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「ウェアが溶けるらしい…」虫除けスプレーのウワサ、知ってますか?

今年も虫除けの活躍する季節がやってきました。そんななか、編集部員があるウワサを聞きました。
「ディートって、子どもにはあまり使わないほうがいいらしい」
「ディートは登山ウェアを溶かす可能性があるらしい」
ディートとは虫除けに効果があるとして認められている成分のひとつで、長年に渡って日本でも使用されています。しかし配合濃度によっては年齢制限があること、化学繊維へ影響を与える可能性が使用上の注意に書かれている……などが、どうやらこのウワサの元となっている模様。一方で近年では新たな虫除け成分「イカリジン」も承認され、ディートに代わる選択肢として選べるようになりました。
しかし、それぞれの虫除けスプレーにどういった特徴があるのかを、知った上で使っているという人は少ないかもしれません。
今回は特に気になる「化学繊維を本当に溶かすのか?」という、ディートにまつわるウワサを検証実験してみました。
「ディート」と「イカリジン」ってどう違うの?

夏場のドラッグストアにはさまざまな種類の虫除けスプレーが販売されており、中でも有効成分として「ディート」と「イカリジン」という成分が配合されている商品を多く見ることができます。まずはディートとイカリジンの違いを確認してみましょう。
ディート
- ・日本で最初に虫除けに効果があると認められ、50年以上使用されている。
- ・対策できる虫が蚊、ブヨ、アブ、マダニからノミ、ヤマビル、サシバエなど幅広い。
- ・ディート配合濃度が30%の製品(医薬品)は12歳以上使用可、また年齢により使用回数に制限がある。
イカリジン
- ・1986年にドイツで開発され、日本では2015年に承認された成分。
- ・年齢による使用制限や使用回数の制限はない。
- ・対策できる虫は蚊、ブヨ、アブ、マダニのみ。
使用に対する年齢制限の有無や忌避できる虫の種類が、2つの成分の大きな違いのようです。
子どもに対しては「正しい用法・用量」を守ればOK
まずは最初のウワサとして、ディートを子どもに使用することについての安全性について見ていきましょう。厚生労働省は平成17年に安全性に関して以下の検討結果を公表しています。少し長いですが、引用しますね。
(1)ディートを含有する医薬品等は、我が国において多くの人が40年以上使用してきているにもかかわらず、現在まで薬事法に基づく副作用報告はない。
・ 米国、カナダ、英国などにおいて、販売停止等の措置を講じている国はない。
・ デューク大学の研究グループが行ったラット皮膚塗布試験に関する報告については、関係する他の報告に比べ低用量でディートの神経系への影響が認められているが、試験方法等の不備が見られるため、現時点では評価は困難である。
(2) このような状況において、ディートを含有する医薬品等について、現時点では、販売停止等の措置を講ずるだけの科学的根拠はないと考えられる。
(3) 現在、国内で流通している製品については、使用方法等の記載が不明確なものが多いことから、適正使用を推進する観点から、製品中のディート濃度を明記させるとともに、カナダにおける記載(6か月未満には使用しない、6か月から2歳は1日1回、2歳から12歳は1日3回)を参考に、使用方法の目安等を明記させる必要がある。
(4) デューク大学の研究グループが報告している低用量において認められた神経毒性については、再現性等を確認するために追加試験を行う必要がある。また、ディートの神経毒性について、今後も同様な研究報告に注目していく必要がある。
こういった厚生労働省の対策により、現在ではディートを含む虫除けを販売する各製薬会社は、ディート濃度をはじめ正しい使用法を必ず記載しています。
子どもに対して使用する際も、安全性に関してはきちんと使用方法を守れば大丈夫なようです。これでウワサはひとつクリアになりました。
一方、気になるのが「化学繊維を溶かすのでは?」というウワサ。アース製薬のディート30%配合の虫除けスプレーの「使用上の注意」には以下のような記載がありました。
- ・シャツ、ズボン等の衣服にスプレーする場合、繊維の種類によっては本剤により変質する場合がある。合成繊維は変質しやすいので注意すること。
- ・腕時計等のプラスチック製品は変色のおそれがあるのでかけないこと。
- ・ストッキングなどの上に直接スプレーしないこと(生地が傷む場合があります)。
普段着が変質してしまうのもショックですが、アウトドアウェアは機能性や価格の観点からも絶対に傷つけたくないもの。虫除けスプレーがアウトドアグッズに付着してしまい、もし変質が起こってしまうようであれば……。
そこで編集部からの依頼で、アウトドアウェアにもよく使われている化学繊維に対して、虫除けスプレーがどのような影響を与えるのか検証実験してみました。
代表的な虫除けスプレーを使って、いざ実験!

