街の山道具店ができるまで ナチュラルアンカーズ店主日記

先が読めない時代にもワクワクを

第5回

長野市にあるアウトドアセレクトショップ「NATURAL ANCHORS(ナチュラルアンカーズ)」。
コアなファンも多いこの店が、開店6年目となる2020年春に新しい仲間と新しい試みへと一歩踏み出すこととなった。「ローカルの街で山道具店を営む」ということについて、店主・戸谷 悠がこれまでの5年間を振り返り、思索しながら次のステップを迎えるまでを日記で綴る。

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クラウドファンディングで人の温かみを知る

移転後の新しい店舗

2020年4月初旬

クラウドファンディング達成により、移転の設備資金を補う目途もついた。

スタートする前は「店をオープン(移転)するので援助してください」なんて話はごまんとあり、またコロナ禍のなか、達成できるかどうかの不安が募るばかり。移転についての思いをどれだけ多くの人に伝え、ご支援いただけるのか、まったく見当もつかなかった。正直達成できる自信はなかった。

しかし、実施するからにはお礼のメールだけなどでお客様にご支援いただくのは申し訳ない気持ちが大きく、長野のことや繋がりのある人たちを知ってもらいたくて、返礼の品には充実したものを揃えた。

始めてみるとうれしいことに、店をすでに知っていただいているお客様や、中にはSNSから知ったという方などの多大なご支援により、最後の最後にはネクストゴールまで達成することができた。

のちのち知人からはリターンが充実しすぎているとも突っ込まれたが。

それでもこのクラウドファンディングの達成は自分にとって大きな心の支えになった。店を楽しみに応援してくれる人がこれだけいてくれるのだ。

新たな場所、新たな仲間

店舗前の公園。春には桜が咲く

2020年4月中旬

移転先は前店舗から車で5分。長野市役所隣の芝生公園の向かいに位置するビルの1階。目の前はテントの試し張りもでき(勝手に張ると怒られるかな?)、コーヒーを飲んで一服するには最高な場所だ。

契約をする前もした後も作業をする間も昼夜も問わず、幾度となく通ったが、何度見ても最高の場所(何度も言うが)。

N.S.E.W.の一度食べたらやめられないマフィン

何といっても隣には、松本市で「cafe amjok」をやっている小島剛くんの新店「NorthSouthEastWest(N.S.E.W.)」がある。

そして今回の店舗では「P.h.D(フッド)」という名でアトリエを構える荒井健次くんの家具を什器としてN.S.E.W.でも当店でも使っている。なぜなら新店舗の地下スペースを荒井くんがフッドの倉庫「P.h.D.stock hue」として使っているからだ。

荒井くんは長野県東御市でヨーロッパを中心とした世界各国より選りすぐりのヴィンテージ家具を提供していている。長年使っていくうえでの修理や張替えをすべて一貫して行ったり、テキスタイルデザイナーをはじめとした様々なクリエーターとコラボレーションをし、ものづくりにおける新たな可能性も見出している。

そんな荒井くんがこの場所に新メンバーとして加わった、彼の存在は大きく、心強い。

「P.h.D」の家具がN.S.E.Wや当店でも什器として使われている

とても大きな間口を持つ「食」のカフェがあり、生きていく中で欠かせない「住」の家具があり、そしてうちがある(衣じゃないんかい!)という「衣・食・住」の部分が揃う。

いまは倉庫と什器という提案の仕方だが、彼が今後このビルの中でどう個性を発揮してくれるのか、僕らも楽しみで仕方がない。

きっとこの3つが揃うこの場所で、長野での新たな流れが生まれるに違いない。

混沌としたいまだからこそ

プレオープン当日。店の前で記念写真

2020年5月25日

オープンについては3人で2020年4月にしようと決めていた。

だが、そんな中、4月上旬にコロナウィルスによる緊急事態宣言が発令され、外出自粛が要請されるなど、ただならぬ大きな出来事が起こった。そんな時期に店をオープンしてもいいのかという疑問もあった。オーナー同士で開店時期について話し合いもした。

答えはみな一緒「早く開こう!」だった。
それはコロナ禍前と変わってしまったこの時代のなか、少しでもみんなが「楽しめる場づくり」をしたいというオーナーたちの思いが強かったからだ。

外から直接フードが買えるTO GOのカウンター

当店も以前からのコンセプトである「店主の選んだいいもの、信頼のおけるブランド」を軸に、新たに取り扱いを開始するブランドも増やした。この移転のとても良いタイミングで、長野県初となるULブランドの「山と道」の取り扱いもスタートした。それを目掛けて来ていただくお客様もいらっしゃり、ありがたい。

また、以前の店舗は知っていたが行きづらかった、知らなかったという方にもお越しいいただいた。
それ以外にも常連さん、友人知人などにも少しずつではあるが来てもらうことができた。
それはただ単純にうちの店の「移転」だけではできなかったことだろう。それだけここに集まった各店が注目を集めているのだ。

それだけでもこの時期に(迷いはあったが)オープンしてよかったと思える理由になった。

人生の楽しみを伝えるために

新店舗の一部ではユーズド商品を取り扱うスペースも

2020年6月中旬

このコロナ禍のなか、生活スタイルや今後の人生の歩み方自体を考えなければいけなくなった。

ある意味、そのおかげで普段は中々考えられないこと、後回しにしていることを色々と考えさせられ、また考える時間をもらうことができた。

旧店舗の場所より明らかに多くのお客様にお越しいただき、実店舗を持つ意味も再認識することができた。やはり人間にはコミュニケーションが必要なのだ。

大々的なイベントなど多くの人が交流する場づくりはまだ実施が難しそうだが、 その中でもいま自分ができることをできる範囲でしていきたい。
頭の中ではムービーを流したり、トークショーをしたり、ワークショップを行ったりと考えは尽きない。

実際のところ、「あの山に登って向こうをみると◯◯山が見えて」や「くわの実食べるおいしいよね。ジャムにもできるよね」なんてことは知らなくても、山や自然にほぼ関わらなくとも人間は生きていけるとも思う。けれど一方で、一度きりの人生でこういったことを「知らない」のはもったいない気がしてしまう。

当店はただの道具を売る店ではあるが、少しでも多くのお客様に自然の中で遊ぶ楽しさや、人生におまけがあることの豊かさを知ってもらいたい。それが少しでもその人の人生の楽しみになってもらいたいと、ふと思った。

これからしなければいけないことはもっともっとあるなぁ。

<完>

店舗改装前の物件内で。左より、荒井くん、小島くん、筆者

戸谷 悠

戸谷 悠 Yu Toya

1979年 長野県長野市生まれ。大学在学中にロッククライミングに傾倒。卒業後、カナダとニュージーランドに渡りほぼ毎日、岩と向き合う。帰国後8年の会社員生活を経てアウトドアシーンと自然を繋ぐ拠点をつくりたいと、2015年にアウトドアセレクトショップ「NATURAL ANCHORS」オープン。
HP: http://www.naturalanchors.com/
instagram: naturalanchors

text & photo: Yu Toya
edit: Rie Muraoka(YAMA HACK)

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