多機能なザックは便利。だけど、ちょっと気になることが……

登山をはじめて最初に選ぶことの多いスタンダードなザック。
「自分はどんな機能を求めているのか?」がまだ明確でないときは、こういった多機能なものを使うと失敗が少なく安心です。
各所に配置されたポケットやストラップ、背負い心地を重視したシステムなど、便利で使いやすいものがさまざまなブランドから販売されているため、皆さんも使ったことがあるのではないでしょうか?
あれ?意外とあるぞ!使っていない機能

でも、案外使っていない機能ってありませんか?
たとえば、サイドポケットや外付けに使うストラップ。「装備はできる限り外に出さないようにしている」という人にとっては、使わないままになっていることも。

厚みのある肩・腰のパッドも、「ここまでクッション性は必要ない」と感じる人もいるでしょうし、フレームが組み込まれた背面システムは「もっとシンプルでいい」なんて思いも出てくるかもしれません。
使うと便利な機能もたくさんありますが、自分の好みやスタイルができあがってくると、自分にとってはなくても良い機能もでてきます。
せっかくなら、そういった無駄を省いて軽量化しませんか?
軽くて強い!意外とありな”アルパインザック”

そこで筆者がおすすめするのが「アルパインザック」。
聞き馴染みのない人もいるかと思いますが、アルパインクライミングや冬季登山など、登攀(険しい岩壁などをよじ登ること)を目的としたカテゴリーのザックを指します。
タフさと素早い行動を求める人にピッタリ

その特徴は、軽くて強いこと。
必要な機能だけを残したシンプルさで強度にも優れているため、山をグイグイ楽しみたいアクティブな登山者にピッタリなんです!

ということで、アルパインザックを長年愛用している筆者がその魅力を語ります!
……と言いたいところですが、どこからともなく気になる声が聞こえてきました。
「軽いだけなら、ULバックパックで良くない?」

そう、
「軽いならUL(ウルトラライト)バックパックでよいのでは?」という声です。たしかに圧倒的な軽さは魅力的ですし、見た目もおしゃれなものが多く目を引きます。
でも、アルパインザック派としてここで引くわけにはいきませんし、きちんと伝えなければいけないことがあるんです。
それは、同じ「軽い」という性格であってもアルパインザックとULバックパックはそれぞれ異なった機能を持っているということ!
まずは、その理由から見ていきましょう。
そもそも違う!軽量化の目的

アルパインザックの目的は登攀にあります。「スピード=安全」という考えから、危険な岩場や雪壁を素早く通過するために、“装備の軽量化”という手段がとられてきました。
一方、数百キロにも及ぶトレイルを踏破するため、ULハイクでは荷物の徹底的な軽量化が行われます。その手段のひとつとして、軽量なバックパックが選ばれているのです。
このような目的の違いが、それぞれのバックパックの持つ軽量化やそれ以外の機能とのバランスを決めています。
同じ軽さを求めていても、その目的はまったく異なるわけですね。それではもう少し具体的な特徴も見ていきましょう。


今回は、アークテリクスのアルファFL40と山と道のTHREEを例として見ていきましょう。
生地の強度にも違いあり
軽量性と堅牢性を最優先とするアルパインザック。登攀では岩や氷、雪などに擦れることも多く、簡単には破れない強度が求められています。また、防水機能や凍りにくい素材が採用されていたりなど、雪山での使用も想定された設計に。
ULバックパックは軽量性に特化。もちろん強度が低いわけではありませんが、アルパインザックに比べると生地が薄いモデルが多いです。
ザックの安定性にも考え方の違いが

アルパインザックとULバックパックでは、重い荷物を背負ったときの“安定性”に差があるように感じました。
アルパインザックは重いクライミングギアを収納することが想定されており、また不安定な雪上を歩くことから重心バランスが安定するように設計されています。

ULスタイルには、水、食料、燃料などを省いた総重量を4.5kg以下に抑える考え方があり、そもそもザックにそこまでの荷重がかかることは想定されていません。
なので10kg以上の荷物を背負うとなると、耐荷重を超えて逆に体力を消耗する可能性も。
重い荷物を背負った行動、岩場の通過など腕の稼働が多い場面での安定性はアルパインザックの方が高いと言えそうです。

装備の「外付け」にも考え方の違いが
アルパインザックのストラップやコードは必要最低限。
これは装備の引っかかりによる、滑落や落石などのリスクを避けるため。そのため、アックスやアイゼン、ロープなど、登攀時の使用頻度が高いギアのみの外付けに特化しています。
ULバックパックはマットやボトル、小物など、さまざまな装備が外付けしやすい設計になっています。このスタイルは道幅の広く広大なロングトレイルが発祥であることが要因。
いろんなものを外付けしたり、ポケットに入れられたりして便利ですが、日本の狭い登山道ではすれ違いや引っかかりなどのリスクが懸念されることも。そういった場合の危険性を理解して、上手に使いこなしたいですね。
特徴をまとめるとこんな感じ

