アイキャッチ画像撮影:ポンチョ
ブラックダイヤモンドの意欲作「ベータライト」

クライミングギアやバックカントリーギア、近年はトレイルランニング用のバックパックにも力をいれている米国ブランドの「ブラックダイヤモンド」。同社が今年発売して、すでに売り切れが続出しているバックパックがあります。
ブラックダイヤモンド初のULパックとして開発された、「ベータライト」シリーズです。
同シリーズには、ベータライト45と30という容量の異なるバックパックが2モデル。加えてフロントバッグやバックパックのアディショナルポケットとして使えるマルチバッグの「ベータライト サテライトバッグ」がラインナップされています。
今回はバックパックの2モデルを中心に取り上げます。
注目のUL素材「Ultra200」を採用

バックパックの最大の特長であり、“ウリ”は、45、30ともに本体に採用されている素材です。
それが、チャレンジセイルクロス社が開発した「Ultra」。昨年からこの素材を採用するULパックが続々と登場。ULギア好きの間では、すでに認知度だけでなく、評価もかなり高い素材です。
超軽量×高強度
このUltraは、超高分子量ポリエチレン、いわゆるダイニーマと呼ばれる素材の仲間。そのなかで最軽量でありながら、最高強度と耐摩耗性を誇ります。
使用当初は、強度、耐摩耗性の高さを感じる張りの強さがある表情。そして使用を続けるうちに、性能が落ちることなく、紙のようなクシャクシャッとした独特の風合いを楽しめるようになるのも、この素材の面白さだそう。
防水性を高める工夫も抜かりない

さらに裏地に貼られたポリエステルフィルムが、高い防水性を生んでいます。ベータライトは、その防水性の高さを活かすため、パック本体の主要縫製部にシームシーリングを施しています。
加えて開口部にロールトップクロージャーを採用。強い雨に打たれても本体内部は濡れ知らず。正面の大型メッシュポケットやサイドポケットの収納物が濡れてもよいと割り切れば、レインカバーも必要なく、レインカバー分の軽量化が可能です。
ベータライトシリーズでは、本体にUltra200、耐摩耗性が必要な本体下部にUltra400を使用。軽く、強度があるだけでなく、防水性も装備させ、ULハイカーでなくとも興味が湧いてくるバックパックに仕上げています。
多くの人が欲しがるのも、当然でしょう。
ベータライト45と30のスペックを比較

ベータライトシリーズのバックパック2モデルのスペックは以下の通りです。
- 商品名
- ベータライト45
- ベータライト30
- 価格
- ¥68,200(税込)
- ¥63,030(税込)
- 容量
- 45L
- 30L
- 重量
- 890g/最小重量=521g(背面パッド、ヒップベルト、ステー、ストラップ取り外し時)
- 695g/最小重量=452g(背面パッド、ヒップベルト、ストラップ取り外し時)
- サイズ
- XS~L(M:背面長=44-50cm、ウェスト=74-122cm)
- XS~L(M:背面長=44-50cm、ウェスト=74-122cm)
- 背面構造
- 2本のアルミステー、背面フレームパッド
- 背面フレームパッド
- トップスタビライザー
- あり
- なし
2つのバックパックの主な仕様の違いは、荷重分散するための軽量アルミフレーム、そしてショルダーハーネス上部のパック本体を身体側に引き寄せるトップスタビライザーの有無です。45にはそれらが装備されていますが、30は装備していません。
30のほうが容量が小さいため、荷重を分散するほど重い荷物にならないという考えだろうと思います。
容量の違いは、山で過ごす期間の違いとなっていますが……
ブラックダイヤモンドの輸入代理店ロストアローの公式HPの同製品の紹介ページに掲載されていた動画が、上記です。
この動画内の冒頭から45秒付近でベータライトを手掛けたインダストリアル・デザイナー氏は「30Lは1~4日間、45Lは4日間のハイクを想定している」と語っています。
ブラックダイヤモンド本国サイトを見ると、45Lは「PCT (米国のロングトレイルのひとつ)で数か月を過ごす場合でも、2週間の旅行を最大限に楽しむ場合でも快適性を損ないません」とあります。
一方の30Lは「ペースの速い一泊の冒険で必要なものだけを運ぶために作られています」となっています。
この違いは、動画は開発段階でのコンセプト、カタログでは実際にテストをした結果を踏まえた適したスタイルを表現しているのでしょう。
本国サイトでは、どちらも推奨容量40ポンド=約18キロになっています。これは、ロングトレイルの補給地点のないセクションや熊対策のベアキャニスターを装備する際に、最大でも18キロ以下で背負ってくださいという、意味だと思います。
「ベータライト」は、ランニングパックのよさを昇華させたULパック