虫除けスプレー各種が実際に化学繊維へ影響を与えるかどうか検証をしてみます。実験で使用する虫除けスプレーは、左より含レモンユーカリ精油(天然精油)、含イカリジン15%、含ディート30%です。
使用した虫除けスプレー
アロマオイル系(天然精油の虫よけスプレー レモンユーカリ)
ナチュラル志向の方が化学系虫除け以外の選択肢として選ぶ。この商品は肌に直接つけるのではなく、衣類などにスプレーするタイプのもの。
eu(ユー) 天然精油の虫よけスプレー 100ml レモンユーカリ
イカリジン15%(天使のスキンベープミスト プレミアム[イカリジン配合])
ディートよりも新しい「イカリジン」成分による虫除け。国内で販売されている最高濃度15%を採用。医薬部外品。
フマキラー 天使のスキンベープミストプレミアム(60ml )
ディート30%(医薬品 サラテクトミスト リッチリッチ30)
本検証の主役。国内で販売している最高濃度30%を採用。医薬品。
アース製薬 サラテクトミスト リッチリッチ30 (200ml)
実験方法
①化学繊維の布をコップに被せる。
②それぞれに10プッシュずつ、薬剤を吹きかける。
③15分置き、繊維の変化を観察する。
実験1:ポリエステルの場合
ポリエステルの繊維(今回は洗濯ネットを四角く切り利用しました)をコップに被せます。

左のアロマオイルから布へ10プッシュずつしっかりと吹きかけていきます。

こちらはイカリジンを吹きかけた様子。

ディートも10プッシュしっかりと。

すべてにかけ終えたら、15分放置します。

変化は果たして……おおっ……!
15分後、どのような変化があったか観察していきます。
まずはアロマオイル。特に目立った変化はないようです。

お次にイカリジン。こちらも目立った変化はありません。

3つ目となるディートですが……あれ、他の2つと様子が異なります。
白い液体が布に付着しています!

試しに触ってみると、少しヌルヌルとしたオイルのような触感。

確かに白い液体が指にもつきましたが、これが果たして何の物質なのか突き止めることはできませんでした。

なお、ディートを吹きかけた布も穴が開くことはなく、液体を拭き取ったあとの見た目は実験前と変わらない様子でした。
実験2:ナイロンの場合

ポリエステルでは変化を見せたものの、他の繊維にも影響はあるのかどうか、さらに追加実験を行ってみました。
用意したのはナイロン製のストッキングを被せたコップ。同じように10プッシュずつ吹きかけ、15分置いてみます。

しかしこちらではディートでも目立った変化はみられませんでした。

念のために30分、45分、60分と置いてみましたが、どれも変化はありませんでした。
結果
今回の実験は簡易的なものですが、以下のような結果となりました。
- ・ポリエステル素材にディート30%を吹きかけた場合に変化がみられた。
- ・各素材とスプレーの組み合わせにおいて、繊維が傷んだか否かは目視だと確認できず。
- ・ナイロン素材はディート30%でも変化はなかった。
実験の結果から気になることを製薬メーカーに訊いてみた
今回の実験結果を踏まえて、「医薬品 サラテクトミスト リッチリッチ30」の販売元であるアース製薬の広報室に、編集部より以下の質問を送付しました。
YAMA HACK編集部からの質問(一部要約抜粋)
- Q1. ディートは具体的にはどのような種類の化学繊維に影響があるのでしょうか?
- Q2. このような反応は(濃度に関係なく)ディート特有のものでしょうか? それともイカリジン、アロマオイル系にも起こる現象なのでしょうか?
- Q3. 「医薬品(30%)」と「医薬部外品(10%以下)」によっても反応は異なりますか?
- Q4. 例えば肌に吹き付けて、乾いた上からウェアを着た場合、汗や蒸れによって、ディートの成分が溶けだし、ウェア内部を溶かしてしまう、といったようなことは起こりうるのでしょうか?
アース製薬広報室からの回答
- これは、弊社の医薬品及び防除用医薬部外品の「サラテクト」シリーズの本来の使用目的とは異なる使用法であることから、回答は差し控えさせていただきたく存じます。
なお、回答の補足として以下のようなコメントをいただきました。
・ディートは本来の使用目的で使用される事に問題はありません
・有効成分としての部材に対する影響はディートに限らず、様々な成分でも起こる可能性はあります。
うっかり噴射に気をつけて、正しく虫除けスプレーと付き合おう!

今回の実験結果では、ディート30%✕ポリエステル繊維では、他の組み合わせで見られなかった変化がありました。ですが、一方で「天使のスキンベープミスト プレミアム」にも「プラスチック製品等にかからないようにすること」とありました。すなわちイカリジンでも同様の使用上の注意が記されています。
ウワサと実験結果については、薬剤の種類や濃度、噴射量などによっても異なる可能性があるので、必ずしも「関係があるとは言いづらい」というのが今回の結論です。
ただ「虫除けスプレーをウェアにうっかりつけてしまう」ということは実験結果に関わらず、メーカーが明記している使用上の注意からも避けたほうがいいようです。虫除けスプレーはアウトドア活動ではなくてはならないものなので、正しく使うことで活用していきましょう!