い切り伸ばして贅沢に使えました
サイズは縦183cmの横56cm。このサイズ感にも「arata」のこだわりが隠されています。
横幅は同縦幅の一般的なエアマットと比べて8cmほど短い設計に。開発段階で「大柄の男性でも腕がマットから落ちにくい」絶妙な幅を模索した結果、この長さに至ったそうです。
快適に過ごすための必要スペースを十分に確保しつつも軽量化が実現されています。
ライター橋爪
身長180cmほどの方でも問題なく収まるサイズ感かと思います!
逆に小柄の方ですと、縦幅がやや長く感じるかもしれません。
多層構造で断熱性をアップ

生地はトップ・ボトムともに20デニールのリップストップナイロンを採用。半透明なので一見すると「薄いのでは?」と感じますが、必要十分な生地の厚みを備えています。ナイロンはサラリとした質感ですが、就寝中に不快感を感じることはありませんでした。
半透明の生地からは内部の様子も伺えます。マット内にはTPUフィルムと熱線反射PETフィルムの多層構造を採用。溶着ピッチやパターン、部材の厚さを微調整し、最適なバランスが考慮されています。
コンパクトなので雪山でもパッキングしやすい

重量は約584gで、厳冬期対応のエアマットとしては、重すぎず軽すぎずといったところ。
収納時は1Lペットボトルほどの大きさにまとまります。クローズドセルマットやインフレーターマットと比べてコンパクトで、荷物が多くなる厳冬期登山でも、バックパックのスペースを抑えることができました。
「耐久性」は別売りマットでカバーせよ

翌朝も空気が漏れているような様子はありませんでした。
エアマットを使っていて、どうしても気になるのが耐久性。今回使った限り、ASP-R7の耐久性が一般的なエアマットと比べて低く感じることはありませんでしたが、エアマット自体が風船のようなものなので、使い方によっては穴が空いてしまう可能性は十分に考えられます。
ライター橋爪
ASP-R7には、1辺7cmの大型のリペアシートが2枚付属されています!
耐久性+R値アップ!薄手の軽量マット「ASP-03」がイイ

ASP-03
こうしたエアマットの穴あきトラブルを軽減してくれるのが、別売りのポリエチレン製マット「ASP-03」。厚さ3mmながら、「ASP-R7」と組み合わせて下に敷くことで、地面の尖った石や根っこなどの凸凹を緩和するだけでなく、R値を0.4プラスすることができます。
また、「ASP-R7」はナイロン素材なので、フロアにそのまま置くとツルツル滑ってしまうのですが、「ASP-03」が滑り止めの役割を果たすメリットもあります。
ライター橋爪
「ASP-R7」と「ASP-03」を組み合わせれば、実質のR値は7.1になるということですね!
サッと広げておくだけでも冷気を緩和

今回のテストでも、「ASP-R7」の下に「ASP-03」を敷いて過ごしました。断熱性に関してはASP-R7自体の高い数値のため、体感で「ASP-03」の恩恵を感じることはできませんでしたが、より極寒の環境ではこの小さな差も大きく影響してきそうです。
また、便利だったのが設営後にテント内を整理しているとき。ゴソゴソとバックパックの中身を広げているときなど、このマットを広げておくだけでも寒さを和らげることもでき、あると嬉しいアイテムだと感じました。
ライター橋爪
夏山などで極限まで装備を削りたいUL思考の方にもおすすめ。
ちょっとした薄さですが、これだけでも地面からの冷気や凸凹が軽減されているのがわかります。
好みに応じて選べる2色展開

「ASP-03」はホワイトとグレーの2色展開。メーカー曰く「機能を優先する人はホワイトがおすすめ」とのこと。ホワイトは熱反射率が高いため、グレーよりもあたたかさを感じやすい特徴があります。
そこで気になるのがホワイトの汚れですが、今回、特に気になるようなことはありませんでした。薄い素材の特性上、どうしても折り目は付いてしまいますし、すぐに使用感が出てきてしまいますが、それも愛着かと思います。
ライター橋爪
ASP-R7をより効果的に使うためにも、ぜひセットで揃えておきたいアイテムです!
ロールだとバックパック内のパッキングが難しいですが、折りたたむことでコンパクトに収納できました。
数分で完成!ポンプサックでエアーを注入
機能がわかったところで、「ASP-R7」の膨らませ方を紹介します。