私がテント泊装備や実際にデイハイクで使用した感覚、印象は、次の通りです。
ベータライト45
ベータライト45は、軽量コンパクトな装備であれば、週末2泊3日のテント泊はもちろん、1週間程度の山行装備も余裕で収納できます。フロントメッシュポケットの容量も十分なので、実際には48Lくらいの容量があります。

アルミフレームとトップスタビライザーはよく機能して、登り下りでのブレがありません。とても安定していて歩きやすいです。
パック自体は1キロ以下と軽量ですが、いわゆるULパックにはない剛性感が備わっていて、15~16キロくらいの総重量でも、通常のフレームパックに近い背負い心地のよさを提供してくれます。
でも、容量が大きいからといろいろ収納せず、パックの軽さを活かして、装備をできる限り削って、重くとも13キロくらいまで収めると、よさを活かせそうです。
なぜなら、重さに対応する軽いバックパックではなく、軽い装備をさらに軽く快適に背負うバックパックだと思うからです。
ベータライト30

ベータライト30を背負った最初の印象は、ショルダーハーネスが少しカタいなぁというものでした。動いていないと、やや肩に食い込みを感じるのです。ですが、歩きはじめると、不思議なくらいにスゥ~っと身体に馴染み、幅の広いショルダーハーネスによる荷重分散、動きやすさが前面に出てきました。
これは同社が近年手掛け、このベータライトにもその技術を注ぎ込んだトレランパックのよさが装備されているのでしょう。ショルダーハーネスのカタさは、トレランパックよりも重い荷物を背負うことで出やすい、ヨレを防ぐものなのかもしれません。
そして薄く、軽く、身体によくフィットして動きやすい、よくできたショルダーハーネスです。ベータライト45も30も、このショルダーハーネスが、既存のULパックとは次元のことなる背負い心地と動きやすさを実現していると感じます。

ベータライト30はフレームレスのULパックなので、スリーピングマットを丸めてパック内に入れてフレーム代わりとするULハイカーが行なう方法で、装備を収納。すると、本体に剛性が生まれ、重い装備でも背負いやすくなります。
とはいえ総重量が12キロくらいになると、トップスタビライザーが装備されていないため、背中側にやや引っ張られる感じが強くなりました。
もしかすると私の上半身が薄いので、今回背負ったサイズよりもワンサイズ下のモデルを使用したら、少し解消されるのかもしれません。可能であれば、購入時にはサイズ違いを背負って確認したほうがよいでしょう。

でもUL装備を揃えて総重量10キロくらいに抑えられれば、テント泊装備でも快適さは損なわれません。
またロールトップクロージャーは、容量の可変に柔軟に対応してくれ、デイハイクからUL装備でのテント泊に使用できます。このパックひとつで、ほとんどの山行に対応できるというのは、かなりの利点です。
念のためお知らせすると、30L容量のどのパックでも、デイハイクからテント泊山行が可能なる訳ではありません。ベータライト30は重さに対応する設計、デザインが施されているからこそ、それが可能になります。
ほかにも共通する機能が、使い勝手を向上
容量、フレームとトップスタビライザーの有無の違いがあるベータライト45と30ですが、それ以外の使い勝手を左右する箇所は、共通する機能が多くあります。
収納力が高いポケットやアレンジ自在のストラップ類

上の写真のようにサイドポケットの容量が大きく、通常のULパックにはない収納力があります。ポケットは深さと取り出しやすさを両立。開口部にストレッチコードが配され、脱落の心配が少ない仕様になっています。ハイク中に肘と収納物が干渉することもありません。

サイドコンプレッションは、軽量化のためコード状のものを使用。パックの高い位置に配されているため、サイドポケットに長尺物を入れた際には、長さが足りないとコードの固定位置を変えたり、巻いたりして脱落を防ぐ必要があります。ULギアは、ユーザーに工夫を求められるもの。これも、そのひとつなのでしょう。
大きく深さのあるフロントメッシュポケットが装備されているので、長尺物はそちらに収納することを前提にしているのかもしれません。
ポケット付きのヒップベルトは取り外しが可能

