荷物分担以外にもある。グループ登山の利点

普段、何気なく実践しているグループ登山。グループで登ることの最大の魅力は、素晴らしい景色を見た時や、かわいい草花や小動物に出会えた時などに、その場で仲間と感動を共有できることですよね。
他にも、一人では不安で行けない山にも仲間となら行けたり、テント泊山行では荷物の分担ができたり、お互いの体調を気遣い合えたり。何より「自分の視点だけでなく他の人の視点で登山を見られる」という利点があります。
ところが、普段のグループ登山では、これらの利点を生かしきれていない人も多いのでは?と思い、今回のステップアップチャレンジではグループでのテント泊縦走を企画しました。
2泊3日テント泊でグループ登山にチャレンジ!

今回のグループ登山チャレンジに参加するメンバー。
左から、
・YAMA HACK編集部の杉浦愛実
・読者代表の吾妻梨花さん
・YAMA HACK編集長の大迫倫太郎
・THE NORTH FACEマーケティングの鰐渕航さん
吾妻さんは昨年テント泊縦走にチャレンジしてから、かなり山行経験を重ねてきたそう。杉浦は、1泊までのテント泊は経験はあるものの2泊3日は初めて。鰐渕さんと大迫はこの中で経験値の高い2人です。
実際にこの4名での2泊3日テント泊縦走登山を通して、グループ登山のコツや注意点を登山ガイドの渡辺佐智さんに学んでいきます。そして、その学びを計画編・準備編・実践編の3回にわたって紹介します!

登山ガイド 渡辺佐智さん
登山からバックカントリーまで四季を通じて活躍し、雑誌やテレビなどにも多数出演。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ、日本雪崩ネットワーク 雪崩業務従事者レベル2などの資格を保有。
いろんな人の視点で登山を見られるグループ登山は、本当にいい成長の機会になりますよ!

渡辺ガイド
普段から仲間やお客様と豊かな登山経験を共有することを大切にしている渡辺ガイド、グループ登山に関してもみなさんに伝えたいことがいろいろあるそう。そこで、山行の打ち合わせを兼ねて、渡辺ガイドにグループ登山の基本について学ぶところからスタート!
仲間を置いていってない?こんなグループ登山は危ない

その結果、最初は一緒に登り始めたものの、スピードや体力が合わずに「先に行くね〜」「私遅いから、後からゆっくり行くわ」とバラバラに行動することになります。そして、後から来るはずの仲間が滑落したり動けなくなったりして遭難してしまった、という例も……。
なぜ、「先に行くね〜」はNGなのか?


杉浦
街中の観光とかでも友達と別行動をすることがありますが、なぜ山の中だとダメなんですか?
例えば、捻挫したり道に迷ったりとちょっとしたトラブルであっても、山の中ではすぐに助けや救急車を呼べないですよね。その結果、命にかかわる事態になることもあります。
でも、声の届く範囲に友達や仲間がいれば、最悪の事態を避けられる可能性が高まります。
でも、声の届く範囲に友達や仲間がいれば、最悪の事態を避けられる可能性が高まります。

渡辺ガイド
山の中で何かトラブルがあっても他に仲間がいれば、助けを呼びに行ってもらったり、励まし合ったり、知恵を出し合ったり、手分けして解決したりすることができます。
最初からソロ登山のつもりで山に入るなら、それなりの心構えと準備をしますが、グループ登山のつもりで入山して一人ひとりがバラバラの行動を取ると、助け合うどころかリスクを高めることになってしまいます。

安全なグループ登山のためには、天候が微妙なときやトラブルなどで遅れる人が出てきたときなどに、進退を判断し、みんなでまとまって行動する必要があります。とはいえ、毎回違うメンバーと登る中で、グループみんなでまとまって行動するにはどうしたらいいのでしょうか?
グループがまとまるためには、役割分担を決めることです。特にグループの「リーダー」を決めるのは重要ですね!

渡辺ガイド
リーダーは全体を見る「役割」。観察して判断するのは登山の基本

リーダーとは、グループ全体に目を配ってその状況を把握する人。リーダーを決めないと、全体を見る人がおらず、各自がバラバラに考えて行動することになってしまいます。
グループ全体の安全性やペースや時間配分、メンバーの疲労具合などを観察して、総合的に判断する人がいることで、その場で一番安全な行動を取ることができるのです。
リーダーになることで、観察力、コミュニケーション力、判断力などの登山スキルもアップしますよ。

渡辺ガイド

大迫
でも、リーダー、責任重大そう……。
リーダーと言っても上司のような立場ではなく、「役割」として考えるといいですよ。

渡辺ガイド
リーダーは「上司」ではない。あくまで「役割」

グループ内でいちばんのベテランでなくても、経験値の高い人に副リーダーとしてフォローしてもらいながらリーダー役にチャレンジすれば、登山スキルはぐっと上がります。
いちばん大切な「登山スキル」とは、山行の前後や最中にさまざまな情報を総合的に判断し、決断すること。リーダーの役割を担って「なぜそう判断するのか」を言語化しメンバーに説明することで、今まで曖昧だった知識や情報がクリアになり、そのことが次の登山にもつながるのです。
誰かリーダーをやってみたい人はいませんか?

渡辺ガイド

吾妻
……私、やってみたいです……!

