街の山道具店ができるまで ナチュラルアンカーズ店主日記

店のはじまりを振り返る

第1回

長野市にあるアウトドアセレクトショップ「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」。
コアなファンも多いこの店が、開店6年目となる2020年春に新しい仲間と新しい試みへと一歩踏み出すこととなった。「ローカルの街で山道具店を営む」ということについて、店主・戸谷 悠がこれまでの5年間を振り返り、思索しながら次のステップを迎えるまでを日記で綴る。

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山道具屋が消えた街で、ひとを繋げるリアルな店

カナダBC州スコーミッシュ時代。毎日のように岩に登っていた

2013年某日(過去の回想)

学生時代にハマったロッククライミング。

人生の分岐点となり、就職活動もせず「この先もロッククライミングで生きていく!」と意気込み(若かったなぁ……)、卒業後すぐに海外の岩場へ行き、そこから数年間は海外と日本を行き来して送っていた「クライミング・バム生活」。

そんな山篭り生活にも終止符を打ち、日本へ帰国したのが6年前の2007年。今の会社勤めも嫌いではないが、やっぱり山や自然に近いところで何かしたい気持ちがある。

経験を生かしてロッククライミングの道具を販売するお店を開くか。でも少し……マニアックすぎる気がする……。

もう少し多くの人を繋げることのできる「アウトドア」の専門店はどうだろうか。

以前、長野市にもいくつかあった個人経営の山道具屋、理由はわからないが軒並みなくなってしまった。量販店はあるが、もう少し近い距離感で山の道具についてや旬な情報を発信してくれる場所があったらと思うし、アウトドア好きな人と人が繋がることで情報や知識を共有ができたり深め合ったりできるといつも感じる。そういった「緩やかな繋がりのある場所」を自分の手でつくってみるのは面白いかもしれない。

幸い、長野市は街から徒歩ですぐの善光寺裏手にはロッククライミングができる物見岩や、ハイクが楽しめる地附山、旭山、葛山、大峰山、などの里山がいくつも点在している。信越五岳である飯綱山もすぐそこに、1時間圏内には戸隠山、黒姫山、斑尾山に妙高山。百名山の四阿山などなどと街から山へと気負いなく足を運べる恵まれた環境は他にないように思う。

この想いをもって自分がどのようにやっていけるのか、まずは考えてみよう。

国内外で買付た商品が並ぶ店内

2015年4月10日(過去の回想)

今日、ついに店がオープンした。

構想から約2年、物件探しに半年、内装工事を経て友人知人にも手伝ってもらい築80年余りの古民家を半分セルフリノベーションすること約3ヶ月……。

ここまで辿り着くまでに、様々な打ち合わせと調整の繰り返し。理想と現実を擦り合わせていく作業だ。古民家のリノベーションは思ったよりも資金がかかることも分かり、当初の予算内でおさめる為にはセルフ作業も必要だ、となった。実際に壁の下地作りから塗装まで、やってみると大変さはあったが、みんなでひとつの場をつくりあげる楽しさは、ひとしおだった。

3年前の2012年、この善光寺の門前町と出会い、空き家となった古民家が再活用され始めていることを知った。善光寺は全国的から人が集まるいわゆる観光地だけど、その周囲の昔からの家々は高齢化・後継者の地方離れなどに伴って近年は空き家が増えていたらしい。

そんな状況を危惧して街を再び活性化させようと数年前から動き出していたのは、門前町で企画・編集室を築100年以上の古民家に住みつつ営む「ナノグラフィカ」の増澤珠美さんと今回の物件も紹介してくれた遊休不動産の活用を推進する「MYROOM」の倉石智典さん。この2人を中心に善光寺界隈では、古民家を再利用したゲストハウス・革小物店・珈琲焙煎店・レストランや菓子店・シェアハウスなどが徐々に増え、コミュニティができ上がりつつあった。

倉石さんに自分達のやりたいことを伝えると、いくつか条件のあう物件を紹介してくれた。中でもこの物件のある岩石町(偶然とはいえ、ロッククライミングをやる人間にとって岩とか石なんて響きもこれまたたまらない……)は、裏小路がとくに入り組んでおり、山により近い地域特有の地形が生かされたつくりで、知る人ぞ知る場所。もしやるなら「山奥でひっそり」もしくは「隠れ家のように」やりたかった。その想いにピッタリな場所がみつかった。

こんな路地裏の場所に果たして人はどれほどくるのだろう?だけどこんな所にあったのか!と探して辿り着く面白い立地はなかなかないように思う。そしてきっと、この店を訪れたことがその人の記憶に残っていくだろう。そんな場所として発信していきたい。

だから、ここからはじまる、と思うとワクワクしつつも気が引き締まる。

細い坂道の裏路地をすこし登ったところにある入り口

まわりからは「なぜ今、実店舗?ネットショップじゃないわけ?」という声ばかり。

便利なネットショップ。自分も利用するけれど、山の道具はレビューだけを見て買うことほど怖いものはない。トイレットペーパーを買うならまだわかる。それだって「ああ……ガサガサでお尻が痛い!次は別のにしよ!!」となるかもしれない。だけど自然相手の道具となると話は別。

サイズで選んだはずの靴。開始早々靴ずれを起こした。
体にフィットしていない、うまくパッキングできていないバックパック……。
楽しい山行が苦痛以外のなにものでもなくなり、怪我ならまだしも遭難につながるなんてシャレにならない。

だからこそ実店舗で商品を手にとって、実際の使い方や道具との相性などを知ってほしい。そんな想いでの実店舗だ。

みんながいつか、そのことに気づいてくれるとよいと思う。

「3回目でたどり着ける店」という笑い話

4月、雪の残る飯綱高原での「sotoclass」

2017年11月某日(過去の回想)

お店を始めて3年目の今年、こんなわかりづらい場所だから、
「3回目でやっと辿り着けましたー!!」(ごめん)」
「入り口が分からなくて探しちゃいました!(笑)」(本当にごめん)

そんなことはしょっちゅう。

日々SNSを使っていろいろな人に知ってもらえるように発信もしているが、自分で選んだ場所とはいえ、なかなかお客さまにもハードルが高いようだ。最終的には「お店、来てみたかったんです」というアウトドアが好きな人や「どうもー!また来ちゃいましたよ(笑)」という常連のお客さまにいつも助けられている。

オープン当初よりイベント出店などの誘いも多く、それを通じて店を知ってもらう機会にも恵まれてきた。

「Meet UP!! Climbing」でのロープクライミングの様子

自分の知っている知識や技術を使って、少しでも多くの人に外遊びの楽しみを知ってもらうために始めた、体験する定期イベント「sotoclass(ソトクラス)」や不定期に一緒にクライミングジムに登りに行く「Meet UP!! Climbing(ミートアップクライミング)」もだいぶ認知されてきている。

だけど、逆に課題が浮き彫りになってきたよなぁ〜と思う。

次の日記で、すこし洗い出していこう。

馴染みのお客さんとは、よく山の話で盛り上がる

戸谷 悠

戸谷 悠 Yu Toya

1979年 長野県長野市生まれ。大学在学中にロッククライミングに傾倒。卒業後、カナダとニュージーランドに渡りほぼ毎日、岩と向き合う。帰国後8年の会社員生活を経てアウトドアシーンと自然を繋ぐ拠点をつくりたいと、2015年にアウトドアセレクトショップ「NATURAL ANCHORS」オープン。
HP: http://www.naturalanchors.com/
instagram: naturalanchors

text & photo: Yu Toya
edit: Rie Muraoka(YAMA HACK)

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