どちらも軽量なザックですが、目的が異なるため機能のベクトルにも違いがありました。
それぞれの違いがわかったところで、ここからは筆者がアルパインザックを愛用してきて「ココがいい!」と思ったポイントを紹介したいと思います!
アルパインザックの軽い&強いを支える魅力を解剖しよう

最大の魅力は軽さと強さ。この機能が洗練されることでさまざまなメリットが生まれます。
頑丈なのでどこでもグイグイ使える

岩場でも、藪でも、どんな場所でもザックの破れを気にせず突っ込んでいけます。それでいて軽いので、登山道での素早い行動や岩場でのテクニカルな動きまで、幅広いシーンでアクティブに使えます。

美シルエットで重心の安定感も抜群

基本的に縦長で筒型のシュッとした形状になっています。この形により、パッキングした際のシルエットが綺麗にまとまりやすく、激しい動きでもザックがぶれにくい構造に。シンプルデザインなので、ザックそのものの形が楽しめるのも地味に魅力的です。
シンプルな機能なのでパッキングも見直せる

たくさん機能のあるザックはあれもこれもと詰め込んでしまいがちですが、アルパインザックは収納箇所が少ないゆえに自然と持っていく装備が厳選されていきます。
また、ザック内は1気室なので、パッキングもシンプルで取り出しやすよう工夫が必要になります。
わかりやすい収納が求められるので、必然的にパッキングの技術も向上するメリットも。

さらなる軽量化のためのカスタムも可能

「雨蓋」「背面パッド」「ヒップベルト」などを取り外せるモデルが多くあり、目的に応じてさらに軽量化が可能。なかにはザックの重量を300g以上軽くできるものもあったりなど、自分のスタイルに合わせてカスタムできるのも特徴です。
雨蓋があるかないか収納の便利さは大きく違いますし、不要だと思ったら外せるのも便利なポイント。

もちろん注意するべき点もある
■肩で背負うので基礎体力が必要
アルパインザックには厚みのある肩・腰のパッドや背中を包むような背面システムを搭載したモデルはほとんどありません。
そのため、基本的には肩を中心にザックの荷重を支えることになり、クッション性に頼らず背負える体力が求められます。
そう言った意味でも初心者向けとは言いがたく、それなりに山を登り慣れている人に向いていると言えそうです。

最後に、容量ごとのおすすめアルパインザックをみていきましょう!
【日帰り向け】おすすめアルパインザック(〜30L)

西穂高岳や宝剣岳、赤岳など、日帰りの岩稜帯を伴う登山、またファストハイクが求められる長時間の日帰り登山などにおすすめの容量です。
アークテリクス|アルファ SL 23
軽く耐久性に優れており、高山での効率的動きやすさを実現。生地にはアークテリクス独自開発のHadron™ LCP(液晶ポリマー)のグリッド織り素材を採用。雨蓋の外ポケットとメイン気室の内側に小ポケットを配置。
アークテリクス アルファSL23
容量 | 23L |
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重量 | 約590g |
サイズ | ONE SIZE |
マウンテンハードウェア|スクランブラー25
X-PACより高い耐久性を実現。サイドポケットとギアループ、デイジーチェーンといった便利な機能も配備。収納ポケット付きの雨蓋は取り外せるようになっていて、さらなる軽量化も可能。
ザ・ノース・フェイス|ヴェルト27
操作性とシンプルさを追求した超軽量テクニカルザック。メイン素材に210デニールのlronLiteリップストップナイロンを使用し、高い強度と軽量性を両立。背面パッドは取り外し可能で、マットとしても使用可能。
ザ・ノース・フェイス ヴェルト27
容量 | 25L |
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重量 | 約453g |
サイズ | ONE SIZE |
ブラックダイヤモンド|スピード30
ブラックダイヤモンドのロングセラー。クライミングに必要とされる機能のみに絞りこんだ妥協のないアルパインザックです。210デニールのXリップナイロンにより、高い堅牢性と撥水性を実現。ヒップベルトと背面フレームは取り外せる仕組みで、さらなる軽量化も可能。
ブラックダイヤモンド スピード30
容量 | S/M=28L、M/L=30L |
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重量 | S/M=0.99kg、M/L=1.14kg |
サイズ | S/M(背面長=41~48cm)、M/L(背面長=47~55cm) |
アークテリクス|アルファFL30
雨蓋のない筒型フォルムで内部にロールトップ式のインバーバックを一体化。軽さと強度に優れ、フロントポケットと内ポケットを配置。生地は防水仕様でレインカバーを必要としません。グローブをした状態での操作性に優れ、冬季登山にも活躍。
アークテリクス アルファFL30
容量 | 30L |
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重量 | 635g |
サイズ | レギュラー(背面長:46.5cm-51.5cm) |
ミレー|プロライター30+10
硬派な印象の機能性に優れた中型ザック。本体には210デニールのハニカムナイロンと1000デニールのコーデュラナイロンを適所に配置。背面には「X-LIGHTER BACK™」が採用され、通気性と背負い心地を実現。無駄を省きながらも十分な快適性を備えます。
ミレー プロライター 30+10
容量 | 30+10L |
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重量 | 1000g |
サイズ | 背面長:46cm |
【1泊2日向け】おすすめアルパインザック(30〜50L)