ウエストベルトは着脱式。しっかりウエストにフィットする太めでクッション性のあるものを装備。しかもULパックでは省略されがちな、大きめのウエストベルトポケットも備えています。行動食の収納に便利です。
快適性を提供するパッドも装備

パックの本体の背面側、バックパネルには着脱式のパッドが装備されています。
これはULパックの多くが採用している仕様。パッドは取り出してシートマットとしてや、3/4スリーピングマット使用時に、足りない分を補えます。
取り外して軽量化を図れますが、ハイク時の快適さを考えると、私は装着して使用したいです。

ショルダーハーネスには、肩に当たる部分のみパッドを封入。裏側には濡れを抑えるメッシュ素材が配されています。肩パッドは薄手ですが、10キロくらいまでの重さであれば、食い込みを防ぐのに機能してくれます。
シンプルではあるけれども、豊富な機能を装備していて、ベータライト30の重量は695g、45も890gと十分に軽量。Ultra200という素材のよさと、ブラックダイヤモンドの開発力に感心します。
とはいえ、改善してほしいと感じる点も

トレランパック的なショルダーハーネスは、ベスト形状で左右それぞれに2つのポケットを装備しています。ですが、ベータライト30のポケットは、45に比べてちょっと小さめ。ジッパー付きポケットにスマホを収納しようとすると、かなり窮屈なんです。
右側のボトルを収納するメッシュポケットも、500mlサイズのソフトフラスコ、ペットボトルの出し入れが大変……。45はそこまで窮屈ではないので、可能であれば30も、45同様にしてほしい……と感じて確認したところ、どうやら米国ULハイカーは軽量コンパクトなiPhone miniの愛用者が多いとのこと。そこで、そのサイズに合わせているのだそう。ボトル収納も、使用を続けているうちに適度に伸びてきて、改善するのかもしれません。

もうひとつ気になる点が……。
パック下部には、パック内の容量を増やすのに機能するストラップが装備されていて、ありがたいのですが……、長さ調節をするスライダーが背中側にあります。これも私の感覚だとフロント側にあったほうが使いやすいと思うのです……。
ですが、これはマット装着時に、バックパネル側を汚さないための仕様なのかもしれません。
慣れですかね?
ベータライト45と30、どちらが買いなのか?

ブラックダイヤモンド初のULパックという謳い文句で発売されているベータライトシリーズ。ベータライト45と30を実際に背負ってみて、どちらを買うべきか?
私は登山道を歩くノーマルルートのハイカーで、ファストハイクもして、年間ではデイハイクのほうが多いんです。だから、マルチに使えるベータライト30のほうが向いていそうです。

今回、上の写真のような手持ちのテント泊装備を収納してみました。この装備はULではなく、ライトウェイトと呼ばれる、ベースウェイト(水や食料を除いた装備の重量)で7キロくらいの装備。水3Lと3日分の食料を加えて総重量は約11キロでした。
これらを、スリーピングマットをフレーム代わりにパック内に収めると、ベータライト30では、さらなる装備のUL化が必要だと思えるくらいパンパンになってしまいました。
パック下部にマットを外付けして、左右の大きなサイドポケットに非自立型のテントを収納。すると本体内に余裕ができ、背負い心地もやや後に引っ張られる感じはありますが、まずまず。

でも、外付けをせずに、テント泊装備を背負いたい。さらに1週間程度の縦走をしたいという場合は、容量の大きなベータライト45のほうが、当然ベター。フレームが機能して、身体への負荷も軽くしてくれます。縦走装備の軽量化と同時にバックパックを新調する際にも、その効果を発揮してくれるでしょう。
けれども、ベータライト45も30もULパック的でありながら、その装備は案外、便利なノーマルパック的。シリアスなシーンで機能するギアを揃えているブラックダイヤモンドのなかで、挑戦ではなく、自然を余裕を持って楽しむ雰囲気を持っています。
とくに軽さだけにこだわらず、自身のアイデアをいろいろと試してみたいと思わせる楽しさがあるのは、ベータライト30。このパックでできることを試してみれば、山で求められる自身のスペックもアップできそうです。
それではみなさん、よい山旅を!
ブラックダイヤモンド ベータライト45
ブラックダイヤモンド ベータライト30
ブラックダイヤモンド ベータライト サテライトバッグ