マットのバルブは、エアーを入れる層と抜く層の二重構造になっています。一層目のエアーを入れる層を開け、付属のポンプサックを連結させます。

ポンプサックの口を広げて空気をたっぷり取り込み、ポンプサックを絞りながら空気を注入していきます。この動作を数回続け、マットが膨らみ切れば完成です。
ライター橋爪
最初はなかなか空気を取り込めず時間がかかってしまいましたが、慣れると10回ほどの注入で膨らませられるようになりました!
収納時はバルブを開けてサッとエアー抜き

エアー抜きはバルブの2層目を開けるだけでOK。シューッと一気に空気が抜けていき、すぐに撤収できました。
ライター橋爪
クローズドセルマットのようにパッと広げてOKというわけにはいかないので、こうした手間があることは理解しておきましょう。
バルブが結構硬い……

ここで気になったのが、バルブがかなり硬くて、開けるのが大変だったこと。雪山でのテスト時はグローブをして手で開けるのが難しく、口を使ってやや強引にこじ開けました。
だからと言って、バルブをしっかり閉めておかないと空気が漏れていってしまうため、しっかりとバルブを押し込んでおく必要がありそうです。
ここは何度か使っていくうちに馴染んでくれば良いですね。
軽量重視の方はマミータイプもおすすめ!

レギュラータイプの上にマミータイプを重ねた画像

ASP-R7にはここまでで紹介したレギュラータイプの他、不要な部分を削ぎ落としたマミータイプも展開されています。R値はレギュラーよりも0.1小さい「6.6」。
足下の幅が狭くなっているのが特徴ですが、過度に重量スペックを求めすぎず形状を絞りすぎない工夫が施されており、軽量化を実現しつつも快適性を損なわない設計になっています。

左:レギュラータイプ(R値6.7) 右:マミータイプ(R値6.6)
重量は約477gでレギュラータイプより100g以上軽量。収納時もレギュラータイプよりコンパクトで、軽量化を重視する場合や、小柄な方などはこちらのタイプも重宝しそうですね!
金額はレギュラータイプよりわずかに安い、税込18,480円です。
雪山快眠の必需品、ここにあり!

今回、ASP-R7を使って感じたのが、雪山に泊まることの楽しさ。寒さを感じずに就寝できるだけで、雪山テント泊に対する向き合い方が大きく変わることに驚かされました。
・雪山テント泊はするけど、厳冬期対応のマットはない
・雪山テント泊をやってみたい
という方は、持っていて損なしと断言できるアイテムだと思います。
ただし、クローズドセルマットやインフレーターマットなどと比べて、膨らませる手間や穴あきのリスクなどの注意すべきポイントがあるのも事実。またエアマットは体重がかかる部分が沈みやすく、腰や背中などに負担がかかりやすいため、腰痛持ちの方には向いていないという声もあります。
こうしたデメリットを理解した上で使うことで、きっと雪山テント泊での心強い味方になってくれることでしょう。このスペックでこの価格は唯一無二。ぜひ「ASP-R7」で、雪山でしか見れない景色を楽しんでみてください。
arata ASP-R7
価格 | ¥18,590(税込) |
---|---|
サイズ | レギュラー:183×56×8cm マミー:183×51×10cm |
重量 | レギュラー:584g マミー:477g |
R値 | レギュラー:R6.7 マミー:R6.6 |
素材 | 20Dナイロンリップストップ |
付属品 | ポンプサック、収納袋、リペアシール2枚 |
arata ASP-03
価格 | ¥3,520(税込) |
---|---|
サイズ | 180×51.5×0.3cm |
重量 | 42g |
R値 | R0.4以上 |
素材 | ポリエチレンフォーム |
カラー | ホワイト、グレー |