今回の山行のリーダーは、全会一致で吾妻さんに決定!リーダーの初仕事として、吾妻さんの仕切りで副リーダーや食事当番、会計、タイムキーパー、記録係などの役割も他のメンバーで分担することに。

それぞれがやりたいことや得意なことを担当するのがいいと思いますよ!今回は吾妻リーダーをしっかりフォローできるように副リーダーは経験値のある方がいいと思います。

渡辺ガイド

大迫
僕、食事係と会計を担当しますよ。鰐渕さん、副リーダーはどうですか?
はい!副リーダーとして吾妻さんをサポートします!

鰐渕

杉浦
では、私はタイムキーパーと記録係をやりますね。
話し合いの結果、副リーダーが鰐渕さん、食事・会計が大迫、タイムキーパー・記録係が杉浦に決まりました!その他に、気象係や医療係などを決めてもいいそう。
リーダーは責任重大?メンバーもそれぞれが責任をもとう

役割が決まったところで、次は行き先を決めますが、その前に……。
メンバーの正確な経験値は、質問で把握する

グループ登山のメンバーが決まったら、そのレベルに合わせて行き先やルートを選びます。それには、まずメンバー全員のレベル感を把握する必要があります。
先に行き先が決まっていて、その後メンバーを募集することも多いと思いますが、本来はメンバーが決まってから、そのレベル感に合わせて行き先やルートを決めたほうがいいです。

渡辺ガイド
自己申告の「経験値」は当てにならないことも…

難しいのは、メンバーの登山レベルをどう判断するか。例えば、同じ「登山歴5年」と言っても、年間何回山に行くか、どんな山に行っているのか、経験豊富な人に連れて行ってもらっているのか自分で判断しているのかなどによって、その経験値はまったく違ってきます。中には、経験値を誇張して話す人も……。
客観的に経験値を把握するためには「事実を聞く」ことが大切です。
仲間のレベル感を知るために聞くこと
・いつから登山をしているか(登山歴)
・年間の山行回数
・どんな山に登っているか(どのルートか、どの時期か)
・単独登山とグループ登山の割合
ソロ登山が多い人はグループ登山の経験値がなく、その部分ではフォローが必要な可能性があります。
逆にグループ登山ばかりの人は、人に任せきりで登山の知識がまったくない可能性もありますよね。
逆にグループ登山ばかりの人は、人に任せきりで登山の知識がまったくない可能性もありますよね。

渡辺ガイド
さて、次はいよいよ行き先を決めます!
コース選びがグループ登山成功の8割

グループ登山をする場合、「体力のない人に合わせる」のが大前提。計画を立てる前に、その前提を全員で共有し、合意をとっておきましょう。
体力のない人はつい気後れして「後から行くから、先に行ってて!」と言ってしまいがちですが、みんなで一緒に登るのがグループ登山なので申し訳なく思う必要はないのです。
逆にみんなとペースを合わせて登れない人は、一緒に安全に登山することは難しいかもしれません。
最終決定はリーダー?登山の最終目的「無事に下山」が大前提

メンバーで意見が割れてしまった場合は、リーダーが各自の要望をちゃんと聞き出して、最終的にまとめることになります。そのうえでもう一つ確認しておきたいグループ登山の大前提が、「全員が安全に下山することが最重要の目標」ということ。
「全員が安全に下山することがゴール」という前提が共有できていれば、それほど意見が割れてどこにも着地できないということはないと思いますよ。
言い方を変えれば、その基本の部分が共有できない人との登山は危ないのでやめた方がいいです。
言い方を変えれば、

渡辺ガイド
これらのポイントを考慮しつつ決めた、4人がこの夏挑戦するルートは……。
仲間の意見を総合して、決まったのは飯豊山!

日本百名山の一つ、「飯豊山」に決定! 山形県・新潟県・福島県の境に位置する飯豊山は、東北地方に多い「山頂が遠い山」。登山口までのアクセスも比較的長く、またどの登山口から登るにも他の山頂を経由して縦走する必要があります。
1日目は大日杉小屋からスタートしてすぐに「ザンゲ坂」という長い鎖場があり、ひたすら急坂を登って標高差1,000m以上を稼ぎます。2日目はコースタイム8時間と行動時間こそ長いものの、アップダウンはそこまで多くなく、東北の山の雄大な景色と高山植物を堪能しながら、快適な稜線歩きを楽しめます。3日目、今度はひたすら急な下り。下り切った先には、「飯豊山荘」の温泉が待っています。

みなさんの登山経験を考えあわせて、グループ登山をチャレンジするにはいいルートだと思います。

渡辺ガイド

吾妻
1年前のテント泊縦走チャレンジから、けっこうテント泊の経験も積んできたので、楽しみ!

杉浦
テント泊に慣れていないので不安もあるけど……がんばります

鰐渕
みなさんと山を歩けるのが楽しみ。副リーダーという役割のある登山、新鮮です!

大迫
僕は普段ソロ登山が多いので、グループでのテント泊登山にワクワク……!

次回は「準備編&グループ登山の心得」として、実際に持っていく装備とその割り振り、食糧計画、リーダーの役割などについて、引き続き登山ガイドの渡辺さんと一緒に考えます!
今までの「テント泊縦走」や「雪山登山」のステップアップ企画はこちら!
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