価格の正体は“開発工程”にあり

ゴールドウインの登山ウェアが高い理由を「素材がいいから」で片付けてしまうのは簡単です。しかし、テック・ラボを訪れて最初に感じたのは、その認識が表層的だったことに気づかされました。
ゴールドウイン平山さん
ウェアの価格は、素材だけで決まるものではありません。
むしろ大きいのは、開発や検証にかかる工程の部分。
例えば、生地の強度ひとつとっても、見た目ではほとんど違いはわかりません。でも実際には、織り方や糸の構成によって、性能には大きな差が生まれます。
それを感覚ではなく、数値としてきちんと把握することが重要なんです。

ゴールドウイン平山さん
“なんとなく良さそう”ではなく、データとして裏付けがあること。それが最終的な製品の品質につながっていきます
ゴールドウインでは、こうした“見えない性能差”を定量的に評価し、設計に反映させることに力を入れている。引張強度や伸縮性といった物性データを取得し、それをもとに素材やパターンを選定していく。
その積み重ねこそが、ゴールドウインのウェアの価格を形づくっています。
“なんとなく良い”では作らない。データで裏付ける開発思想

見た目の美しさだけでなく縫い代やパーツの配置、着心地や耐久性といった部分まで徹底するのが、ゴールドウイン。「Dedication to detail.」という理念の基、ウェアや素材の性能は感覚に頼らずに、あらゆる側面から徹底してデータで検証されています。
・人工気象室
極寒や低酸素など過酷な環境を再現できる試験室。マイナス30度~プラス40度まで温度調整ができ、酸素濃度も設定できるようで、室内にいながら富士山の山頂を再現することも可能。
防寒着の保温力や行動中のウェア内環境を検証して、製品コンセプト通りに機能するか確認します。
「こうなるだろう」という仮定ではなく、実証された機能はアウトドアフィールドで心強いばかりです。
・人工降雨室
降雨による防水性や耐水性を検証する試験室。さまざまな角度から水が吹きかけられ、小雨や大雨など雨の強さも再現。ときにはスタッフが入って、実験することもあるようです。
水による濡れは山岳リスクに直結するため、徹底した検証に安心感を覚えます。
・引張試験
触っただけでは分からない生地強度を数値で評価。見た目が似ていても、リップストップ生地のように太い糸を織り込むだけで引張強度が劇的に向上するなど、見た目では判断できない性能差をチェック。デザインやパターン設計に生かされています。
快適さだけではなく、タフさも欠かせないのが登山ウェア。裏打ちされた強度ならば、心置きなく登山を楽しめます。
・電子顕微鏡
μm(マイクロメートル)という1mmの1000分の1のサイズも見られる電子顕微鏡で、繊維レベルのクオリティを確認。素材と素材の接着具合や、レーザーカットの断面の確認などに使われています。まさに目に見えないところにまで品質をこだわる姿勢がうかがえます。
想像ではなく、可視化したデータを蓄積した根拠ある設計。それが、登山中に感じるさまざまな身体ストレスを軽減することにつながります。
数々の試行錯誤と検証が行われ、ひとつのアイテムを形作っているのです。
身体の動きを1mm単位で解析。数値を「着心地」に変える高度な設計術

登山ウェアは、静止した状態の機能や着心地を評価されがちですが、実際の登山では人は常に動いています。ゴールドウインでは、その動きを基準に設計。

運動時の体の動きは、モーションキャプチャーによって測定。数値化したデータは、運動中の着心地を追求したパターン設計に生かされます。

ウェアのパターンは3DアパレルCADを使用し、CAD上の身体模型に着せながら設計して、より体に沿ったデザインに仕上げています。着用の圧力分布や風の流れもシミュレーションでき、あらゆる動きの中での着心地を洗練できます。


トップアスリートなどに特注ウェアを作る際には、3Dスキャナーを使用。より細かい身体データを取得することで、各個人のパフォーマンスを最大限に引き出せる最適化した設計が可能です。
なぜ品質がブレない?一気通貫の開発体制という強み

ゴールドウインのものづくりで、もうひとつ特徴的なのが、開発から生産までを富山にある社内で完結させられる体制です。
ゴールドウイン平山さん
工程が分断されていないからこそ、部署を横断してノウハウを共有でき、品質には一貫性が生まれ、開発チームはお互いに切磋琢磨して一体感が高まるんですよ
ものづくりにおいてデータは欠かせませんが、それをどう形にするかは人の仕事です。
多くのスタッフがゴールドウインであることに誇りを持ち、使う人の視点で製品に向き合う。その積み重ねが、クオリティの高さにつながっているのでしょう。
長く使える理由。修理まで見据えたものづくり
さらに印象的だったのは、“直して使う”ことを前提としたものづくり。製品は、売って終わりではないという、うれしいユーザー視点。
ゴールドウイン平山さん
製品の構造を理解しているから、年間約2万件も対応できるんです。工程が多すぎて普通では対応しないようなシームテープの修理も承っています。
こうした体制からも、ゴールドウインが考える品質が、耐久性だけでなくアフターサポートまで含んでいることが伝わってきます。
ゴールドウインの一着が「高い理由」は見えない工程にあった

今回の取材を通して見えてきたのは、スペック表だけでは語れない価値の存在でした。
ゴールドウインの登山ウェアに込められた技術や思想は、見た目からは分かりません。だからこそ、店頭で手に取るときには、その一着の裏側にある開発の積み重ねを思い出してみてください。
そのとき、これまでとは違う視点でウェアを選べるようになるはずです。
編集協力:ゴールドウイン















