日本で唯一の「北極冒険家」の活動
今回お話を伺うのは、「北極冒険家」の荻田泰永さん。2000年から2019年までの間に北南極圏各地を10,000km以上も徒歩で移動してきたという、類まれな経験を持つ冒険家です。
20年近くに渡り、極地での冒険を行っており、2018年には日本人で初めて無補給単独徒歩で南極点到達にも成功しています。この功績により、同年にはその年の最も印象的な冒険に贈られる「植村直己冒険賞」を受賞しました。
その活動内容は、キャンプ道具や食料を積んだソリを自力で引きながら、ときに-50℃以下にもなる過酷な極地の道なき道を単独でひたすら歩くというもの。その冒険は時に2ヶ月近くにも渡り、道具や燃料など必要な装備を積んだソリは100kgをゆうに超えるそうです。
その極限の環境下で、彼はどのようなウェアを着て、どのようにレイヤリングを工夫して寒さを凌いでいるのでしょうか。
また荻田さんは2013年から、日本生まれのアウトドアブランド「ポールワーズ」と共に極地での使用に特化したウェアの開発も行ってきました。経験から生み出された特殊なウェアや、最新の取り組みについても、併せてお話を伺ってみましょう。
今回は、神奈川県大和市で自身が営む「冒険研究所書店」にお邪魔して、インタビューさせていただきました。
他人がいう「当たり前」に捉われず、自分の頭で考えること
荻田さんは従来の“当たり前”にとらわれず、なんでも自分自身で試してみることが大事だと言います。初の海外旅行も、そして初のアウトドア体験も北極というのだから驚きです。
経験を積んで、自分の基準をもつ
「若いうちはいろいろな判断ができませんでしたが、経験を積むとこれだったら行けるなとか、これだったら足りないなってことがわかるようになってくる。要はいかにフィールドに足を運んで、自分の頭で主体的に考えられるかどうか、どれだけ深く考えているかなんです」
人によっても寒さの感じ方は違うので、極地でも日本の山でも、これだけ揃えておけばどんな場所でも誰でもOKという道具はありません。ウェアもギアも、この本にこう書いてあるからではなく、常に自分で理由を考えながら選ぶことが大事なのです。
道具を増やすのは、本当に足りない物がわかってから
「まずは今持っているものを、どう使ったら最大限の効果を得られるかを考えてみる。いろいろとやり尽くしたうえで、足りない部分に新しいウェアやギアを買い足すという順番がいいのではないでしょうか。
道具には必ず長所と短所があるので、短所を消しながら長所をどう伸ばしていくか、さらにそれぞれを生かす組み合わせを考えてみると良いでしょう」
道具が身を守ってくれるのではなく、道具の使い方が身を守る
「例えばシューマッハが普通車を運転したら車の力を120%引き出せると思うけど、我々がF-1を運転しても性能の5%も使えないはず。つまり、素材も物も、良い物かどうかというより、どう使うかが重要なんです。現場に出たとき、自分の頭でどれだけ考えられるかが大事ですね。道具が身を守ってくれると勘違いしないように」
こうした荻田さんのレイヤリングや道具に対する考え方は、極地での話ではあるものの、その考え方は日本での登山にも通ずる部分がありました。
それでは、実際に極地ではどのようにウェアを着ていたのでしょうか?