1泊2日の素早い行動や、穂高岳や剱岳など、宿泊を伴う岩峰登山にもおすすめ。テントやシュラフなどの装備の軽量化も見直すことで、テント泊も十分可能なサイズです。
マウンテンハードウェア|アルパインライト35
無染色で環境負荷を減らしたホワイトカラーが印象的。メイン、ボトム素材ともに超高強度の200Dナイロンリップストップを採用。アルミフレームとフレームシート、ヒップベルトは取り外し可能で、用途に応じて軽量性を高められます。
マウンテンハードウェア アルパインライト35
容量 | 35L |
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重量 | S/M:963g、M/L:973g |
サイズ | (背面長)S/M:41cm-48cm、M/L:46cm-53cm |
グレゴリー|アルピニストLT38
<グレゴリー>らしい、アルパインでの実用性が盛り込まれた逸品。擦れることの多いボトム部分は2層構造にすることで耐久性を向上。ヒップベルトや雨蓋、フレームシートなど、細かい部位まで取り外し可能で、さらに軽量が図れます。
グレゴリー アルピニストLT38
容量 | 38L |
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重量 | 1160g |
サイズ | ONE SIZE(SM/MD) |
マムート|トリオン 38
トップアスリートのノウハウが詰め込まれたアルパインザック。軽量性に加え、どのような体勢でも背中に密着する構造により、快適な背負い心地も両立。ショルダーのメッシュポケットや、サイドとフロントに引っ張れるコンプレッションストラップなど、シンプル且つ機能性の充実さが光ります。
マムート トリオン 38(ユニセックス)
容量 | 38L |
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重量 | 1200g |
サイズ | ONE SIZE |
マムート トリオン 38(ウィメンズ)
容量 | 38L |
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重量 | 1150g |
サイズ | ONE SIZE |
エクスペド|ブラックアイス45
スイス生まれのアウトドアギアブランド<エクスペド>のアルパインザック。シンプル構造で、素材には軽量・高強度の400デニールリップストップナイロンを採用。上部口はロールトップをストラップでコンプレッションする仕組み。完全防水仕様でレインカバーを必要としません。
エクスペド ブラックアイス45
容量 | 45L |
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重量 | 最小重量:0.82kg 最大重量:0.84kg |
サイズ | M、L |
【長期山行向け】おすすめのアルパインザック(50L以上)

槍・穂高の縦走、3泊4日の雲の平など、長距離のチャレンジングな登山で本領を発揮!このクラスになると、パッドやフレームも重厚になっていることが多く、背負い心地を重要視されているモデルも多くあります。
アライテント|グランクロワールスパイダロン 55+10
根強い人気を誇る、日本のアルパイン登山を支えてきた名品。十数年使い続けても今なお現役な高い耐久性が持ち味。シンプルながらも使い勝手がよく、オールシーズンの長期縦走で活躍します。国産メーカーらしい精密なつくりも魅力。
アライテント グランクロワールスパイダロン 55+10
容量 | 55L+10 |
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重量 | 1650g(レギュラー) |
サイズ | レギュラーサイズ:背面長48cm、ショートサイズ:背面長42cm |
モンベル|アルパインパック60
2、3泊程度のテント山行に最適な大型の軽量ザック。シンプルでスリムなシルエットは歩行時の安定性を確保。内部に防水バック「アクアバリアサック」が備わったロールトップ式開閉で、優れた防水性と操作性を両立します。容量の拡張も可能。雨蓋は、取り外してショルダーポーチとしても使えるユニークな仕様です。
モンベル アルパインパック 60
容量 | 60L |
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重量 | 2.0kg (アクアバリアサックを含む重量) |
サイズ | ONE SIZE(背面長の調節は49、53、57cm) |
山を軽快に、アクティブに楽しみたい!そんな人に推したいアルパインザック

アルパインザックは過酷な登攀を安全で素早く行動するために生まれたものですが、その軽さと強さは普段の登山でもたくさんのメリットを体感できるはず。
最初はシンプルな機能に戸惑うこともあるかもしれませんが、そこから少しずつ装備を見直していくことで、自身の登山スキルも一緒に高めていける心強い相棒になりますよ。