アイキャッチ画像撮影:筆者
多機能なザックは便利。だけど、ちょっと気になることが……

イラスト:筆者
登山をはじめて最初に選ぶことの多いスタンダードなザック。
「自分はどんな機能を求めているのか?」がまだ明確でないときは、こういった多機能なものを使うと失敗が少なく安心です。
各所に配置されたポケットやストラップ、背負い心地を重視したシステムなど、便利で使いやすいものがさまざまなブランドから販売されているため、皆さんも使ったことがあるのではないでしょうか?
あれ?意外とあるぞ!使っていない機能

イラスト:筆者
でも、案外使っていない機能ってありませんか?
たとえば、サイドポケットや外付けに使うストラップ。「装備はできる限り外に出さないようにしている」という人にとっては、使わないままになっていることも。

イラスト:筆者
厚みのある肩・腰のパッドも、「ここまでクッション性は必要ない」と感じる人もいるでしょうし、フレームが組み込まれた背面システムは「もっとシンプルでいい」なんて思いも出てくるかもしれません。
使うと便利な機能もたくさんありますが、自分の好みやスタイルができあがってくると、自分にとってはなくても良い機能もでてきます。
せっかくなら、そういった無駄を省いて軽量化しませんか?
軽くて強い!意外とありな”アルパインザック”

撮影:筆者
そこで筆者がおすすめするのが「アルパインザック」。
聞き馴染みのない人もいるかと思いますが、アルパインクライミングや冬季登山など、登攀(険しい岩壁などをよじ登ること)を目的としたカテゴリーのザックを指します。
タフさと素早い行動を求める人にピッタリ

撮影:筆者
その特徴は、軽くて強いこと。
必要な機能だけを残したシンプルさで強度にも優れているため、山をグイグイ楽しみたいアクティブな登山者にピッタリなんです!

ライター橋爪
登攀用と聞くとクライミングをする人しか使えないようなイメージもありますが、素早い行動が求められる登山や岩稜帯を伴う山などで活躍しますよ。
ということで、アルパインザックを長年愛用している筆者がその魅力を語ります!
……と言いたいところですが、どこからともなく気になる声が聞こえてきました。
「軽いだけなら、ULバックパックで良くない?」

出典:PIXTA
そう、「軽いならUL(ウルトラライト)バックパックでよいのでは?」という声です。たしかに圧倒的な軽さは魅力的ですし、見た目もおしゃれなものが多く目を引きます。
でも、アルパインザック派としてここで引くわけにはいきませんし、きちんと伝えなければいけないことがあるんです。
それは、同じ「軽い」という性格であってもアルパインザックとULバックパックはそれぞれ異なった機能を持っているということ!
まずは、その理由から見ていきましょう。
そもそも違う!軽量化の目的

(左)撮影:筆者、(右)出典:PIXTA
アルパインザックの目的は登攀にあります。「スピード=安全」という考えから、危険な岩場や雪壁を素早く通過するために、“装備の軽量化”という手段がとられてきました。
一方、数百キロにも及ぶトレイルを踏破するため、ULハイクでは荷物の徹底的な軽量化が行われます。その手段のひとつとして、軽量なバックパックが選ばれているのです。
このような目的の違いが、それぞれのバックパックの持つ軽量化やそれ以外の機能とのバランスを決めています。

ライター橋爪
アルパインザックは「垂直の壁」、ULバックパックは「水平のトレイル」の快適な行動を目的としています。
同じ軽さを求めていても、その目的はまったく異なるわけですね。それではもう少し具体的な特徴も見ていきましょう。

撮影:筆者
今回は、アークテリクスのアルファFL40と山と道のTHREEを例として見ていきましょう。
【写真左】
アルパインザック:アークテリクス|アルファFL40/重量715g.40L
【写真右】
ULバックパック:山と道|THREE(メッシュタイプ)/重量602g.40L
生地の強度にも違いあり
撮影:筆者 アルパインザックは軽くて堅牢な素材。ULバックパックは軽量性に優れたX-PACなどが用いられることが多い
軽量性と堅牢性を最優先とするアルパインザック。登攀では岩や氷、雪などに擦れることも多く、簡単には破れない強度が求められています。また、防水機能や凍りにくい素材が採用されていたりなど、雪山での使用も想定された設計に。
ULバックパックは軽量性に特化。もちろん強度が低いわけではありませんが、アルパインザックに比べると生地が薄いモデルが多いです。
ザックの安定性にも考え方の違いが

撮影:筆者
アルパインザックとULバックパックでは、重い荷物を背負ったときの“安定性”に差があるように感じました。
アルパインザックは重いクライミングギアを収納することが想定されており、また不安定な雪上を歩くことから重心バランスが安定するように設計されています。

出典:PIXTA
ULスタイルには、水、食料、燃料などを省いた総重量を4.5kg以下に抑える考え方があり、そもそもザックにそこまでの荷重がかかることは想定されていません。
なので10kg以上の荷物を背負うとなると、耐荷重を超えて逆に体力を消耗する可能性も。

ライター橋爪
実際にそれぞれのザックに10kg程度の荷物を入れて背中をフリフリしてみましたが、前後左右の振られ方にけっこう大きな違いがありました。
重い荷物を背負った行動、岩場の通過など腕の稼働が多い場面での安定性はアルパインザックの方が高いと言えそうです。
装備の「外付け」にも考え方の違いが
撮影:筆者 アルパインザックは最小限のストラップ。アックスやロープの外付けに適した設計。ULバックパックは外付けしやすいポケットやストラップを配置
アルパインザックのストラップやコードは必要最低限。
これは装備の引っかかりによる、滑落や落石などのリスクを避けるため。そのため、アックスやアイゼン、ロープなど、登攀時の使用頻度が高いギアのみの外付けに特化しています。
ULバックパックはマットやボトル、小物など、さまざまな装備が外付けしやすい設計になっています。このスタイルは道幅の広く広大なロングトレイルが発祥であることが要因。
いろんなものを外付けしたり、ポケットに入れられたりして便利ですが、日本の狭い登山道ではすれ違いや引っかかりなどのリスクが懸念されることも。そういった場合の危険性を理解して、上手に使いこなしたいですね。
特徴をまとめるとこんな感じ

作成:筆者
どちらも軽量なザックですが、目的が異なるため機能のベクトルにも違いがありました。
それぞれの違いがわかったところで、ここからは筆者がアルパインザックを愛用してきて「ココがいい!」と思ったポイントを紹介したいと思います!





